リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十四話 テスタロッサの流れ

 学校、いつもながら始まりは唐突だった。

 

「ねえ龍一、本当の料理食べたいなぁ」

 

 もちろんフェイトの言葉だ。

 つか本当の料理て……俺なんでそんな恥ずかしいこと言ったんだろう。

 とりあえず、理由は聞いてみる。

 

「なんで?」

「だめ?」

 

 いや、駄目とかそういう意味じゃなくて理由が気になるだけなんだけど。

 しかし、あまり押し問答をしていると、ほかの三人にも気づかれる恐れがあるし、そんなことになれば誰かがみんなで行くと言い出しかねない。

 そんな未来を想像して、俺はフェイトの言葉に頷いた。

 

「だめなんだ……」

「ち、違う違う。来ていいってことだ」

 

 だめ?って聞いてきたんだから駄目じゃないと答えるべきだったな。うん。

 というか、この様子だとだめだと言えば来なかったんじゃなかったのか?

 ……これが選択肢をミスったということか。

 

 

 

 

「ほら、出来たぞ」

 

 作った料理は純和食。

 ごはんに味噌汁に魚。あと漬物とか。

 あまり和食は食べたことがないのか、料理を見たときは少し困った風にしていた。

 

 くくく、箸を使う料理で箸使いを苦戦して、もう二度と俺の家に来るなんて考えないようにしてやるぜ。

 

「モグモグ……わー、おいしい」

 

 ……あれだ、外国人の見た目だからって箸が使えないわけじゃないってことだな。

 というか、なんてつまらん方法で仕返ししているんだ俺。

 自分自身の考えに呆れて、もそもそと自分の作った料理を食べ始める。

 

 あ、おいしい。

 

「これなら、なのは達も誘えばよかったかな」

 

 はい危なかった!

 やっぱあのまま放っておいたら四人で家に押しかけだったかもしれなかった!

 ポツリとつぶやいたその一言に、俺は危機感を覚えた。

 

「ざ、材料が足りなくなるから、四人は無理カナー」

「あ、そうだね。……ごめんね、今日来ちゃって。材料のお金は後で払うから」

 

 小学三年生がお金のこと気にすんなし。よくできている子に見えるだろ。

 悪いことじゃないけど。

 

「いいよ、そんなの。そのかわり、聞きたいことを聞いていい?」

「聞きたいこと?」

 

 転入初日から実は気になっていたこと。

 そして、この前思ったこともあった。

 

「フェイト、なんでハラオウンがついてないんだ?」

 

 時が止まる。

 フェイトが料理を食べる手を止め、真面目な表情で俺を見た。

 空気は冷たい。

 その時になって、俺は自分の言ったことに気付いた。

 

「なんでハラオウンがあることを知っているの」

 

 知るはずもないこと。

 それを聞いてしまった。

 今まで避けてきたつながりがここにきて統合しようとしている。

 背中に冷たい何かがつたい、一言間違えれば取り返しのつかないことになるのを感じる。

 俺は必死に言葉を探り、答えを見つけ出した。

 

「別におかしくないだろ」

「知らないはずの事を知っていることを?」

「いやだってお前、今日配られた手紙の中の苗字がハラオウンだったぞ」

「……え?」

 

 フェイトは頭に疑問符を浮かべる。

 それはそうだろう、いきなり手紙とか言われても分かるわけがない。だが、こっちとしてもこれで押すしかない。

 俺自身としても、外国人の名前の付け方とかわからないので、さらに困惑させることを言うべきだと思ったのだ。

 

「それともあれか? テスタロッサがミドルネームとか?」

 

 フェイトは少しの間呆け、ついには笑い始めた。

 

「ちょ、人が知らないことを笑うのって性格が悪いやつがすることだぞ」

「そ、そうだね。ごめんね」

 

 笑いを押さえたフェイトは素直に謝ってくれた。

 先ほどの疑問符もまるでなかったかのように表情も和らいでいる。

 誤魔化しが成功したことに俺は安堵した。

 

 

 

 

 フェイトが帰って少し経った時、俺は押し入れに入れていたアリシアを出して聞きたいことを聞いてみることにした。

 

「なあアリシア」

『なに、姉を押し入れに入れておいて、その妹を目の前で家に連れてきたお兄ちゃん』

 

 おっと、また機嫌が悪いようだ。

 確かに、普段は俺が帰ってきてからは出してあげているけど、今日はフェイトが来るからって押入れに突っ込んだままだったのは悪いと思ってるけどさ。

 

「それは納得するところだろ。ばれたらお前押収かもしれないだろ」

『分かってるよ。分かってるけどさあ……やっぱり妹と会話してみたいよ』

 

 どうやら、怒っているのは押し入れに入れっぱなしだった事じゃなくて、フェイトと会話できなかったことらしい。

 でも、それがかなわないことが分かっているから、怒りをどこにぶつければいいかわからないようだ。

 

「その辺は、まだまだ子どもだな」

『なに? 精神年齢三十路過ぎのお兄ちゃん』

 

 最近、口悪くなったなぁ。

 

『それで、何か聞きたいことがあるんでしょ』

 

 自分でそらした話題を元に戻してくる。

 

「そうそう、フェイトの公判についてだけど、どうなったんだ? 裁判早すぎじゃない?」

『前に言ったでしょ。お母さんが罪を肩代わりしたって』

 

 そういやそんなこと言ってたっけ。

 でも、フェイトはアリシア母のことを積極的に手伝っていたのではなかっただろうか。

 そこで俺の考えを呼んだかのようにアリシアは言葉を続ける。

 

『お母さんはフェイトが子供であることを否認して、さらに騙して作業させていたと供述。フェイト本人も母の言うがままに行っていたと証言し、特に大きく食い違うことはなくフェイトは無罪……じゃないけど、少なくとも重い罪をかぶることはなかった』

「ああ、だから戻ってくるのも早かったし、名前もついていたのか」

『ハラオウンだよね。データではアースラの艦長の名前。親がいないということになったのなら、誰かの養子に入っても不思議じゃない』

 

 トントン拍子に話が進んだようで、彼女ら自身もそれは驚きだったとかなんとか。

 ちなみに、アリシア母の方はまだのようだ。

 少なくとも無罪ではないらしいが、罪もそこまで重くないらしい。

 殺されかけた身としては軽い罪ですませてほしくないが、アリシアの事を考えるとそれでいいんじゃないかと思う。

 証拠に、さっきの重い罪にはならないって言うところで安堵の息を吐いていたから。

 


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