リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第二話 馴れないものは馴れない

 女の子と友達になって幾年月、俺はその子とお別れとなった。

 

「ごめんね……」

「ううん、親の都合ならしょうがないよ」

 

 なんだかんだでここ二年はこの子と話をしていて楽しかった。

 一緒に近くを探検したり、冒険したり、砂場で遊んだり。

 それも今日で終わり。

 両親が外国に行くことになったのだ。

 この街から離れるのは喜ばしいが、唯一の友人を失うのは悲しい。

 というか、この女の子が最初で最後の友達にならないことを祈るしかない。

 とりあえず、今までお世話になったということで、準備をしていたプレゼントをその子に渡す。

 

「あの、はいこれ」

「これは?」

「リボンだよ。いつも、二つ結びにしてるでしょ?それに使ってよ」

「いいの?」

 

 そんなに高くないが、子供のお小遣いでは辛いものがあった。

 千円だぞ。そりゃ使ってほしいに決まってる。

 

「遠慮しないでよ。そのかわり、これからも友達でいてね」

「うん!これからもずっと友達だよ!」

 

 よし、これで俺は友達がゼロ人であることはなくなった。

 うん、悲しいとか言うなよ。

 心の友というのはいつでも必要なもんだ。

 

「あ、あの、これ」

 

 いきなり、女の子が何かを渡してきた。

 何かの箱に入っているもの。

 

「開けていい?」

「うん」

 

 中身を開けると、そこにはお菓子が入っていた。

 シュークリームが三つ。

 明らかにプレゼント用みたいで、その辺の安いスーパーで買ったものではないものだとわかる。

 

「これ、高かったんじゃないの?」

 

 少し驚きながら訪ねる。

 女の子はそれに対して、微笑んで答えた。

 

「あのね、お母さんに言ったら、手作りのお菓子を渡すのはどうかなって言われたから」

 

 なるほど、これは手作りらしい。

 それに感銘を受けた俺は、つられるようにシュークリームに手が伸び、一口食べる。

 

(……微妙)

 

 まあ、子供が作ったものであるから当たり前だろう。

 むしろ、ちゃんとしたものが出ただけいいほうだろう。

 なんにせよ、俺のために作ったというのはとても喜ばしく、気が付いたらシュークリームは全部口の中に納まってしまった。

 

「……どう、かな」

「おいしいよ!」

 

 まずいなんて、もちろん言うものか。

 

 それからいくつか会話を交わし、名残惜しくなるからと早々に分かれた。

 ……そういえば、けっきょくあの子の名前知らずのままだったな。

 

 

 

 

 そうして帰ってきた家。

 母親と父親は積み荷をしていた。

 

「おお、龍一。荷物の用意が出来たか?」

「うん」

「お友達との別れも済ませた?」

「うん」

 

 と言っても一人だけど。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 こうして、俺たち倉本一家は外国へ引っ越すことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一年後、俺は帰ってきた。

 

「うん、久しぶりだな」

 

 もちろん親は外国に行っている。

 では、なぜおれだけがここに帰ってきたのか、説明はそんなに難しいことではない。

 

 俺が外国に行って拒否反応を起こしたのだ。

 

 そういう風にいうが、実際は大したことはない。

 ただ単に俺が外国を嫌いなだけだ。

 始まりの半年くらいは良かった。

 だが、日にちが過ぎるごとに、ぼっちの俺は危なく感じたのだ。

 確実に俺だけはぶられると。

 英語も分からないので当然と言える。そう、俺は英語が苦手なのだ。

 その時の親の話によると、俺は毎日震えていたようで、外国人を見るごとに顔を青くしていたらしい。

 流石に危ないと親は感じたものの、軌道に乗ってきた仕事を捨てるわけにもいかず、悶々と悩み続け、数日前に決定したのだ。

 

 龍一だけは帰そうと。

 

 親は帰ってこれないのに何言ってるんだかと思われるかもしれないが、それぐらい俺の症状はひどかったのだと思われる。

 ちょうど前の家はまだ買い手が見つかっておらずそのままのこっているらしく、親の親戚が隣の町にいるということも後押しして、俺一人だけ帰ってくることが出来たのだ。

 

 まあ、あれだ。

 うれしくないけど、ただいま。

 


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