リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十九話 決意を持つ事

 ヴィータに対してやきもきする理由。

 なんら難しい理由は一つもなく、前世の俺と姿が被って見えたから。

 大事なことからいつも目をそらして逃げていたあの頃。

 ずっと一人だったあの頃。

 過去の出来事だからこそ、許せなかった。

 

「りゅう、どうしても、戦うのか」

「そうだ。そのままだとお前はどこかで迷ってしまう」

「迷う……?」

「精神が不安定なままだと、何かを成し遂げることは出来ない。……俺がそうだったように」

 

 周りにやさしい仲間がついているヴィータは、今のままだとそんなことはないだろう。

 だが、もしも一人になったとき、ヴィータはどうなるのだろうか。

 

 ――そのまま、壊れてしまうのではないか。

 

「……そうかよ、それなら、やってやろうじゃんか! アイゼン!」

 

 ヴィータの声にこたえる電子音と共に、爆発的に魔力が膨れ上がる。

 一瞬、恐怖にジュエルシードをすべて使おうと考えるが、卑怯な考えだと改め目の前に集中する。

 そもそも、そんなものを使って戦って、得るものがあるとは思えない。

 

 すぐさま窓を開け庭へと出る。後に続くようにヴィータも出てきた。

 

「アリシア、防御は任せたぞ」

『はいはい。そもそも、どうやって戦うの。逃げる技しか練習してなかったのに』

「なんとかなる」

『相手はあの高町なのはを倒した相手なのに?』

「……え、マジで?」

 

 リンカーコアを積極的に集めているのってシグナムだから、てっきりシグナムがやったもんだとばかり思っていたんだが。

 ヴィータ自体そこまで積極的にしてるようにみえなかったし……あれ、俺まさか死亡フラグ?

 

「あ、やっぱりジュエルシードを――」

『来るよ!』

 

 アリシアの声、展開される防御と同時、ヴィータのハンマーの形をしたデバイスが防御を吹き飛ばした。

 そう、その文字の通り防御を吹き飛ばしてきたのである。

 

『シールドが!』

「げえっ! マジかよ!?」

 

 さらにヴィータは追撃を仕掛けてくる。防御の生成は間に合いそうにない。

 そうとなれば、出来ることは限られてくる。

 目の前でヴィータがハンマーを振りかぶったとき、俺は戦闘が始まった当初より仕掛けていたそれを解放させた。

 

「ライトニングバインド!」

 

 手足を封じれるよう、四肢にかける。

 魔力量はなかなか大きい。だが、設置型の捕縛系バインドは十分なほど練習をした。

 だからこそ、かなり強固に作り上げ、少ない魔力量で生成できるように改造しているそれは、少なくともそう簡単に解けるものではないだろう。

 改造にはもちろんアリシアに手伝ってもらったが。

 ともかく、捕まえたからといって油断はしない。俺はその上からさらに追い打ちをかける。

 

「サンダースマッシャー!」

 

 目の前で雷撃が起こり、まぶしさから一歩その場を引く。

 雷撃が終わり、直撃したであろうヴィータはその場でぴんぴんしていた。

 その結果に、アリシアが呆れたような声を出す。

 

『サンダースマッシャーって、なんでもう少し強い技を使わなかったの』

「……魔力量が、足りないんだ」

『ライトニングバインドは改良したはずだけど』

「普通の状態でもプラズマスラッシャーとか無理だから」

『……え、それじゃあ……』

「今の最強の技、まあ……空の見える場所で限りなく威力を絞って詠唱してから放てばサンダーレイジがぎりぎり……」

 

 アリシアが盛大に溜息を吐く。

 自分でも、流石にこれはないかなーとか思い始めている。

 

「へえ、あたしを捕まえるなんて、意外とやるじゃん」

 

 こちらの状況を分かっていないヴィータは、素直に賞賛を送ってくれる。

 その間にも、俺は思考を進める。

 バインドなどの罠系統は、一回読み切られてしまえば次は通用しない。

 ならば、どうやってヴィータを止めるか。

 

 再び突進をしてくるヴィータ。

 今度は防御に任せず、バインドをあちこちに仕掛ける。

 量は一面を埋めるくらい。

 

「しゃらくせぇ!」

 

 男気あふれたセリフと共に、バインドを全て破壊をしていく。

 正直、ありえないとしか言いようがない。

 驚いている間にも、ヴィータは俺の目の前へと接近を遂げた。

 

「ギガントハンマー!」

「フォトンバースト!」

 

 避けられないことを感じ、すぐさま攻撃魔法と共に相打ちを決め込む。

 狙い通りヴィータはこちらの攻撃を振り払うようにするが、相打ちはし切れずハンマーがフォトンバーストを抜けて迫る。

 アリシアが出した防御と共に吹っ飛ばされ、家の塀にしたたかに体を打ち付けた。

 一応手加減をしてくれているのか、塀を貫くほどの勢いはなかった。

 だからといって、足を止めている暇はない。

 

『また来る!』

「くっ!」

 

 網になるように、適当にバインドを張り巡らせる。

 これも時間をかけず破壊しつくされるだろう。

 思考の海に流されていたとき、ポケットから転がり落ちたのか右手に何かを触った感触がした。

 

「これは……」

 

 ちらりと、触ったものを見る。

 それを見たとき、俺は一つの勝機を見出した。

 

(ヴィータの性格は大体読めてきた。予測通りいけば……)

 

 やはり網状のバインドを引きちぎったヴィータに、威力を絞った魔力弾を放つ。

 むろん当たるはずもなく、ほどなくしてその魔力弾を壊す。

 そう、流したのではなく己の力を使って破壊したのだ。

 そして、そこからまき散らすは唐辛子。

 

「なっ、これは!」

「かかったなヴィータ! それは特製の唐辛子爆弾! くらえば物理的に辛い!」

『汚い!』

 

 アリシアからのツッコミが入るが、そんなものは気にしない。

 想定通り涙を出して咳き込むヴィータの足首に、強度を高めたバインドを使い転げさせる。

 唐辛子に気にとられているヴィータはそのまま転倒した。

 

「……そして、これで終わりだ」

 

 ブーストで素早く近づき、首元に鎌を突き付けたところで、勝負を決す。

 ヴィータはせきこみつつも、負けを認めたようにデバイスを元の形に戻した。

 

「ごほっ……聞いていいか?」

「なんだ?」

「あの魔力弾……けほっ……なんなんだ?」

「あれは唐辛子爆弾を魔力弾で包んだだけだ。ヴィータは迎撃をするのに無駄に真っ向から打ち破ろうとするから、それを利用させてもらっただけだ」

「……そうか」

 

 完全にヴィータの戦意喪失をしたのを見て、俺も戦闘態勢を解く。

 ……いやまあ、実を言えばあれ以上戦ったらこっちが負けていた。

 唐辛子爆弾なんて、プレッシャーの上に手持無沙汰だった朝に作った一個しかないし、そもそもどんな状況であろうともヴィータの防御を打ち破って倒せる技がない時点で、勝てる見込みはゼロだったわけだ。

 本気のバトルでないのなら、きっと寸止めで終わらせることが出来るはず。

 実際この予想は当たっていたわけだが、もし向こうがやる気なら俺がフルボッコで終わってただろうな。うん。

 

『いやでも、唐辛子はないでしょ』

「うるさい。勝てばいいんだ」

 

 アリシアはこの結果に納得いかないようだけど。

 

「ともかくヴィータ。これでわかっただろ」

「……なにがだ」

「迷いは、枷になることを」

「……」

 

 実際ヴィータが本気でなかったことも勝因の一つだろう。いつもならば、持ち合わせている負けん気で戦闘はまだ続いていただろうから。

 何も答えないヴィータに目線を合わせ、気分のまま頭をなでる。触れた当初は身をすくめるが、すぐに緊張を解いてくれた。

 ……こうしてみると、ただの少女にも見える。

 

 あとは、覚悟を決める必要もない。

 

「ヴィータ、俺のリンカーコアをとれ」

「りゅう……」

 

 迷いの瞳は消える。ヴィータは覚悟を決めたように目をつむった。

 表面上に出さないようにしているが、これ以上面倒なことに巻き込まれないだろうことに俺は安心するのだった。

 

 

 

 

 はやて家。

 そこでは騎士たちが話し合いをしていた。

 

「ヴィータちゃんを助けに行かないと!」

「落ち着けシャマル。ヴィータなら大丈夫だ。それに、何の情報も入らぬうちに先を急ぐわけにはいかない」

「相手は管理局かもしれぬのだぞ」

「それにしては結界の張り方がおかしい。最初から監視をしていた私達でないと気付けないくらい、ステルスに長けた張り方をする必要はないだろう」

 

 シグナムはそう判断をするが、内心心配なことは変わらない。

 しかし、本能からヴィータは大丈夫だという確信があった。

 だれからも意見が無くなったとき、玄関が開く音がした。

 そのものは顔を伏せ、シグナムの前に立つ。

 

「……」

「ヴィータ」

 

 ヴィータは何も言わず、その手に持っているものをシグナムに見せて、顔をあげた。

 

「シグナム、あたしはもう、迷わないよ」

 

 その眼は決意が宿っている眼だった。

 


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