リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十三話 話せる友はいいものだ

 二月になった。

 友だち発言をしてしまったとはいえ、魔王から逃げる日々はいまだ続いていた。

 少なくとも、笑顔で笑いあう日は来てほしくないからだ。

 

 そんな俺も今日は追い込まれていた。

 魔王ではない、アリサ・バニングスにだ。

 

「あんた、なんでいちいちなのはから逃げるのよ」

 

 魔王に追われ、ばれずに屋上に逃げ込めたのは良かった。

 だけどそこには、目の前に仁王立ちをしているアリサ・バニングスの姿があったわけで、そして戻ったら魔王がいるわけで。

 

「ちょっと、聞いているの?」

 

 結論を言えば、俺は逃げられない状況というわけだ。

 

 

 

 

 屋上。

 あたしは休憩時間が始まったらここに待機をしていた。

 多分、いつもどおりなのはは倉本を追っかけるだろう。

 そして倉本は逃げる。

 逃亡の果てにたどり着く場所、あたしはこの屋上だとにらんだ。

 理由は……まあ、あいつがなのはにばれてない隠れ場所はそこしかないからだ。

 あいつ、一年くらいで隠れ場所すべてがばれているってどうするのかしら。

 ちなみに、そのことをすずかに言ったら、倉本君の事をよく知っているんだねって言われた。

 

 べ、別にあいつ自身には興味なんてないんだから!

 すずかの勘違いには迷惑しちゃうわ、もう。

 

「で、きちゃうわけね」

「ここまでくれば……げっ、アリサ・バニングス」

 

 げってなによ。

 まあ、そんなことはいいわ。

 

「あんた、なんでいちいちなのはから逃げるのよ」

 

 たしか、クリスマスパーティの時はなのはの事を友だちだといった。

 流石にそっくりそのまま信じてはいないけど、友達といった手前、表向きくらいは仲良くすると思っていた。

 だけど倉本は今までと変わらずなのはから逃げている。

 

「ちょっと、聞いているの?」

 

 さっきから反応がない倉本にもう一声かける。

 

「そもそも出待ちをしているアリサ・バニングスが悪い」

「はぁ?」

 

 突然意味の分からないことを言われる。

 いつものパターンなら、こういうことをいうときは混乱している時だ。

 戻ればなのはがいるので流石にないとは思うが、逃げられるのを防ぐため一歩距離を詰める。

 なんというか、倉本はもうあきらめきった顔をしている。

 なのはと会うより私との会話を選んでいるとみていいだろう。

 

「それで、なんで逃げようとしているの」

「しょんなこと」

「さっそく噛んでる」

 

 恨むような視線を向けてきた。

 こっちとしては、指摘されたくないのなら気を付ければいいじゃないかと思う。

 

「……そんなこと、関係ないだろ」

「なのははあたしの友達だし。関係ないってことはないんじゃない」

 

 こういい方をされると、余計に引きたくなくなる。

 これが負けず嫌いっていうのだろう。自分でもそう思う。

 

「アリサ・バニングス。最初から事件に巻き込まれるとわかって、それに付き合おうと思うか?」

「事件に?そりゃ、そんなこと思わないわよ」

「つまり、そういうことだ」

 

 どういうことかしら?

 よくわからないことを言うのはいつもの事だけれど……

 

「とにかく、なのはから逃げるのをやめるつもりはないってわけね」

「まあ、そういうわけだ」

 

 いらないところで頑固なこいつにため息が出る。

 とうより、何を恐れてそんなことを言っているのか。

 そこで、今まで気になっていたもう一つの事もついでに聞いてみることにした。

 

「そういえば、なんであたしの事をフルネームで呼んでいるの?」

「なんでってそりゃ……どっちで呼んでいいのか分からんから」

「どっちって、名前でもファミリーネームでも好きな方呼べばいいじゃない」

「だって、外国じゃ初対面でも名前を呼ぶのが普通だろ?」

「はぁ?」

 

 二度目の同じセリフ。

 同級生からファミリーネームと名前を間違えられたことはあっても、まさか分かっていてどっちで呼ぶか迷う人は初めて見た。

 なんというか、変なところで律儀なんだからと再びこいつに呆れる。

 

「好きな方呼びなさいよ。そっちの方が逆にいやよ」

「うむむ」

 

 考えることなのかしら。

 こいつの思考回路は本当にわからない。

 

「じゃあ、アリサって呼ばせてもらうことにする」

「そう」

 

 てっきり、ファミリーネームで呼ぶのかと思っていたから少し驚く。

 友だちになったと本人も認めるすずかですら苗字だったのに。

 

「聞きたいことってそれだけか?」

「そうよ。時間取らせて悪かったわね」

「いや、暇だったからちょうどよかったさ」

 

 あたしはそう言って教室に戻った。

 なのはも教室に戻っていて、見つからなかったとすずかと話していた。

 

 あ、そういえば。

 気のせいかもしれないけど、倉本の口調いつもと違った?

 

 

 

 

「はやて、俺、自分自身をさらけ出せる友を見つけたかもしれない」

「ふうん。それはよかったなぁ」

「それだけ?」

「ほかに何をいえっちゅうねん」

 

 それもそうだ。

 しかしアリサ・バニン……アリサは意外と話しやすいやつだったな。

 素の口調で話しても違和感なかったし。

 


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