リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二十二話 始まるは親子喧嘩

「アリ……シア?」

 

 目の前で、なんかすごい服を着たおばさんが驚きの表情で固まっている。

 ぶっちゃけ帰りたい。すごく帰りたい。

 でも帰れない。帰り方が分からないから。

 そんな思いの俺を差し置いて、俺の持つ機械とおばさんは何かを言い合う。

 

「いや、アリシアがそんな機械に宿るはずがない」

『そう、わたしはお母さんの使い魔だったリニスさんによって作られた』

「あの使い魔……余計なことを」

『リニスさんはお母さんのすることを気に病んでいた。だから、止めることが出来るかもしれないアリシアというデバイスを作った』

「お前はアリシアじゃない」

『ううん。わたしから見れば、そこの体の方がわたしじゃない』

「アリシアを侮辱する気?」

『あれはわたしじゃない!』

 

 アリシアの母親らしき人は、どこからか刃を出しぶつけてきた。

 突然の事に対処しきれない俺は、人間の条件反射によって目をつむる。

 しかし、いつまで待っても衝撃は来ず、俺は恐る恐る目を開けた。

 

「……プロテクション」

『お母さん、わたしは何をしてでもお母さんを止めるよ』

「だけど、使う人がだめなら何もできないわ」

 

 俺をちらりと見たアリシア母はそういって魔方陣を展開する。

 

「見せてあげるわ、失われた次元アルハザードの姿を!」

『お母さん、こんなことをしてもわたしはお母さんのもとに帰ってこれないよ!』

「そんなことはない! アルハザードさえ行けば、必ずアリシアを生き返らせる方法がある!」

『そんなことは分からない!』

「可能性が少しでもあるのなら、そうするしかないのよ!」

『それによって、この次元が失われても!?』

「うるさい! 私はアリシアさえいればどうなってもいい!」

『お母さん!』

「機械風情が私をお母さんというな!」

 

 魔方陣とは別に、アリシア母は弾のような魔法を放ってくる。

 それを再びアリシアは防御し、今度は俺に念話で話しかけてきた。

 

(お兄ちゃん、わたしをセットアップして)

(セットアップ? なにそれ)

(ほら、契約したでしょ)

 

 契約……思い当たるのは、会ってからいきなり唱えさせられた呪文。

 どうやら、いつの間にか契約というのをしていたらしい。

 

(ちなみに、どうやって?)

(簡単だよ。アリシアセットアップって)

(人前で? というか、俺何もできないよ)

(念話できるということは、少しくらい魔法を使える素質があるから大丈夫、後は任せて)

 

 ごちゃごちゃ考えてもしょうがないので、あきらめの境地でやけになって叫ぶように言う。

 

「アリシアセットアップ!」

 

 その瞬間、体中に不思議な感触がし、気付いたら……特に変わっていなかった。

 

「……え?」

『うん、それでいいんだよ』

 

 そうアリシアが言うけれど、個人的には何が変わったのか分からない。

 それでもいいというのならいいのだろうと、俺はその言葉を信じて判断を待つ。

 どのみち、従うしか方法はないし。

 

「どこまであがけるのか、見ものだわ」

 

 アリシア母は先ほどの弾、魔力弾をいくつも放ってくる。

 

『軽く見て五十個以上あるね』

「そんなこと言っている場合か!?」

 

 今度は足を使って逃げ回る。

 というより、さっきのシールドのようなものでは、防ぎきれないかもしれないからだ。

 

『頑張って逃げてね』

「なんとかするんじゃないの!?」

 

 先ほど言った言葉を忘れるようにして、人任せの選択をしてくる。

 これ死ぬんじゃね?

 

『だって、お母さんの魔力がSSだとしたら、お兄ちゃんの魔力はBくらいだよ?』

 

 考えを読むようにして答えてくれるアリシア。

 つまり、シールドではもたないらしい。

 

「じゃあどうすんの?」

『相殺していくか……目的だけやって逃げるかだね』

「よし、逃げよう」

 

 逃げれる選択肢があるならそっちを選ぶ。

 こんな命がかかること、もう関わりたくない。

 

(じゃあ、お母さんに一回攻撃をぶつけたら、そっちに向かって)

(はあ!? 無理だよ! 怖いじゃん!)

 

 こうして相対していられるのすら奇跡だ。

 そんなことができるのも、帰れるかもしれないという命がかかっているから。

 人は命が絡むと急に強くなるのだ。

 

(そうしないと帰れないよ)

(ええい、分かったよ)

 

 魔力弾を避けていき、決まったその内容を実行するため次の弾の準備をするアリシア母に身体を向ける。

 その時に来る魔力弾は、アリシアが自動的に防御してくれる。

 

 アリシア母に放つ攻撃のチャンスは一回きり。

 次からはきっと警戒される。だから、油断している今がチャンス。

 そして、相手を行動不能にさせる魔法、アリシアから与えられる情報を読み取り選ぶ。

 それは、これしかない。

 

「グリントサンダー!」

 

 ぶっちゃけただの閃光である。直訳すると雷の閃光。

 相手は攻撃を予測していたのか、ただの妨害魔法に何の対処もできていないようだった。

 光る世界に目をつむったまま走り抜ける。

 アリシア母ではなく、その後ろ。

 気配に気づいたのか、アリシア母がこちらに魔法を打つ気配がする。

 力は入ってなく、アリシアが自動で出したプロテクションに阻まれる。

 俺はアリシアが指定した向きに向かって魔法をぶつけるため、光が過ぎ去った世界に目を開けて対象を見据えた。

 

 その対象は、アリシアが言っていた体だった。

 

『躊躇せずに、撃って――』

「……っ、サンダースマッシャー!」

 

 放たれる砲撃魔法。

 

 アリシア母が何かを叫んでいるけど、何をするにも遅かった。

 

 砲撃魔法はアリシアとそれを維持するためであろう機械を巻き込み、それを飲み込む。

 

 残ったのは、何もない穴の開いた壁だった。

 

「……」

「……」

 

 あたりが沈黙に包まれる。

 お互いが何もしゃべらず、俺は何をするのも無駄だと思った。

 ……退路を塞がれているのだから。

 

「サンダーレイジ!」

 

 雷光が周りに集まる。

 

『お兄ちゃん!』

 

 掛け声が聞こえ、それに反応して避けようとする。

 だが、判断するのも遅い。

 雷光で拘束され、プレシアから放出される魔法をただどこか別の世界の事のように見るだけ。

 気付けば、地面に伏していた。

 

「アリシアが……アリシアがアリシアがアリシアが」

 

 壊れている。そうとしか思えない。

 さっきの強力そうな魔法で俺が生きているのも、こうなっていたために集中できなかったためであろう。

 

『立って! 次が来るよ!』

 

 アリシアからの激励に、何とか立ち上がってその場から避ける。

 雷光が直撃し、大きな穴が開く。

 

「こ、これどうするんだ?」

 

 相手は場所をかまわず魔法を打ち続けている。

 放っておけば体力が尽きるだろうが、それまでに無事でいられるか分からない。ただ、この場から引くのもアリシア母をどかさなければ戻れそうもない。

 

 つまり、いつのまにか戦わなければならない状況になっていたのである。

 


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