リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十四話 退路を断たれる罠

 三年生になった。

 相変わらず仲良し三人組と同じクラスの俺。

 何かよく分からない力でも働いているのだろうか……

 

「今年も同じクラスだね」

 

 すずかが教室で俺の姿を見ると、近づいてきていった。

 

「今年もよろしくね」

 

 俺はにこやかに返事をする。

 最初でこそガチガチだったが、今はもうすずかと話すこともすっかり慣れてしまった。

 次にアリサとも続いてくる。

 

「あんた、また同じクラスなのね」

「不幸なことにな」

 

 アリサとはこうやって軽口を言い合う仲だ。

 俺としては、こんな仲の友達が欲しかったので、現状には大いに満足している。

 また、それはアリサも同じようで、俺とこうやって言い合うときはそれなりに楽しそうにしていた。

 次に出てくるは……

 

「倉本君、一緒のク――」

 

 一目散に逃げる。

 朝の会があろうとお構いなしに。

 

 

 

 

「今日翠屋にでも行こうかな」

 

 ふと、そんなことを考えた。

 あくまでもなんとなく思っただけで、特に深い意味はないが……そう考えると翠屋のシュークリームが食べたくなってくる。

 

「それじゃあ、今日は一緒に帰ろう」

 

 それを聞きつけた魔王が、ここぞとばかりに話しかけてきた。

 魔王と下校とか、事件の起こる道しかみえない。

 ここは、丁重にお断りしておくべきだな。

 

「おことh」

「じゃあ、あたしたちも行こうかしら」

 

 アリサはまるで退路を防ぐかのように言葉を遮ってきた。

 さらに、それは隣にいた月村にも飛び火をする。

 

「もちろん、すずかも来るわよね?」

「あ、うん。じゃあ、わたしも行こうかな」

 

 そこまで確認してから、アリサは俺を見てニヤリと笑った。

 

 こいつ、俺が断りにくくする状況を作りやがったな!

 

 魔王だけなら放っておけるものを、そこに月村が入れば断りづらいものになる。

 しかもそれが笑顔ときた。

 アリサも「ここまでやったら断らないでしょ」なんて挑発的な顔つきをしてやがる。

 このままお前の掌の上で踊らされる男だと思うなよ!

 

「行かな――」

「いくわよね?」

「はい。付き合わせていただきます」

 

 強気なやつには勝てない。それが真理だ。

 

 

 

 

 翠屋についた。

 下校の間、俺はことごとく月村に話しかけて、奴らとの会話を避けきった。

 視線をずっと感じてたものの、俺は強制イベントを避けきったのだ……!

 

 しかしここで、新たな試練が起こる。

 

「翠屋が休み……だと」

 

 なんでも、店長さんが健康診断に行っているらしい。

 そう看板には書いてあった。

 ここで思うのは、休みだという事実。

 

 俺はハッとして、魔王を見る。

 

「にゃはは、そういえば今日は休みだっけ」

 

 こ、この魔王!絶対知ってただろ!

 

「あら、それならどうする?」

「お詫びに、わたしが作るシュークリームをご馳走するよ」

「なのはに作れるの?」

「もう、これでも練習したんだよ」

 

 予定調和かのように話が進む。

 なのはにアリサ、こいつら二人はどうやらグルだったらしい。

 その証拠に、月村は話についていけなくてぼけーとしている。

 

「少し時間がかかるけど、大丈夫?」

 

 ここで話を振られることは分かっていた。

 今度こそ、断りのセリフを言う。

 

「いや、ちょっと用事g」

「そういえば、あんた昨日暇だなーって言ってたわよね」

 

 今日ははやてが病院に行っている。

 だから、確かにそう愚痴をこぼしていてもおかしくない……が、なんで覚えているんだこいつは。

 

「あれ?そうだったkk」

「いってないとは言わせないわよ」

『明日暇になるな……どうしよっかなー』

 

 ポケットから出したのはボイスレコーダー。

 そこまでやるのかと驚きと同時に、こいつはなんなのかと思う。

 そうは思っても、これは逃げられない状況であることには間違いない。

 

「つ、付き合わせてもらいます」

 

 俺は観念することにした。

 

 ちなみに月村であるが、苦笑いをしていたのでボイスレコーダーについては知っていたのだと思われる。

 なぜ止めてくれなかった。

 

 

 

 

「あら、なのは、おかえりなさい」

「うん、ただいまお母さん」

 

 店主さんの嫁さんだ。

 多くの場合はこちらの方がいるので、もしかしたら士郎さん店主説は間違っているかもしれない。

 

「あら、新しいお友達?」

 

 俺の方を見てそう聞いてくる嫁さん。

 

「いいえ、ちg」

「倉本?」

「はい! お友達をさせていただいている、倉本龍一です!」

 

 アリサのひとことにはマジで敵わない。

 いつか、こいつを超えられる日は来るのだろうか。

 ……来そうにないな。

 

「なのは、準備はちゃんとできているわ。三人はあっちの部屋でちょっと待っててね」

 

 そういって待たされる俺ら。

 というか準備って、完全に狙ってたなこれ。

 

「アリサ、なんで俺をこうして連れてきた」

「翠屋行きたいって言ったのは龍一の方じゃない」

 

 それはそうではあるが。

 

「どうせ、行かないって言っていても、なんだかんだで連れてきただろ」

「ええ。そうよ」

 

 非常に遺憾なことです。

 というか、こいつに何かしたか俺。

 

「あ、まあまあ、アリサちゃんに倉本君も仲よくしようよ」

 

 月村は仲を取り持とうとしてくれている。

 個人的には仲が悪いつもりはないんだけどな。

 

「別に仲が悪いわけじゃないわ。ねえ」

「まあ、そうだな」

 

 それを聞いてほっとする月村。

 月村って、本当優しい子だとこういう時にしみじみ思う。

 

 

 

 

 そうして適当にだべりながら数時間。

 途中から宿題をはじめつつ待っていると、ようやく完成したみたいだった。

 

「おまたせ!」

 

 笑顔の魔王とともに登場したのは、シュークリーム。

 見かけはそれなりにできていて、少なくともゲテ物じゃないということはうかがえる。

 そのシュークリームは机の上に置かれ、俺たちも宿題をかたづける。

 

「にゃはは、ちょっと作り過ぎちゃったかも」

 

 少し山になっているが、俺が普段買う量より少し少ないくらいだった。

 

 ……まあ、俺が買う量が多いだけかもしれないけど。

 

「食べてもいい?」

「うん」

 

 魔王に確認を取り一つ手に取る。

 そうしてパクリと一口食べ……なんというか、何とも言えなかった。

 

「どうかな?」

 

 魔王は心配そうに見てくるが、そんなことがどうでもよくなるほどに俺は困惑していた。

 

(どこかで、食べたことのある味?)

 

 なかなかおいしいそれは、俺の記憶を刺激されるものだった。

 味は格段に違った。だけど、どこかで食べたことがある。

 これは、どこかで……

 

「倉本!」

 

 あと少しで思い出しそうなとき、アリサの声で思い出すのを止めさせられた。

 アリサは魔王にちらりと顔を向け、つられて俺も向く。

 顔色が変わるほど心配そうに俺を見てくる魔王がいた。

 あわてて、俺はシュークリームを称賛する。

 

「お、おいしいよ? うん、店には劣るけど」

「一言多い!」

 

 アリサから突っ込みは入るが、魔王は安心したように胸をなでおろす。

 とりあえず、間違えた言葉は言ってないようだ。

 

「うん。十分だよ」

 

 魔王はそういって笑顔になる。

 

 ……まずくても、まずいなんて言うつもりなかったけどな。

 


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