リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十八話 温泉街に行こう

「温泉にいこーよ」

 

 俺はぎょっとした。

 もちろんこのセリフを言ったのは俺じゃない。

 

「だって家族でいられるの久しぶりじゃん」

 

 再び俺は自分の耳を疑う。

 何もおかしいことはない。

 台所で洗い物をしている母の流す水の音は聞こえるし、洗濯機の動く音も聞こえる。

 ただ、俺は目の前の事が信じられずにいた。

 

「ええと、今何と言いました?」

 

 つい敬語になる。

 そろそろ、目の前でそんなことを言っている人を教えよう。

 

「旅行行きたーい」

 父である。

 

 

 

 

「息子よ。努力、友情、勝利はお父さんの好きな言葉でな」

 

 今、うちの家族は旅行に出ている。

 とりあえず思うことは、早すぎる展開である。

 金曜日の夜そんなことを言ったかと思いきや、土曜日にそれを実行しやがった。

 親の言い分によると、来週には帰らなきゃならないかららしい。

 

 そんなんしるか。ゆっくりさせろ。

 

 俺の言い分は無視して進められる旅行。

 朝起きたら、車の中で父がとある雑誌の三大標語を語っていたのだった。

 

「お母さん」

「なあに? 朝ご飯はそこに置いてあるからね」

 

 まるで食い意地を張っている子に対するセリフ。

 とりあえず、俺は親の言うとおり周りを探してみる。

 そこにあったのはチ○ンラーメン

 確かにこれは生でも食べられるが……そうおもうがほかに食べられるのもがないのでバリバリと食べる。

 正直微妙な味がした。

 

「息子よ。お母さんが言ったのはそれじゃないと思うぞ」

 

 バックミラーで確認したのか、父親がそんなことを言ってくる。

 流石にこんなものを朝ごはんにするわけではないかを納得をし、母親に確認を取る。

 

「そうね、確かに違うわ。ああ、それ食べないのならお母さんに頂戴」

 

 そういわれたので周りを見ると確かに別のものがあった。

 カ○リーメイト。

 

「これ?」

「そうよ」

 

 手抜きなことには変わりなかった。

 

 

 

 

 旅行先、温泉街についた俺たち家族は、さっそく温泉に入ることにした。

 おそろしきかな、まさかこんなことになるなんて。

 

「この子はお母さんと入るの!」

「何を言っておる! 息子は父と入るのが普通だ!」

「お母さんと温泉に入るのは今年で最後なのよ!」

「はっはっは。ならば息子と温泉に入ることはあきらめるのだな!」

 

 恥ずかしげもなく息子を取り合いする親。正直目だって恥ずかしい。

 俺の気持ち的に、女子風呂に行きたいという気持ちは確かにある。

 母さんの言うとおり、女子風呂に入れるのは九歳までで来年になればもう入ることは出来ない。

 しかし、それをしてしまえば終わりなのではという危機感も心の隅にある。

 つまるところ、本能と理性の戦いでもあるのだ。

 だが、そんな戦いも終わりを告げる。

 遠目だが見えた人物。

 

 魔王とその親友二人。

 驚愕の果てに俺が選んだ道はこれだった。

 

「オカアサン、ボウオトウサントハイルヨ」

「ええっ、そんな~」

「はっはっは。父親の方が強かったようだな」

「ええい、夜頃隠れて連れ出してやるわ」

 

 やめてくださいお母さん。死んでしまいます。

 とりあえず俺は、ばれる前にサッサと温泉に入ることに成功したのである。

 

 とはいったものの、予想されるのは家族との遭遇。

 

「龍一君じゃないか」

「はは、奇遇ですね、こんなところで会うなんて」

 

 声をかけてきたのは士郎さん。

 翠屋でよくお世話になるからか、こんな場所でも覚えてくれて話をかけてくれた。

 でも正直言って有難迷惑である。

 

「龍一、知り合いかい?」

「うん、そうだよ」

 

 とりあえず、士郎さんとはそこまでの仲じゃないので、出来れば父親に押し付けたい。

 それに、魔王たちの事を知らされたら会わなきゃならなくなる。

 分かってて無視するのは最低だからな。

 

 ……いつも逃げているのはあれだぞ、追いかけっこのようなものだからな。

 

「それで――」

「へえ――」

 

 よし、いい感じにパパさん会議をしている。

 このままこそっと出ていけば……

 

「そうそう、実はなのはも来ているんだよ。その友達の子も一緒にね」

 

 はい遅かったー!もうちょっと早く温泉からあがればよかった!

 

「そ、そうなんですか。会えたらいいですね」

「どうせなら、なのはがあがるまで待っていてくれてもいいんだよ?」

「は、はは、冗談がうまいですね」

 

 冗談じゃない。そんなことするときは命を捨てる時ぐらいだ。

 俺は必死に考える、魔王と会わないためには……そうだ、時間差だ。

 こうやってのぼせないくらいに入っていたらいいんだ。

 さすがに魔王も待つことはないと思うし、待ったとしてもそれが十分二十分たっても待つとは思えない。

 そうだそうしよう……

 

 四十分くらいだろうか。父親もすでに上がり、俺は一人我慢大会みたいなことになっていた。

 

「へ、へへ……流石にこれくらい時間がたてば、あいつらもうとっくにどこか行っているだろう」

 

 正直のぼせてきた。

 これ以上はまずいので温泉から上がる。

 暖簾をくぐって待っているであろう父親を探す……ところで、ちょうど出てきたと思われる魔王たちと目があった。

 

「……え?」

「あれ……」

「龍一君?」

 

 素早く俺は逃げる準備をする。

 その逃走も、行動を読まれていたアリサによって止められる。

 

「なんで逃げようとするのよ」

「ここの温泉の効能は肩こり疲れあせも美容その他いろいろ体にいいらしいぞ」

「へえ、で、なんで逃げようとしたのかしら」

 

 話は逸らせなかった。

 というか、なんでタイミングよくこいつらも出てきてんだよ。

 普通はもうあがっているだろ。

 

「お、遅いあがりですね」

「あがり? ……あんた、まさかつけてきた?」

「んなわけないだろ」

 

 恐ろしいことを言う。

 どちらかといえば、そっちがつけてきただろうに。

 

「髪を乾かすのに時間がかかったのよ。あんたこそなんでここに」

 

 懇切丁寧に教えてくれた。そういえば、女性のお風呂は時間がかかるというのを忘れていた。三人とも髪長いし。

 しかしアリサの眼光が鋭い。

 俺は逃げることをあきらめて、ここに来た流れを説明する。

 

 

「つまり、親たちに連れてこられたと?」

「イエス、マム」

 

 アリサはここでやっと離してくれた。

 逃げるタイミングも失ったし、あきらめて相対することに決める。

 

「奇遇だね、アリサ、月村、高町さん」

「うん。そうだね」

 

 月村がにこやかに返事をしてくれる。

 月村は個人的に三人の中の良心だと思う。

 

「というわけでそれじゃ」

「待ちなさい」

 

 自然に別れようとしたところでアリサの止めが入る。

 

「か、家族旅行らしいし、邪魔しちゃ悪いかなーって思ってたんだけど」

「安心しなさい。あなたの両親はこっちの家族としばらくまわるらしいから」

「なんで!?」

 

 アリサの説明によると、恥ずかしげもなくクスンクスンと泣いていたうちの母親と出会って、俺のことを聞いた後回ることを(勝手に)約束したらしい。

 つまり、何をしても俺はこいつらと会うことは決定していたというわけだ。

 

「というわけで、まわろう」

 

 魔王が手をつないで誘ってきた。

 もう逃げられないことを悟った俺は、引っ張られるままついて行ったのだった。

 


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