少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

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昨日投稿したばかりなのに翌日に次話投稿とは…。
しかもちゃっかり前話よりボリューム(文字数)アップしてるなんて。
ぶっちゃけ俺が一番ビックリしています。
何してんだろう俺…




二話 見知らぬ土地と救世主

「キャァァァァ‼︎気持ち悪いぃぃぃ‼︎」

 

巨大なカエルに追いかけられ、草原を爆走するフィリスとリアーネ。

気がつくと見知らぬ土地にいた彼女達はただ、土地勘も何もない状態で走り続けていた。

 

「はぁ…はぁ…、それにしてもホントにどこなのここ?」

 

走りながらリアーネは様々な事を思案する。

ここはどこか、なぜこんな所で気を失っていたのか、あの巨大なカエルはなんなのかなどなど。

しかし、疑問は尽きることはなけれど、それらに対する答えは一向にでない。

これ以上考えても無駄だと思ったリアーネはカエルから逃げることに集中する。

 

「り、リア姉!はぁ…弓とかで、はぁ…あのカエル倒せないの⁉︎」

 

「残念だけど弓なんて持ってないわよ!アトリエテントに置いてあるはずだけど…」

 

アトリエテントはライゼンベルグにあるはずだが、どことも知らぬ場所にいる今ではどうしようもない事だ。

 

「私は錬金釜を混ぜるのに杖を使ってるからか一応杖は持ってるけど…はぁ、打撃が効くかな?」

 

「はぁ…多分、無理っ!」

 

フィリスの問いに走りながら答えるリアーネ。

 

「じゃあどうしよう…。はぁ…はぁ………っコレだ‼︎」

 

そう言ってバッと振り返るフィリス。

 

「っ⁉︎フィリスちゃん⁉︎」

 

フィリスの突然の行動にリアーネも立ち止まり驚きの声をあげた。

フィリスはポケットの中に入れっぱなしだった『それ』を取り出し。

 

「そぉれぇ‼︎」

 

カエルに向かって投げつけた。

刹那、一筋の閃光が走り、カエルは地に倒れ伏した。

 

「フィリスちゃん、今のってもしかして『ドナーストーン』?」

 

「うん、ポケットの中に入れっぱなしだったみたい」

 

『ドナーストーン』とは錬金術によって作られる爆弾の一種である。

これを標的に投げつけると強力な電撃が走り、相手にダメージを与えるのだ。

 

「ポケットの中に物を入れっぱなしにするフィリスちゃんの杜撰さに救われたわね」

 

「何故だろう、褒められてない気がする…」

 

危機を脱したというのに素直に喜べないフィリス。

だがリアーネは既に別のことを考えていた。

 

「ポケットの中の『ドナーストーン』、フィリスちゃんの手にずっとあった杖、木彫りのドンケルハイト。もしかしたら錬金術に失敗した事で、ここに飛ばされたのかしら?空間を捻じ曲げることすら出来る錬金術なら、それもありえない話ではないのかもね…」

 

フィリスが作ろうとしていたアトリエテントは、要は錬金術で空間を捻じ曲げて作られているのだ。

そんな芸当が出来るくらいなら、見知らぬ空間に飛ばされる事もあり得るのではないだろうか。

突飛な話ではあるが、フィリスの持ち物などから推測してそう考えたリアーネは、それを一つの仮説として思考を続ける。

 

「あの時、錬金術に失敗して爆発した時にその付近の物がここに飛ばされたのだとしたら…。フィリスちゃん、元いた場所に戻ってみましょう?もしかしたら何か手がかりがあるかもしれないわ」

 

リアーネのその言葉にフィリスも頷いた。

 

「うん、そうだね。もしかしたら他にも使えるものがあるかもしれない」

 

そうして走ってきた道を戻ろうとするフィリス。

だがそれはすぐに行き詰まってしまう。

 

「リア姉、私たちどこから走ってきたっけ?」

 

フィリスのそんな方向音痴丸出しな発言に、だがリアーネも共に頭を悩ませた。

 

「そういえばここ、知らない土地だったわね…」

 

土地勘もないままカエルから逃げるため必死に右往左往して走りまわっていたのだ。

元の場所に戻ることはとてもじゃないが非常に難しいことだろう。

 

「と、とりあえず手持ちの確認をしましょう?」

 

リアーネは気を取り直してそう言う。

 

*****

 

かくして、フィリスとリアーネは手持ちの確認を始めた。

結果としてはフィリスは杖、『ドナーストーン』二個、『医者いらず』五個。

リアーネは『医者いらず』三個と、なけなしのお金が少々といったところだ。

『医者いらず』とは薬の名前で、二人とも救急用としていつも持ち歩いていたのだ。

その効果は本来なら僅かなものであるが、錬金術の腕を上げたフィリスにかかればその効果もより高いものがつくれるのだ。

簡単に作れるうえ服用もすぐにでき、その効果もそれなりのものであるため、『医者いらず』は二人の旅の必需品となっていた。

 

「武器は『ドナーストーン』とフィリスちゃんの杖だけね。弓じゃなくてもせめて剣があれば私も戦えるんだけど…」

 

「大丈夫だよリア姉。ここでは私がリア姉を守ってあげるから」

 

「フィリスちゃん…」

 

大好きな妹の言葉に目を潤ませるリアーネ。

そんなリアーネに困ったような笑みを浮かべるフィリスはふと視界の先にあるものに目がいった。

 

「リア姉、あれって街じゃない?」

 

視線の先には壁に囲まれた街が映っていた。

 

「…っホントだわ!でかしたわフィリスちゃん。早速街へと向かいましょう!」

 

街に行けばここがどこだか分かるだろう。

現在地がわかればテントのあるライゼンベルグまでの道のりも分かるかもしれない。

微かな希望を得た二人は街に向かって歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこは一言で言えば活気にあふれた街だった。

ひっきりなしに行き交う馬車、多くの店が立ち並ぶ商店街には子供からお年寄りまで実に多くの人々が美しい街並みを彩っている。

頑丈な鎧で身を固める人や、短剣を腰に刺し動きやすい軽装になっている人など、明らかに戦闘用の服装をしている人も多かった。

 

「すごい…、ライゼンベルグよりも広いかも…」

 

フィリスはその見慣れない光景に呆気にとられていた。

通常、街中で武装している人などほとんどいない。

それこそ、旅人や傭兵といった人達だけだ。

それなのにこの街では武装が当たり前と言わんばかりに、あちこちで様々な金属光沢が放たれていた。

当然それだけではなく、店で売られている物も半数以上が見たことの無いものであった。

おそらくこの地方では当たり前の商品なのだろうが、それでも錬金術士であり様々な植物や鉱石などの材料となるものに精通するフィリスでさえ知らないものがこれ程あるのだ。

それはまさに見慣れない光景であり、異様であった。

 

「フィリスちゃん。気持ちは分かるけど、まずは色々聞き込みをしないと」

 

フィリスの思惑を察したリアーネはそうフィリスに諭した。

 

「あ、うん。そうだね。あのー、すいませーん」

 

我にかえったフィリスは早速近くを通りかかった女性に話しかけに行った。

その様子を優しく見守るリアーネは、ホッと息をついた。

 

「不安なのは今でも変わらないけど、フィリスちゃんと一緒ならなんだって乗り越えられそう…」

 

女性と喋るフィリスを見てリアーネは気づかないうちにそう零していた。

リアーネが感慨に浸っていると、女性と話し終えたのか、フィリスがトテトテと戻ってくる。

 

「り、リア姉どうしよう⁉︎やっぱりここがどこだか分かんないよ⁉︎」

 

……………前言撤回、不安しかありません_______と。

 

リアーネは密かにそう思ってしまった。

 

「どこだか分からないって…どういうこと?」

 

とりあえずは事情を聞くリアーネ。

 

「えっと、この街はアクセルっていうらしいんだけど、アクセルなんて街聞いたことないでしよ?それで次に、ライゼンベルグとかエルトナとか、私たちの知ってる街がどこにあるかも聞いたんだ。でも、どこも知らないって言われて…」

 

「私達はこの街を知らなくて、向こうも私達の街を知らない…。確かにこれじゃどこにいるか分からないわね。とりあえず、ここの見聞院に行ってみましょう。あるか分からないけれど」

 

そう言って街を練り歩く二人の少女。

見知らぬ土地でも二人の少女の華が衰えることはなく、すれ違う人々の何人かは振り返り彼女達を眺めていた。

が、そんな視線には全く気付かないフィリスとリアーネは街中をどんどん進んで行く。

と、その時。

 

ドン!

 

道を曲がった所で人にぶつかってしまった。

 

「す、すいません!えと、大丈夫ですか?」

 

咄嗟に謝り相手の安否を確認するフィリス。

 

「ごめんなさい。少し急いでいたもので…」

 

リアーネも共に頭を下げる。

二人にぶつかった少女は手を振り「いいよ」と答える

 

「いやぁー、こっちこそごめんね?少しよそ見をしててさ。私は大丈夫だけど、そっちも怪我はない?」

 

そう優しく言ってきたのは銀髪の少女だった。

短くカットされたその髪は光を反射して美しく輝いており、中性的なその小さな顔には右頬に一筋の傷がついていた。

服装は非常にラフな格好をしており、露出されているその肌は、シルクのように美しい。

 

「はい、私達も大丈夫です。あの、お名前を伺っても宜しいですか?あ、私はリアーネと言います。こっちの可愛い子は私の妹のフィリスちゃんです」

 

「ちょっ、ちょっとリア姉…」

 

フィリスは可愛いと言われて照れているようだった。

 

「あはは、二人とも仲が良いんだね。私はクリス。冒険者をやっていて職業は盗賊だよ」

 

「「盗賊⁉︎」」

 

銀髪の少女、クリスの職業を聞いて驚愕する二人。

しかし当の本人はあっけらかんとしている。

それだけではなく、街の人たちも何も気にする事なく素通りして行っている。

 

「あ、あの、盗賊ってどういう事ですか?」

 

「いやそんなヒソヒソ声で話さなくても…」

 

街の人たちに聞かれないようにするためか、急に声を小さくしたフィリスにクリスは苦笑を浮かべる。

 

「盗賊っていうのは職業の一つなんだよ。冒険者となった人は自分の好きな職業を選択できるんだけど、私はその中でも盗賊を選んだんだよ。あ、もしかして冒険者について何も知らない?」

 

コクコクと、クリスの問いかけに頷くフィリス達。

 

「そっか、それじゃあ少し説明するね。まず、冒険者っていうのは一つの仕事みたいなものなんだ。最初に冒険者ギルドに行って登録すればだれでも冒険者になれるよ」

 

クリスの話を熱心に聞くフィリス達。

いかんせんこの地域について何も知らないため、どんな情報だろうと今の彼女達には必要なのだ。

 

「さっきも行ったけど、冒険者には職業があるんだ。前衛職の戦士や後衛職の魔法使い、サポート役としてはプリーストとかね。ちなみに冒険者はギルドが斡旋するクエストから自分に見合ったものを受けて、その報酬で生計を立ててるんだ」

 

「それで、その職業のうちの一つが盗賊ってわけね」

 

「うん、そうそう」

 

クリスはリアーネの言葉に頷いた。

 

「でも、冒険者っていうのが仕事だなんて、そんなの初めて聞いたよ」

 

フィリスの知っている冒険者に近い職業と言えば、傭兵といった所だろう。

しかし傭兵は雇われて初めてその仕事が成り立つ。

逆に言えば、『誰か』に雇われない限り彼らは食べて行くことができないのだ。

冒険者のように『自分』でクエストを選ぶことができない所を考えると、やはり傭兵と冒険者は違う職なのだろう。

そんな事を考えていると、ふとクリスはフィリスとリアーネの顔を覗き込み。

 

「ねぇ…、二人とも冒険者になってみない?」

 

そんな事を言ってきたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すごい…大きな建物だぁ…」

 

クリスに連れられ冒険者ギルドの前までやってきたフィリスは、その規模の大きさに圧倒されていた。

太陽は傾き空が赤く染まってきているが、まだ酒を飲むには早い時間だろう。

にも関わらず漂ってくるは酒の香り。

外にいてなお鼻腔をくすぐる香辛料の香りは、中に足を踏み込んだ瞬間さらに強くなり、食欲を湧き立たせた。

ギルドの中ではそれはもう多種多様な人たちが酒だ飯だと楽しそうにガヤガヤ騒いでいた。

 

「そう言えばアングリフさんもたまに酒場でこんな風に騒いでいたっけなぁ」

 

アングリフとはフィリスの知り合いの傭兵の事である。

フルスハイムの酒場で最初にアングリフ会った時、彼は五千コールで雇ってくれないかと言ってきたのだ。

 

「アングリフさんとは最初、よく喧嘩したっけ」

 

リアーネは懐かしむようにそう言う。

リアーネは最初、アングリフがフィリスに何かしたり悪影響を及ぼすのではないかと危険視しており、アングリフが何かやらかす度に突っかかっていたのだ。

が、共に旅を続けるうちにリアーネもアングリフが思ってた人と違うと次第に認め、最後にアングリフと別れた時にはそれなりに仲が良くなっていた。

 

「二人とも、どうしたの?受付はこっちだよー」

 

アングリフの事を思い出し懐かしんでいる二人にクリスは呼びかける。

その声を聞いて入り口で立ち尽くしていた二人は再び歩き出す。

受付カウンターの前まで来るとそこには、一言で言えば金髪巨乳のお姉さんが出迎えてくれた。

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ。私はこのギルドの職員のルナと申します。今日はいかがなされましたか?」

 

そう言って柔らかな笑みを浮かべるルナ。

彼女は非常に胸元の空いた服装をしており、そこから見える谷間は同性であるフィリスもついつい視線が言ってしまう程だった。

 

「この二人の冒険者カードを発行して欲しいんだけど」

 

冒険者カードとは冒険者にとっての身分証のようなもので、このカードを発行する事で晴れて冒険者となれるのだ。

 

「分かりました。それでは登録料をお願いします」

 

「え?登録料?」

 

フィリスは困ったように聞き返す。

お金はドンケルハイト(木彫り)を買うのにほとんど使ってしまい、残ったお金をこれ以上無駄遣いしないようにとリアーネに言われ、全てリアーネに預けてある。

しかしその額もライゼンベルグで宿を取れない程少ない。

 

「あの、これで足りますか?」

 

リアーネはとりあえず手持ちのお金を全て出す。

そのお金をルナは、奇妙なものを見るような目で見つめる。

 

「これは…なんですか?」

 

ルナのその言葉に嘆息をつくリアーネ。

しかし次にルナが発した言葉はフィリスとリアーネを驚愕させた。

 

「見たことのない硬貨ですね…。これはダンジョンで見つけてきたのですか?」

 

「「っ⁉︎」」

 

こんなお金は見たことがない_______と。

 

確かにルナはそう言ったが、じゃあ登録料とは一体何を指しているのだろうか。

使われる通貨が違うとは、一体どれほど遠い地なのだろうか。

そもそもリアーネの知識では『コール』が世界共通の通貨であり、それ以外のお金なんて聞いた事がなかった。

ルナの発言を訝しむ二人に対して、クリスは困ったような表情である事を告げた。

 

「えっとね、その硬貨みたいなのが何なのか分からないけど、この世界の共通通貨は『エリス』っていうお金なんだ」

 

右頬を掻きながら少し照れたようにそう言うクリスは、ふとポケットから硬貨を数枚取りだした。

それは、今度はフィリス達が知らない硬貨だった。

 

「これがエリスという単位のお金だよ。 因みにこの手にある分で、ちょうど二人分の登録料だよ」

 

そう言ってクリスはその硬貨をそっとカウンターに置く。

 

「これで二人の冒険者カードを発行してください」

 

「えぇ⁉︎そんな悪いですよ!私たちの登録料は私たちで何とかしますから!」

 

リアーネのその言葉に、クリスは首を横に振る。

 

「冒険者にならないかって誘ったのは私だしね。それに自分達でどうにかするって言ってもどうやって工面するつもりなのさ?」

 

「そ、それは…」

 

クリスに遠慮してあんな事を言ったリアーネだったが、どうするかまでは考えてはいなかったのか、何も答えられなかった。

 

「リア姉、ここはお言葉に甘えようよ」

 

フィリスはクリスの提案を享受することにしたようだ。

確かに現状としては分からない事だらけであり、おまけに統一されて万国共通の通貨となっているはずの『コール』が使えないときた。

これは明らかな異常事態であり、そもそも共通通貨が二つあるというのはとんだ矛盾である。

こんな状況ではもはや遠慮などしている場合ではなく、誰かに縋り付くほか道はなかった。

 

「そうね…そうしましょうか」

 

_______フィリスちゃんの方が私よりしっかりしているのかもね。

 

リアーネはそんな事を思っていた

彼女はしっかり者ではあるのだが、それ故にクリスの厚意を無為にする所だった。

きっとここでクリスの申し出を断っていたら、それこそ八方塞がりとなり酷い事になるだろう。

フィリスが居てくれてよかったという思いはより一層強くなった。

………まぁフィリスが錬金術を失敗しなければこんな事にはならなかったのだろうけれど。

 

「それではこちらの装置にお一人ずつ手を添えて下さい」

 

いつの間にどこからか謎の装置を取り出していたルナに促されるがまま、フィリスは装置に手を添えた。

するとその装置は幻想的な淡い光を放ちながら、カードに文字を刻んでいく。

その後リアーネも装置に手を添える。

やはり装置は美しい光を放ちながらカードに文字を刻む。

 

「はい、ありがとうございます。えぇと、フィリス・ミストルートさんに、リアーネ・ミストルートさん…ですね。お二人の能力は……すごい…。お二人とも中々のステータスですよ!」

 

カードにはその人の名前や職業だけでなく、その人の能力値まで記載されるのだ。

 

「え?私たち、そんなに凄いんですか?」

 

フィリスは目を輝かせながら問う。

 

「はい!フィリスさんは知力、魔力、器用さのステータスが非常に高いです。リアーネさんは全体的にステータスが平均値を超えており、その中でも敏捷と運は抜きん出ています!」

 

ルナは興奮気味にそう言う。

きっとここまでの高ステータスは中々居ないため、珍しくて上気しているだけだろう。

 

尚、のちに彼女がある一人の女のステータスを見て更に驚愕する事になるのは、また別の話である。

 

ルナは未だ興奮冷めやらぬといった感じで、だが落ち着いた声音でフィリスとリアーネに職業はどうするのかと聞いた。

 

「職業かぁ…。そう言えば何にも考えていなかったなぁ。そもそもどんな職業があるか分かんないし」

 

そう言ってフィリスが頭を悩ませていると、ふとリアーネはクリスに職業について聞いていた。

 

「あの、クリスさん。私、弓をよく使うんですけどいい職業とかないですか?」

 

どうやらリアーネは、自分の得意とする事に最も近い職業に就こうとしているようだ。

 

「弓だったらアーチャーっていう職業があるよ」

 

「じゃあそれでお願いできますか?」

 

リアーネはそう言ってルナに頼む。

 

「アーチャーですね。分かりました。それではこれより貴方は冒険者です。今後の活躍に期待しています」

 

ニッコリと微笑みリアーネに冒険者カードを渡すルナ。

その様子を見ていたフィリスも自分にあった職業に気付いた。

 

「クリスさん、確かプリーストって味方のサポートが出来るんでしたよね?」

 

「うん、そうだよ。味方の傷を癒したり状態異常を回復させたり出来るんだ。因みに上級職のアークプリーストになれば、前衛に出ても戦えたりするんだよ」

 

「じゃあ私、アークプリーストになります‼︎」

 

そう意気込むフィリスだったが、クリスとルナは困った表情を浮かべる。

 

「アークプリーストになるには、筋力などのステータスが少々足りませんね…。あぁでも、レベルを上げて強くなればすぐにアークプリーストにもなれますよ」

 

そう言ってルナが渡してきたカードには、職業欄のところにプリーストと文字が刻まれていた。

 

「そうですか…。でもレベルを上げるってどうやるんですか?」

 

ふとフィリスは疑問に思ったことを聞いた。

 

「その辺のことも含めて、今から少し説明しますね。まず、冒険者というのは我々ギルドが斡旋するクエストを受け、その報酬で生計を立てていきます」

 

ルナは冒険者についての説明をしだした。

尚、ここまではクリスから聞いた内容と同じである。

 

「冒険者は魔物を倒すか、食材を食べる事によりレベルを上げることが可能です。レベルが上がるとステータスが上昇します」

 

つまりレベルを上げれば上げるほど強くなれるというわけだ。

 

「それからその冒険者カードについてですが、そこには倒した魔物の記録が自動的に記載されていきます。また、スキルの習得もそのカードで行うことができます」

 

「スキルの習得?」

 

ルナの発言に首をかしげるフィリス。

そんなフィリスの疑問にルナはすぐに答えてくれた。

 

「はい。それぞれの職業には、その職業に見合ったスキルが存在します。そのスキルを習得する際に用いるのがそのカードです。スキル習得にはスキルポイントというものが必要になってきます。なお、レベルを上げる事によりスキルポイントを得ることができます」

 

ルナの言う事に成る程とフィリスとリアーネは頷いた。

 

「以上が冒険者についての大まかな説明です。それではこれより、あなた方が人々の為に良き冒険者となることを職員一同願っております」

 

そう言って優雅に一礼するルナ。

こうしてフィリスとリアーネは冒険者となり、クリスと共にギルドを後にした。

ギルドの外に出ると、それは空が赤から黒へと移り変わろうとしている頃であった。

上を見上げると既に無数の星が見えており、いずれもが美しい光を放っていた。

 

「二人とも、ついてきてくれる?」

 

クリスはそう言うと二人が付いてきているかも確認しないで人混みをかき分け、スイスイと歩いていく。

 

「…?どうしたのかな?」

 

「分からない…けど一応警戒はしときましょう」

 

そう言ってフィリスとリアーネもクリスの後を追う。

短い間ではあったが、クリスが悪い人間ではないと言うことは既に分かってはいる。

だが会ったばかりの人をそう簡単に信用できるわけでもない。

そう思い警戒を続けるリアーネだったが、それもすぐに杞憂に終わる事となった。

 

「ここは…宿?」

 

クリスに案内された場所は宿であった。

 

「ここの宿は安いし料理も美味しいから私のお気に入りなんだよね」

 

そう言って宿の中に入り、カウンターで何やら話し込むクリス。

そして話が終わったのか、再びこっちに戻ってくる。

 

「とりあえず君たちの三日分の宿代を出しといたよ。あとこれは今日の晩の食費ね」

 

そう言って部屋の鍵と未だ見慣れない硬貨を渡してくるクリス。

彼女は登録料だけでなく、宿まで代わりにとってくれたようだ。

 

「あの、ご厚意は有り難いのですが、何故そこまでしてくれるんですか?」

 

「さぁ、なんでだろうね。何というか君たちのことは放っておけないんだよね。それだけの理由じゃダメかな?」

 

リアーネの警戒する声に困ったように対応するクリス。

クリスの返事を聞くと同時、警戒を徐々に緩めてリアーネは謝罪と感謝を伝えた。

 

「疑ってしまって悪かったわ。ごめんなさい。そして、ありがとうございます、クリスさん」

 

その言葉を受けてクリスは照れた笑いを浮かべながら反応する。

 

「き、気にしなくていいよ。それより今日はもう遅いし休んだほうがいいよ。あ、あと明日は朝起きたら冒険者ギルドに来てくれないかな。また君たちと会いたいんだ」

 

そこまで言うとクリスは「またね」と言ってどこかへ去ってしまった。

それを見送ったあとフィリス達はクリスがとってくれた部屋まで向かった。

 

 

 

 

「それにしてもクリスさん。良い人だったね!」

 

部屋の中へと入り、腰を落ち着けたフィリスは今日の出来事を思い返しながら言った。

ドンケルハイトの偽物を使ってしまったことで錬金術に失敗し、気がついたら全く知らない土地で目が覚めて。

手がかりも何もないまま近くの街まで来てみたもののどうすれば良いのか分からなかった。

そんな中出会ったクリスは、フィリスとリアーネにとても親切にしてくれた。

冒険者カードを発行してこの土地でもクエストを受けて生活できるようにしてくれて、登録料も払ってくれて、宿までとってくれて。

まるでフィリス達が困っていることを既に知っていたかのように現れた彼女は、フィリス達のために一生懸命であった。

 

「クリスさんがいてくれなかったら私達、今頃この街の隅っこでうずくまっていたかも知れないわね」

 

それほど二人にとって、クリスの存在は大きいものだった。

 

「ねぇ、リア姉。ここがどこだかよく分からないし、手がかりも何もないしさ、明日またクリスさんに会いにいかない?」

 

「ふふっ、そうね」

 

その後フィリスとリアーネは宿の一階にある食堂へ降りて食事を済ませたあと、再び部屋へ戻った。

部屋の電気を消し、ベッドの中へ入ったところで突然、コンコンと窓を叩く音が聞こえた。

 

その時ふとリアーネはとある異変に気付いた。

 

二人が泊まっているこの宿は二階建てとなっており、一階は受付や食堂、休憩室などがあるが、宿泊部屋に関しては二階にあるのだ。

 

聞こえて来たのは『二階』の窓を叩く音。

 

ベランダ等の足場があるという訳ではない。

普通の事ではないのは確かだった。

フィリスもその事実に気付きはしていないものの、音自体には気付いたのかベッドからゆったりと体を起こした。

 

「どうしたんだろう?誰か用かな?」

 

そう言って不用心に窓へと近づくフィリス。

 

「…っ⁉︎フィリスちゃん駄目っ‼︎」

 

それは盗人か、はたまたいたずらか。

様々な推測がリアーネの中でなされたが、そのいずれもがロクでもないものでしかなかった。

だがリアーネの危惧している事にも気づかず窓を開け放つフィリス。

その瞬間風が部屋の中へと入り込み。

 

「こんばんわ、フィリスさん。リアーネさん。少しお時間よろしいですか?」

 

振り返るとそこには、同性であるフィリスとリアーネでさて見惚れてしまうほど美しい、女神のような女性が柔和な笑みを浮かべいた。




アングリフ…ゲームで五千コール支払えば仲間になってくれる老戦士。強い

ドナーストーン…錬金術でつくれる爆弾の一種。雷の爆弾とか聞いた事ないんだが

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