リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十五話 原作開始

 新学期が明けてから数日たった。

 この日はやてはいつもより早く寝ていた。

 俺が片づけをして、いつもと同じようにはやてと同じ寝台に入ったとき、なんか起こった。

 

『聞こえますか? 僕の声が……聞こえますか?』

 

 そう、なんか聞こえたのだ。

 はやては寝ているので、はやてではない。

 というか、直接頭の中に入るような喋り声なんて、はやてができるわけがない。

 気のせいだと思い直して俺が寝ようとした時だ。

 

『聞いてください。僕の声が聞こえる貴方。お願いです、僕に少しだけ、力を貸してください!』

 

 また同じような感じに声が聞こえた。

 力を貸せ?嫌だよ、絶対に何かにかかわっちゃうよ。

 こんな不思議な現象、俺の頭がいかれたか気のせい以外ない。

 だが、ほかにもう一つある。

 本編だ。

 本編ならばこんな不吉な声も納得が出来る。

 そう思うと、この声が死神の声のようにも聞こえ、もう聞こえないように俺は耳を押さえた。

 それでも聞こえる声。

 

 俺はこの日、眠れない夜を過ごした。

 

 

 

 

 声はいつの間にか止んでいた。

 だが、いつ再び聞こえるかどうかびくびくしていたおかげで、結局は眠ることはなかった。

 

「なんや、眠そうやな」

 

 そんな俺を見かねたのか、はやてが心配そうに聞いてきた。

 

「ああ、大丈夫。うん。もう大丈夫」

「ほんまか? つらいなら今日学校休んでもかまわんで?」

「お前は俺のおかんか」

 

 漫才のようなやり取りをして笑うはやて。

 この笑顔を見ると、これは日常なんだなぁと実感する。

 

「そういや、昨夜なんか声が聞こえてきた気がするんやけど」

「へ?」

「なんかしっとるん?」

 

 はやてが首をかしげて聞いてくる。

 ここで、俺は一つの嫌な仮説を立ててしまった。

 

 はやてが、原作キャラである可能性。

 

 この日まで過ごしていた家族。

 今まで過ごしていて、おかしいと思えることは少なくはなかった。

 原因不明の足に白紙の黒い本。

 敢えて考えないようにしていたそれらだが、ここにきて可能性があるんじゃないかと思わされてきた。

 あの幻聴のようなものが不特定多数のものに聞こえるものならばよい。

 だけど、それが違った時、俺ははやてを疑いにかかってしまう。

 

 その時ははやてから、離れる時が来てしまうのかもしれない。

 

 

 

 

 次の日学校。

 ありふれた日常の中に、一つ日常とは違うものがいた。

 フェレット。色がなんかおかしいフェレットがいた。

 

「あ、こら」

 

 目の前でフェレットを抱きあげる魔王。

 俺はあまりにおかしなその風景に、ただ茫然とする。

 

「それ、なんだ?」

「この子? 怪我したところを見かけて拾ったの」

 

 珍しく話しかけられたことにか、嬉しそうにそう話す魔王。

 俺は考える。

 学校に動物を連れてきちゃいけないとか、そのフェレット大丈夫なのかとかそういうことも考えたが、まず一番に思ったこと。

 

(主人公がおかしなことをするとき……原作開始!?)

 

 知らない間に原作が始まっていたことに驚愕する。

 

(いつはじまった? 昨日……いや、もしかしたら一週間くらい前……)

 

 過去の出来事を考え、いつからか予想を立てようとするも、魔王の事なんて全く見ていなかったためわからない。

 魔王の事を見ていたらよかったと後悔するもあとの祭り、とりあえず俺はより一層関わらないようにすることを誓うだけだった。

 

 

 

 

 帰り道、俺は魔王からの追撃を避け、はやてから頼まれていた食材も買ってうまく逃げ帰っていた。

 正直まともな人生を歩んでいるとは思えないが、原作から逃げるためにもしょうがない。

 

 そんな風にうまく人生は回るはずもなかった。

 

「これは……」

 

 目の前には丸い球体の何か。

 石というべきか宝石というべきか。悩んだ末とりあえず拾っておく。

 そうして顔を上げた時、目の前に見たこともない少女がいた。

 

「それをちょうだい」

 

 金髪ツインテール。手にもつのは鎌っぽい何か。

 明らかに友好的ではない態度。

 そこで、この女の子に既視感があった。

 

「ほら、それを渡せって言ってんの!」

 

 気が短いのか、少女の隣にいた猫耳をした女性が言う。

 状況としては意味が分からない。が、少なくとも手に持っている武器のようなものを見る限り、俺はおとなしく渡した方がいいのかもしれない。

 平和主義者の俺はそう結論付けて、持っている石っぽいものを渡そうとする。

 

 それは、女性の一振りによって妨げられる。

 

「うわっ!」

「ちっ」

 

 なんか手刀っぽいものをされた。

 とっさに引いただけなので何が起こったのかはよく分からないが、俺はこの女性に攻撃されたらしい。

 

「アルフ!」

「なんだい?」

「なんでいきなり攻撃したの」

「だって、おとなしく渡してくれそうになかったじゃないか」

 

 少女は声を上げ、それにこたえる女性。

 悪いけど、女性の見立ては全然違っていた。

 

「ううん。この人は渡そうとしてくれたよ」

 

 どうやら、少女はしっかりと俺を見ていたらしい。

 もしくは、同じ空気をしているからこそ分かったのかもしれないが。

 同じ空気?もちろんぼっちのことだけど。

 

 ともかく、少女のそのセリフに少々気を取り戻した女性。

 女性は探るような視線を向ける。

 そこで、早く終わらせたいので本当と言おうとしたとき、下に買い物をした袋が転がっていた。

 そういや、避けるときなんか手放した気がするな……

 

 中身を確かめるために、袋の中を探る。

 女性の警戒が上がった気がするが気にしない。

 

「さ、最悪だ!!」

 

 不幸は伝染した。

 卵は割れトマトははじけ牛乳瓶は割れていた。

 そのカラフルなものが野菜にまでかかっているので、野菜もどうしようもない。

 多分だが、すごいスピードで迫ってきた女性にでもあたったのだろう。

 

「ど、どうしたの?」

 

 少女も突然叫んだ俺を心配に思ったのか声をかけてくる。

 俺は袋の中身が見えるように少女に向けて思いっきり広げた。

 

「これを見ろ!」

 

 少女と女性は中をのぞき、想像以上の惨事に顔をしかめた。

 

「ううう……お前、これを見て何か思わんのか!」

「えっと、ご愁傷様?」

「それだけかこのやろ!」

 

 少女が言ったセリフに怒りと悲しみを混ぜて返す。

 

「そっちが早くそれを渡さなかったのがいけないんじゃないか」

「渡そうとしたときに攻撃したんだろ!お前は考える時間もくれないのか!」

 

 やってくれた本人に対しては怒りの度合いを増して返す。

 女性はさすがに悪かったと思ったのか、少し罪悪感を感じているようだ。

 

「アルフ謝って」

「そ、そうだね、謝るよ現地人」

「馬鹿にしてんのか!?」

 

 現地人とはこれいかに。

 俺の怒りは頂点に達している。

 ちなみに、俺が怒っている原因は主に買った商品にあった。

 

 まず、卵はふだん二百円する高級品。次にトマトは一口かじればその甘さにとろけるとも言われたトマト。牛乳なんかは、搾りたてから数時間もたっていないという一日に何本も売られていなかったものだ。その他野菜も、普段食べることがなさそうなものがいろいろあった。

 全部、スーパーのおひとり様一つの半額製品のものだった。

 それが、この女に一瞬にして……

 

 そのような感じの事を泣きながら伝えると、二人はすまなそうな顔をしてもう一度する買い物に付き合うと言ってくれた。

 

 

 

 

「これはどう?」

「それ下の方が傷んでいる」

「あ、本当だ」

「ぐちぐちうるさい男だね」

「うるさいお前のせいだろ」

 

 スーパーに来たものの、いいものは一つもない。

 残っているものはどこか痛んでいたりするものだけだった。

 ショックから立ち直りつつはあるが、やっぱり最初に買ったものより劣ると考えたら、また落ち込んでしまう。

 

「でも、こんなのこっちの奴でいいんじゃないの?」

「そうだね。安いし、こっちの方がいいよ?」

 

 ……今二人は何とおっしゃいましたか?

 カップラーメンを手にして、あろうことかこっちの方がいい?

 

「そんなわけないだろ!」

 

 割と本気でそう叫んでしまった。

 二人はあまりにも本気な俺を見て後ずさる。

 

「おい、本当の料理を食べたいか?」

「え? いや、別に……」

「食・べ・た・い・か?」

 

 二人はコクコクと顔を縦に振る。

 

「それはいい考えだ。食材を買ったらうちに招待してやろう」

(ね、ねえアルフ、なんか性格が変わった?)

(し、しらないよ)

 

 二人は本性を出したと本気でおそれる。

 彼女二人は、今まであった誰よりもこの男を怖がったのだった。

 

 

 

 

 そうして家に着く。

 俺は野菜炒めを作る。

 痛みかけの食材にはちょうどいい。

 その他、少し奮発して買ったハンバーグなども作り、大体完成をしてテーブルに出す。

 

「う、うまい」

「おいしい……」

 

 二人にご馳走させる。

 これでもうとち狂ったことは言わないだろう。

 ちなみにいうが、俺は決してカップラーメンを馬鹿にしているわけではない。

 ただ、まるで食生活全てがカップラーメンかのように言う二人に我慢ならなかっただけだ。

 実を言えば、今まで自炊していたらカップラーメンがあんまりおいしく感じなかったことにある。

 海原○山さんの気持ちも分かってきたよ。うん。

 

「どうだ? 本物の料理の味は」

「あ……」

「確かに、こんなものを食べ続けたら、カップラーメンなんてって気持ちになるよ」

「いや、分かってくれたらいいんだ。食材の事含めてな」

 

 それにしても、知らない人相手によくここまで会話できたな。

 好きなものに関すると人は滑舌になるって本当だな。

 ……あれ、そういや知らない人と……

 

「ねえ、名前教えてよ。ここまでお世話になったら、お礼しなきゃ」

「おおおおレい!? そそ、そんなきょといいでしゅよ!」

「え? あの、もう一度言ってくれない?」

 

 そう考えると緊張してきて、俺は今までの俺に戻る。

 俺はこの人にどういう風に言った?

 えらそうに?初対面の人に?

 

「あの……」

「いままですいませんでした! これをあげますのでどうぞお引き取りくだひゃい!」

 

 今まで持っていた石を出し土下座した。

 いろいろ不思議そうにしていた二人は、石を受け取ると一度だけこちらを振り返って何処かへ行った。

 

 ああ、恐ろしかった。

 

 

 

 

 ここはどこかのビルの屋上。

 

「ねえアルフ」

「なんだいフェイト」

「あの人と、また会えるかな」

 

 アルフと呼ばれた女性は、自分のマスターでもあるフェイトを見た。

 そして、その口元を見て驚く。

 

「フェイト、もしかして、また会いたいって?」

 

「うん。お母さんのとのことが終わったら……ね」

 

 

 フェイトの口元は、笑みを浮かべていた。

 


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