リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第四十一話 買い物と逃走の両立

「いやあ、これでこれ以上巻き込まれることがなくなったな」

 

 冬ということでこたつに入りこんでしみじみと口にする。

 わざわざテーブルを隅に置いて導入したものなので無理矢理感が強い。でもこたつ好き。

 そんな感じにまったりしていると、その言葉を聞いたアリシアが不思議そうに声を出した。

 

『? どうしてそうなるの』

「どうしてって、リンカーコアって魔術師にとって大事なものだろ? 魔力とか使えなくなるんじゃ……」

『いや、回復するって言ったでしょ。話聞いてた?』

 

 ふと、思考が停止する。

 あの時ヴィータ相手にわざわざ戦おうとしたのも、最後になるかな的なものも含んでの行動だった。

 しかし、実際には最後になんてなっていないらしく、それどころか俺はヴィータに魔法を使えることをばらしてしまったわけだ。

 

 そう、原作キャラに。

 

「や、やべぇ……」

『あーあ、後先考えずに動くから』

 

 アリシアの呆れた声。もはやこれもいつも通り。

 

 そんな風に愕然としていると、突然インターフォンが鳴った。

 ヴィータはもう来ないはず。と、すればもしや……

 

 必要以上に胸の鼓動が早くなる。

 相手が分からないが、無視というわけにもいかないだろう。

 ひとまず、素早くアリシアを簡単に見つからない場所に隠した後、恐る恐る玄関の扉を開けた。

 

「お父さん達、帰ってきちゃった。テヘ」

 

 ウィンクしながらしゃべるその親は、子供からしても気持ち悪かった。

 

 クリスマスより二日前、母と父はクリスマスを一緒に過ごしたいという理由により、一時日本に帰国していた。

 ぶっちゃけ相当困惑している。一歩遅ければヴィータと顔合わせの可能性もあったのだから。

 

「お父さん、帰ってくるなら連絡くらい頂戴」

「はっはっは、どうやら息子への愛が手紙よりも早くついてしまったようだな」

 

 言い方が非常にうざい。

 というか、それは忘れていただけではないのだろうか。ほら、母もため息をついている。

 

「息子よ。行くぞ」

「どこに?」

「クリパの準備のための買い物だ」

 

 ああ、なんだろう、目が輝いている。そういえば、かつてクリスマスパーティをするとき一番楽しそうにしていたのは父だったな。

 

 

 

 

 はい来ましたデパート。

 やはりいつも通りにパーティアイテムの方にふらふらと向かう父。そしてそれについていく俺。

 ふと、エレベーターの方を見る。あくまでもなんとなく、そう、なんとなくのつもりだった。

 

「げっ!」

 

 そこには魔王とそのご一行。つまりいつもの四人だった。

 流石に子供だけはいけないのか、魔王のお姉さんとすずかのお姉さんもいたが。

 

「や、やばい……これはからまれる可能性が少しながらもある……?」

 

 やべえ……休学中なのにこんなところで会いでもしたら、質問攻めにあうこと必須。ついでに、俺の読みが正しければ原作も進行中のはずだ。つまり、いつ事件が起こるかもわからない時に原作キャラに囲まれる……それは、巻き込まれるかもしれないことを意味する。

 そこまで思考が追い付いたところで、俺は身を隠すように父親について行った。

 しかしふとみれば、その父親はなぜか鼻眼鏡をつけていた。

 

「……何してるの」

「試着」

 

 真顔でそう言ってくる父親に、俺は少なからずも馬鹿を見る目で見る。父親はその視線に気づいた後、しぶしぶと鼻眼鏡を置いた。

 

「息子が最近きつい」

「父親が馬鹿すぎる」

 

 俺の返答に完全に肩を落として別の場所へ向かう父。その背を追おうとしたとき、聞きなれた声を聴いた。

 

「すずかから話を聞く限り、はやてちゃんって文学少女ってやつなんだね」

「そういうフェイトも本をよく読んでいるじゃないの」

「うん。早くこの世界にも慣れたいからね」

「この世界?」

「あ……ううん、なんでもないよ」

 

 声の様子からして金髪コンビ。ほかの人は別のところにいるのだろうか。

 ……なんて、分析している場合じゃない。二人ともこっちへ向かっている。一歩間違えれば鉢合わせだ。

 逃げようとする足を一つ思い当る出来事が止める。

 

「ここから先は大きいものが置いてあって、道が広かったよな……」

 

 道が広い、それはすなわち隠れる場所がないという事である。そんな場所に逃げ込むとか、明らかに自殺行為だ。

 だとすれば、一体どうすればいいのだろうか。

 周りを確かめ、近くのそれが目に入った。

 

「……これしかないか」

 

 考えている時間はない。

 すぐにそれを装着して、俺は来るべき二人に備えた。

 

 

 

 

 あたしたちはデパートの一角、主にパーティ用品などが売っている場所にきていた。

 なのはたちは食品の方へ行っていて、今は別行動をしている。

 

「アリサ、お見舞いのための買い物なのに、こんなところによってもいいの?」

 

 一緒についてきている転校生であるフェイトが、心なしか不安そうに尋ねてくる。

 

「これもお見舞いの品を探す一種の手よ。ほら、こういうおもちゃが好きな子だっているじゃない」

 

 手近においてあった鼻眼鏡をフェイトの前に広げながら言う。

 やっぱり外国人にはぱっと来ないのか、いまいちそうな顔つきをしているが。……そういうあたしも同感なんだけど。

 ともかく、そこまで受けない物を持っていても仕方がないので、その鼻眼鏡を置いてあった場所に置きに戻し、他にないものかと周りを見た時だった。

 

「……」

「……」

 

 フェイトもそれに気付いたのか、息をのんだ音が聞こえる。

 目の前にあったもの、それはシルクハットにサングラス。付け髭やらなんやらのパーティグッズをふんだんに試着しまくっていた人間。

 向こうもこっちに気付いたようでいったん動きを止める。しばらくそのようにけん制し合った後、相手の方は更に手元にあった棒らしきものを取り出して振った。

 

「今見たことは棒にふろう」

 

 フェイトはあまりのつまらなさに目が死に、私ですら寒いと思えるギャグを走らせたそいつは、満足そうに頷いた後棒の先をあたしたちが来た方に向ける。

 

「お後がよろしいようで」

「よろしくないわよ!」

 

 そのツッコミをし、あたしたちはさっき見たのを見なかったことにしてその場を離れた。

 

 

 

 

 見事に二人をまくことに成功した。だが、ここで安心はできない。まだほかに二人くらいヤバ気なお人がいる。

 というか、多分フェイトにはばれていた。

 

(何をしているのか分からないけど、元気そうでよかった)

 

 なんてすれ違いざまに言われたからな。正直あれは怖かった。

 まあ、あんまり気にしてもいられない。早くこの場を離脱しよう。……ちゃんと試着している物を外してから。

 さて、父も見つけなければならないな……

 

 

 クリスマスツリーをキラキラした目で見ていた父を見つけたのはそれから二分後の事だった。

 

 

 

 

 そうこうして食品売り場。

 ケーキは母が買ってきてくれるため、今回はその他の食品だ。というか、なんで俺が料理作ることになってるんだろう。

 そして、予想はしていたものの、ここにも会いたくない人物がいた。

 その名もなのは。すずかと両者のお姉さんが食品売り場を歩いていたのだ。

 

(いや、なんでアリサたちの方に保護者がいないんだよ)

 

 子供とみなされてないのだろうか。それとも、ある程度しっかりしているからだろうか。

 実際の理由は分からないが、こっち側の人数が四人というのは事実だ。こちらには父が一人、明らかに役に立たない。そもそも、子供と同じくらい勝手に暴走することが多い。

 この状況、逃げる手段はあまり残されていない。

 

「お、おとおさん、別の場所に……」

「音尾さん!? だれだ!」

「お・と・う・さん! ごめんね! 動揺してちゃんと喋れてなくて!」

 

 ばかなことを言いつつまずはこの場を逃れる。このまま鉢合わせしないのが一番いいが……。

 

 

 

 

 デパート、隅っこの方にあるトイレの横。父が「ふんばってくる」とか真顔で言っていたので、近くのベンチでゆったりしていた。ゆったりしていた……ところに、一人の影が出来る。

 

「久しぶり、龍一君」

 

 ベンチからスタートダッシュして早二秒。すでに、すずかからは十メートルくらい離れている。そう、これが脱走術!

 このスピードを抜ける人なんていな――

 

 

 捕まっちゃった。テヘ。

 つーか、おかしいのはすずかの方だからね。なんであれだけの距離があったのにつかまってるの。どんなダッシュだよ。ボ○トにでもなる気か。

 なんて悪態つくのも無意味なので、元いたベンチに座る。

 

「なんで逃げたの」

 

 尋問する雰囲気が大変恐ろしい。割と本気で怒っているようだ。

 

「ええと、なんといいますか……」

「……」

「ごめんなさい」

 

 つい土下座までして謝る俺。

 だって、すずかさん怖いんですもん。

 

「……もう、どうせいつもの事だろうし、そんなに怒ってないよ」

 

 なるほど、どうやら捕まったのは俺の行動が完全に読まれてたかららしい。

 それはそれで怖いけど。

 

「それですずかちゃん。いったいどうしたの?」

「どうしたのって……突然休み始めたんだもん。心配位するよ」

 

 そういえば、魔王とその一味にも特に何も説明せずに休学したな。学校にはきちんと伝えていたから大丈夫だとは思うけど、自宅突撃なんてやられたら危なかったな。

 

「みんなでお見舞いに行こうと思ってたくらいだよ?」

 

 やっぱり危なかったー! よかった、よかったよ、ここですずかと会っておいて。

 俺はごまをするようにすずかに猫なで声で頼みごとをする。

 

「あの、このことはどうか御内密に」

「突然いなくなって心配させてくる人なんて、知りませんっ」

「拗ねないで! ごめんなさい!」

 

 ここで頼れるのはすずかだけだ。万が一でも魔王たちが訪ねてこられたら、距離を取った意味が無くなってしまう。

 なんとか許してもらおうと頭を悩ませたとき、肩に手を置かれた。

 

「だったら、もう二度と何も言わないでいなくならないで」

「え?」

「約束」

「あ、う、うん」

 

 小指を差し出して指きりのポーズをしてきた。俺はそれにつられて自分の小指をつなげ、指きりは完成する。

 

『ゆびきった』

「うん。これで内緒にしておいてあげる」

「うん……でも、本当にこれくらいでいいの?」

「だったら、アリサやなのはにも会ってくれる?」

「ごめんそれは無理」

 

 誰にもできることとできないことはあるのです。

 

「でしょ。だからこれだけ」

「……ありがとう」

 

 素直にお礼を言う。この優しさがこの少女のいいところなのだ。

 

「それじゃあ、そろそろ時間だから」

「またね、龍一君」

 

 すずかと別れ、先ほどから陰でニヤニヤしている父の元へ向かう。……あとで蹴ってやる。

 


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