リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二十九話 騎士だとは思わない

 夏休みが始まって一週間、今日はたまにはということで休みにした。

 図書館でも行こうかと画策していたところ、家から少し離れたところでおじいちゃんたちの集会を見つけた。

 

「ゲートボールかな?」

 

 かなり元気な老人が集まってするゲートボール。

 昨年とかは夏休みに時折混ざっていたことを思い出す。

 

「今日はフリーだし、入れてもらおうかな」

 

 かなり気のいい人たちだし、笑顔で迎えてくれるだろう。

 俺はそんな軽い気持ちでおじいちゃんたちのもとへ行く。

 

 予想通りおじいちゃんおばあちゃんは俺を同様に入れてくれた。

 そこで、初めて見る顔ぶれがいた。

 普段ならおかしなことではないが、その子は老人たちの中でも小さく、というか子供が混じっていた。

 少し恥ずかしくはあるが、同年代に近そうな子がいるのは老人たちにもまれる身としてもうれしい。

 それに、この人たちの中心にいるなら悪い子ではないだろう。

 俺は思い切って声をかけてみることにした。

 

「は、初めまして」

「ん? お、初めて見る顔だな」

 

 かなりフランクに声をかけてきた。

 はて、どこかで見たことある顔だけど……

 

「なあ、この子の名前は何ていうんだ?」

「この子かい? 皆りゅうちゃんって呼んでるよ」

 

 近くのおばあちゃんに赤毛の女の子が聞く。

 女の子は再び俺に視線を向けて、手を差し出してきた。

 

「あたしはヴィータだ。よろしくな」

「ヴィータ? うん、よろしく」

 

 ヴィータ、ヴィータと言えば……ヴォルケンリッターの一人!

 主は知らないけど、こいつらの事ならリリカルにしてはよく知っている。

 確か四人の騎士から成り立っていて、その一人がヴィータという名前だったはずだ。

 へー、こんなところで会えるなんてな……

 

「りゅう、お前はゲートボールやってたのか?」

「あ、うん、昨年の夏休みはよくやってたよ」

「へえ、その腕、みせてもらってもいいか」

「もちろん」

 

 初対面でも気軽に話せた。

 その原因は、このヴィータという子の持ち前のフランクさにあるのかもしれない。

 おじいちゃんたちはそんな俺たちの姿を見て微笑んでいるし、やっぱりこの子はいい子なんだと思う。

 しかし、いつもはこんな展開になったら逃げだしたりするものだが、なんとなく目の前のヴィータからは逃げる気が起きない。

 悪い子に見えないからなのだろうか。仲良くしても問題なさそうだと思えるからなのだろうか。自分でもよくわからない。

 

 ゲートボールの結果は一年ぶりのブランクが少し効いて、点数的にはヴィータに負けてしまった。

 それでも、おじいちゃんたちも含めてみんなで楽しくできたのなら、とてもよいことだろう。

 

「りゅう、明日は来るか?」

「来週の同じ曜日にくるよ」

「分かった。その時を楽しみにしてる」

 

 笑顔で会話し別れる。

 日が暮れてきたのでお開きというわけだ。

 俺は子供ながらにヴィータに手を振って別れる。

 ヴィータも少し照れくさそうな顔をしながら振り返してくれた、

 

 この後、俺が向かう先はすでに考えてある。

 そう、もちろん……

 

 

 

 

「今日は安いな。これも買いだ」

 

 何時も来るスーパー。

 特売をしているなら、来ないという選択肢はない。

 というか、フリーにしたのはこれが主な原因だったりする。

 

「ふふふのふ。大量大量」

 

 ついつい気分がよくなって、鼻歌を歌ってしまう。

 そんな時、一人の女性が野菜売り場の前でうろうろしていた。

 普通なら無視するところであったが、その時の俺はあまりにも気分が良くてつい声をかけてしまった。

 

「どうしたんですか?」

「え?」

 

 急に声をかけられて、女性は困っている顔で振り向いてきた。

 

「少し困っていたようなので」

「あ、ごめんね、邪魔だった?」

 

 すまなさそうに一歩引いた。

 そういうわけじゃなかったのだが、そういう理由でひかれた身としては何も取らずに立ち去ることは出来ない。

 

 しかし、そこで女性の手から紙が落ちた。

 

「あっ」

 

 拾い上げてみれば、書いてあるのはほうれん草などの買い物リスト。

 そこで、女性が何に困っているのか分かった。

 

「ほうれん草はこっちじゃなくてあっちですよ。それに、レタスじゃなくてキャベツをとってます」

 

 そういわれた女性は、はじめ何を言われたのか分からないようにボーっとしてたが、ハッと気づくと恥ずかしそうに顔を赤く染めた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ここで現実に戻りあせってメモを返すのが普段の俺だが、今日の俺はヴォルケンリッターの一人でもあるヴィータと仲よくなったということでテンションが上がっていたのか、余計なことまで言ってしまう。

 

「どうせなら、今日は付き合いますよ」

「え? あ、いいですよ。迷惑はかけられません」

「そういわないでください。量からして、家族がほかにもいるんですよね。その家族の笑顔を思えば苦ではありませんよ」

 

 女性はそんな俺の言葉にすまなさそうな顔で答える。

 

「すみません、でしたらお願いしてもよろしいですか? 実は少し不安だったんです」

「言い出したのは俺ですから。まかせてください」

 

 女性の勘違いを正しつつ、食材の良し悪しを教えながら買っていく。

 買い物が終わって帰り道、どこまでテンションが高いのか、家への道を共にしていた。

 もちろん、女性に荷物を持たせてはならないということを考慮して、少し持ってあげている。

 俺の買った量は一人だし大した量じゃないからな。

 

「今日は助かりました」

「いえいえ、困っている人を助けるのは当然の事ですから」

 

 ここで、出会ったお姉さんを始めてみてみる。

 金髪を短く切っていて、どこか抜けてそうなお姉……あれ、この人ってまさかヴォルケンリッターの一人……

 

「お、シャマル。今帰りか」

「ヴィータちゃん?」

 

 しゃ、シャマル!?

 お、おおう。今日一日で二人に会うなんて……

 

「ん? りゅうも一緒じゃねえか。どうしたんだ?」

「この子は私の買い物を手伝ってくれたのよ」

「シャマル、こんな小さい子に教えてもらって恥ずかしくないのか」

「ヴィータちゃんだって小さい子じゃない」

「なんだと」

 

 口ではそう言っているが、シャマルの両手に持っている荷物を片方受け取って、持ってあげているのが何とも微笑ましい。

 荷物を受け取ったヴィータは俺の隣にきた。

 

「シャマルがごめんな。迷惑かけただろ」

「ヴィータちゃん!」

 

 俺は平和というのを実感する。

 初めてこの世界に来てよかったと思った。

 

 

 気が付くと、彼女たちの家に着いたようだ。

 

「あ、ここまでありがとうございました」

「いえいえ、ついでですし」

「りゅう、お前良いやつだな」

「ヴィータちゃん、どういう意味?」

 

 相変わらず二人で漫才をする。

 そこで、二人の家だと思えるところを見て、絶句した。

 

 はやての家。俺がつい二ヵ月前まで過ごしていた場所。

 その時俺はさっと顔が青くなるのを感じ、現実に戻った。

 

 まさか、マスターがはやて……?

 考えたくもなかったこと。

 だけど、可能性は急上昇した。

 

「で、では、ここらで」

「はい。さようなら」

「また世話してやってくれよ」

 

 これから始める二人の会話に耳を貸す暇もない。

 俺は不自然じゃない程度に急いで家に帰った。

 


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