リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十二話 嬉しくない再会

 夏休みももう終わり。

 その間何してたって?

 そりゃ……

 

「これでブーストも完璧だろ! 野生のトラからも逃げれるような気がするぜ!」

『これは予想以上の出来だよ。逃げることに関しては』

 

 皮肉めいたアリシアの言い回しは気にはなるが、つっこむと二倍三倍になって返ってきそうなのでスルーしておく。

 アリシアが先にネタバレを言ったが、俺はこの夏休みの間ずっと逃走の練習をしていた。

 主にバインドの強化や、気配を消す方法、ブーストにトラップなどだ。

 そして今日、それが完成された。

 

「アリシア、これでどんな奴に出会っても大丈夫だよな」

『逃げることにおいてはね』

 

 ずっと練習していたかいがあった。

 とはいえ、本当に逃げ切れるかといえば……まあ、そもそも関わらなければいい話だ。うん。

 しかしなんだろう、少しアリシアが不機嫌なような気がする。

 

「で、どうしたんだ?」

『自分のマスターのヘタレさに嘆いていただけ』

「ヘタレだと!?」

 

 なんといういいぐさ。

 間違ってないからこれ以上言わないけど。

 

『それよりも、明日から学校でしょ。準備は?』

「忘れてた。テヘッ」

 

 急いで家に帰ることにした。

 

 

 

 

 学校に来て早々、なんか少し騒がしかった。

 しかし、話す友達もいない俺は、なんなのか聞くことは出来ず自分の席でいつものように本を読むだけだった。

 

「あんた、こういうときでもいつも通りね」

 

 アリサが話しかけてくる。

 何がどうなってこうなったのかは知らないが、こいつの中では俺は気軽に話しかけられる人になっているらしい。

 三年の初めはそこまでではなかったような気がするんだけどな……

 

「いつも通りって?」

「聞いてたのね。いつも何か考え込んでいるときは、私の話なんか聞いてないことが多いのに」

「……」

 

 本当、どうしてこんな軽口が言い合える仲になったんだろう。

 ……悲観しているように見えるかもしれないが、原作キャラではなさそうなので純粋にうれしいだけだけど。

 原作キャラなら前回の、ええと……ジュエルシード事件だっけ……に少なからずかかわっているだろうから。

 アリシアに聞いてみたら、そんな人はアースラの情報の中にはないらしいので、今はちゃんとした友達として付き合っていくことが出来る。

 まあ、これを聞いたのは夏祭りの次の日だけど。

 

「それで、その様子だと聞いてないみたいだけど、このクラスに転入生が入ってくるらしいの」

「ふうん」

「気にならないの?」

「いや、別に」

 

 フェイトが転入してくるとかなら別だけどな。ははは

 

 そんなこんなでチャイムがなり、先生が入ってくる。

 アリサの言うとおり転入生がいるようで、テンプレのように「入ってください」の声で転入生が入ってきた。

 そこにいた人物に、俺はついつい机に頭をぶつけてしまった。

 

「フェイト・テスタロッサです。今日から学び舎を共にします。よろしくおねがいします」

 

 夢だったらよかったのになぁ。

 

 

 

 

 先生が去ってから、再びテンプレのように質問攻めにあう転入生。

 本人はにこやかに返しているが、少々押され気味の様子だ。

 俺だったら逃げるね。うん。

 

「で、やっぱり興味ないわけね」

「そりゃあねえ」

「まあ、あんたならだれが急に入ってきても質問に行くことはないと思うけど」

 

 確かに、フェイトじゃなくても質問しに行くことはないと思う。

 

「アリサちゃんはいかないの?」

「聞きたいことがあればなのはから聞けばいいし。すずかだって、あの中に入る気にはなれないでしょ」

「まあね……」

 

 もともとすずかは積極的に行くタイプじゃないし、アリサより俺に似ていると言える。

 でも、変なところで強情だったりするところもあって……やっぱ俺に似てるか。

 

「ところで、その高町さんは?」

「めずらしいわね、倉本がなのはのことを気に掛けるなんて」

 

 最近は見ないことも多いから、気になりはする。

 敵の行動は知っておいて損はないだろうし。

 

「なのはちゃんなら、あのクラスメートの人たちの中にいるよ」

 

 月村の言うとおり人ごみを見てみたら、フェイトの隣あたりでなんか集団を押さえてた。

 

「ああ、黒服の人がよくする『押さないでね、押さないでね』ってやつでしょ」

「そこは普通警備員だろ」

「メイドじゃないの?」

 

 ……どうやら、彼女らの感性はお金もちながらおかしいようだ。

 

 いったん人ごみが出来たフェイトだが、昼休憩になると人が全くいなくなった。

 

「何をしたんだ?」

 

 小学生が飽きっぽいのか、魔王が何かしたのか……どっちなのだろう。

 それはともかくとして、今回もまた不可解なことになっていた。

 

「みんなでお弁当たべよー」

「あら、いいわね。フェイトも?」

「うん」

 

 魔王がそんなことを言っていた。

 いや、言うだけならいいだろう。なぜか俺の席に集まっているところが不可解なのだ。

 

「……」

 

 なんかフェイトはちらちらとこっち見てるし、別に邪魔者的視線というわけでもないし。

 しかしすでに弁当の包みをほどいた後なので、移動するにもはばかられる。

 

「ごめんね、いつも」

 

 俺の様子を察してか、すずかが謝ってきた。

 

「月村はべつにいいよ。ただ、ねえ」

 

 ちらりと目を向ければ、すでに机を合わせて集団で食べる用意をしている。

 席順は前にアリサと月村で、左に高町、右にフェイト……って、なんでこんなことになってんの!?

 

「月村、席変わってくれない?」

「だめ」

 

 おい魔王、なんでお前が断るんだ。あれか、逃げられないようにするためか。

 ちらりとアリサに目を向けると、さっと魔王が手で目を隠してきた。

 何をやっても逃がさない気らしい。

 せめてと思い、フェイトに顔を向け……目があった。

 

「……」

「……」

 

 お互い沈黙が続く。

 なんというか、まさか見ているとは思わなかったもんで、何の心構えもしていなかった。

 蛇ににらまれたカエルのようにしばらく見つめあっていると、業を煮やしたのか机をたたく音と共に「何見つめあってるのよ!」と言われた。

 

 驚き振り向くと、立ち上がっているアリサに、驚きと困惑半分の魔王、じっと見てくる月村がいた。

 

「……」

 

 なおのこと反応に困り、別の意味で沈黙に包まれる。

 

「えっと……」

「な、なんでもないわよ!」

「そうだよ!」「そうなの!」

 

 三人はさらに気まずくなりかけた空気に気付くと、顔を隠すようにしてお弁当を食べ始めた。

 今のはあれか、ハーレム来たとか……じゃなくて、多分転入生のフェイトと見つめあったのを単純に咎められただけだな。コミュ障な俺は相手の目を見ることもないし。

 気にしないことにして、弁当を食べ始めることにする。

 

「あ、あの」

 

 少したって、今までじっと見ていたフェイトが突如話しかけてきた。

 俺はそれを魔王に流す。

 

「いえ、なのはちゃんじゃなくて、倉本君に……」

 

 今度はクラスをきょろきょろ見回す。

 

「うう……」

 

 涙目になったフェイトに、ジト目で俺を見る魔王。

 これ以上何かすると、目の前の女子二名も憤慨の嵐に包まれそうなので、あまり気は進まないがフェイトと話すことにした。

 

「今日はいい天気ですね」

「え? は、はい」

「……」

「……」

 

 これでいいだろう。

 と思ってると、魔王に首根っこ掴まれ徐々に締めていくということをし始めた。

 

「ちょ、いた、痛いって!」

「なら、分かってるよね?」

 

 魔王の片鱗を見せるだけ見せておいて、話はこちらにすべてなげるらしい。

 まあ、これ以上ちらちら見られるのもいい気はしないので、真剣に話すことにした。

 

「で、どうしたフェイト」

「え、そ、その……そのお弁当もらってもいいですか?」

「高町さん、この子食いしん坊キャラ?」

「そんなことはない……と思うの」

 

 いきなりそのお弁当もらってもいいかとか聞かれましても、別に断る理由もないし、おとなしくフェイトに分けることにした。

 

「ありがとう」

「あ、うん、どういたしまして」

 

 俺は俺でお弁当の続きを食べる。

 そうしていたら、お弁当を食べ始めていたフェイトは急に箸をおいて俺の手を掴む。

 

「おいしいよ。これが本当の料理?」

 

 一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐに思い当った。

 恥ずかしげもなく本当の料理なんて言ったのは一回しかない。

 

「まさか、気付いてた?」

「うん、お祭りで会った時から」

 

 俺は逃げだした。今度は何の予感もさせずに逃走を決行したせいか、誰からも止められることは無かった。

 

 

 ちなみに、戻ってきたらお弁当はすべて平らげられていた。

 誰が食べたのかは謎である。

 


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