リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
あらすじ
ピンク髪のお姉さんと筋肉のお兄さんに呼び止められた。
「ええと、どちら様でしょうか」
とりあえず、二人に疑問を投げかける。
いきなりリンカーコアをいただくとか言ってくる人が、こんなつまらない質問に答えるとは思っていない。
それでも質問をしたのは、少しでも考える時間が欲しかったからである。
「名乗る必要はない」
ほらねほらね。答えてくれるわけなかった。
しかし、ここで相手に喋るすきを与えてはならない。
「それに、えっと、リンカーコア? って何? そ、そんなもの持っていない、ですけど……」
先日、アリシアに聞かせてもらったリンカーコアというのを知らないふりをしてみる。
さっきの質問に律儀に返してくれるところを見ると、多分どんな無駄話でも返してはくれるだろうと予想しての事だ。
「リンカーコアを知らない?」
「どうやら、我々と出会う前の主みたいなもののようだな」
ピンク髪のお姉さんの言葉に、一歩引いた位置に立っていた筋肉のお兄さんがこたえる。
「そうか。かわいそうだが、何も知らずのままにする方がいいだろう」
ピンク髪のお姉さんは納得をし、突如どこからか剣を取り出して刃をこちらに向けた。
「おとなしくしておれば乱暴なまねはせん」
お姉さんの目を見る。
完全に本気だ。
俺はそこで生きることをあきらめ、目を閉じた。
……その心構えも、すぐさまあげられた声に吹き飛ぶことになったが。
「りゅうちゃん!?」
この声……シャマル先生!?
目を開けてみれば、目の前には謎の空間。そこから、上半身を出してくる驚いた顔のシャマル先生。
怪訝そうにシグナムがシャマル先生を見る。
「どうした、シャマル」
「あ、その……」
言いづらそうにシャマル先生が言い淀む。
その状態に業を煮やしたのか、お姉さんは荒々しく出ている手を引っ張った。
突如できた穴から引っ張り出されたシャマル先生は、苦虫をかみつぶしたような表情で俺を見ている。
ちなみに、穴はいつの間にか消えていた。
「シャマル先生、これはいったいどういうことですか?」
俺のその一言に、そして、シャマル先生の申し訳なさそうな佇まいに、お姉さんはすべてを悟った。
「そうか、シャマル、お前がリンカーコアを集めるのを渋っていたのは……そして、ヴィータも……」
「違うわ! 彼の潜在能力はたまたまなもの。気付いていたわけじゃない!」
「確かにそうだな。知っていたのなら、シャマルがこの者を対象とするはずがない」
そうはいいつつも、お姉さんはシャマル先生に対して疑惑の目をやめない。
シャマル先生は顔を伏せた。
……どうやら、こんなことになっている理由は俺のリンカーコアにあるようだ。
何に使うのかは分からないが、彼女らは俺のリンカーコアを欲している。
そして、本来の作戦ではリンカーコアを取る役目だったシャマル先生は、知り合いの俺を見て戸惑った。
それに対してお姉さんはシャマル先生に何らかの疑いを向けている。
そしてお姉さんの正体。
それはヴォルケンリッターの一人。
「シ、シグナムさん、ちょ、ちょっといいですか?」
「! 貴様、なぜ私の名を知っている」
「そ、それはともかく……シグナムさんが欲しているリンカーコア」
最後の言葉はシャマル先生の方に向いて告げる。
「あげてもいいです、よ」
「りゅうちゃん!?」
俺はじっとシャマル先生を見つめる。
さっきシャマル先生に言ったのは、ひとえにシャマル先生の真意を探るため。
目的も、理由も、なぜリンカーコアなんてものを集めるかはまったく分からないが、シャマル先生が敵かどうかこれでわかる。
知識にある彼女たちの騎士らしさからみれば、正面からこう言ってくるやつを不当に扱わないだろうという打算もあったが。
ともかく、その考えは次の一言により、手ごたえを感じることになった。
「シグナム、少しこの者に興味がわいた。話ぐらい聞いてもいいのではないか」
「……ふん。今日のところはいいだろう」
シグナムさんはこの場は許してくれるようだ。
思わず安堵の息が漏れる。
これで逃げれる……その考えをよんだように、シグナムさんはこちらに顔だけ向けた。
「明日、この近くにある公園にて待つぞ。逃げたら……」
逃げたら!? 逃げたらどうなるん!?
そんな俺の焦りを無視して、シグナムさんは続きを言わず、どこかへ去って行った。
そんな風に言われて平気でいられる俺ではない。
ビビリの性格がでた俺は、結局その日家出はあきらめて家にこもることにしたのだった。
その時の、アリシアの呆れる視線はいつもの事なので気にかかることはなかった。
ここははやて家。
その家の主はやてはこの日図書館へ出かけていた。
主の居ない家。ヴォルケンリッターの四人はタイミングがいいとばかりに話し合いをするのだった。
「シャマル、ヴィータ、言いたいことはあるか」
皮切りに言葉を発したのは、リーダー格であるシグナム。
その言葉にいまいち反応を示さないのはヴィータ。
「いったいどうしたっていうんだ。何かトラブルでもあったか」
能天気に言うヴィータ。
この話し合いが行われた理由が龍一の事についてだなんて、微塵も思っていないようだ。
もっとも、少しすればヴィータも隣にいるシャマルとだいたい同じ反応になるのだが。
シグナムはため息をつきつつ、シャマルに説明を任せた。
シグナムに言われたシャマルは、言いづらそうにヴィータにこの日あったことを説明する。
「なっ! りゅうが!?」
予想通り、龍一にリンカーコアがあったことについて驚きの声を上げる。
しかもそのリンカーコアの魔力量が多いときた。ヴィータの驚きは二連続に渡ってのものになる。
「本人はリンカーコアを渡してもいいと言っていた。ヴィータ、これについてどう思う」
犬の状態になったザフィーラが問う。
なお、この犬状態ははやてが好んでいる姿であり、家ではだいたいこの姿である。
「……」
ヴィータは答えない。いや、答えられない。
一般人にとってリンカーコアなんて大したものではないと思うが、彼女らは魔術師だ。
大方の予想はついていると思うが、高町なのはのリンカーコアを奪ったのは彼女らであり、また、そのリンカーコアの重要性について誰よりも知っているのも彼女らだ。
龍一のリンカーコアを取るのを懸念している理由、それは龍一が死ぬ可能性もあること。
リンカーコアは、命につながることもある。大丈夫だと絶対の自信があったとしても、その可能性を取り消すことは出来ない。
ヴィータは、そしてシャマルは、決定できずにいた。
「……所詮、主はやてに対する情愛はその程度のものか」
「シグナム」
痺れを切らしたのかシグナムが二人に向けて言う。
ザフィーラはシグナムを戒めるが、シグナムはこのままであれば二人をどう対処するか考えていた。
だが、そんな考えを打ち消したのはヴィータだった。
「リンカーコアを取るぞ」
「ヴィータ……」
決断をするヴィータだが、いまだ心は揺れ動いているのか、シグナムの目は見ていない。
シャマルはヴィータの心情を考え、どう声をかけるか悩んでいた。
シグナムとしては、ここで二人が断るなんて、考えてはいない。
万が一今行っていることが成功しても、このままであればはやてはまた孤独に戻ってしまうだろう。
そう、少しでもはやての孤独を忘れさせてあげるのであれば、少なくとも今は誰かがそばにいてあげるのが一番。
それは分かっていても彼女たちは今していることをやめはしない。
それが、主であるはやての命にかかわっているから。
「迷いはないな?」
迷ってしまえば、一度立ち止まってしまえば、動けなくなるかもしれないから、シグナムは問いた。
ヴィータはその問いに、迷いはないと首を縦に振ったのだった。