リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二十五話 終末の後始末

 プレシア・テスタロッサは何がしたかったのだろうか。

 それが、今の戦艦の様子だった。

 

「私が持っているジュエルシードはこれで全部です」

 

 プレシアがジュエルシードを渡した。

 驚いたのはフェイトやアルフなど、プレシアを知っている者だけでなく、その場にいた殆どが驚きと困惑の声を上げていた。

 それもそうだ、この戦艦に乗っている者が知っていることはすべてフェイトの使い魔であるアルフから聞いたものだからだ。

 アルフはプレシアを好んではないことを知っている人もいただろうから少しの過大評価はするかもしれないが、まさか聞かされていたプレシアがこんなことをするとは思えなかったのだ。

 もちろん、アルフはフェイトに暴力をふるっていたところを何度もみていたので、プレシアの態度は疑ってかかっていたが、憑き物がとれたようなその表情はアルフを混乱させるだけだった。

 さらに追い打ちとなるセリフがこれだ。

 

「フェイトは被害者です。私が彼女を脅して協力させていたのです」

 

 アルフは倒れた。

 

 

 収集がつかなくなってきたところを、リンディが持ち前の器量でその場を落ち着ける。

 

「プレシア・テスタロッサ。それは自分の罪をさらに増やすことになるわよ」

「それは承知しています」

 

 リンディはプレシアの瞳を覗き込む。

 相手の奥底まで読み取ってくるようなその眼は、ただの一般人であれば恐怖に顔をゆがめるだろうが、プレシアは気丈にのぞき返す。

 

「……ところで、ほかのジュエルシードは?」

「残りは私も知りません。虚数空間に飲み込まれたのではないのでしょうか」

 

 お互いがお互いを探る。

 プレシアは、少年と娘が持って行ったと悟られないために取り繕う。

 そんなプレシアにリンディは何を思ったのか、ふっと笑って一歩下がった。

 

「いいわ、プレシア・テスタロッサ、あなたを重要参考人として捕縛します」

 

 

 

 

「長かった……ようやく、うちに帰れる」

 

 俺、倉本龍一はようやく我が家の前に立った。

 あのあと、どこか外へ通じる転移の魔方陣のもとまで向かい、その魔方陣で転移した先は山だった。

 まあ、街中に急に現れるよりましではあったものの、その代わりに何処かも分からない山で遭難する羽目となった。

 二・三日野宿をしてようやくたどり着いた街、自分の町まで帰ってこられたときは、感涙にむせび泣きそうだった。

 少ない体力でよろよろと家の前まで来て言ったのがその言葉だ。

 

『すごいね、あんな山から帰れるなんて』

「人間は命がかかったら何でもできるもんさ」

 

 良く聞く言葉だが、ここ数日それを実感した。

 海に流され、どこか転移させられ、自立思考する機械と出会い、その母親と戦い、そしてようやく家。

 あれ、俺すごいことになってね?

 

 とにかく、俺は玄関の扉を開ける。

 

「ただいま!」

 

 ……暗い。光的な意味で。

 親はもう外国に帰ったのかな……と、リビングを見てみると。

 

「南無阿弥陀仏」

「南無阿弥陀仏」

「お父さんお母さん何宗教に手を出しているの!?」

 

 親二人が仏壇に向かってお経を唱える姿は背筋が凍る。

 しかし、親二人は俺の姿を見ると、仏壇を蹴飛ばして駆けてきた。

 え、仏壇いいの?

 

「む、息子よ!!」

「龍ちゃん!?」

 

 最初に言ったのが父で後に言ったのが母だ。

 抱きついてきた順番も同じ。

 

「って、何?お父さんお母さん」

「生きていてくれたのか……うう……」

「ごめんね、馬鹿なお父さんが先の事考えずに……ほら、あなた、土下座しなさいよ! 私もするから」

「うおおおおお! 土下座なんかじゃ気持ちが晴れない!」

 

 ……なんか、大変なことになっていたようだ。

 

 話を聞けば、いくら探しても見当たらない上に、携帯の電波も全く拾えないことから海に沈んだのじゃないかと言われたらしい。

 そんなことをきかされ、二人は泣きながら己のしでかしたことに後悔をし、毎日飲まず食わずに仏壇でお経を唱えてたらしい。

 その辺のホラーより怖いうえに、携帯も時の庭園に忘れたままだったな……

 

「とにかく、俺は元気だから二人とも安心して」

 

 二人をなだめかすのに二時間くらい要した。

 

 

 

 

 そうして学校。

 何日ぶりかわからないけど、すごく懐かしい気がする。

 

「おはよー」

 

 いつもの三人組だけじゃなく、クラスにいたクラスメート全員からすごい目で見られた。

 

「あ、あんた生きてたの!?」

 

 代表してか、アリサが詰め寄って聞いてくる。

 いきなりこんな風に詰め寄られるとは思わなかったため、俺は逃げだす。

 後ろから追ってくるのは、いつもの人……ではなくクラスメート全員。

 

「倉本ー! 何があったか教えろ!」

「死んだって聞かされたよ!?」

「大丈夫なの!? 倉本君?」

 

 てんわやんわといつにもまして騒がしい学校の朝、いきなり追いかけっこが始まることとなった。

 

 

 

 

「で、聞かせてもらいましょうか」

 

 昼休憩、授業が終わってすぐに席へ来た。

 朝の先生の説明から休み時間来なかったから放っておいてくれたのかと思ってたけど、まさか時間をおいてくるなんて。

 とりあえず、愚痴は言いたくなっていたので、弁当箱を用意して「聞きたいなら食べながら話す」と言って食べだす。

 それにアリサは、自分の分と魔王と月村を連れて俺の席へやってきた。

 

「それで、何が聞きたいんだ?」

「ここ数日来なかったことよ」

 

 クラスメートからもさんざん聞いてと言われてきた。

 またかと思いつつため息をつくと、月村にずいと人差し指を目の前に出される。

 

「倉本君、アリサちゃん、泣くほど心配していたんだよ」

「なっ! 泣いてなんてないわよ! って」

「わたしだって、心配していたんだから……」

「すずか……」

 

 まさか、泣くほど月村が心配してくれたとは……

 少し反省をする。

 まあ、こちとら命がけだったりもしたんだが。

 

「でも倉本君、海に流されたのによく無事だったね」

 

 魔王も少し心配げな瞳。

 英雄譚を聞かせたくはあるが、それはしてはならないとアリシアからくぎを刺されているので、俺は一晩考えて作った言い訳を話す。

 

「流されたのは確かにやばいと思ったが、実は少し遠いところに流されただけだったんだ。人もあまり通らないところで場所も分からず、そこから歩いて帰るのに……結構野宿したなぁ」

 

 父親から聞くと、俺は一週間くらい行方不明だったらしい。

 その話を照らし合わせるには、多少現実味はなくともそれくらい山で過ごしたことにしとかなければならない。

 ここから始まるのは、図書館でつけた知識(サバイバルなど)の総体集。

 時には野生の動物から逃げたり、食べれる草を選別したり、危ないところを通ったり。

 大冒険だった。

 それを聞き三人の様子を見ると、目を光らせていた。

 

「野生ってどんなの?」

「どんな草があった?」

「それで、どうやって帰ってこれたのよ」

 

 魔王は動物で月村は植物について、アリサは俺の冒険自体に興味あるようだ。

 そこから、俺は身振り手振りでスケールを多少大きくしつつ話していった。

 

 ギャラリーがいつの間にかクラスの半数になってて、話のお礼としておかずを食べきれないほどもらったのは、これより少し後の話。

 


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