リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
最近魔王がストーカーをしなくなった。
それがどうしたのかとも思うかもしれないが、今まで迫ってきた人物が全く来なくなるというのも違和感が出る。
迷惑していた身としてはありがたいが、なんというか、素直に喜んでいいのか悩みどころだった。
それぐらい、めっきり来なくなった。
そのことをはやてに話す。
「まだそんな悲しい妄想続けとったんか……」
「妄想じゃないから!なにその哀れみの視線!?」
「いいか、確かに誰かに惚れられるゆうのは夢かもしれん。だけど、それも良識をもってや」
「説教の仕方が完全におかしい人相手だぞ」
はやては何度言っても信じない。
はやてがモテるのは……まあ、納得できるんだけどな。
「なんや、私の顔をみて」
「いや、はやてならこういう相談されても違和感なさそうだなと」
「そ、それで真実味を増そうって作戦か?残念やな。私は日々ドッキリにかからないよう特訓しとるんや」
「何その無駄な特訓」
顔をほんのり赤くしてそう答えたはやて。
しかしなんだか虚しい会話をしているような気がしてならない。
実際そうなのかもしれないけど。
とりあえず、信じてくれなさそうなこの話題は置いといて、別の話題を用意する。
「あと、今週からしばらくこれないから」
「え?な、なんでや!?」
さっきの顔から一変、車いすから落ちそうなほど焦りを見せ、車いすを無理やりこっちに向け詰め寄ってくる。
流石にここまで驚かれるとは思ってなくて説明の仕方に悩む。
これでも地雷を踏まないようにするのは大変なのだ。
少し考えた結果、真実とはちょっと捻じ曲げて説明をすることにした。
「親戚がうちに来るんだよ」
「それでも、たまに来るだけやったんやろ? 今更……」
「長期滞在になりそうだから、しばらくここに来れないってこと」
あながちこの説明は間違いではない。
ただ、うちに滞在するのは親。
しばらく長い休暇を取ったから、しばらくぶりにこちらにきてゆっくりするらしい。
それを言わないのは、親がいないはやてに気を使っての事。
それが、後に大変なことになるとも知らずに……
「そ、そうなん……なら、しょうがないな」
はやては少し落胆したような感じで返事をする。
その姿は、孤独におびえる少女の姿にも見えた。
それに俺は黙ってみることはできない。
「そのかわり、今日はずっと一緒にいるよ」
「ホンマか?」
嘘だと言わせぬ視線。
それは、はやての心境が透明の箱に入っているかのように丸わかりだった。
やはり、寂しがっているのだと思い知らされる。
「あ、でも、今日は図書館に行く日じゃ……」
「返却は明日でもいいよ」
明日学校で読む本が無くなるけどな。
たまには、本なしで学校を過ごすのもいいかもしれない。
そう心の中で納得をさせ、一日はやてと付き合う算段を考えることにした。
「ふむ、はやてはゆっくりふわふわコースと、ベリーハードコースのどっちがいい?」
「なんやそれ!?そういわれてベリーハード選ぶ奴がおるわけないやろ!」
突発的に思いついたこと。
はやてはそれもうまく対処してつっこむ。
そのツッコミに対して、俺ははやてを指さす。
「え?」
「私に指ささんといて。というか、内容言わんかい」
突如思いついたことなので、コースの内容なんて考えていない。
ふむ。
「ゆっくりゆるふわコースはぬいぐるみを投げ合うコース。ベリーハードコースはベリーでハードなコースだ」
「ゆっくりできてないやん。ベリーハードなんて説明にもなっとらんで」
「どっちがいい?」
はやてはため息をつく。
なんか、俺がおかしいことを言っているみたいにも思える。
……まあ、自分でもおかしいことを言っているとわかってるけど。
でも、暗い空気をなくすのには十分だろう。
「しゃあないな。なら、のんびりのびのびコースで」
「そうすっか」
俺たちは寝転がる。
もちろん、はやては寝かさなきゃならないが。
「ねえはやて」
「なんや?」
お互い天井を見ているので顔は見えない。
こういうときだからこそ、普段あまり言えないことを言ってみる。
「俺はこの家にいても良かったの?」
鼻で笑う声がする。
でもそれは人を小馬鹿にするようなものではなく、今更何を言っているのかという呆れたようなもの。
「わたしは嫌な奴とこうしてのんびりせえへん。あたりまえのことやろ」
のんびりゆっくり。
確かにこの時間は嫌な奴と作れるようなものじゃない。
俺は何の心配もなく目をつむる。
そうしていると、隣から寝息が聞こえてきた。
俺は静かに起き上がり、寝室から布団を一つ持ってきてはやてにかける。
「おやすみ」
隣に寝転んで俺も軽く眠ることにする。
その時間は、夕方日が傾くまで続いた。
夜中。
俺ははやての持っている黒い本を見ていた。
「おかしいところはないんだよな……白紙なだけで」
はやてはすでに寝ている。
なんか、コソ泥のような気分がしてくるが、これはあくまで調査だ。
そう、調査。調査のはず。
「声が聞こえたりすれば、面白いんだけどな」
冗談交じりで言う。
―――げて
「……え?」
声が聞こえた……?
いや、はやては寝ているし、そんなはずはない。
それとも、前に聞こえたあの現象だろうか。
しかし前と言っていた言葉と違ったような気もする。
少し考え、その可能性が高いと思った俺は、何も聞かなかったことにして就寝する。
結局、そのあと声が聞こえてくることはなかった。