リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十七話 早めのフラグ

「ねえ、すずかの家にお茶会に行かない?」

 

 謎の少女と出会って数日、休憩時間本を読んでいると、アリサがそう聞いてきた。

 一瞬逃げ道を探ったが、なんとなく今回に限ってはおとなしく話を受けることにする。

 

「えっと、それって、本人が言うべき言葉なんじゃ……」

「あんた、友達の様子も見てないの?」

「様子とは?」

 

 アリサは月村に視線を向け、つられて俺はそちらを向く。

 月村は席に座って本を読んでおり、まさに令嬢という感じがした。

 

「月村の令嬢だな」

「あんたばかぁ?」

「馬鹿呼ばわり!?」

 

 悪いこと言ったわけじゃないのに馬鹿呼ばわりとかひどい。

 しょうがないからもう一度月村を見る。

 

「分かった。今日は本にブックカバーをつけている」

「え、そうなの? ……本当ね」

「……」

 

 人に友達の事を見てなかったと言う割にお前も分かってなかったなあ、という視線を送る。

 アリサは恥を隠し、逆切れするように叫ぶ。

 

「そ、それは本題じゃないからいいのよ!」

 

 それでいいのかアリサよ。

 なんにせよ、このままじゃ話が進まない。

 そう思った俺は、このまま考えてもらちが明かないので、答えをとっとと聞くことにした。

 

「それで、月村がなんなんだ?」

「しょうがないわね、教えてあげるわよ。ほら、寂しそうにしているでしょ」

「ほうほう」

 

 再び月村を見る。

 面白いページなのか、口元を押さえてくすくす笑っていた。

 そして笑い終えた後の顔が、言われてみればなんだかさみしそうかなー……

 

「ってわかるか!」

「わかりなさいよ」

 

 なんて無茶なことを。

 

「それで? お茶会については」

「それね。さっきあたしとすずかとなのはで話していたとき――」

 

 月村が二人にお茶会を誘ったけど、魔王が断ったらしい。

 それだけじゃなくて、ここ最近そんなことが多いってアリサは言った。

 要約するとこんな感じだ。

 

 ぶっちゃけ俺関係ないだろ。

 

「俺関係なくない?」

 

 めんどくさいから言葉遊びをする気も起らない。

 アリサはバカねえ、みたいな感じの顔をした。

 割とむかつくけど逆らえない。強いものに逆らわない、これ、自然の摂理。

 

「代わりにあんたを呼んだのよ。わかりなさい」

 

 なんという女だ。

 堂々と本人を前にして代わりとか。

 

「俺以外でもクラスメートはいっぱいいるのでは」

「ほかに友達はあんたくらいしかいないのよ」

 

 急にぼっち発言。

 本当かどうかはわからない。しかし俺はこれに弱いのだ。

 

 

 

 

 所変わって月村家。

 お茶会の準備は済んでおり、正面に月村、右にアリサ、左に月村のお姉さんだ。

 お茶会なんて呼ばれたこともないので、俺は困惑に困惑を重ねている。

 

「緊張しなくてもいいのよ」

 

 月村のお姉さんは優しくいってくれるが、こっちはこっちで緊張する。

 前のクリスマスパーティの時にも見たけど、月村のお姉さんは美人なのだ。

 こういう落ち着いた席とかになると、人をじっくり見る機会がある。

 これはその機会であり、周りを観察していたからこそ思ったことだ。

 

「ふふ、ほら、お茶菓子もあるわよ」

 

 なんだかんだ言って、生前含めれば三十台の俺もこの人は美人だと思う。それに気配りもある。

 流石月村のお姉さんである。

 

「こら、倉本」

「倉本君……」

 

 なんか約二名から視線を感じる。

 これはあれか、嫉妬か? はは、もてる男はつらいなあ。

 

「倉本、なんか嫌な感じがしたから殴っていい?」

「エスパーかお前は」

 

 冗談だというのに、本気で考えやがって。ていうか、口に出してなかったのに。

 そもそも、嫉妬とかそんな好意的な視線ではなかったことはむけられた自分がよく分かっている。

 視線から逃げるように俺は用意されたお茶を飲む。

 作法は知らないので、怒られないかとびくびくして飲んだ。

 ……おいしい。

 

「すごいね。そのまま飲むなんて」

 

 正面の月村がそう驚く。

 何に驚いているのか不思議だったが、なんでも甘くするものとか入れてもいいらしい。

 確かに苦いが、本場の味と思えばそこまでじゃないだろう。

 そう考えるのはじじくさいからだろうか。

 

「ところでアリサ、高町さんが何しているか知っているの?」

 

 ふと、思い出したことを聞いてみた。

 なるべく魔王の情報は仕入れておきたいと思っていたので、知っていそうな親友のアリサに聞いてみたのだ。

 だけど、アリサは表情を暗くして黙る。

 あれ、地雷でも踏んだ?

 

 と、そこでなんか音が聞こえたような気がした。

 

「今なにか聞こえた?」

「そうだね……外かな」

 

 月村も聞いたようだ。

 それはお姉さんも一緒であったようで、表情は怖いものになっていた。

 

「ごめんねみんな。すずか、ちょっと席を外すわ」

 

 すずかは何かを察したのか、神妙な顔をしてうなずく。

 ちなみに、アリサはこの一連の事に気が付いていないのか、さっきから動いていなかった。

 

 

 

 月村のお姉さんが出て行ってから少し経ったが、その間俺と月村は一言もしゃべらずにいた。

 その理由は、アリサが暗い影を背負っていて、とても話せる空気ではないからだ。

 

(どうにかならない?)

 

 俺は月村にアイコンタクトをする。

 

(……?)

 

 もちろん、分かるはずもない。

 明らかに月村を見た俺に困惑するだけだった。

 と思ったら、月村はうなずいて、席を立つ。

 

「アリサちゃん、ちょっとわたし……ってことだから」

 

 何を言ったのか分からない。だが、俺は思う。

 

 逃げたな月村!

 

 

 ここで、主人公の勘違いを訂正しておこう。

 この主人公のアイコンタクト、月村すずかはこう受け取ったのだ。

 

(二人で話したいからいったん出て)

 

 龍一の性格を考えれば、そんなことを考えるはずもない。

 だが、重い空気になったとき、すずかは思っていたのだ。

 

(仲のよさそうな二人なら、大丈夫だよね)

 

 すずかは、龍一とアリサの仲を勘違いしていたのだ。

 少なくとも、友達以上とは考えていた。

 つまり、月村すずかは別に逃げたわけではなかった。

 

 

 どうするどうする。まさか弱肉強食の頂点に立つもの(自分にとって)と一緒になるなんて。

 アリサはまだ動かない。

 今なら逃げれるのでは?そう思って俺も席を立――

 

「ねえ」

 

 とうとした瞬間に会話が始まった。

 

「な、なにかな?」

 

 ただでさえ悪い雰囲気をこれ以上悪化しないように気を付ける。

 そうはいっても、何を言っていいのか分からないので適当に返答をする。

 逃げるタイミングを失敗したのは痛手だったかもしれない。

 

「なのは、なんであたしたちに相談しないんだと思う」

「相談?」

「最近、何か困っているようだから」

 

 そうだっけ。

 全然見てない俺はどうこたえることもできない。

 だがここでひとつわかることは、返答を誤るとバットエンド一直線ということ。

 

「気にしすぎなんじゃない?」

「いえ、そんなはずはない」

 

 まあそうだろう。

 アリサは気のせいでここまで悩むとは思えない。

 だけど、困った。

 

「それなら、待ちの一手だな」

「え?」

 

 俺は気の利いたことなんて、言えない。

 

「ゆっくり待ってやれ。親友ならいつか話すだろ」

「……」

 

 それが出来ないからこそ悩んでいるのかもしれない。

 そんなことは分からないし、そうだとするなら当たって砕けろとしか言えないし。

 ともかく、なぜこんな役回りをしなければならないのか、自分の運命に怨むしかない。

 

「なんだったら俺の秘密言うぞ? 俺はなんと、オケラが嫌いでーす」

「どうでもいい」

「ですよねー」

 

 俺の言葉は一蹴。

 だけど、それなりに元気を出したのかアリサの空気は大分軽くなった。

 

「……龍一にこれ以上言われるのも癪ね」

「しゃ、癪?」

「あたしらしくなかったわね。龍一、忘れておきなさい」

「俺はアリサの下僕じゃ……って、龍一?」

 

 龍一と名前呼びされたのは初めてだ。

 俺はどういうことかと視線をおくる。

 

「悪い? あんたも、あたしの名前呼んでるじゃない」

 

 そこで、俺は一つの可能性に気付く。

 

「まさか、俺とお前は友達に」

「それはお断り」

「な、なんだってー!」

 

 アリサはその様子に笑顔を向ける。

 それをみて、俺は悩みを少しでも薄れさせられたことを確信した。

 

 

 

 

 月村姉妹は、廊下で鉢合わせをしていた。

 

「お姉ちゃん、さっきの音は?」

「なんでもなかったわよ。なんでも……」

「そうなんだ……」

「ところで、あの子、倉本龍一君だっけ。なんで音に気付いたのかしら」

「おかしいの?」

「おかしいわよ。だって、音が聞こえたのはこの家の庭。それも結構深いところなのよ」

「それは……」

「現にアリサちゃんは気づいていなかった。だとすれば、倉本君は普通の人じゃないかも……いえ、すずかの友達に対していうことじゃないわね」

 


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