リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十六話 のんびりとした時間

 最近魔王がストーカーをしなくなった。

 それがどうしたのかとも思うかもしれないが、今まで迫ってきた人物が全く来なくなるというのも違和感が出る。

 迷惑していた身としてはありがたいが、なんというか、素直に喜んでいいのか悩みどころだった。

 それぐらい、めっきり来なくなった。

 

 

 

 

 そのことをはやてに話す。

 

「まだそんな悲しい妄想続けとったんか……」

「妄想じゃないから!なにその哀れみの視線!?」

「いいか、確かに誰かに惚れられるゆうのは夢かもしれん。だけど、それも良識をもってや」

「説教の仕方が完全におかしい人相手だぞ」

 

 はやては何度言っても信じない。

 はやてがモテるのは……まあ、納得できるんだけどな。

 

「なんや、私の顔をみて」

「いや、はやてならこういう相談されても違和感なさそうだなと」

「そ、それで真実味を増そうって作戦か?残念やな。私は日々ドッキリにかからないよう特訓しとるんや」

「何その無駄な特訓」

 

 顔をほんのり赤くしてそう答えたはやて。

 しかしなんだか虚しい会話をしているような気がしてならない。

 実際そうなのかもしれないけど。

 

 とりあえず、信じてくれなさそうなこの話題は置いといて、別の話題を用意する。

 

「あと、今週からしばらくこれないから」

「え?な、なんでや!?」

 

 さっきの顔から一変、車いすから落ちそうなほど焦りを見せ、車いすを無理やりこっちに向け詰め寄ってくる。

 流石にここまで驚かれるとは思ってなくて説明の仕方に悩む。

 これでも地雷を踏まないようにするのは大変なのだ。

 

 少し考えた結果、真実とはちょっと捻じ曲げて説明をすることにした。

 

「親戚がうちに来るんだよ」

「それでも、たまに来るだけやったんやろ? 今更……」

「長期滞在になりそうだから、しばらくここに来れないってこと」

 

 あながちこの説明は間違いではない。

 ただ、うちに滞在するのは親。

 しばらく長い休暇を取ったから、しばらくぶりにこちらにきてゆっくりするらしい。

 それを言わないのは、親がいないはやてに気を使っての事。

 

 それが、後に大変なことになるとも知らずに……

 

「そ、そうなん……なら、しょうがないな」

 

 はやては少し落胆したような感じで返事をする。

 その姿は、孤独におびえる少女の姿にも見えた。

 それに俺は黙ってみることはできない。

 

「そのかわり、今日はずっと一緒にいるよ」

「ホンマか?」

 

 嘘だと言わせぬ視線。

 それは、はやての心境が透明の箱に入っているかのように丸わかりだった。

 やはり、寂しがっているのだと思い知らされる。

 

「あ、でも、今日は図書館に行く日じゃ……」

「返却は明日でもいいよ」

 

 明日学校で読む本が無くなるけどな。

 たまには、本なしで学校を過ごすのもいいかもしれない。

 そう心の中で納得をさせ、一日はやてと付き合う算段を考えることにした。

 

「ふむ、はやてはゆっくりふわふわコースと、ベリーハードコースのどっちがいい?」

「なんやそれ!?そういわれてベリーハード選ぶ奴がおるわけないやろ!」

 

 突発的に思いついたこと。

 はやてはそれもうまく対処してつっこむ。

 そのツッコミに対して、俺ははやてを指さす。

 

「え?」

「私に指ささんといて。というか、内容言わんかい」

 

 突如思いついたことなので、コースの内容なんて考えていない。

 ふむ。

 

「ゆっくりゆるふわコースはぬいぐるみを投げ合うコース。ベリーハードコースはベリーでハードなコースだ」

「ゆっくりできてないやん。ベリーハードなんて説明にもなっとらんで」

「どっちがいい?」

 

 はやてはため息をつく。

 なんか、俺がおかしいことを言っているみたいにも思える。

 ……まあ、自分でもおかしいことを言っているとわかってるけど。

 

 でも、暗い空気をなくすのには十分だろう。

 

「しゃあないな。なら、のんびりのびのびコースで」

「そうすっか」

 

 俺たちは寝転がる。

 もちろん、はやては寝かさなきゃならないが。

 

「ねえはやて」

「なんや?」

 

 お互い天井を見ているので顔は見えない。

 こういうときだからこそ、普段あまり言えないことを言ってみる。

 

「俺はこの家にいても良かったの?」

 

 鼻で笑う声がする。

 でもそれは人を小馬鹿にするようなものではなく、今更何を言っているのかという呆れたようなもの。

 

「わたしは嫌な奴とこうしてのんびりせえへん。あたりまえのことやろ」

 

 のんびりゆっくり。

 確かにこの時間は嫌な奴と作れるようなものじゃない。

 俺は何の心配もなく目をつむる。

 そうしていると、隣から寝息が聞こえてきた。

 俺は静かに起き上がり、寝室から布団を一つ持ってきてはやてにかける。

 

「おやすみ」

 

 隣に寝転んで俺も軽く眠ることにする。

 その時間は、夕方日が傾くまで続いた。

 

 

 

 

 夜中。

 俺ははやての持っている黒い本を見ていた。

 

「おかしいところはないんだよな……白紙なだけで」

 

 はやてはすでに寝ている。

 なんか、コソ泥のような気分がしてくるが、これはあくまで調査だ。

 そう、調査。調査のはず。

 

「声が聞こえたりすれば、面白いんだけどな」

 

 冗談交じりで言う。

 

 ―――げて

 

「……え?」

 

 声が聞こえた……?

 いや、はやては寝ているし、そんなはずはない。

 それとも、前に聞こえたあの現象だろうか。

 しかし前と言っていた言葉と違ったような気もする。

 少し考え、その可能性が高いと思った俺は、何も聞かなかったことにして就寝する。

 

 結局、そのあと声が聞こえてくることはなかった。

 


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