リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二十四話 母親と娘の想い 後編

 虚数空間の内容を聞きつつ、アリシア母の攻撃を捌く。

 いくら魔力量が勝ったとしても、魔法に使い慣れていない俺が魔法勝負に劣るのは事実。

 しかしこの魔力量の差がこちらの防御を容易にさせている原因でもある。

 いまや、状況は一進一退となっていた。

 

「いつまでたっても攻めれん!」

『広範囲魔法で一気にやる?』

「防御を任せていればできるかもしれないが、そんな大きな隙を見せたら何かしてくるかもしれない」

 

 そうだとすれば、さっきからダメージにもならないような、細々とした魔法を続けている理由も分かる。

 

 ここで勘違いをしているようで訂正をするが、決してプレシアは細々とした攻撃をしているつもりはない。

 事実として、一発の攻撃はそこらの管理局の隊員に大ダメージを与えられるくらいの強さはあった。

 つまりプレシアも同じくして攻めあぐねていたのだ。

 そう、お互いにジリ貧であることは気づいている。

 お互いが放った強力な一発、技術で力の差を埋めるプレシアに力で押しつぶす龍一。

 その攻撃が巨大な力の反流となって強大な魔力を生み出す。

 その頃、なのはによって動力源を破壊されているのも相まって、虚数空間が生まれてしまった。

 時の庭園の限界。

 ジリ貧のこのままでは両者が虚数空間に飲み込まれるのはそう遠くないだろう。

 

 だからこそ、次で決着をつけようと二人は思い立つ。

 

「いいか、アリシア、向こうも分かっている。お前は」

 

 途中で言葉を切って残りを念話で伝える。

 アリシアは少し渋っていたが、了解の返事は受け取った。

 あとは、全力で魔法をぶつけるだけ。

 

「サンダーレイジ!」

 

 放つスピードはあちらの方が早かった。

 アリシアから普通のサンダーレイジとは違う時空干渉の魔法と教えらえ、もしやと思い振り向いた。

 想像通りその魔法は放たれていた。

 真後ろから放出されるそれに、相殺するように仕掛ける。

 

「フォトンブラスト!」

 

 虚を突かれた。

 このまま押し切ったとして、アリシア母とは真逆の場所に放っているのであたりはしない。

 それどころか、いまや背を向けているので、相殺を仕切っても危ないかもしれない。

 

「フォトンバースト!」

 

 巨大な魔法を前と後ろ、同時に放たれる。

 流石に予想外だ。

 あの魔法がプロテクションで防御しきれるとは思えない。

 だからこそ思った。

 

 少し卑怯な手段を使ってよかったと。

 

『サンダースマッシャー!』

 

 デバイスから放たれるもう一つの魔法。俗にいう砲撃型。

 使用するのはアリシア。デバイス自身。

 

「馬鹿な!?」

 

 アリシア母が驚く。

 そりゃそうだ。自動防御はデバイス自身についている機能だとしても、攻撃魔法を勝手に放つデバイスなど、見たこともないだろうから。

 だけどそれは、思考を持っているってことじゃないのか?

 

「アリシアは、ただの機械じゃねえんだよ!」

 

 気が散ることによって、もともと威力を弱めていただろう魔法は更に威力を落としいとも簡単に相殺し、さらにアリシアが迎撃している魔法を援護しようと振り向く。

 あたり一面に広がる相手の魔法だが、こちらの砲撃魔法で直撃は避けられた。

 巨大な魔法を二回連続で使って疲労しているアリシア母に向け、とどめの一撃を放つ。

 

「サンダースマッシャー!」

 

 アリシアが迎撃に使った魔法。

 同じ魔法がアリシア母を襲う。

 魔法は、直撃した。

 砂埃が舞い、いまだ緊張感を持たせつつ晴れるのを待ちアリシア母が倒れている姿を確認する。

 

『お母さんが放った後にわたしに魔法を放てって言ったから、卑怯なことだと思ってたよ』

「ひ、卑怯なこと?」

『ほら、不意打ちみたいな』

「そ、そんなことをするわけないだろ?」

 

 本来の作戦は、一発最大魔法を相殺して油断したところに魔法を打ち込む。そんな卑怯なものだった。

 今回はそれが功を制したといっていいだろう。

 そこで、ビビリな俺はアリシア母の状態に、さらに行動不能にしておく。

 

「おっと、バインド!」

 

 安全を確保するため、アリシア母に強化に強化を重ねたバインドを二重三重にも巻きつける。

 絶対にはずすことが出来ないと確信して、俺は構えていたデバイスを下す。

 

「アリシア……アリシア……」

 

 もっとも、アリシア母もこれ以上はやろうとは思わないようだが。

 

 この戦いを通して、一つ言いたいことができた。

 それは、希望を持たせるわけでもなく、ただの独占欲。

 俺はそれに身を任せてアリシア母に言う。

 

「アリシアは俺のものだ! 文句あるなら、奪い取りに来い!」

 

 デバイスを掲げ、アリシア母の瞳にそれがしっかりと映る。

 

「最後に言ってやる! 俺の名前は、田中太郎だ!」

『お、お兄ちゃん?』

 

 偽名を使ったのは、本当に取り返しに来られると怖いから。

 名前を偽れば、人伝えに聞いただけではこれないだろうという打算がある。

 まあ、来たら来たでおとなしく渡してあげるけど。怖いし。

 戸惑うアリシアを無視して、俺はデバイスを担いで帰る方法をアリシアに聞く。

 アリシアはそれなりに気を落ち着かせたのちに言ってくれた。

 

『えっと、思念である程度の場所を教えるから』

「そうか、それならさっさと向かうとするか。お前の母さんは?」

『……一度、フェイトにも会わせてあげなきゃ』

「周りが虚数空間に飲み込まれているのにか」

『大丈夫。フェイトなら間に合うよ』

 

 アリシアがそういうのならそれでもいいが……まあ、俺自身連れて行きたいなどみじんにも思っていないが。

 とりあえず、どこかの部屋に転移できる場所があるようだ。

 俺はそこに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 倉本龍一が過ぎ去って数分、プレシアは先ほどの事について思考していた。

 さっきの戦いは負けた。

 実は途中足りなくなってきた魔力を補うようにして、魔力の供給を行っていたのだ。

 最後に放った魔法を最後に、時の庭園につないでいた魔力の供給は完全に切れた。

 もともと、いつのまにか壊されていた動力源から無理矢理とっていたものだからいつ切れてもおかしくなかった。

 最後の最後でちょうど無くなったのは、奇跡ともいえるだろう。

 しかし、そのせいで時の庭園の崩壊を早めることになってしまった。

 アリシアと認めたあのデバイスは今や先ほどの少年の手の中。少年はちゃんと地上に戻れたであろうか。

 

(デバイス自身が魔法を放つ……ね。完敗だったのかしら)

 

 内心、デバイスの事をアリシアだと認めていた。

 だけれど、それから出てきた感情を……自分が今までアリシアを苦しめていたなど、考えたくなかった。

 でも最後の魔法、それに込められていた感情を読み取ってしまった。

 プレシア・テスタロッサはいままでしてきたことにきづいてしまった。

 

(生きてしまった自分は、これからどうすればいいのかしら)

 

 幽閉か。死罪か。そもそも、この虚数空間に飲み込まれようとしている庭園と運命を共にするか。どの道ろくなものじゃない。

 

(まあ、いいわ。……フェイトには、悪いことしたかしら)

 

 先の戦闘で時の庭園は崩れ去っていっている。それも、目に入らぬかのようにプレシアは考えることに没頭していた。

 

「お母さん!」

 

 声が聞こえた、しかしアリシアではない。だけど、それに似た声。

 プレシアは知っている。この声の正体を。

 

「フェイト……」

 

 プレシアは意外そうな目でフェイトを見る。

 同じくして、フェイトも驚く。今まで向けてくれなかった自分の母の視線がそこにあったから。

 しかし、そんなことに気を取られている時間はない。

 フェイトは気を取り直してプレシアを連れ出そうとする。

 プレシアにまかれているバインドを見てどういうことなのかわからなかったが、フェイトは巻かれているだけのバインドを後回しにして、プレシアを担ぎあげた。

 

 そこで、フェイトになのはも追いつく。

 プレシアが倒れた今、心配であるのはこの事件の犯人と心がようやく通じ合えた友だけだったからだ。

 

「フェイトちゃん、その人の様子は?」

「大丈夫。あとはここから帰るだけ……」

 

 時の庭園が壊滅を早める。

 誰の目からも、この庭園は終わりだと思うだろう。

 それは、フェイトたちの居る場所も同じだった。

 

「フェイトちゃん! 入口が!」

 

 なのはが入口がふさがれていることに気付く。

 浸食はすぐそこまで来ていた。

 歯噛みする思いでフェイトは脱出方法を考える。

 アースラの戦艦の助力は望めるかわからない。

 ここまで浸食がすすんだ場所を観測できるかどうかわからないからだ。

 すでに、虚数空間はすぐそこまで迫っている。

 

 このまま虚数空間に消えてしまうのだろうか。

 そんな思いがフェイトの中に出てきた時、担いでいたプレシア小さく声を出した。

 

「こんなところで消えてしまっては、アリシアにも会えなくなるわね」

「え……」

 

 虚数空間が三人を飲み込もうとしたとき、転移が発動した。

 


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