リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二十七話 故意に消えること

 日にちは六月三日。

 俺は再びはやての家に通っていた。

 

「でなでな、蛇に囲まれたときは本当に死ぬかと思った」

「そうかそうか」

「うん。あれが毒蛇だったら死んでたと思うね」

「ほうほう」

「……」

「なるほどなるほど」

「聞いてないな」

「だって、それ昨日も聞いたし」

 

 どうやら、俺は最近同じ話題を何回もしていたらしい。

 親が帰ってから入り浸るのはやっぱりはやての家だし、話題がないんだよ、こう毎日だと。

 

「だってさー、話ないし」

「ほんなら、親戚の事を話してくれへん?」

「親戚?」

「龍一、親戚がおったからわたしんちこれんかったんやなかったの?」

 

 ……少し考えて思い出す。

 そういえば、親戚が来るって誤魔化してたっけ。

 とりあえず、俺はここで話を合わせようと適当なことを話す。

 本当は話してもいいけど、ここで本当のことを話すのはさすがに間が悪いからな。

 

「温泉とか行ったよ。うん、いい宿だった」

 

 魔王たちにあって大変な思いしたけどな。

 まあ、一応楽しかったけど……

 

「ええなあ、温泉。わたしも行ってみたいわあ」

「いつかつれてってやるよ」

「ほんまか?」

「ほんまほんま」

 

 覚えてたらな。

 

「そういや今日は泊まるん?」

「ん? あ、いや、今日は帰らせてもらうよ」

「さよか」

 

 少ししゅんとなってしまうはやて。

 それを俺は取り繕って言い訳をする。

 

「あ、いや、まてまて、まだプレゼントとか買ってないから帰らなきゃならんだけだ」

「え? あ……そ、そか」

 

 ハッとして、少し顔を赤くするはやて。

 それが、勝手に結論づけたからなのか、少しでも寂しいと思ってしまったことに対してなのかはわからない。

 

 とりあえず、そんなはやてに心の中でごめんと謝った。

 

「そうだはやて、またあの本見せてもらってもいいか?」

「白紙の本か? 龍一も好きやな、何も書いてないのに」

 

 そうは言いながらも、許可を出してくれるはやて。

 俺はあの本がある部屋へ向かい、こっそりとアリシアを出す。

 

「この本だ」

『うん』

 

 前々から怪しいと思っていたこの本。

 原作にかかわるものなら早急に対処を練らなければならないもの。

 それを判断するためのものが手元にあるなら、俺はそれを使う。

 

『ねえお兄ちゃん』

「なんだ?」

『もし、これがロストロギアだったら……』

 

 ロストロギア、ジュエルシードのような失われた古代の遺産で危険なもの。

 もしこれがそうであったならば、どうするのだろうか。

 考えられるのは原作キャラとの邂逅。

 それを避けるためには、この本にかかわらないことが重要だろう。

 その結果、どういう風に行動すればいいかもう決まっている。

 

『……お兄ちゃん』

「結果、でたか?」

 

『帰ろう』

 

 結果は黒だった。

 

 

 

 

 その夜、八神はやてのもとに四人の騎士が集結した。

 その名もヴォルケンリッター。

 四人の騎士は闇の書から生まれた人たちである。

 倉本龍一が帰り寂しい思いをしていたはやては、その四人の騎士に救われた。

 

 この先、龍一が来なくなったことについても……

 

 

 

 

『いいの、本当に?』

「何がだ」

 

 電気もつけず、月明かりのみが照らす部屋は暗く閑散としている。

 その部屋の主でもある俺はぼんやりと窓越しに映える月を眺めていた。

 

『八神はやてって子』

 

 心が締め付けられる。

 彼女はきっと明日を楽しみにしてくれていただろう。

 だけど、これ以上関わってはいけない。いや、関わるつもりはない。

 

 あれは危険なもの、あの本を調べた時アリシアからそう伝えられた。

 おかしい本だと思っていた。まともな本ではないことも。

 それがまさか、本当に危険なものだとは思ってもいなかった。

 

『友達だったんでしょ』

「だけどだめだ」

 

 原作に関わるつもりはない。

 これはこの世界に来た時に決めたことでもある。

 アリシアが言う程に危険なものなら、あれは間違いなく原作にかかわる。

 

 先ほどの帰り道、言われたことでもある。

 

 

 仮面の男が現れ、そいつは言ってきた。

 

「八神はやてとこれ以上関わろうとするんじゃない」

 

 そんなことは分かっている。

 だからこそ、こう答えてやった。

 

「もう関わるつもりはない」

 

 仮面の男はあっけにとられ、これ以上からまれる前に俺はその場から立ち去った。

 

 

 たったそれだけの事。

 それは俺に決意を固めさせるのには十分な出来事だった。

 

 

 

 

「なんで、こなかったんやろな」

「主……」

 

 俯き悲しそうに顔を伏せるはやてに、烈火の騎士シグナムが心配そうに見る。

 机の上には蝋燭のともってないケーキに豪華な料理。

 騎士たちは朝から準備をしていたその状況に困惑し、日が暮れるにつれて次第に暗くなる主を見て騎士としての使命が心に満ちる。

 このようなことをした者に復讐かと問うが、主であるはやてはそれを望まなかった。

 

「なあシグナム、なんで龍一は来なかったんやろな」

 

 そう尋ねられるのも何回目かわからない。

 心の中ではたまたま急用が出来たと言い訳をしてるのかもしれないが、本心でそう思っているわけではないだろう。

 

 なんだかんだ言って、彼女はまだ子供なのだ。

 

「主、それでしたら無理矢理にでも」

「だめや。それだけは……嫌われてまう」

 

 また、彼女は嫌われるようなことをとことん拒んだ。

 事態は平行線を進むばかりで、話は進まない。

 

「みんな、わるいけどわたしはもう寝るわ」

 

 もうと言っても、時間はすでに次の日になっていた。

 はやてが部屋から出て行って、四人の騎士は語りだす。

 

 ――今回の主がどうかわからぬが、あれは悪い子ではないだろう

 

 ――では、主をああしたものになんと思う

 

 ――龍一ってやつが誰かわからねえが、少なくともいい気分じゃねえな

 

 ――そうですね……

 

 この日、ヴォルケンリッターたちは倉本龍一という見たこともない男の子に対して敵対心を持つことになった。

 それは、日が経ちはやてとの仲が深まっていくことに比例し、大きくなっていくのであった。

 


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