リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十六話 事件

 十一月になった。

 平和ですねーと囁いていられるのもつかの間だけ。平和の先には何か暗いことも待っているものである。

 

 魔王が学校を休んだ。

 

 これは重大な事件だ。

 少なくとも普通ではないだろう。

 というのも、フェイトがなんだかそわそわしていることから勝手に推測しただけだが。

 だけど俺は気にしない。

 ここで気にすれば何かに絶対からまれる。

 それだけは避けねば……

 

 昼休憩、アリサにすずかにフェイト。最近いつものメンバーと化してきた三人が、普通に俺の席に集まってきました。

 実はこれもいつもの事なんだけど。

 

「フェイト、なのはがなんで休んでいるのか知ってる?」

 

 アリサが集まってきたのにかかわらずフェイトに話しかける。

 なんで俺の席で話し始めるんだろう。というか、椅子の左右を埋めないで。立てない。

 

「あ、ううん、分からない」

「まあ、そうよね」

 

 アリサは「ふぅ」と息を漏らして俺に体重をかけてくる。

 あれ? いい匂いが……いやいやまてまて、ここでそれを自覚すると俺はロリコンの道へ行ってしまう。

 しかし立場的にアリサに強く言えない俺は、その状態を黙って受け入れるだけだ。

 

「心配だよね」

 

 すずかがちらちらと俺を見る。

 適当に言葉を発しながらも、俺の事を気にかけていてくれているようだ。

 その心遣いに目から液体が出ざるを得ない。

 

「龍一は心配じゃないの?」

「別に心配していない」

 

 アリサが俺に話を振ってきたが、すぐに返す。

 下手に悩んでも肯定する気だけはないし。

 いつもならそこでアリサが少しは怒るはずだが、今日に限ってとくにそれがなかった。

 

 

 龍一本人は気づいていないが、冒頭部分でなのはが登校していないのをみてフェイトが何かを知っているだろうと疑う態度は、表面上にもきちんと出ていた。

 なのはの席を見てフェイトを見るというのは、アリサにとってまだ登校していない友を憂いているように見えたのだ。

 実際はそんなわけないのだが、そこからアリサは龍一の思考を判断したわけなのである。

 つまりさっきのセリフは「(信頼しているから)別に心配していない」という風に修飾されたのだった。

 

 龍一はそんなことも知らず、怒らないアリサに「お前は心配じゃないのか」と尋ねる。

 

「そんなの心配に決まってるじゃない」

 

 当たり前ではあるが、アリサはそう返した。

 そして、龍一の問いはアリサにとって実は心配している説を深めることになる。

 

(なのはの事、気にかけてほしいのかしら)

 

 有体に説明すればそんな感じである。

 そんなことも素知らぬ龍一は、さも当然かのように納得した。

 

 

 

 

 そんな魔王は、次の日普通に登校した。

 なんでも風邪だったらしい。

 それを聞いたアリサとすずかは、心配させないでと声を掛け合っていた。

 

 そんな中、少し距離を置いて三人を見ているフェイト。

 その表情は、体調が回復して登校してきた友を喜ぶものではなく、まるで何かが起きる前兆かのように悲しんでいた。

 

 関わりたくは無い。

 だけれど、このまま放っておくのもはばかられる。

 これがもしも原作の事件が関わっている場合、これからの事を考えなければならないからだ。

 もう二度と、ああいうもの(プレシアの事件)にはかかわりたくないのだ。

 

「フェイト」

 

 びくりと肩を動かし、こちらを向く。

 フェイトは俺だとわかると目に見えてほっとした。

 

「なに、龍一」

「高町さんって、本当に風邪だったの?」

「えっ!?」

 

 俺の言葉に明らかに動揺を見せるフェイト。

 正直なのはいいことだ。

 しかし、フェイトは動揺を表にしながらも、必死に言葉を重ねる。

 

「わ、わたしにはわからないな」

「なら、理由もなしに休んだ高町さんに、何か言ったりしないの?」

「わ、わたしはなのはを信じているから」

 

 その割には昨日の心配していた度合いはすさまじいものだった。

 ここらで、俺の直感が告げる。

 これは魔法に関することではないのか。

 やはり原作のストーリーのひとつなのではないかと。

 

「ああ、そう。でも、何か心配していることがあるなら遠慮なく言っていいからね」

 

 本心ではその逆である。

 しかしフェイトはそのまま受け取ったのか、素直にお礼を返した。

 

「うん、ありがとう龍一」

 

 

 

 

 家に帰って、さっそく俺はアリシアにアースラの情報を調べてもらう。

 

『人使い荒いよね。それとも物使い?』

「正直巻き込まれるのは簡便だ。いや、勘弁だ。これが事件なら俺は逃げる」

『何を言い直したの? でも、それは相変わらずだね』

 

 なんとなく変な言い回しをしてしまったが、まぎれもない本心である。

 簡便であることも今のままだと間違いではなさそうなところが怖い。

 

 しばらくして、アリシアは情報を調べ終えた。

 しかし、これだけアースラの端末調べて平気なのは、アリシアのハックが上手なのかアースラがずぼらなのかどっちなんだろう。

 

『まず、高町なのはは何者かに襲われて療養していた』

「襲われた!?」

『どうやら、朝練習をしているところに現れたらしい。犯人は複数人で、一人一人がAランク相当の強さを持っていたらしいよ』

 

 魔王を倒すとか、どこぞに勇者パーティでもいるんだろうか。

 いや、勇者パーティじゃなかったから一日休むだけで復活する傷しかつけられなかったのか?

 一つ思いついた疑問をアリシアに聞いてみる。

 

「アリシア、魔王はその犯人たちと争ったんだよな」

『そうだよ』

「でも、今日普通に登校したってことは、大けがを負う程の戦いはしなかったんだよな」

『大けがを? お兄ちゃん、それは前提からちょっと違うよ』

「前提から?」

 

 アリシアはデータベースを探る時間をおいて答えてくれた。

 

『犯人の狙いはリンカーコア。魔導師の命とも呼べるもの』

 

 リンカーコア……

 

「ってなんだ?」

『そんなことだろうと思ってた。簡単に説明すると、リンカーコアというのは魔導師の魔力の器』

「器?」

『そう。その器の大きさで、持つことが出来る魔力量が変わってくる。いわゆる才能の塊。そして魔導師の核だよ』

「そのリンカーコアを狙っていたって、もしかして相手は魔王の才能に嫉妬して……」

 

 アリシアは呆れたようなため息をついた。

 

『違うよ。敵はそのリンカーコアを奪っていったって書いてあった』

「リンカーコアを奪うって、まさか」

 

 魔王が魔法を使えなくなった?

 しかし、そのことをアリシアに聞いてみると、否定の声を上げた。

 

『リンカーコアは確かにデリケートだけど、ちゃんと傷つけずに取れば回復はするよ。だから、高町なのはは魔法が使えなくなったわけじゃない。それでも、修復までは時間がかかるだろうし、その間大した魔法は使えないだろうけどね』

 

 一気に説明を終わらせ、アリシアは一息つく。

 その間、俺はこの先の事を考える。

 考えて、すぐに決まった。

 

「よし、逃げよう」

 

 俺は早速荷造りの準備をする。

 その姿を見ていたアリシアだが、ハッと何かに気が付くと、荷造りをする俺に声をかけてきた。

 

『まさか、逃げるっていうの……』

「この街から逃げるってことだけど」

 

 いろいろ準備があるので出るのは明日になるかもしれないが、荷造りを終えておくのは悪いことではあるまい。

 

 俺は長い溜息をつくアリシアを背に、せっせと片づけを続けるのだった。

 

 

 

 

 次の日、学校からの帰り道。

 教師にしばらく休むことになる趣旨を伝えて(もちろん適当な嘘の理由で)、この街から出られると思ったんだけどなぁ……

 

「貴様のリンカーコア、貰い受けようか」

「悪いと思うが、こちらも理由があるのでな」

 

 ピンク髪ポニーのお姉さんと、筋骨隆々な褐色のお兄さんに引き止められてしまった。

 


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