リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十八話 迷走無き思い

 海鳴市にある公園。

 平日の午前中なので、人はほとんどいない。

 そんな中、俺は昨日会った四人の騎士を待っていた。

 

「時間、聞いておけばよかったなぁ」

 

 今後悔しているのはそのことである。

 プレッシャーで早く起きて、暇つぶしに唐辛子を使って面白そうなものを作ったけど、結局のところ居ても立っても居られずこんな早くに来てしまった。

 こんな寒い公園の中待たされて、風邪になったらどうするんだよと言いたくなる。

 言う対象なんてどこにもいないけど。

 ちなみにアリシアはお留守番だ。

 

「というか、普通に考えれば朝から来ないんじゃ……」

 

 そもそも昨日会ったのが学校帰りだから、そのくらいの時間に来るのが普通なのではないかということに気が付く。

 落ち込んで帰ろうとしたところ、誰かが前に立ちふさがった。

 

「やっぱり、こんな時間からいたか」

 

 俺でもよく知っている子。

 ヴィータは普段着ではない服で俺の前に立っていた。

 そこで、俺はヴィータがここに何のために立ちふさがったか悟る。

 

「リンカーコアでも取りに来た?」

 

 いきなり本題を言われ、ヴィータはばつが悪そうにする。

 

「やっぱわかってたか、あたしがあの三人と同じってこと」

 

 いや、ばつが悪そうにしたのは本題が言われたことではなかったらしい。

 あの三人と同じというところから、ヴィータは居心地を悪くしている。

 

「それで、どうするのかな。乗り気じゃないみたいだし、そのほかの三人とやらもここにいないし」

「あたしはまさかこんな時間から待っているかもしれないやつを、確認しに来ただけだ。ほぼ独断専行だよ」

 

 ヴィータさん、その考えは正解です。

 実は一時間くらい、朝方で冷えこんでいる中で待ってたんです。

 心の中で感謝しつつ、俺はこの先の事について話そうとする。

 

「とりあえず、俺んち来るか」

「いいのか?」

「いいもなにも、このまま公園にいる方がつらい」

 

 身体を一回ぶるっとふるわせ、体が冷え込んでいることをアピールする。

 ヴィータの今まで硬かった表情が初めてほころんだ。

 多分、呆れの方向でだけど。

 

 そんな中、風に紛れて一つの声が聞こえたような気がした。

 

「試すような真似をして悪いなヴィータ」

 

 

 

 

 真っ先にアリシアを隠して、ヴィータを家に入れる。

 今更になるが、今俺が住んでいるのは二階建てのなかなか大きい家。

 幼児のころに住んでいた家をそのまま再び買い取ってあるので、一人で住むにはあまりにも広かったりする。

 ちなみに、三人で住んでいた時もかなり広く感じた。

 

 そんなことは今関係はなく、俺は目の間でソファーに座るヴィータをじっと見ていた。

 

「……」

 

 家にきてから少し経つが、ヴィータは何もしゃべろうとしない。

 そんな悪い空気に、そろそろ耐えられなくなってきたのである。

 意を決して、ヴィータに話しかけることにした。

 

「ヴィータ――」

「りゅう」

 

 俺の声はヴィータに重ねられる。

 

「あたしは、お前の気持ちを裏切ってでも、お前から魔力を、奪わなければいけない」

 

 とぎれとぎれにヴィータは声を出す。

 何かを振り切るような、そんな感じのもの。

 その声の調子から、ヴィータはいまだ非情になりきれていないことが分かる。

 

 有体に言えば俺からリンカーコアを取ることを躊躇している。

 

「だから、りゅう」

「……ヴィータ」

 

「お前のリンカーコアを、奪わせてもらう」

 

 

 

 

 はやて家。

 はやては図書館で出会った友達に会いに、図書館に出かけていた。

 家主がいない家、そこに騎士たちが集まっていた。

 

「シグナム、監視をするようなことはしなくてもいいんじゃないか」

 

 いつも家にいる時の格好である狼状態のザフィーラ。

 シグナムは険しい顔のまま、シャマルが見せる映像を見ている。

 

 シグナムはヴィータの様子に不安を覚えていた。

 しっかりと心に決めたわけではなく、リンカーコアを奪う日々。

 フラストレーションがたまるだろう日々は、ヴィータにとって苦痛なものだったのではないか。

 騎士たちメンバーの中では最も精神が成熟していないヴィータをシグナムは心配ではあったのだ。

 

 今回はこれから先ヴィータがこのようなことを続けられるのか、それを見極めるためにヴィータ一人でりゅうと呼ばれる男のもとへ行かせた。

 この結果で、ヴィータの処遇が決まることは教えず。

 

「!」

 

 シャマルが息をのむ。

 それは、ヴィータの身に何か起こったからではなく、彼女自身に起こったことから。

 

「どうしたシャマル」

「……監視が、遮断されました」

 

 

 

 

「りゅう……お前は……」

 

 ヴィータは目の前の事が信じられずにいた。

 目の前の男の子は、この海鳴で仲良くなった子であり、友達だと思っていた子。

 その男の子が、デバイスを持ちヴィータの前に立っている。

 

「あまり、悩み続けるものじゃない」

 

 男の子は静かな声でそう告げる。

 鎌のようなデバイスは困惑するようにコアが点滅していた。

 

「悩みは身を滅ぼす。不安定な精神は危ない。俺が生きているかどうかわからなかった時と同じように」

 

 彼の言っている意味はヴィータにとってまったくわからなかった。

 ただ一つ分かること、目の前の男の子はきちんとした戦う意思を持って目の前にいること。

 

「ヴィータ、迷いを吹っ切らせてやるよ」

 

 ヴィータは自分のデバイス、アイゼンを構えた。

 

 

『お兄ちゃん!? いったいどうしたの!?』

 

 思念でアリシアが驚きの声を上げる。

 アリシアが驚いていること、その理由は自分でもわからなかった。

 ヴィータの悩みに揺れる瞳は不安定で、昔の俺を思い出させられた。

 それが俺は許せなかったのかもしれない。

 

「悪いな、アリシア。ちょっと付き合ってもらうぜ」

『今まで自分から戦おうとしなかったのに……』

「ちょっと……な」

『もう……分かった。前は私のわがままに付き合ってもらったしね』

 

 わがままを聞いてくれたアリシアに内心感謝をする。

 結界は張った。特訓で魔力を全く感知されない強力なものを。

 状況は万全。

 

 ――勝負が、始まる。

 


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