駄文ですがどうぞお楽しみ下さい。
その日、リアーネは一人でクエストを受けにギルドへと来ていた。
その理由は至極単純、そろそろお金が尽きて来たからである。
ギルドの掲示板に張り出されているクエストの中から、一人でも達成出来そうな依頼を探すリアーネ。
本来はフィリスやクリス、それにダクネスの手も借りたいところだが、生憎全員が今日はクエストに行く事が出来ないのだ。
そういう訳で先程から何か良い依頼はないかと掲示板とにらめっこをしているのだが。
「ゴブリン討伐のクエストは…流石に危険よね。知らない敵に一人で挑むのはやっぱり無茶だし、やっぱりカエル討伐のクエストにしようかしら」
ゴブリン討伐クエストの報酬の高さにつられそうになったものの、リアーネはぐっと堪えて冷静になった。
その後リアーネは受付にてクエスト受注の手続きを済ました。
「ありがとうございます。それでは行ってきますね」
「あ、ちょっと待って下さい」
クエストの受注が終わり、早速外に出ようとするリアーネを受付嬢のルナが引き止めた。
「どうかしましたか?」
リアーネは足を止めて振り返る。
「えっと、今回はジャイアントトードの討伐という事ですからそんなに心配はしてないんですけど、掲示板にも貼ってあるように、最近街の付近の森でゴブリンが確認されましたので」
「はい…それがどうしたんですか?」
ルナの言葉に首をかしげるリアーネ。
ルナは説明を続けた。
「ゴブリンが目撃されたという事は、近くに初心者殺しもうろついている可能性が高いです。と言っても初心者殺しはまだ確認されてませんし、草原では遭遇する事も滅多にないのですが。それでも、一応気をつけて下さいね」
「初心者殺し…って危険なモンスターなんですか?」
リアーネの問いにルナは当然だと言わんばかりに頷いた。
「初心者殺しは、その巨躯を黒い体毛で覆ったモンスターです。更には狡猾で警戒心が強く、厄介なことに駆け出し冒険者が狙うようなゴブリンやコボルトといった雑魚モンスターの群れのそばに潜み、それらを狩りにきた冒険者に襲いかかるんです」
「何ですかその嫌らしいモンスター…」
ルナの説明を聞き恐怖を抱くリアーネ。
どうやら草原などのひらけた場所では出くわす事は滅多にないらしいが、外の世界では何が起こるのか分からないものだ。
それは、かつての世界でも何度も経験した事のある教訓でもあった。
「あと、それからなんですけど」
「まだ何かあるんですか?」
ルナの二度目の呼びかけに再度話を聞く態勢に入るリアーネ。
そんなリアーネにルナはもう一つの注意事項を話した。
「実はこの前、森の中で悪魔型のモンスターの目撃情報がありました。悪魔型のモンスターは、魔法を使ったり知能が高かったりと、強敵である場合が多いです。ですのでそのモンスターにも気をつけてください」
「悪魔型のモンスター…ですね。分かりました」
リアーネはルナの注意を念頭に置き、改めてギルドをあとにした。
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「矢筒は持ったし『医者いらず』、『クラフト袋』もあるわね。『小悪魔のいたずら』も一応貰っておいたし、持ち物は大丈夫そうね」
リアーネは街の外へと通じる門の前へ辿り着くと、荷物の確認をしだした。
『クラフト袋』というのは、爆弾にカテゴライズされる錬金術で作られた道具である。
敵にぶつけることで内部に仕込まれた鋭いトゲが炸裂し、対象にダメージを与えるというものだ。
フィリスが錬金成分などを確認するために試作していた錬成物の一つであったが、今回リアーネがクエストを受けるということでフィリスから貰ったのだ。
また依頼用の物を作る前に軽く試作した『小悪魔のいたずら』もフィリスから預かってある。
今回の標的、ジャイアントトード相手には使う事はないだろうとリアーネは思っていたが、あればあったで何かに役立つかもしれない。
リアーネはポーチの中に『クラフト袋』と『小悪魔のいたずら』を慎重に仕舞うと、いざという時すぐに使えるよう『医者いらず』をポケットに、その後矢筒を腰のあたりにぶら下げ、弓は背中に背負った。
「さて、それじゃあ行きましょうかね」
リアーネは気合十分に言うと、街の外へと繰り出した。
門をくぐり、草原を歩く事およそ十分弱。
見晴らしの良い小さな丘になっているような所へと辿り着くと、周囲をグルリと見渡した。
丘を降りて右手の方にはちらほらと木々が目立ち、その方向に進んでいった所に森が見えていた。
正面から左手にかけては、右方向ほどではないにしろ、細々と木々が生い茂っていた。
そして丘から正面を眺めた所には、大きな体を誇るカエルが地響きを立てながら移動していた。
「流石に街に出てすぐの所にはあまりモンスターは近寄ってこないわね」
街から離れた遠い所にジャイアントトードの姿を確認すると、リアーネは周囲を警戒しながらもその方向へと歩いていく。
丘になっている所を降り、一直線に歩いて約一分程歩いた時。
「『エクスプロージョン』_______ッ!」
と。
街の方からだろうか、大分離れた所にいるにも関わらず、そんな声が聞こえてきた。
そして。
ドゴォォォォォォォォォォォォ‼︎
どうしたのだろうかと、リアーネが思考に耽るよりも早く、先程までリアーネが立っていた丘が突然爆発した。
「_______ッ⁉︎」
その突然の爆発に驚き振り返ったのも束の間、爆発地点に近かったリアーネはその強烈な爆風に軽々と吹き飛ばされてしまい。
「クッ_______⁉︎」
付近に細々と乱立していた木々の内の一本に頭を強打してしまった。
_______ダメ……意識が…………
頭を強く打ち付けたことにより、意識が朦朧としだすリアーネ。
ポケットの中に入っている『医者いらず』を取り出し応急処置をしようとするも、身体が言う事を聞かなかった。
爆風に巻き込まれ木に頭をぶつけるまでの間、リアーネは地面を激しく転がりまわっていたのだ。
頭を打った事により朦朧とする意識、それを振り切って身体が動かそうにも地面で擦りまくったリアーネの身体は既にボロボロで。
「なんだったのかしら……あの爆発は。このまま…助けが来るまで待とうかしら……、その前にモンスターに襲われちゃうわよね」
今後どうするかを考えるリアーネの声は今にも消え入りそうで、それを掻き消すかのように吹いた風は生暖かく、傷だらけのリアーネの身体を逆撫でするかのように流れた。
動きたくても動けない、気を抜くとすぐに意識がなくなりそうな中、リアーネは必死にもがいた。
_______このまま眠ってしまおうかしら…。運が良ければ目が覚めた頃には助けが来てるのかな。
ついそんな事を考えてしまうリアーネであったが、頭ではそう思っていても、身体は未だ抵抗を続けていた。
というか、何かを考えていないと本当に意識が刈り取られそうだったのである。
なんとか意識を保ちながらも少しずつ、指の一本一本、関節の一個一個をゆっくりと、だが確実に動かしポケットの中の物を取り出す。
取り出した『医者いらず』を使い、手際よく応急処置を行なっていく。
痛む傷口を抑えて止血をしていく内、次第に痛みがやわらいできた。
「なんとか……動けるかしら……」
木を支えにゆっくりと立ち上がるリアーネ。
その足取りは非常に不安定で、今にも倒れてしまいそうだったが、なんとか堪えている。
「これは……仕方ないか………クエスト失敗ね……」
リアーネは震える足を引きずりながら、街の方へと一直線に向かっていった。
その時だった。
「グルルゥゥゥ」
「ッ⁉︎」
身体が底冷えしてしまうような重量感のある低い唸り声。
身の危険を感じたリアーネは痛む全身にムチを打ち、その声の主の方へと振り返った。
それは森の方角からやってきた獣だった。
その巨躯は真っ黒な体毛で覆われ、口元からのびる長い二本の牙はあらゆる物を噛み砕きそうだ。
前足からも鋭利な爪がのびており、引っかかれたりでもしたら最後、身体の肉は抉り取られてしまうだろう。
そして、その双眸は真っ直ぐにリアーネを捉えていた。
初心者殺し。
ルナから聞いていた通りの姿をしているそれに、リアーネは焦らずにはいられなかった。
痛みなんてどこへやら、リアーネは中々言うことを聞かない身体を自分自身で叱責し、無理にでも動かしていた。
でなければ殺されてしまうからである。
素早く弓を構え矢を取り出すリアーネ。
が、その動きを捉えた初心者殺しはすぐにリアーネへと襲いかかった。
「くっ…」
咄嗟に横っ跳びに転がるリアーネ。
その瞬間身体中が悲鳴を上げたが、それを堪えて初心者殺しの方を向く。
先程までリアーネが立っていた所から一メートル程上を、初心者殺しは水平方向に飛びかかっていた。
もしその場に突っ立っていたら、リアーネはその巨体に巻き込まれ、押し潰されてしまっていただろう。
そう考えると冷や汗が身体中から出たが、初心者殺しはどうやら飛びかかった勢いを殺しきれず、まだリアーネの方を向くには至っていなかった。
それを好機ととったリアーネはポーチの中に入れてある『クラフト袋』を取り出した。
その間に初心者殺しは既にリアーネに向き直っていたが、初めて見るその道具を警戒しているのか、動く気配は見せなかった。
_______今これを投げつけても、あれ程の素早さじゃ躱されるわね。
リアーネは取り出した『クラフト袋』をすぐには投げつけず、その袋の余り布の部分を口に咥えると、再び弓を初心者殺しに向けた。
それを見た初心者殺しは、先程のようにリアーネに襲いかかってきた。
「ふぅ……」
リアーネは一呼吸置くと、今度はすぐに回避することなく、ギリギリまで狙いを定め続ける。
逃げる気配のないリアーネに初心者殺しは先程と『同じ』行動をした。
何ら変化のない同じ行動、同じタイミングでリアーネに飛びかかった。
刹那。
リアーネは全身の力をフッと抜くように、重力にその身を任せて後ろに倒れた。
地面に身体がぶつかる寸前、矢を番え続けるリアーネと、その僅か上を水平方向に跳んでいる初心者殺しの目があった。
そのままリアーネは矢を放つと、それは目の前の初心者殺しの腹部に突き刺さり、そこから飛び出した返り血がリアーネにかかった。
「ガウッ⁉︎」
「…っ⁉︎」
突然のリアーネの攻撃に初心者殺しは唸りを上げた。
リアーネはというと矢を放った勢いそのままに、右手を大きく振り抜き地面を思い切り叩く。
それにより地面との衝突の際の衝撃をある程度殺したものの、やはり完全には殺しきれずリアーネの意識を刈り取ろうと痛みが襲い掛かってくる。
しかし、口に咥えたままの袋をグッと噛み締め、なんとかその痛みに耐えた。
初心者殺しの方は腹部に矢が刺さったことにより力が抜けたのか、飛びかかった勢いを殺すことなく、そのままバランスを崩して地面を転がった。
リアーネはすぐさま起き上がると、口元の『クラフト袋』を掴み、思い切り初心者殺しに投げつけた。
未だ立ち上がれていない初心者殺しには避ける術もなく。
パンッ‼︎
と、袋の中のトゲが内蔵された火薬が爆発した勢いで外に飛び出し、初心者殺しに襲いかかった。
「ガウアァァァ⁉︎」
モンスター用に作られたそのトゲは、相当な太さと鋭利さを兼ね備えている。
さしもの初心者殺しも、その痛みには耐え難いようだ。
唸り痛がる初心者殺しを見て、リアーネは作戦が上手くいったことに安堵した。
初心者殺しは狡猾で警戒心の強いモンスターである。
それは、リアーネがルナから教わった事だった。
狡猾であるが故に弓の存在を知り、リアーネの動きを見てすぐさま襲いかかり、警戒心が強い故に初めて見る『クラフト袋』を恐れ、迂闊に攻撃してこなかった。
そんなモンスターであるからこそ、リアーネはそこを利用したのである。
『クラフト袋』を投げつけても当たらなければ意味がない。
しかし初心者殺しは狡猾なモンスターであるのは事実。
相手に躱された攻撃を二度も行うようなモンスターではないはず。
恐らく、リアーネに向かって直進しながらも彼女が同じように横っ跳びに躱すのを待ち、躱した所で態勢を崩したリアーネに襲いかかった事だろう。
だからこそ、案の定襲いかかってきた初心者殺しに対し、リアーネは敢えて動じない事で、「今度こそ確実に捉えた」と初心者殺しに思わせたのである。
そうして、結局同じタイミングで跳んだ初心者殺しは、逆に跳ぶのを待っていたリアーネに攻撃されたのであった。
苦しみながらも起き上がる初心者殺しであったが、それまでの間にリアーネは既に狙いを定め終えていた。
「これでも喰らいなさい!」
そうしてリアーネが放った矢は真っ直ぐに初心者殺しの瞳孔へと吸い込まれていき、その視界を奪った。
「グラァァァァ⁉︎」
片目に矢を受けた初心者殺しはその場で悶えた。
「よし、このままっ…!」
そうしてリアーネが矢を番え、再び初心者殺しに放とうとした瞬間_______
「見つけたアアアアアアアアア!」
「_______ッ⁉︎」
突如として響き渡った大声にリアーネの心臓は跳ね上がった。
驚いたリアーネは未だ狙いの定まらないまま矢を放ってしまった。
しかしその矢は真っ直ぐに初心者殺しを捉えていた。
だが_______
その声の主は上空から飛んできたと思ったら、物凄い勢いでリアーネと初心者殺しの間に入り、リアーネが放った矢をペシッとはたき落した。
「なっ……⁉︎」
リアーネは驚きの声を上げずにはいられなかった。
それもその筈、リアーネは初心者殺しが『クラフト袋』に苦しめられている間に距離を取り、それから弓を構えて矢を放ったのである。
その距離およそ十五メートル。
矢が到達するまでに僅か数秒の差はあるものの、その速度は肉眼では捉えきれないほどの速度である。
それを突然現れたそいつは、軽々とはたき落したのである。
金属の様な光沢を放つ漆黒の肌。
蝙蝠を思わせるその羽は、グリフォンの様に巨大で。
対峙せずとも相当な力の持ち主である事をその巨大な体躯が示しているそれは正に、絵に描いたような悪魔そのものであった。
「これは一体…」
リアーネが目の前に現れた敵の正体を思案していると、禍々しい角と牙を生やしたその顔が、鋭い双眸でリアーネの姿を捉えると。
「てめぇ!ウォルバク様に何やってやがんだゴラァァァァァ‼︎」
そうリアーネに怒鳴った後、その悪魔は一瞬でリアーネの目の前に詰め寄ると、なぎ払う様に腕を横に振った。
「カハッ_______⁉︎」
あまりの速度に反応できなかったリアーネは、為す術なくその攻撃をマトモに喰らい吹き飛ばされた。
咄嗟に左腕でガードの姿勢を取ったものの、その衝撃はかつてない程の威力で、リアーネの身体にダメージを与えた。
そのまま地面を転がるリアーネを他所に、悪魔は初心者殺しに近づくと。
「ウォルバク様、大丈夫ですか!まさかウォルバク様がここまでの傷を負うと…は……、ってこいつ初心者殺しじゃねぇか畜生‼︎」
朦朧とする意識の中、リアーネが最後に聞いたのはその言葉だった。
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「………い、………しろ、………じょう………」
声が聞こえた。
それはリアーネがかつて聞いたことのないような、野太い声であった。
「………ん、…い………ん、しっかり……」
「……んん…………」
リアーネは段々と意識が戻ってきていた。
「おい人間、しっかりしろ、大丈夫か?」
「……あれ、ここは……」
声がハッキリと聞こえた時、リアーネの意識は完全に目覚めた。
「おぉ、気がついたか人間。大丈夫か?怪我とかねぇか?」
目を覚ましたリアーネの視界には、先程の悪魔がその凶悪な顔を覗かせていた。
「_______ッ⁉︎」
悪魔の存在を認識した瞬間、リアーネは素早く起き上がり距離を取った。
が。
「いっ_______⁉︎」
遅れて取り戻した痛覚が、全身の痛みを訴えてきた。
あまりの激痛に声も出せず、その場に膝をつくリアーネ。
その様子を見た悪魔はホッと息をついた。
「その様子なら問題なさそうだな」
「『怪我とかねぇか』とか『問題なさそうだな』とか、一体どこを見て言ってるのかしら?最後に私の意識を奪ったのって貴方なんですけど」
痛みに耐えながらリアーネは皮肉で応じる。
特に痛む箇所、左腕を見るとそれは青紫色になっており、酷く腫れ上がっていた。
だらんと垂れている所を見るに、どうやら折れている様だ。
再びリアーネは悪魔の方へと視線を戻す。
恐らくこいつが、ルナの言っていた悪魔なのであろう。
依然として警戒を緩めないリアーネの目の前、その悪魔は人間の様に頭をポリポリ掻くと、申し訳なさそうな口を開いた。
「いや、その、悪かった。俺はてっきりあの初心者殺しをウォルバク様だと思ってしまってな…」
分が悪そうにそう言う悪魔を見て、とりあえず攻撃の意思はなさそうだと判断したリアーネは安堵した。
「あなた、何者?」
リアーネはその正体を探るべくそんな問いかけをした。
聞きたいことは幾つかあるが、まずは相手の素性を知らねばと思ったのだ。
「俺様か?俺様は上位悪魔のホーストってもんだ」
「上位悪魔…」
聞きなれない単語に首をかしげるリアーネだが、その名称からしてとんでもない相手である事は、容易に想像ができた。
「お前は?」
「……リアーネ」
今度はホーストからの質問を受け、リアーネは渋々といった感じでそれに応じた。
「そうか、リアーネか。いや実はな、この付近で真っ黒で巨大な魔獣を捜してるんだが…」
「それならさっき見かけましたよ」
「いやいや、あいつは遠くから見たらそっくりなんだがよ、俺様の捜している魔獣とは違うやつなんだわ」
「…つまり、さっきの初心者殺しをその魔獣と見間違えて、あなたの勘違いで私は攻撃された訳ね」
「いやホント悪かったって!それに関しちゃ申し訳ねぇと思ってるよ!」
リアーネが皮肉を言うと慌てて謝罪してくる上位悪魔。
恐ろしく強い相手ではあるが、話が通じるだけまだマシだろう。
そんな事をリアーネが思っていると、ホーストは再び口を開いた。
「それで、さっきの初心者殺しじゃなくてだな、他に俺様が言った特徴に当てはまる様な魔獣について何か知らねぇか?」
「生憎そんな魔獣はさっきの奴しか心当たりないわね」
そう言ったリアーネはふと周囲を見渡す。
しかしそこに例の初心者殺しの姿はなかった。
狡猾で警戒心の強いあのモンスターの事だ。
きっと突然現れたこの上位悪魔の姿を見て逃げたのだろう。
ひとまず命があった事に安堵するリアーネであったが、あの調子なら恐らく初心者殺しを仕留めることが出来たであろう。
そう考えるとやはりリアーネはこのホーストに対して恨みしか湧かなかった。
「そうか、知らねぇのか…………、ん?な、何だよそんなに俺様の事を睨んで………」
「別に……あのまま戦ってれば初心者殺しを仕留めれただろうに、それを邪魔した挙句腕まで折った貴方なんて討伐されれば良いのにとか、そんな事思ってませんよ」
「お前結構しつこいな!その事は謝っただろうが!というかお前が起きるまでずっと護衛してやってたんだぞ!むしろ有り難く思え!」
リアーネに対して食ってかかるホースト。
そんなホーストの言葉を受けたリアーネがふと目をやると、既に日は傾き、空は赤く染めあげられていた。
「確かに結構な時間気を失っていた見たいね。それに関しては感謝するわ」
「だろ?」
「まぁ貴方の登場がなかったら気を失うこともなかったでしょうけど」
「うっ……」
リアーネの指摘に気まずそうに視線を逸らすホースト。
そんなホーストを見てリアーネはため息をつき。
「それじゃあ私は帰るわね。家まで意識が保つかは知らないけど」
そう言って踵を返すリアーネ。
先程までホーストと普通にやり取りをしていたリアーネだったが、ただ喋るだけでも全身に痛みが走っていたのだ。
一刻も早くフィリスの元へ帰らねば。
そう判断したリアーネは左腕を押さえ、弱々しい足取りで街へと歩き出した。
「そうか、本当ならお前を街まで送ってやりたいところだが、あんまり街に近づく訳にもいかねぇしな」
「それは残念ね」
リアーネはそれだけを言い残すと、再び歩き出した。
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家の近くまで辿り着いた時には、既にリアーネは限界を迎えていた。
道ゆく人々がリアーネの痛々しい姿を見て、軽い悲鳴を上げたり心配そうに見つめ、時には声を掛けてきたが、リアーネにはそんな街の人々に応じる余裕はなかった。
ギルドにも行く事はなく、ただ真っ直ぐにフィリスの待つ家へと向かっていたのだ。
そうして辿り着いた家。
そして、その視線の先には、愛してやまない妹の姿があった。
「フィ…リス…ちゃん?」
ふと声を掛けるも、その声はかなり弱々しいものになっており、リアーネ自身でもそんな自分の声に驚いた。
そのリアーネの数メートル先、何やら少し大きめの袋を握り締めていたフィリスは、リアーネの姿を見た瞬間、手にしていた袋を落とし驚愕に目を見開いた。
「リ…リア姉……?」
フィリスもまた、か細い声を上げる。
が、大好きなフィリスと会えた事、そしてその声が聞こえた事が嬉しいリアーネは。
「ただいま……フィリスちゃん。ちょっと…しくじっちゃった。……ゴメンね、悪いんだけど……あとの事はお願いね…………」
全身の痛みに耐えながらもそこまで言うと、リアーネの意識はそのまま失われた。
「ッ⁉︎リア姉っ‼︎」
フラッと前のめりに倒れていくリアーネに向かってフィリスは真っ直ぐに駆け寄ると、その身体を受け止めた。
「リア姉、しっかりして‼︎どうしたの⁉︎リア姉‼︎リア姉ってば‼︎」
フィリスは目に涙を浮かべながら必死に呼びかけるが、その声にリアーネが応じる事はなかった。
「脈は…まだある!良かった……」
フィリスはリアーネの身体を抱きしめながら、首元に手を当てて脈を確認した。
「待っててね、リア姉。絶対…絶対に私が助けるから」
リアーネがまだ生きている事に安堵したフィリスは、何かを決意したかのように、静かに宣言した。
めぐみんの爆裂魔法は気づかない所で人を巻き込んでいると思うんだ。
めぐみんの見えない所で爆風に巻き込まれたりとかね…。
あ、因みに私はめぐみん大好きですよ。
まぁそれ以上にアイリス好きなんですけどねw
《語句解説》
クラフト袋…初期の方で錬金出来る、爆弾にカテゴライズされる道具。本文書いてて痛そうだなって思った。
グリフォン…「フィリスのアトリエ」に出てくるモンスター。巨大な体躯で四足歩行。でっかい翼を生やしている。