リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十一話 祭りへと 後編

 突然ですが、フェイト・テスタロッサは迷子です。

 親権を放棄しようとする母や、ならばということで養子にしようとするリンディさんなどのごたごたに巻き込まれて、少し疲れているところになのはが海鳴(なのはが住んでいる場所)では祭りというのをやっていると聞き、一緒に回ることになった。

 外出許可を得たり、今日まで少し大変だったけど、それを有り余るほどわくわくしていたのだけれど……その当日、人が多いことを失念していたわたしはなのはとはぐれてすっかり迷子。

 

「どうしよう……」

 

 適当に歩いていると人気のないところにも出てしまうし……

 そこで、悪いことは更に重なった。

 

「うほ、可愛い女の子発見」

「お前ロリコンかよ」

 

 こっちを見てニヘラとする少し大きいお兄さんが二人。

 少ししか離れていないとはいえ、祭りに集中している人たちが人気のないところに来るとは思えない。

 魔法を使うわけにもいかないので、どうしようか困っている時、遠巻きに人がいたのが見えた。

 その人は背を向けていて、この場から去ろうとしていたところ、わたしは素早くその人のそばまでより、腕をつかみお願いをする。

 

「えっ」

「お、お願いです、話を合わせてください」

 

 すぐに怪しいお兄さんがきて変な笑みを向けてくる。

 

「その男の子は誰なのかなぁ?」

「おい、やめとけって」

 

 二人のお兄さんはあまり性格は似ていないようだ。

 

「た、助けてお兄ちゃん!」

「」

 

 適当にお兄ちゃんと言ったけど、この人は大体同じくらいの背丈だったりする。

 でも、これ以外に言葉が思いつかなかったので、とりあえずお兄ちゃんということにしておく。

 

「お兄ちゃん? はは、こいつショッカーのお面してるぜ」

「ほんとやめとけって」

 

 一人のお兄さんに言われて気づいたけど、この子仮面をつけている。

 でも、ショッカーって誰?

 

「ほら、イーって鳴いてみろよ」

「お前酔ってるだろ」

 

 片方のお兄さんが変なことを言っている。

 その言葉にか、今まで黙っていた男の子が反応した。

 

「しょ、ショッカーの何が悪い!」

「え?」

「ショッカーだって頑張っているんだぞ! それなのに馬鹿にして……お前はショッカーの気持ちをちょっとでも考えてみたことがあるのか!」

「そ、そんなこと……」

 

 すごい。言葉で完全にお兄さんを押している。

 そして、彼がたじろぐその瞬間、わたしの手は掴まれて男の子は逃げだした。

 

 

 

 

「みたか、三十六計逃走術のひとつ、適当なこと言ってひかせて逃げる」

 

 前世ではよくやっていた逃げ方だ。

 あのお兄さん的年齢の人がもう少しおっさんだったら、俺がビビッてできなかったかもしれない。

 だけど、今回は精神的年齢なら俺の方が上だったしな。

 祭りの人混みより少し離れたところに出て安全を確認し、今までつかんでいた手の人を見る。

 

「あ、あの……」

 

 うん。今ならよく分かる。

 こいつフェイトだ。

 

 前に会ったときは見た目すっかり忘れていたけど、アリシアと話したりして容姿を聞いた後なのではっきりとわかる。

 さて、逃走するか。

 

 と思い逃げようとしたところ、腕を掴まれる。

 

「なんで逃げようとするんですか」

「なぜちゅかむ……」

「ちゅか……」

 

 ちょっと笑いやがった。

 超逃げたい、でも手を放してくれない。

 今までスルーしてくれたの月村だけしかいないんだぞ。

 ……そう思うと普通なのかもしれないが。

 

「ごほん、なぜ掴む」

「あ、いえ、その……」

 

 言いづらそうにする割に話してくれる様子はない。

 俺はあきらめて向き直り思ったことを適当に言ってみる。

 

「はあ……迷子にでもなった?」

「なんでわかったの?」

 

 正直だなこいつ。

 でも、付き合わなきゃ逃がしてくれそうにないから、とりあえず誰とはぐれたかだけ聞いてみる。

 

「なのはちゃん……高町なのはっていう友達です」

 

 魔王来ました。

 手を振りほどいて全力で逃げようとする。

 ……が、逆の手を摑まえられて逃走は失敗した。

 

「なんでつかみゅ……掴むんだよ」

「そ、その……」

 

 だめだ、要領がつかめない。

 このままお知り合いになるのは嫌だなー、と思ったが、今俺はいいものをつけているではないか。

 

「その、仮面の下を見てみたいから……」

「よし、友達を探そうか」

「え、ええっ」

 

 都合の悪いことを言われる前に話を進めることにした。

 

 

 

 

「いないな」

「ですね」

 

 とりあえず一周してみたけどどこにもいない。

 これだけ人もいれば、確かにそう簡単に見つからないとは思うけど。

 

「しゃあない。少しおごってあげるか」

「え?」

 

 さっきから屋台を物欲しそうに見ているのが気になった。

 自炊してるのもあって、貯金だけはたんまり持っているからな。

 結構持ってきたし、少しくらいおごっても足りなくなるなんてことないだろう。

 

「なにがいい? たいやき?」

「あ、その」

「遠慮はすんなって。ほら、さっき言った設定を借りるならお兄ちゃんとしてでもいいし」

 

 というか、隣でちらちら周りを見られるのもなんか心苦しい。

 俺が我慢させているみたいじゃないか。

 

「じゃあ、そのたいやきというのを……」

「よしきた」

 

 屋台の人に二つ頼む。

 しばらく待って、完成したたい焼きをフェイトに渡そうとしたところ、遠目にとある人物が見えた。

 

「あ、なのは!」

「……? フェイトちゃん?」

 

 ちょ、俺がまだ近くにいるのに声かけんな、ばれたらどうする。

 心情的に恩を仇で返してくれた感覚だ。

 まあ、見つかりたくないやつといちいち会うこともない。

 両方のたい焼きを無理やり持たせ、俺はその場から逃げ出した。

 

 

「もう、どこ行ってたの」

「ごめんね。ちょっと迷子になってて……そうだ、よく分からない仮面をかぶった人が助けてくれたんだよ」

「へえ、それってだれ?」

「ほら、そこに……あれ?」

「もういっちゃったの?」

「お礼もまだ言ってなかったのに……」

 

 

 

 

 待たせていたアリサと月村はとてもお怒りのようだった。

 まあ、怒っていたのはアリサだけで、月村は心配そうにしてくれていたけど。

 

「遅い!」

 

 お怒りのアリサをなだめつつ、ことの顛末を少し変えて話した。

 変えたといっても、フェイトの容姿となのはを探していたというところだけだけど。

 

「そんなわけで、待たせてすまんかった」

「いいわよ。それで、そのお面は何?」

「ショッカーだよアリサちゃん」

「すずかに聞いたわけじゃ……ああ、もういいわよ」

 

 そういえばショッカーを持ちっぱなしだった。

 この仮面のせいでせっかく隠してた顔がばれるのも嫌なので、どこか捨てる場所を考えることにした。

 

「ほら、いくわよ」

「そろそろなのはちゃんも来るね」

 

 二人は再び両側にくる。

 逃げられることを心配しているのだと思うと、信用ないんだなあと思う。

 

 

 

 

 ショッカーのお面をそこら辺の子供にあげて、歩いていたとき。

 先ほどフェイトと別れた場所で、なのはとフェイトがまだいた。

 もう完全に逃げる気でいたが、今逃げてもつかまるだろうことは目に見えている。

 俺ははやる気持ちを抑え、逃げるタイミングをうかがうことにした。

 

「もう来てたんだね」

 

 月村はなのはの傍によって、にこりと笑う。

 アリサはなのはとうまく出会えたことよりも、隣にいる金髪の子が気になるようだ。

 

「あの、えっと……」

 

 見られていることに気付いたフェイトが、あたふたしながらも反応しようとする。

 というか、そのセリフ多いな。

 

「ほら、フェイトちゃん、あいさつしなきゃ」

「う、うん。は、初めまして、フェイト・テスタロッサといいます」

 

 少しおどおどしつつしっかりと自己紹介をするフェイト。

 初対面だと喋れない俺とは全然違うな。

 

「あたしはアリサ・バニングスよ」

「わたしは月村すずか。よろしくね、フェイトちゃん」

 

 完全に注意がフェイトに向かっている。

 逃げるチャンスを完全に読み切った俺は無事に逃げ出した。

 

 

 

 

「あ! また逃げたわね!」

 

 倉本が逃げ出したことに憤慨するアリサに、実はあった時からちらちらとみていたフェイト。

 フェイトはなのはにさっきの男の子の事を尋ねる。

 

「えっと、さっきの男の子は?」

「倉本龍一っていうんだけどね、その、人見知りをしちゃうの」

 

 実際は人見知りだけではないが、なのはは気を使ってマイルドに答えた。

 フェイトはその逃げ出した彼を見て、一つ記憶の中のあるものを思い出す。

 

『おい、本当の料理を食べたいか?』

 

 突然言われたあのセリフ。

 そして、夕食をご馳走になったこと。

 

「……こんなところで出会うなんてね」

「フェイトちゃん?」

 

 少女はうれしさに顔をほころばせたのだった。

 


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