リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
三年生になった。
相変わらず仲良し三人組と同じクラスの俺。
何かよく分からない力でも働いているのだろうか……
「今年も同じクラスだね」
すずかが教室で俺の姿を見ると、近づいてきていった。
「今年もよろしくね」
俺はにこやかに返事をする。
最初でこそガチガチだったが、今はもうすずかと話すこともすっかり慣れてしまった。
次にアリサとも続いてくる。
「あんた、また同じクラスなのね」
「不幸なことにな」
アリサとはこうやって軽口を言い合う仲だ。
俺としては、こんな仲の友達が欲しかったので、現状には大いに満足している。
また、それはアリサも同じようで、俺とこうやって言い合うときはそれなりに楽しそうにしていた。
次に出てくるは……
「倉本君、一緒のク――」
一目散に逃げる。
朝の会があろうとお構いなしに。
「今日翠屋にでも行こうかな」
ふと、そんなことを考えた。
あくまでもなんとなく思っただけで、特に深い意味はないが……そう考えると翠屋のシュークリームが食べたくなってくる。
「それじゃあ、今日は一緒に帰ろう」
それを聞きつけた魔王が、ここぞとばかりに話しかけてきた。
魔王と下校とか、事件の起こる道しかみえない。
ここは、丁重にお断りしておくべきだな。
「おことh」
「じゃあ、あたしたちも行こうかしら」
アリサはまるで退路を防ぐかのように言葉を遮ってきた。
さらに、それは隣にいた月村にも飛び火をする。
「もちろん、すずかも来るわよね?」
「あ、うん。じゃあ、わたしも行こうかな」
そこまで確認してから、アリサは俺を見てニヤリと笑った。
こいつ、俺が断りにくくする状況を作りやがったな!
魔王だけなら放っておけるものを、そこに月村が入れば断りづらいものになる。
しかもそれが笑顔ときた。
アリサも「ここまでやったら断らないでしょ」なんて挑発的な顔つきをしてやがる。
このままお前の掌の上で踊らされる男だと思うなよ!
「行かな――」
「いくわよね?」
「はい。付き合わせていただきます」
強気なやつには勝てない。それが真理だ。
翠屋についた。
下校の間、俺はことごとく月村に話しかけて、奴らとの会話を避けきった。
視線をずっと感じてたものの、俺は強制イベントを避けきったのだ……!
しかしここで、新たな試練が起こる。
「翠屋が休み……だと」
なんでも、店長さんが健康診断に行っているらしい。
そう看板には書いてあった。
ここで思うのは、休みだという事実。
俺はハッとして、魔王を見る。
「にゃはは、そういえば今日は休みだっけ」
こ、この魔王!絶対知ってただろ!
「あら、それならどうする?」
「お詫びに、わたしが作るシュークリームをご馳走するよ」
「なのはに作れるの?」
「もう、これでも練習したんだよ」
予定調和かのように話が進む。
なのはにアリサ、こいつら二人はどうやらグルだったらしい。
その証拠に、月村は話についていけなくてぼけーとしている。
「少し時間がかかるけど、大丈夫?」
ここで話を振られることは分かっていた。
今度こそ、断りのセリフを言う。
「いや、ちょっと用事g」
「そういえば、あんた昨日暇だなーって言ってたわよね」
今日ははやてが病院に行っている。
だから、確かにそう愚痴をこぼしていてもおかしくない……が、なんで覚えているんだこいつは。
「あれ?そうだったkk」
「いってないとは言わせないわよ」
『明日暇になるな……どうしよっかなー』
ポケットから出したのはボイスレコーダー。
そこまでやるのかと驚きと同時に、こいつはなんなのかと思う。
そうは思っても、これは逃げられない状況であることには間違いない。
「つ、付き合わせてもらいます」
俺は観念することにした。
ちなみに月村であるが、苦笑いをしていたのでボイスレコーダーについては知っていたのだと思われる。
なぜ止めてくれなかった。
「あら、なのは、おかえりなさい」
「うん、ただいまお母さん」
店主さんの嫁さんだ。
多くの場合はこちらの方がいるので、もしかしたら士郎さん店主説は間違っているかもしれない。
「あら、新しいお友達?」
俺の方を見てそう聞いてくる嫁さん。
「いいえ、ちg」
「倉本?」
「はい! お友達をさせていただいている、倉本龍一です!」
アリサのひとことにはマジで敵わない。
いつか、こいつを超えられる日は来るのだろうか。
……来そうにないな。
「なのは、準備はちゃんとできているわ。三人はあっちの部屋でちょっと待っててね」
そういって待たされる俺ら。
というか準備って、完全に狙ってたなこれ。
「アリサ、なんで俺をこうして連れてきた」
「翠屋行きたいって言ったのは龍一の方じゃない」
それはそうではあるが。
「どうせ、行かないって言っていても、なんだかんだで連れてきただろ」
「ええ。そうよ」
非常に遺憾なことです。
というか、こいつに何かしたか俺。
「あ、まあまあ、アリサちゃんに倉本君も仲よくしようよ」
月村は仲を取り持とうとしてくれている。
個人的には仲が悪いつもりはないんだけどな。
「別に仲が悪いわけじゃないわ。ねえ」
「まあ、そうだな」
それを聞いてほっとする月村。
月村って、本当優しい子だとこういう時にしみじみ思う。
そうして適当にだべりながら数時間。
途中から宿題をはじめつつ待っていると、ようやく完成したみたいだった。
「おまたせ!」
笑顔の魔王とともに登場したのは、シュークリーム。
見かけはそれなりにできていて、少なくともゲテ物じゃないということはうかがえる。
そのシュークリームは机の上に置かれ、俺たちも宿題をかたづける。
「にゃはは、ちょっと作り過ぎちゃったかも」
少し山になっているが、俺が普段買う量より少し少ないくらいだった。
……まあ、俺が買う量が多いだけかもしれないけど。
「食べてもいい?」
「うん」
魔王に確認を取り一つ手に取る。
そうしてパクリと一口食べ……なんというか、何とも言えなかった。
「どうかな?」
魔王は心配そうに見てくるが、そんなことがどうでもよくなるほどに俺は困惑していた。
(どこかで、食べたことのある味?)
なかなかおいしいそれは、俺の記憶を刺激されるものだった。
味は格段に違った。だけど、どこかで食べたことがある。
これは、どこかで……
「倉本!」
あと少しで思い出しそうなとき、アリサの声で思い出すのを止めさせられた。
アリサは魔王にちらりと顔を向け、つられて俺も向く。
顔色が変わるほど心配そうに俺を見てくる魔王がいた。
あわてて、俺はシュークリームを称賛する。
「お、おいしいよ? うん、店には劣るけど」
「一言多い!」
アリサから突っ込みは入るが、魔王は安心したように胸をなでおろす。
とりあえず、間違えた言葉は言ってないようだ。
「うん。十分だよ」
魔王はそういって笑顔になる。
……まずくても、まずいなんて言うつもりなかったけどな。