リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第十二話 地獄への招待

 またしてもクリスマス・イブ。

 はやてはこの日ちょうど病院に行く用事が入ってしまい、祝うのはクリスマスの日になってしまった。

 どうしてクリスマス・イブの方に祝うことが多いんだろうな。どっちも同じだろうに。

 

 それで、話が終わりならよかった。

 だけどそんなことで終わるはずもなく、図書館へ行ったこの日、さらなる話が待っていた。

 

「倉本君、久しぶり」

「あ、うん、久しぶり」

 

 月村はたまにであるが、図書館で見かけることもあった。

 冬休みに入った今、それ以外出会うことはない。

 今思えば、だからこそここに来たんだと思うよ。

 月村は俺を見るなり、こういってきたから。

 

「今日おうちでクリスマスパーティするんだ。倉本君もどう?」

 

 たしかに、少し前に月村のお姉さんから、今度はうちに来なさいと言われた。

 だが、そういうパーティに俺が出席をしてもいいのか、俺は悩みに悩む。

 悩む……が、打算など欠片も感じさせない月村の頼み方に、断る選択肢なんてなかった。

 

「わたしも、倉本君が来てくれたら楽しくなると思うんだ」

 

 笑顔で言われて断れる男なんていない……と思う。

 

 

 

 

 さて、長くはなったが、今俺は月村家の前にいる。

 まず最初に言いたいことは、でかい。

 とても、大きい。

 ふと、月村を見る。

 こうして屋敷ともいえる家の前に立つ月村の姿はもうすんごいお嬢様に見えて、俺がここにいるのは間違いなんじゃないかと思わせられるくらいだった。

 少なくとも、いつもの私服できたのは間違いだっただろう。

 

「どうしたの?」

 

 月村が固まっている俺に声をかける。

 

 いや、どう考えても普通でいられるわけないだろう。

 

 俺はそう声を大にして言いたい。

 

「なななんでmないy」

 

 まともに会話できる奴がいたらすごい。

 俺はそんな人になりたいと思った。

 

 だが、一度ある災難は続く。

 それこそ、一年生の四月の時のように。

 

「あ、倉本君も来たんだ」

「最近はすずかと仲よさそうにしてたわね」

 

 魔王再臨。

 その隣にはアリサ・バニングス。

 正直今でもアリサかバニングスかで呼ぶのに迷っている人だ。

 そんなどうでもいいことを思うくらいには、俺は気が動転していた。

 

「それじゃあ案内するね」

 

 月村は家の門を開けてもらう。

 このままではまずい、そう思った俺は必死に打開策を練る。

 まず一番に思いつく行為。

 ……逃走。

 

「そういや俺用事が――」

「……」

「なんでもないです」

 

 視線が逃がさないと物語っていた。

 その視線を送ってきた人物、アリサ・バニングス。

 立ち位置も微妙にずらして逃がさないようにしている。

 おかしい、俺はこいつとかかわりがなかったはずだ。

 なのになぜ……

 

「あたし、倉本には聞きたいことがたくさんあったのよねー」

 

 俺へ向けてくる気配がやばい。

 なんかしたか、俺。

 

 

 

 

 月村邸。

 これが外装だけ豪華なら幾らか気を落ち着かせられたものの、内装もやばかった。

 正直場違い感が半端なかった。

 周りを見れば何人かメイドと思わしきものがいて、ここは日本なのかと疑ったくらい。

 そうして固まっていたら、隣から「ふっ」て笑われた。

 おのれアリサ・バニングス、こいつもお嬢様か。

 

 なんか豪華なテーブルのあったところにて待たされる。

 

「あら、図書館に本当にいたのね」

 

 月村のお姉さんが現れ、俺を見てそう言った。

 どうやら月村が図書館に来たのは俺と会うためだったらしい。

 なんと恐ろしい……

 

「さていらっしゃい、なのはちゃん、アリサちゃん、倉本君」

 

 椅子に座りそう挨拶をする月村のお姉さん。

 美人な人だな、そう思う。

 あいさつもそこそこに、料理をメイドさんが持ってくる。

 マナーが全く分からない俺は、とりあえず周りを観察することにした。

 

 月村はなのはと姉さんとで料理に手もつけず話している。

 アリサ・バニングスは、こちらをずっと見ていた。

 

「って、みてる?」

「何か?」

 

 ニコリとせず返してくる。

 どちらかと言えば独り言だったんだが……と、そこでアリサ・バニングスに言われた言葉を思い出す。

 

「聞きたいきょととは?」

「倉本、噛んでるわよ」

 

 分かってらい畜生。

 ここで、月村の指摘しない優しさに救われていたんだとしみじみ実感する。

 こんなところで実感したくはなかったけど。

 

「まあ、聞きたいことと言っても大したことじゃないわ」

 

 それなら聞いてくるな。

 ……なんて言えたらいいんだけど。

 

「聞きたいことというのは、なのはのことよ」

 

 なんだこいつ、なんで魔王の事なんか。

 

「倉本が三年前の奴かどうかはこの際どうでもいいわ。なのはの事、どう思っているの?」

 

 魔王の事?

 魔王は魔王……だが、そのままこんなことを言えば、きっとアリサ・バニングスはその眼光で俺を貫いてくるだろう。

 穏便に済ますセリフ、それを考えねば。

 

「……友達?」

「嘘ね」

 

 ほら!今ギロッてした!

 確実に俺を射抜いてたよ!

 自分でも今の言い訳はないとは思ったが、これはどうすればいいのか。

 そこで誤魔化すように魔王を見る。

 魔王はじっと俺の事を見ていた。

 

「え? 何?」

「倉本君……」

 

 なんだか魔王の様子がおかしい。

 驚くような、喜んでいるような、いろいろな感情が合わさった表情。

 

「わたしの事、友達だと思ってくれていたんだね」

 

 ……え、そこ?

 言い訳に使った言葉が思いもよらぬ結果を生んでしまったようだ。

 魔王と友達、確実に巻き込まれるフラグが立ってしまう。

 だが、今更訂正は出来ない。

 というかしたら多分殺される、アリサ・バニングスに。

 案の定アリサ・バニングスはなのはを泣かせたら殺すとでも言いたげな視線を送っている。

 

 この友達思いめ!

 

 その日、おいしい料理のはずなのにまともに味が分からなくなった。

 たぶん、魔王と友達という事実が俺の舌をマヒさせたのだろう。

 

 結局、友達を訂正できずに一日を過ごしたのだった。

 


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