リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十五話 動き始めるは騎士

 十月の終わり、スーパーで前に会ったシャマル先生と、その付添いかヴィータと出会った。

 彼女らは俺を見ると軽く会釈をしてくれて、こちらに話しかけてきた。

 

「お久しぶりです」

「はい」

 

 シャマル先生に一言挨拶される。

 シャマル先生とは夏休みの間にスーパーなどの店で何回かあっており、そのたびに世話を焼いたりした。ちなみに先生呼ばわりは反面教師的な意味合いだ。理由は察せると思う。

 原作と関わりたくない俺が何でいちいちそういうことをするのかと聞かれれば、純粋に見捨てておけなかったのがあるし、なんとなく、本当になんとなくだが近しいものを感じられるのだ。

 というか、買い物のメモに鳥肉と書いてあるのに、なぜかラム肉(羊の肉)を買おうとしたのを見たときは、世話を焼く自分を止められなかった。

 別に料理人とかそういうわけじゃないのに、なんで料理の事になるとこうなんだろう……

 

「おいりゅう。お前夏休み終わったら本当に来なくなったな」

「行く時間がないからだよ。学校行って、帰ったら家の事やって……意外と時間がないよ」

「お前とは二十三戦十勝十敗三引き分けだからな。次が勝負でもあるんだぞ」

「よく数えていたね」

 

 ヴィータはなぜか俺にライバル心をもっているらしく、ゲートボールではいつも張り合ってくる。

 最初こそ負けた俺だけど、コツを取り戻したら意外と勝てたりすることもあっていい勝負だったりする。

 ゲートボールは暇だから行っていただけだから今は行っていないが。

 

 そして今日も例にもれず、シャマル先生の買い物に付き合うことになった。

 ……ヴィータがいれば大丈夫だと思うかもだが、前にとあることがあってな……

 

 肉売り場にいた時。

 

「おい、こっちの方がいいぞ!」

「高級品だからね。お金足りなくなるよ」

「野菜なんていらねえからこっち買おうぜ!」

「ダメだろ」

 

 お菓子売り場にいた時

 

「……おいりゅう、これはなんだ」

「これはアイスだよ」

「アイス……よし」

「だからお金ないって」

 

 レジに行くとき

 

「こっちの方が安いぞ」

「それって賞味期限ぎりぎりのだよね。すぐに使うならいいけど」

「ほら牛乳十本」

「多いよ」

 

 

 ……まあ、安心ではないってことだ。

 ある程度常識はあるんだけどなぁ、後先考えないというか、その時思ったことをすぐに行動に移すというか。

 とにかく、会えば付き合うという感じがシャマル先生達との関係だ。

 うーん、普段ならスルーか逃亡安定なのだが、二人に関しては最初がフレンドリーなのもあってかなんだかんだ会話してしまう。不思議だ。

 

「シャマル先生、そろそろブロッコリーとカリフラワーの違いくらいは分かるようになりましたか?」

「白い方がブロッコリーで青色がカリフラワーですよね」

「うん全然違うね。ブロッコリーは緑だよ。青色のカリフラワーって何」

 

 かれこれ何十回って付き合っているのに全く覚えてくれない。

 これはひどいとしか言いようがない。

 そんなんだから、いちいち世話を焼いてしまうんだよ。まったく。

 

「買うものだけど、今日の晩御飯はなんですか?」

「ハンバーグだそうです」

「まじ? よっしゃー!」

 

 ヴィータが大喜びして飛び上がる。

 はやての作ったハンバーグは最高だし、気持ちはわかる。

 

「うらやましいな。俺は今日オムライスだよ」

「ハンバーグに変えれねえのか?」

「卵の賞味期限がぎりぎりでさ、卵料理フルコースになったんだよ」

 

 冷蔵庫を見てみたら賞味期限が近い卵のパックがあって驚いた。

 冷蔵庫の中はなるべく管理をしているはずなんだけどと少しショックを受けたよ。

 それがあって最近は、いっそアリシアに冷蔵庫の管理任せようかなーって思っているんだけど。

 

「卵料理ですか。私もいり卵なら作れますよ」

 

 シャマル先生が対抗心を燃やしたのか、自分の作れる料理を教えてくる。

 だけどあれって、下手するとフライパンに卵いれてぐちゃぐちゃにするだけで作れるぞ?

 うすうすわかっていたけれど、シャマル先生はポイズンクッキングが得意らしい。

 そうして、肉コーナー。

 

「粗挽き肉……」

「牛タン……」

「全然違うから。こっちのだから」

 

 というか、はやては何で毎度毎度こいつら二人に任せているんだ。

 明らかにミスだろう。

 俺は違う場所を見ている二人を引っ張って違う売り場に行く。

 

「ところで、はや……えっと、あの家の大家は今どうしているの?」

 

 なるべくつながりを悟られたくないため、適当に濁して聞いてみる。

 はやてなんてなれなれしく名前を言うと、友達というのがばれるかもしれないからな。

 

 ……あんな別れ方をして、負い目がないわけもないし。

 

「はやてちゃんですか。はやてちゃんでしたら、元気ですよ」

「シャマル、そういうことが聞きたいわけじゃないと思うぜ。それに……な」

「あ、そ、そうですね……」

 

 ? なぜか顔を見合わせて表情を暗くさせた。

 何か気にかかることでもあったのだろうか。

 事故に会った……にしては先ほど笑顔で元気ですよと言ったのがどうにもおかしい。

 いまいち引っかかるが、俺は食いつくところではないと感じ、二人の会話を聞き流すことにした。

 

「りゅう、はやては今も家でのんびりしてるよ」

 

 そう言ってきたヴィータの表情は特におかしいところはなく、少なくともはやての身に不幸が起こったわけではないようだ。

 離れた身としては、それを知ることが出来るだけ良い。

 

「玉ねぎですね」

「それにんにく。色どころか大きさでわかるだろ」

 

 野菜コーナーについてさっそくシャマル先生がとるが、相変わらず間違っている。

 はやての事を頭の隅に追いやり、この後も買い物をつきあった。

 

 買い出しが終わり、俺と二人は帰路を歩いていた。

 

「きょうはありがとうございました」

「だからお礼はいいって」

 

 いつものようにお礼をいわれる。

 いつもならここでヴィータが何か言葉を返してくるのだが、今日は何も言ってこない。

 気になってヴィータの方に顔を向けると、真面目な顔で悩んでいた。

 

「どうしたのヴィータ」

「……りゅう」

 

 今度は真面目な顔を俺にむける。

 それはとても凛々しく、騎士らしく何かを決意した顔。

 

「あたしたち、しばらく会えないかもしれないけど、心配すんなよ」

 

 

 

 

 ヴォルケンリッターの騎士二人、シャマルとヴィータは家に帰っていた。

 

「ほんとにやんのかよ」

 

 家に帰ったヴィータが、玄関前で待っていた二人の騎士に聞く。

 そのうちの一人、烈火の騎士シグナムが、凛とした顔で答える。

 

「当たり前だ。主を救う方法はこれしかないからな」

「だけど、それではやてが喜ぶとでも思っているのかよ」

 

 ヴィータはいまだ今から行うことを躊躇していた。

 それはだれでもない主はやてのお願いがあったから。

 

『危険なことはせんといて』

 

 何時しか言っていた言葉が、いまだにヴィータの決意を鈍らせている。

 そのお願いは、その時の表情が暗いものだったことも併せて、ヴィータの中ではとてつもなく重いものとなっていた。

 また、ヴィータは知らないだろうが、はやてがそういって暗い表情を見せたのは龍一の事があるからだったりする。

 

「臆したかヴィータ。だが、やらぬというのであればそれは構わぬ。……確かに、これは主はやての命令を背いたことになるからな」

 

 シグナムは「その場合主はやてを頼む」と言って、あることのために外へ出ていく。

 そのあとに続いてもう一人の騎士も出ていった。

 ヴィータは閉じられた玄関を見つめ――同じように出ていくのだった。

 

 あとに残されたのは荷物を持っているシャマル。

 その内心は、覚悟が出来てないヴィータを心配するものだった。

 


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