リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
あたりかまわず強力そうな魔法をどんどんと放ってくるアリシア母。
俺はそれを避けるのに精一杯だったりする。
「アリシア! どうにかならないのか?」
『待って、今なんとかするところだから』
避けるのには限界がある。
いくつか被弾しているにもかかわらずそれほど痛くないのは、身にまとう違和感のおかげだろう。
それでも確かに体にダメージは蓄積している。
そうしてるうち、鎖のようなもので足を止められる。
(たしかこれは……!)
アリシアからもらった情報の中にあった魔法のひとつ、バインド。
名称を変えていろいろ存在しているが、大まかに言えば捕縛魔法というところだろう。
この隙を逃すほど、相手も我を失っているわけではない。
「フォトンバースト!」
広域魔法。だが、確実に俺を狙って放っている。
今度は前のように生き残れるとは思えない。
焦ってバインドを解こうとするが、相手ほどの魔力がそう簡単に解ける捕縛魔法なんて使うはずがない。
今度こそ死を覚悟して俺は――
『完成したよお兄ちゃん!』
アリシアから情報が来ると同時、体中に感じる何かが大きくなる。
感じるままアリシアを構え、放った。
「フォトンブラスト!」
広域魔法。
あれほどの魔力量をまるで塵のように吹き飛ばしたこちらの魔法は、そのままアリシア母を襲う。
予想もできなかったアリシア母は急いで防御魔法を張るが、その防御魔法すら吹き飛ばしてアリシア母に直撃した。
「ど、どういうこと?」
これに驚いているのは俺も同じだった。
足に巻き付いていたバインドすらあっさりと破壊して不思議に思う。
相手のあの魔力すら前ほど脅威に思わなくなったこの感じ。
これは……そう、まるで自分の魔力量が全体的にアリシア母を超えた。
『ジュエルシードを使ったんだよ』
何でも願い事をかなえることが出来ると聞いたあの石。
そういえば、海で拾った分はすべてアリシアが持っていたか。
しかしなんだ、なんでそれでいきなり魔力の量が上がったんだろうか。
うまれる一つの疑問。その答えを持っているアリシアに聞いてみる。
「俺の強化を祈った?」
『違うよ。私のお母さんはジュエルシードの研究をしていた。だから、その研究をはたからずっと見ていた私も研究結果を流用しつつ、ジュエルシードの使い方を覚えた』
確か前にかなりの魔力量が込められているとも言った。
まさか、これは。
「ジュエルシードの魔力」
『そう』
そこで、アリシア母の姿が見えた。
先ほどより距離を置いて、完全に俺を警戒しているようだ。
おそらく、今までのように弱い攻撃を繰り出してくるわけもなく、油断だってなくなっただろう。だけど、負ける気は一切しなかった。
「なんなの、その強さ」
アリシア母は急に魔力量が上がったこと対して危機感を持っているようだ。
その答え、伝えることなのかどうか迷った。
ここまで来て、敵さんと会話することも、会話中に攻撃することが卑怯みたいで出来ないという、ヘタレ的な理由だが。
『わたしが手助けをしたんだよ』
そう思っていると、代わりにアリシアが応対してくれた。
アリシアの答えに、アリシア母は顔をしかめる。
「アリシア……」
『お母さん、お母さんが認めたくなくても、わたしの意思はここにある。見た目そっくりのクローンを作っても、あの子はフェイト。アリシアじゃないんだよ。……逆に言えば、意思を継いでいるだけのわたしも、アリシアじゃないのかもしれないけど』
言葉に徐々に悲しみが混じっていくアリシア。
だけど、それをアリシア母は笑った。つまらないものを否定するわけではない、まるで子供のわがままを聞くかのような、そんな笑い方。
「いいわ、わたしを止めることがアリシアの意思だとすれば、それをこなしてみなさい。親の非行を止めてみなさい」
さっきまでの壊れた姿とは違う、それでもどこか取りつかれているような壊れた表情。
これが、最後だと感じる。この悲しい母親が元に戻れるチャンスだと。
俺はその中で一人、何の役割をこなせばいいのだろうか。 ……それこそ、決まっている答えだった。
「……いつまでも孤独にさせるのは、いけないよな」
本来は言いたくなんてない。関わり合いになるなんてもってのほか。
だけど、ここまで来て逃げることは出来ない。覚悟を決める。
『お兄ちゃん……?』
不思議そうに名前を呼んでくるアリシア。
身体は軽く震えているが、大丈夫。
「アリシア、最後まで付き合ってやるよ。だから、お前の母さんを止めるぞ」
意外そうにしているアリシアに対するのは、この世界に来たばかりの俺と同じとは思えぬセリフ。
だけど、俺は思う。原作キャラと付き合わず起こった出来事ならば、これが俺の運命としか思わざるを得ないだろうと。
自分を激昂するためにも、アリシアに間違いでないことを証明するためにも、俺は宣言する。
「行くぞ! アリシア!」
『うん!』
最後の戦いが始まる。
私――フェイト・テスタロッサは急いでいた。一刻も早く母親のもとに駆けつけるために。
高町なのはは動力源へと向かった。
そこさえ壊せば、これ以上自分の作戦が進むことはないだろうからとリンディという人が言ってたらしいから。
それならば私は一刻も早くお母さんのもとに急ぐだけ。
途中、謎の穴が開いていることに気付いた。
見ただけで体がゾワリとくる、本能的にも危ないと感じてしまうもの。
「これは……」
(気を付けてフェイトちゃん、今虚数空間っていう危ないものが出来てる)
念話が送られてきたのは戦いを通して仲良くなった高町なのは。
内容はこの謎の穴の事。
(一度入ると、出口のない無限の迷宮のような場所に迷い込んでしまう、それが虚数空間。そこから出ることは……不可能)
私は虚数空間の内容を聞き、さらにアクセルをかける。
だけれど、所々にできる虚数空間に強制的にストップがかかってしまう。
それは、急がなければならない私をより一層焦らせた。
これがそんな危ないものだとすれば、お母さんがどれだけ危ない状態にあるのかわからないから。