リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
ここは海鳴市の病院の屋上。
そこには少しの戦いの痕跡と共に二人の少女がいた。
その地面に倒れ伏せている赤い服を身にまとう少女は、目の前に堂々と立っている白い服をまとった少女に対して恨みを込めた声で言う。
「この……悪魔め……」
負け惜しみともいえるその言葉に対し、白い服をまとった少女は不敵な顔で返した。
「悪魔でいいよ」
そうして、とあるロストロギアをめぐる戦いの最終決戦は幕を開けた。
そんなことが近くで起こっているとはつゆ知らず、倉本龍一は家でゴロゴロしていた。
えー、なんだか失礼なモノローグがあったようだけど、気のせいという事にしておこう。
まず現状、父親がまるで五歳の子どものように駄々をこねている。
「嫌だい嫌だい! 外のイルミネーションを息子と見に行きたいんだい!」
もう一度言おう。こいつが父だ。
母さんはそんなわがままな大きな五歳児を必死になだめている。
「わがままいわないの。もう大人でしょ?」
「やだーーー!」
恥以外の何物でもない。
こんなのが本当に外国でやっていけているのであろうか。
「母さん、しょうがないから一緒に行くよ」
「あまり甘やかしちゃダメなのよ?」
父、完全に子ども扱い。
しかし、そんな扱いにも父はキラキラとした笑顔のままだった。そんな父に俺は少しの戦慄を覚える。
いや、マジでこんな大人でいいのか。
「大丈夫だよ。こんなでも大人だし」
「しょうがないわね。あなた、龍一に迷惑かけないように」
「はーい」
子どものように返事をして、父は俺の腕を引っ張る。
俺を引きずって行きそうな勢いで、つい腰を引いてしまうが、気にもとめず目を期待に光らせながら言った。
「そうと決まれば息子! いくぞ!」
「あー、うん」
元気すぎる父である。
失敗した。
それはどこからかわからない。だが、確かに言えることは、この作戦は失敗した。
あまりにも奴は強すぎた。その強大な力は予見していたはずだった。それなのに、何の対処もすることが出来なかった。
力の余波を受け、周りの力あるものは地に伏している。
とある奴をあたしは悪魔だと言った。
その悪魔すら、奴にとっては有象無象の一つでしかなかった。
「くっ……どうしろっていうんだよ……」
傷ついた体を無理やりおこし、奴が飛んで行った方を見つめる。
すでに、ヴォルケンリッターもあたし一人になってしまった。それに加えて奴のあの強さ。もう、どうしようもないと思えるくらいの状況になってしまっていた。
「だけど、はやてを助けるには、このままでいるわけにもいかねえよな……」
しっかりと、それだけは分かる。
幸いにも、あたしは周りで倒れているなのはやフェイトのように直撃を受けたわけじゃない。まだ動くこともできる。
だったら、なおさらあきらめきれるわけがない。
「りゅう……」
ポケットに入れていたキーホルダーを取出し、何ともなしに見つめる。
皆は消えてしまったけど、あたしの友達はみんないなくなったわけじゃない。もしかすると、このまま何もしないことの方が悪い方へ向かうかもしれない。
そうなったら、やりきれないよな。
あたしは奴に追いつくため、自分が出せる最大のスピードで追っかけた。
クリスマスのイルミネーション。
昨年までリア充を見るのが嫌でひきこもっていたので、見るのは初めてである。
初めて見るこの町のイルミネーションは綺麗で、今までずっと家にこもっていたのはなんだったのかと思う。
とはいえ、すずかやはやての家でクリスマスパーティをしていたりしたことも考えると何もしていなかったわけではない。
……ん? そう思うと俺って実はリア充?
「はっはっは、見ろ息子。綺麗なクリスマスツリーだぞ!」
「そうだね」
そうだとするならば、今父親といる状況は今までのリア充枠から外れたことになる。
うわ、なんかショック。ではあるが、原作キャラと最近邂逅が多いので、むしろこうあるべきだったと思い直す。
「ほらほらー、あっちもいいぞー」
「お父さん、もうちょっと落ち着こうよ」
さっきから考えている間にも、父親にぐいぐい引っ張られている。
正直あまり見ている暇はない。流石子供のテンション。次々といろいろな物を見に行きたがる。
あまり考え事をしていても置いて行かれるだけなので、そろそろ真面目についていくと――
「嘘つき」
――寒気が走った。
「どうした息子」
「あ、その……と、トイレ!」
父の手を振りほどき、その場を駆け出す。
自分でもそうした理由はわからなかった。ただ、あの場にはいられない。そして自分自身じっとしていることができなかった。
あの感覚は明らかに危ない。悪意だけがにじみ出る声。
奇しくも、俺が前世で虐められていた時の声、嘲笑や罵倒とは違った本気で嫌悪しているときの声。
トラウマがよみがえり、走っているのに身体はまったく暖かくならず、寒気だけが襲い掛かる。
気が付けば、周りに人は誰もいなく、静けさだけが残っていた。
「ここは……」
目の前に立ちはだかっているのは廃ビルのようなもの。
このようなビルも、周りの建物も見たことが無く、自分の場所が全く分からない。
「お前が龍一か」
突然後ろからかけられた言葉。その声は駆けだす前に聞いたものと同じもの。
俺は後ろを振り向き、その声の正体を目にする。
銀色の髪に漆黒の翼の女性。
見たことは無い。見たことは無いが、その異様さは普通の人物などではなく、どこからどう見ても作品内のキャラであることがすぐにわかった。
逃げる……そうするのが一番のはずなのに、目の前の人物から放たれる怒気が半端なものではなく、足がすくんで動くことが出来ない。
「答えろ。お前が龍一か」
目の前の人物は再度聞いてくる。
おそらく、聞かずともわかっているのだろう。それでも聞いてくるのは、この先俺が言う言葉によってどのようにするのか決めるため。
半端な答えを出そうものなら、この場で一瞬にしてあいつの手で……
「っ、そ、そうだ!」
ゾクリとした。
躊躇のかけらのない相手の気迫と、そうなることを容易に考えることができてしまうことに。
「主は悲しんでおられる」
「主が……悲しむ?」
急に自分の手を胸に当て、独り言のようにつぶやく。
愁いさを帯びた声は、先ほどの冷たい声とは全く異なるもの。
「ずっと連れ添っていた家族なようなものに、隠し事をされていたことを」
「家族? 隠し事?」
「主は唯一信じていた。龍一、お前の存在を」
的を得ない発言に、俺の困惑はますます深まるばかり。
「本当にそうか? 心当たりがあるのではないか?」
「!?」
思考を読み透かしたように、こちらの考えに謎を問いかける。
心当たり……ない、とは言えなかった。
むしろ、そのことを考え始めると、それ以外の理由に思い当たるはずもない。
恐る恐る、今思い当ったその出来事を目の前の女性に聞く。
得られる答えは、聞くまでもない。
「はやて……か?」
「分かっているのなら話は早い」
目の前の女性が、その拳に力を込めたことがしっかりとわかる。
そこからどうするかなど、決まったようなものだった。そして、それに対してできることはなにもない。
「主に仇なす者は討ち取るのみ」
しっかりと俺を見据え、外すようなへまもしそうになく、この先の俺の運命は決まったようなものだ。
ただ一つだけ、せめてもの考えがよぎるだけだった。
(アリシア、持ってくるべきだったなぁ)
「覚悟」
目でとらえきれるわけもない拳にできることは何もなく、俺はその人生を終える――
「ギガントハンマー!」
「!?」
――と思っていたところに、救世主が現れた。
赤い服を身にまとい、背の丈ほどある大きなハンマーを女性に迫らせる。
女性はすぐさま攻撃を中断し、後ろに下がる。
救世主。その正体。
「まったく、危ねえところだったな」
ここ最近仲良くなった友、ヴィータだった。