リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
六月。
時が過ぎるのは早いもので、もう梅雨の季節がやってまいりました。
と始めるのも、数日前グレアムというはやての足長おじさん的なお人が送ってきた手紙に原因があった。
「龍一、あんたあてに手紙や」
そういってはやてから渡された手紙、それがグレアムという人からだった。
内容ははやての誕生日。
どうやら、はやてが送る手紙によく俺の事が書かれてあったようで、そんな子がいるのなら代わりに誕生日を祝ってやってくれないかと手紙に書いてあった。
はやてにはお世話になっているし、断る理由は何もない。
その日から、俺は少しずつ計画を立てていったのだった。
「誕生日パーティ、どうしよう……」
ケーキの準備はできた。プレゼントも用意した。
だけど俺が思うのは、これだけで大丈夫なのか、そういうことだった。
誕生日を祝うのは俺一人、その時点でどうなのかという気持ちが湧き上がる。
誰か呼んだ方がいいのか?
だけど、大して祝う気もないやつを連れて行ったところで逆効果だろう。
そもそも、そんなこと頼める奴いないし。
本なんかそっちのけでぼーっと考えていたのが原因だろう、魔王が話しかけてきた。
「何を考えてるの?」
この魔王、最近はしつこさが増してきて、逃げたら追っかけてくるようになってきた。
前向きに考えると運動にはなるが、そんな風に考えるのは正直無理だ。
「なんでもない」
とりあえずはそう返しておく。
最近は逃げるのが無駄だと気付いて、俺は適当に返すことにしている。
そのおかげというべきか、魔王相手なら噛まずに返答が出来るようになった。
魔王との距離が近づいたようにも思えて、あんまりうれしくないが。
「でも、いつも本を読んでるのに、なんで今日は何も読んでないの?」
「読んでないのがそんなにおかしい?」
「そういうわけじゃないけど……」
「なら……いや、まてよ」
このままやり過ごそうと思った時、相談くらいならいいんじゃないかと考える。
仲良くなるのはごめんだが、ただ一人の友達のために関わりたくないこいつにかかわるのもいいだろう。
そんな俺の心情は、まさに主人公だった。
「まお……高町、誕生日って祝ってもらえるだけでもうれしいもの?」
「え? そ、それは、仲がいい子とかに祝ってもらえるとうれしいけど」
「よし、それならばいい」
話を振られて困惑する魔王を放っておき、俺は早速パーティについて考える。
さて、家に帰ったら料理かな。
少し経ち、隣の仲良し三人組が騒いでいるのが少し耳障りに感じた。
家に帰ってさっそくはやてにケーキを取りに行ってもらった。
体の弱い女の子を行かせるなんて最低やー、とか言っていたけど、行ってくれたら四分の三あげると言ったら行ってくれた。
なんとも現金なやつだと思う。
士郎さんには誕生日ケーキだと言わないでくれるように言っておいたし、サプライズとしても大丈夫だろう。
誕生日プレゼントもしっかりと用意をしておいた。
全てのものを確認して、俺は料理を作りだす。
あやしい。
どうにもあやしい。
龍一の言うまま翠屋にケーキを取りに来たんやけど、待ち時間そんなことばかり考えおる。
普段、外出は率先していこうとする龍一が、取ってこいって私にケーキをとらせに行くのは怪しい以外の何物でもない。
龍一も何かあるんやろうし、深くつっこもうとは思わへんねんやけど、龍一の掌の上というのはおもしろない。
家に帰ったら問い詰めてやろと思った時、この店の店主がケーキを渡してくる。
「はい、誕生日ケーキ。気を付けて持って帰るんだよ」
「ん? 誕生日ケーキ?」
「そうだけ……あ、龍一君から言わないようにって言われてたんだっけ……」
この店の店主も、案外抜けてるんやなと思った。
「ふははははは! 完璧だ!」
机の上に並べる料理。
量も味も申し分なく、ついついテンションが上がってしまうほど。
そこで、ちょうどよく家のインターホンが鳴った。
カギは締めてないからすぐに入ってくるだろう。
俺はクラッカーの用意(両手で四本)をして玄関の前で待機をする。
ドアが開き、その瞬間クラッカーを四つ同時に鳴らす。
きっと驚いて声も出なくなっているだろう、そう考えていた俺の予想は大きく外れた。
「ぐすっ、ありがとうなぁ……」
泣いていらっしゃる!?
「どど、どこああたった? しょれともクラッカーの紙吹雪が目に?」
「ちゃうよ……私のために、用意してくれたんやろ?」
その通りなので首を縦に振る。
ここで、誕生日パーティがばれていることに勘付く。
思えば、自分の誕生日を忘れていることがおかしいのだ。
反省……
「はは、まさかばれてるなんてね」
「ううん、翠屋の店長が漏らしてくれたんや」
士郎さんを、初めてダメな人だと、思ったこの時。
「は、はは、まあばれてるなら話は早いよ。もう準備できてるから」
「わかった」
「あ、それと……」
懐に入れていた、プレゼントを渡す。中身は髪留めだ。
前に別の子にも髪留めを渡したことを考えると少々芸がないと自分でも思うが、これといったプレゼントのネタが思いつかなかった。
「はい。プレゼント」
「あ……な、なんや、めちゃうれしいんやけど」
「よろこんでくれたのなら、いいよ」
入っている髪留めを取り出し、さっそくとはやてはつける。
「どうや?」
「似合ってる。流石俺だな!」
なんだかこうやって喜んでいるはやてをみると、こちらが恥ずかしくなっていき、普段言わないようなことを言って誤魔化す。
背を向けリビングへと行こうとするとき、後ろから裾を引っ張られた。
「ありがとな」
笑顔で言われ、不覚にも俺は小学生にときめいてしまった。