リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十三話 連行方法はご想像で

 翠屋に来た。

 今回は久しぶりではなく、実は夏休みに昼ごはんかねて結構来ていたりしていた。

 それでも魔王とは意外と会わなかったのはなぜなんだろうか。

 

 俺はあえて言うね。この時のためだったのではないかと。

 

「はい倉本君。シュークリームなの」

 

 何時しか前にもこんなことがあった。

 どうやら、今回はそれのリベンジらしい。

 ちなみに、呼ばれているのはアリサと月村とフェイト。友達大集合だ。

 

「なのはって、お菓子も作れるんだ」

 

 フェイトが感心したように魔王をほめる。

 なんか犬みたいな忠誠心だ。

 

 俺はそもそもシュークリームを買いに来ただけなんだけど?

 

「食べて?」

 

 いや、魔王のシュークリームを買いに来たわけじゃないから。

 

「チェンジで」

「はい」

 

 いったん下げて、別のシュークリームを持ってくる。

 しかしどうみてもこちらも魔王製作のシュークリームである。

 無限ループに発展しそうなんで、あきらめてそれをほおばることにした。

 

 食べているとき、四人の女の子の視線が俺に集中する。

 ぶっちゃけ食べづらい。

 

 なんだかんだと食べ終えて一言。

 

「うまいよ? 店には劣るけど」

「前と同じ感想じゃない!」

 

 なぜかアリサにつっこまれた。

 

「とはいっても、割と本心だからなぁ……」

「それなら、上達はしているのね?」

「それはまあ」

 

 まだ見込みがある腕をしているのに味が落ちるとか最悪だろ。

 

「前と比べるとどうなの?」

 

 こんどは月村が聞いてくる。

 俺は前の味を思い出し答えた。

 

「簡単に言えば店の味に近くなったね。まだ伸びしろはあるよ」

 

 思ったことをそのまま言ってみる。が、これは上から目線過ぎたのではないかと言い終わった後に気が付く。

 すぐさま土下座した。

 

「ごめんなさい」

「「「え? なんで?」」」

 

 魔王とアリサと月村は声を合わせて疑問を浮かばせる。

 フェイトは軽く苦笑するだけで、さらにシュークリームを一つ手に取るだけだった。

 

 前の一件だけで俺の性格を理解したのだとすると、フェイトはかなりの人物眼を持っているといえよう。

 一つ謝った俺は気を取り直し、フェイトと同じようにシュークリームを黙々と食べ始めた。

 シュークリーム自体には罪がないからな。食べなきゃもったいない。

 不思議そうに見ていた三人だったが、何事もなかったのかのように食べる俺を見ると、聞きたそうにしながらも同じように食べ始めた。

 

 

 

 

「そういえば、龍一って料理が上手だよね」

 

 シュークリームを食べ終えてまったりしたところで、フェイトがそんなことをのたまいやがりました。というか、呼び捨てかよ。

 しかし、突然そんなことを言われても訳が分からないのか、三人はお互いの顔を見合った。

 空気がおかしいことを察し、フェイトは俺に顔を向けてくる。

 同じようにして、魔王、アリサ、月村も俺に向ける。

 俺は何て言おうか迷い、逃げ――

 

「ちょ、カギがかかってる!」

「こんなこともあろうかと思って、カギを閉めておいたの」

 

 魔王からは逃げだせない!

 

 三人に無理矢理元の場所に座らされて、後ろと両側を固められた状態でフェイトの前に連れてこられた。

 

「フェイトちゃん、どういうことなのかな?」

「なのは、知らなかったの? わたしよりずっと一緒にいたのに?」

 

 ずがんと魔王の頭におもりが落ちたようになる。

 フェイトはどうやら天然小悪魔らしい。もしくは隠れドS。

 ちなみに、両側のアリサと月村も気まずそうに眼を明後日の方に向けていた。

 まあ、俺としては教えてないし、知っていたらそれはそれで何で知ってるんだよって気にもなるし。

 

「ま、まって、じゃあいつものお弁当は?」

 

 月村が珍しくこういう話題に口をはさむ。

 俺に聞いているようなので、逃げれる状況でないことも重なり答えてあげる。

 

「俺の手作り」

 

 三人は驚きの声を上げる。

 この反応で、昨日のお弁当は誰が食べたかわかってしまった。

 

「三人とも、龍一の料理を食べたのは昨日が初めて?」

 

 まて、やっぱフェイトがばらした。つかこれで確定。

 

「じゃあ、お父さんとかは……」

「温泉街であったときいたよね」

 

 なぜか月村とか魔王が積極的に聞いてくる。

 もうめんどくさいので、全て教えておくことにした。

 一度外国に行って自分だけ帰ってきたこと。それから一人暮らしをしていること。三者懇談とかは親戚が行っていること。その他いろいろとどうでもいいこと。

 もちろん、アリシアとかその辺の事は伏せている。

 

「そうなんだ」

 

 誰かが発したその一言で、沈黙が訪れた。

 沈黙とはいっても、俺としてはまったりタイムである。

 しかし、女子四人に囲まれて沈黙を受け続けているのもつらいところがあり、原因となったフェイトに話しかける。

 

「ねえ、倉本君って――」「ねえフェイト」

 

 魔王の言葉にかぶせたのはわざとではない。

 魔王が押し黙ったので俺は続きをしゃべることにする。

 

「なぜにいきなり呼び捨て?」

「え? だめだった?」

 

 残念そうな表情をするフェイト。慌てて聞きたいことの説明をする。

 

「別にダメなわけじゃないけど、なんでかなって」

「あんた自身フェイトを呼び捨てじゃない」

 

 そういえばそうだった。

 テスタロッサというと、アリシアとかぶるからな。

 そういや、昨日先生からフェイトに渡してくれってもらった手紙、なんでハラオウンとか書いていたんだ?

 まあ、後でフェイト本人に聞いてみるか。

 

「じゃあ、アリサも俺を名前で呼び捨てにするか?」

「いいわねそれ。そう呼ばせてもらうことにするわ、龍一」

 

 割と冗談で言ったのに真に受けられた。

 別に困ることなんてないけど。

 

「じゃあ、わたしも倉本君の事名前で呼んでもいい?」

「わたしもお願いするの」

「月村と高町さんはこのままでいいだろ」

 

 二人とも涙目になった。

 それに注意を促す残り二人。

 

「ちょっと龍一」

「そういうこと言ったらだめだよ?」

「え、いや、名前で呼んでるから名前で呼び返すってことだろ?」

「そうだけれども……ああ、腹立つ!」

 

 アリサは感情の持っていき場が無くなり頭をかきむしる。お嬢様としてどうなんだそれは。

 フェイトもあまり好ましい目で見てないし……悪いことじゃないんだけど、このままフォローもないと明日には女子の間で悪い噂が飛び交って学校生活が詰んでしまう。

 しょうがなしに、月村に向けて羞恥心を我慢して言ってみた。

 

「そう思うだろ、すずか……ちゃん」

「! うん。でも、呼び捨てでもいいよ? 龍一君」

 

 それはレベル高いです。

 目元にためていた涙をぬぐって笑顔を向けてくれる。

 それは可愛いです。

 しかし、さっきの発言からすると、俺が呼び捨てで呼んだとき月村も呼び捨てで呼ぶだろう。

 ついでに魔王も期待した目で見てきた。

 

「高町さん」

「なんでわたしだけなの!?」

 

 意地でも名前で呼んでやらなかった。

 しかし、名前で呼ばれることになった。なぜだ。

 


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