リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第三十話 祭りへと 前編

 今日は学校登校日。

 有意義に特訓していたので、ぶっちゃけ忘れかけていた。

 

「久しぶりね、倉本」

「倉本君おはよう」

「はよー」

 

 いつも通り席に着く。

 挨拶をしてきた月村とアリサは、そのまま俺の席に集まる。

 

「……いや、おかしいだろ」

「何が?」

 

 何がと言いますか。

 どう考えても俺の席に集まるのがだろう。

 

 ため息をついて、彼女らの用に付き合おうと視線を向ける。

 

「それで、何かあるの?」

「ふふん、流石によく見てるわね」

 

 何を見ているのだろう。

 俺の席のまわりに集まるときは、大体何かあるときだと相場が決まっているのに。

 そこで、その内容を月村が説明してくれる。

 

「あのね、今度祭りがあるんだ」

「祭りとな」

「それで、一緒に行けないかなって」

 

 あまりにも簡潔な内容。

 月村の口から言われると、断るのもはばかられる。

 特に悪いことは起こらないだろう、とりあえず一つだけ聞きたいことを聞いてみることにした。

 

「高町さんは?」

「なのはちゃんは少し遅れてくるって言ってたよ。新しくできた友達を連れて」

 

 新しい友達ね……

 俺は軽い気持ちでこの話を受け付けることにした。

 

 なぜ断らなかったのか。あとにそれを後悔することになる。

 ……どうせ、アリサの眼光で首を縦に振らされてたと思うけど。

 

 

 

 

 いつも通り家にアリシアを放置し、適当に着替えて祭りの準備をする。

 待ち合わせ場所は翠屋だったので、最近忙しくて食べていなかったシュークリームを食べる。

 相変わらずの味に顔がついついほっこりしてしまう。

 

「あんた、ここに来るといつもそれね」

 

 何時の間にか隣にアリサが立っていた。

 月村はまだのようなので、向かい側の席を指さす。

 

「座らせてもらうわよ」

 

 俺のさした方を無視して隣に座ってきた。

 

「むぐむぐ……なんで隣に座る」

「いいじゃない」

 

 テーブル席で隣に寄り添うって、どこのカップルですか。

 あ、カップルでも向かい側に座るかな。

 

「着物か」

「なによ、似合ってないとでもいうつもり?」

 

 流石日本の祭り。ここまで本格的にさせるか。

 そして、着物は基本的に外国人が来たら似合わないともいうが……

 

「かわいいぞ。うん、似合っている」

「なっ……」

 

 顔を赤く染めるアリサ。

 急に殴られた。なぜだ。やはりイケメンでもないとセクハラだとでもいうのか。

 

「あんたはシュークリームでも食べてなさいよ」

「はいはい」

 

 理不尽気味に思いつつ、最後のひとつのシュークリームを咀嚼する。

 そのまま食べ続けるが、こっちをじっと見られていることに気が付いて、手に持っているシュークリームを差し出した。

 

「……?」

 

 突然したことに意味が分からないのか、アリサはシュークリームを見て俺を見る。

 そこから俺は、頭を下げて言葉を紡いだ。

 

「これで勘弁してください」

「何が」

 

 頭を心配されるような目で見られた。

 耐え切れない視線に、言い訳のように説明する。

 

「だってあれだろ、お前だけいいもん食ってんじゃねーよ、っていう目で見てきただろ」

「そんな目してないわよ。というか、あたしをなんだと思ってるの」

「お嬢様」

「……っく、突っ込みづらいことを」

 

 なんだかんだ言って、差し出したシュークリームは食べてくれた。

 ここで、俺は作戦通りとほくそ笑む。

 あやしく思いこっちを見てきたアリサに告げる。

 

「間接キス……」

「ぶふぅっ!」

 

 シュークリーム吹き出しやがった。

 隣に座っているので被害甚大。

 この時点で今日は厄日だなーと他人事のように思う。まあ、これに関しては完全に自分が悪いのだが。自分で言ってちょっと後悔したし。

 

 その後、さすがに謝られて代わりの服をどこからか用意してきて、これを着ろと言われた。

 例にもれず着物だった。

 

 戻ってみると、月村がいた。

 服装はもちろん着物。

 

「流石月村。お嬢様なんてもんじゃない、すでに大和撫子すら同格に扱うのが難しいレベルだ!」

「え、あ、ありがとう……」

 

 照れて顔をそむける月村。

 そのしぐさにすごくキュンと来たのはここだけの話。

 そして、もう一方から少し暗めの視線が送られてきたのでそちらを見る。

 

「……」

 

 アリサさん、そんなに見つめないでください。怖いです。

 

 

 

 

 後から来るなのはをおいて、三人で屋台を回る。

 転生前もこんな風に友達ときたことなかったから、なんだかんだすごくうれしい。

 あの親と行く祭りとはおさらばだ、このまま俺はリアルが充実する人たちの仲間入りになる!

 

「最初どこ行く?」

「買い食い!」

 

 聞いてきたのがアリサで、答えたのが俺だ。

 ところで、なんで俺が二人の中心なんだ?

 魔王が来たりしなければ別に逃げたりしないのに。……たぶん。

 

「買い食いって何よ。もっと具体的に言いなさい」

「買い食いも分からないのか? たとえばな」

「違うわよ!」

 

 ちょっとからかっただけなのに、とても怒られた。

 

「倉本君、アリサちゃんが言っているのは何を食べるのかってことだよ」

 

 見かねた月村が、そう教えてくれる。

 知っててからかったんだが、おとなしくそれを受け入れることにした。

 これ以上からかうと足踏まれそうだし。

 

「それなら、あっちのたこ焼きを三人で分け合う?」

「でも、それじゃ少なくない?」

「祭りでは同じ物を売っている屋台があるからね。どこが一番おいしいかを見つけるのも一興なんだよ」

「へー、そうなんだ」

 

 月村が感心した目をしてくれる。

 どうでもいいうんちくも役に立ったらしい。

 

「……はぁ」

「あ、アリサさん?」

「行くわよ」

 

 こちらをじっと見てたような気もしたけど、それ以上何も言わず俺が言った屋台へと歩き出す。

 訳が分からないまま、俺と月村は後ろをついて行った。

 

 その後少し回って、ごみが両手を埋まらせたので二人にゴミ捨てに行くことを提案した。

 反応としては、行ってきなさいというアリサのひとことで終わる。

 月村は自分も行こうかと聞いてくれたけど、アリサを一人にもしておけないのでそこにいてもらった。

 道中、お面屋でショッカーみたいなお面があったので驚かしついでに買ってみたりする。

 面白いことになりそうだと、さっそくかぶって祭りから少し離れて人気のないところにあるごみ箱に捨てた時だった。

 

「ん?」

 

 金髪の女の子が祭りから少し離れた場所でお兄さん的年齢の人につかまっていた。

 なんか嫌がってるし、少なくとも妹とかそういうわけではないだろう。

 しかし、巻き込まれるのが嫌な俺は、見なかったことにした。

 


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