リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第四十話 来たれり、別れ

 ここは俺の家。

 リンカーコアを取られると、自分の体にも大きなダメージを受けることは分かった。

 そう、今まさにそれを体験しているから。

 

「しばらく休みにすると学校に伝えて良かったよ」

『もし伝えてなかったら、今頃家に誰か押しかけていたかもね』

「フェイトがまさに来そうだから勘弁」

『私もそうなったら押入れいきだし勘弁かな』

 

 布団にこもり続けて大分たった。

 もう十二月の下旬かと寒さを感じるたびに思う。

 ボーっと外を見ていると、ふとチャイムの音が鳴り、扉が開かれる。

 

「りゅうー、いるよなー」

 

 その声はヴィータのもの。

 今日も今日とで家にきてくれたようだ。

 

「すまないねぇ……おばあさんや……」

「だれがおばあさんだ」

 

 すでにわが家を熟知しつつあるヴィータは、真っ先に俺の部屋へ入ってきた。

 

「それにしても、ヴィータは俺の家の構造分かってきたね」

「そりゃあ何度も来ているしな。世話するって決めたんだ。りゅうが元気になるまではあたしの世話になっときな」

 

 そう。ヴィータはリンカーコアを取ってからまともに動けない俺を案じて、元気になるまで世話をすると言ってきた。

 最初は断っていたが、いざリンカーコアがとられるとなると、すごい虚脱感が襲ってきてまともに立つのもつらくなったのだ。

 流石にこれはまずいも思った俺は、ヴィータの提案を素直に受け入れることにしたのだった。

 

「いちおう、すこしくらいなら立てるようにはなってきたんだけどね」

「そうだな。そろそろ回復してくれないと、こっちも困るしな」

 

 その言葉に顔色をうかがうが、迷惑そうにはしてない。

 それでも、流石に世話してもらっているのには心苦しくはある。

 

「すまんな」

「いや、こっちだって料理とか教えてもらっているんだ。お相子だ」

 

 そう言ってくれるヴィータだが、日に日に表情が晴れなくなっているのが分かる。

 それはヴィータから聞かされた蒐集が成功していっているからなのか、それとも、うまくいっていないのか。

 もっとも、ヴィータは俺を巻き込むことを良しとしていないのか、詳しいことは教えられていないけど。それでもヴィータの表情から、俺から蒐集したときのあの表情から、どちらの方へ向かっても何かを失うことは読み取れた。

 

「ヴィータ、そろそろ俺も台所に立つよ」

「もう少し安静にしておいた方がいいんじゃないのか?」

「さすがに手伝うくらいのことは出来るよ」

 

 ヴィータに時間がないことは大体分かる。

 なら、その前にお礼はしておきたい。

 ……もちろん料理で。

 

 

 

 

「りゅ、りゅう! 本当に料理上手だったんだな!」

 

 ヴィータが興奮したように言ってきた。

 最近ははやての症状が悪化して入院しているらしいので、まともなものはたぶん食べられてないからだろう。

 シャマル先生の料理はひどいらしいし。

 勢いよく食べるヴィータについつい顔がほっこりする。

 その時俺の視線に気づいたヴィータが、顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

 ああ、すごい平和な日常って感じがする。

 

『お兄ちゃん、日常だと思っているみたいだけど、これも十分非日常だからね』

「ええい、余計なことを考えさせんな」

 

 確かに、戦った敵とこうして顔を合わせてごはん食っている状況は日常じゃあない。

 だけどそれを言うこともないだろうと、アリシアを少し小突く。

 

「……お兄ちゃん、なあ」

「ん? どうかした、ヴィータ」

 

 ジトリとこちらを横目で見るヴィータ。

 

「いやな、自分のデバイスにそういう風に会話する奴、普通はいないだろ。だから不思議に思ってな」

 

 どうやら、ヴィータはアリシアとの関係が気になっているようだ。

 説明したいのはやまやまだが、どう説明したらいいものかわからない。

 こっちが魔法を使える身だとばれているヴィータに隠すことは無い。

 だけど、アリシアの話はそこまで明るいものじゃないから、こういう席で言うのも忍びない。

 

「……デバイスなんて、いろいろいるからさ。こういう関係の奴がいてもいいんじゃないか?」

 

 だから、適当な言葉で返しておくことにした。

 自分でもなんでこんな関係なのか、よく分かっていないし。

 

 

 

 

 大体治ったので、ヴィータと共に買い物に出かけた。もちろんアリシアはお留守番。

 ヴィータは心配してくれたが、買いだめた食品が無くなってきたので、出かけないわけにはいかなかった。

 ……え? ヴィータに任せる?

 いや、それはまずいでしょ。

 

「辛くなったらいえよ。おぶって帰ってやるから」

「その気持ちはうれしいけど、流石に恥ずかしいかな」

 

 まあ、傍から見ればどちらも小学生に見えるから、おかしいところは何もないんだろうけど。

 そうして何時ものスーパーに来たとき、その人はいた。

 

「あれ? ヴィータちゃんにりゅうちゃんですか」

「おお、シャマルか」

「お久しぶりです。シャマル先生」

 

 シャマル先生は、こちらに気付いてニコリと笑顔を向けてくれる。

 あんなことがあって気に病んでいるのかもと思ったけど、さすがにそういうところはきっちりしていたようだ。

 不要な心配、というわけだな。

 

「シャマル先生、どうせなら今日も付き合いますよ」

「そうですか? では、頼みましょうか」

 

 シャマル先生は悩むことなく即答してくれた。

 そうと決まれば、なるべく新鮮な野菜を一刻も早く確保するだけだ。

 

 久しぶりの買い物。そのことに心躍った俺は、シャマル先生がそのあとに言った言葉に気付くことは無かった。

 

「早くしないと、はやてちゃんが……」

 

 

 

 

 帰り道、行く時とは違い少しさみしげにしているヴィータ。

 声をかけようとするが、シャマル先生も同じ感じなので、どうにも声がかけづらい空気が漂っている。

 会った時のあの感じを考えれば、俺の事で悩んでいるというわけではないだろう。

 だとすれば他に原因……ふと、はやての事が思いついた。

 だが、はやてが原因だとすれば、やはりシャマル先生と久しぶりに会った時の笑顔の理由が分からない。

 

 結局、自分の家に着くまでこの空気を保ち続けることになった。

 

「送ってくれてありがとうございます」

「いいのよ、これくらい。まだ不安定でしょ」

「いえ、流石にもう大丈夫ですよ」

 

 この会話の間もずっとヴィータは暗い顔をしていた。

 流石に別れ際もこのままは嫌なので、ヴィータに声をかける。

 

「ヴィータ、どうかしたか?」

「え、あ……その、な」

 

 何か言いづらそうにしているヴィータ。

 なんだろうか。何か困っていることでもあるのか。

 そういえば、近々クリスマスが迫ってきていることを不意に思い出した。

 

「……あと、一週間くらいか」

 

 独り言のように口にする。

 俺は今日買ったものの一つを、いまだに言いづらそうにしているヴィータへと差し出す。

 ヴィータは突然出されたそれにとまどいつつ受け取ってくれた。

 

「これは……?」

「キーホルダー。安物だし、遠慮なく受け取ってくれ」

 

 アリシアに何かつけたらかわいいんじゃないかと思い、用意しておいたキーホルダー。

 なんとなく、その日までに会えることがないように感じるヴィータにあげるべきだと、俺の直感が告げた。

 

「でも……」

「遠慮するなって。受け取りづらいなら、今度会った時に何かお返ししてくれ。それでいいだろ」

「……ありがとな、りゅう」

 

 ほんのりと笑みを浮かべてくれたヴィータ。

 シャマル先生もそれを微笑ましそうに見ている。

 気を取り直したヴィータは、握手の形で手を出していった。

 

「しばらくはこれねえけど、またいつか会おうな」

「うん、分かった」

 

 そうして、俺たちは別れた。

 

 

 

 

「よかったの、ヴィータちゃん」

 

 シャマルとヴィータがりゅうと呼ぶ人間と離れて少し経った後、シャマルは先の別れについて聞く。

 ヴィータははやてのためにももう迷わないと決めた。だけど、ヴィータ自身は自分の中にある疑問を氷解しているわけではなかった。

 もし、それが本当であるならば……。

 

「いいさ。友達なら笑顔で別れるべきだろ」

 

 さっきもらったキーホルダーをもてあそびながらヴィータは答える。

 まるでこの先には何もないと、いつもの日常が帰ってくると信じているかのように。

 

 キーホルダーは青い犬を模擬したものでゴム製品。おそらくアリシアのために買ったのだろうとヴィータは予想をつける。

 それをくれるという事は、自分に対してアリシアと同じくらい思っていてくれているということではないのか。この世界で平和に過ごしてきた彼を裏切るような真似をした自分を。

 自分に都合のいい考えとは分かっているが、そうであった場合自分はここに戻ってきてもいいのかもしれない。

 

 ならばと、ヴィータは思う。

 もし全てが無事に終わったとき、はやてに紹介をしよう。

 この世界で出来た友人のことを。

 


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