少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

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遅くなってしまい本当に申し訳m(_ _)m
センター、二次共に無事終了致しましたので久々に執筆致しました。
決して失踪していた訳ではございませぬ。
本当に久々の執筆でしたので、誤字、脱字、駄文に更なる磨きがかかっていると思いますが、何卒温かい目で見守っていただければ幸いです。

あぁ、あと余談ですが今回は特にリアーネが活躍します。
これを読んでくれているシスコンお姉さん属性が大好物なそこの君、存分に楽しむといい(自惚れ)


十三話 (強引に)森林探検隊

「クリエイト・ウォーター!」

 

呪文を唱えると、リアーネの掌の前の何も無い空間から綺麗な水が出てきた。

その水はフィリスの前に置かれている空のグラスに注がれていき。

 

「フリーズ!」

 

再びリアーネが呪文を唱えると冷気が走り、グラスと水を程よい冷たさにする。

水を凍らせてしまわないように魔力量を調整しながら冷やしていく。

フィリスはそのグラスを手に取り、ひんやりとした水を口の中へと流し込む。

その水は飲めるほど清潔であり、実際に口にするとその純度の高さが伺えた。

フィリスはグラスをテーブルに置き、満足そうに頷く。

 

「うん、これいい感じだね!」

 

側でその様子を見ていたクリスも感心したように眺めている。

 

「いやー、初級魔法を使いこなしてるね。すごいよリアーネ」

 

フィリスとクリスから賞賛の声を貰ったリアーネは、だがどこか不服そうに自分の掌をジト目で見つめ。

 

「なんか、思ってたのと違う………」

 

深いため息をつくのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リアーネが初級魔法を習得した発端は、彼女がアーチャーからウィザードへと転職した所にある。

出来ることより出来ないことを習得しようという発想により、呪文の類が使えなかったリアーネはウィザードへと転職したのだ。

そうして新しくなった冒険者カードのスキル欄を覗くと、そこには初級魔法の文字が。

迷わず初級魔法を習得したリアーネは、早速その威力を試そうとし、そして……、

 

「初級魔法は普通覚えない、覚えるだけ無駄って……どうしてその事を早くに言ってくれなかったんですか?それを知ってればスキルポイントを温存したのに……」

 

初級魔法は実戦では大して役に立たないスキルである事を知ったリアーネは不満げにぼやいた。

 

初級魔法の習得により使えるようになる魔法は五つだ。

各種属性の元素を出すことができ、その量は魔力量を調整する事によって制御可能だ。

しかし、その何れもが初歩的なものであり威力は大したことはない。

現実的な使い道としては日常生活が少々楽になるのと、畑などで作物を育てる際に使われる場合が多いだろう。

詰まる所、世間一般では実戦ではまず使う事のないスキルであるとされているのだ。

 

しかしリアーネ達もこの世界に若干慣れてきたとはいえ、まだまだ来てから日は浅い。

そのような常識など知るはずもなく、習得してしまった今となっては後の祭りである。

 

「はぁ……、早くレベルを上げてポイントを貯めて中級魔法を覚えたい」

 

目に見えて落ち込むリアーネにフィリスは咄嗟にフォローを入れる。

 

「で…でもリア姉、確か『クリエイト・アース』って魔法が使えたでしょ?あれって結構錬金術にも使えたりするかなー…なんて思ったりするんだけど」

 

「あら、本当?必要な時はいつでも言ってね♡魔力切れを起こしても生産し続けるから♪」

 

「さ、流石にそこまで無理しなくてもいいよ……」

 

シスコンのリアーネにはフィリスのフォローは効果てきめんだったようだ。

 

「アハハ……まぁ確かに実戦ではあんまり使えそうにないし、なんならレベル上げでもしに行こうか?」

 

クリスはリアーネの態度の豹変ぶりに若干苦笑を浮かべつつもそう提案してくる。

 

「え?良いんですか⁉︎」

 

クリスのその提案はリアーネにとって願ってもない提案だったようで、すぐに食いついた。

 

「うん。それで何を狩ろうか?」

 

「うーん…何か経験値がいっぱい入るようなモンスターとか知りませんか?」

 

「経験値が多い敵かぁ…」

 

と、クリスとフィリスが二人で相談をする中。

 

「そうねぇ、初心者殺しとかどうですか?」

 

「「………え?」」

 

リアーネの唐突な提案に対し、フィリスとクリスはなんとも間の抜けた声をだした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「森への立ち入りを禁止しているって……どうしてですか⁉︎」

 

「いえ……ですから先程も申しましたように、初心者殺しに加えて上位悪魔まで森に潜んでいるとの事なので、調査が終わるまでは森へは入らないでください」

 

「そんな……」

 

ゴブリン狩りのクエストを受けようとルナに話しかけたリアーネは、早速出鼻を挫かれていた。

 

 

_______正直、初心者殺しを倒すなんて訳ないと思っていた。

 

 

前回リアーネが初心者殺しと遭遇した時……その時はめぐみんの爆裂魔法の爆風に巻き込まれていたにもかかわらず、リアーネは一人で初心者殺しに勝てそうだったのである。

万全の状態で、尚且つ3人がかりならまず勝てるだろうというのがリアーネの思惑であり。

そうなれば初心者殺しはゴブリンやジャイアントトード等よりも経験値を得やすいのである。

 

それ故にその事を聞いたフィリス達もその提案を受け入れたのだが……。

 

「調査が終わるまで森に入れないなんて……」

 

フィリスもリアーネ同様肩を落とし。

 

「悪魔滅べ悪魔滅べ悪魔滅べブツブツブツ………」

 

クリスに至っては変なスイッチが入っていた。

 

「調査……調査…………っ!あのっ、その調査の事なんですけどっ⁉︎」

 

未だ諦めきれていないリアーネはまた何かを閃いたようで、受付カウンターに身を乗り出してルナに詰め寄る。

 

「きゃっ!……あの、何か……?」

 

「その調査って、誰がやるんですか?」

 

「誰って……王都から腕利きの冒険者が派遣されますので、彼らに調査をして貰って……」

 

「なら調査をするのは冒険者で構わないんですよね!」

 

リアーネはルナの言葉に半ば食い気味に反応する。

 

「え、えぇ……そうなりますね………」

 

ルナは完全に押されながらも反応する。

そしてリアーネは、そんなルナの言葉を聞き届けると。

 

「なら………私たちが調査をしても、構わないですよね」

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

またも突飛な発言をするリアーネに対し、その場にいた三人は再びなんとも間の抜けた声をだした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「驚いたよ。まさかリアーネがあんなにもアグレッシブだったなんてね」

 

「リア姉は偶に頑固になるからね〜」

 

森の草木を掻き分けて進むリアーネの後について行くクリスとフィリスは、リアーネの行動力に感嘆の声をあげていた。

 

初心者殺しには絶対に負けないとリアーネが必死のアプローチをしたのが功を奏したのか。

はたまた万一悪魔と遭遇してもやられる事はないと訴えかけたのが良かったのか。

何れにせよ最終的にリアーネに根負けしたルナは「絶対に無理だけはしないで下さい」と言って三人が調査として森へと入る事を許可したのだ。

 

その時の事を思い浮かべながらフィリス達がそんな事を呟くと。

 

「あら、そうかしら?……それはきっとフィリスちゃんの頑固さが移ったのかしらね?」

 

微笑を浮かべながら反撃するリアーネ。

 

「えー、そんなことないよ?」

 

「あるわよ。お外に憧れたその日からお外に出れるまで毎日扉の前まで来たり、フルスハイムで船が出せないって言われてるのに錬金術で何とかしようとしたり、最近だってアトリエテントを作るためにって突然旅に出たり……」

 

「そ……そうだったっけ………」

 

心当たりが無かったフィリスは、リアーネから具体的な例を挙げられ色々思い出したのか、明後日の方向を向いてとぼける。

 

「あはは、やっぱり二人は姉妹だね」

 

クリスは目の前で展開される二人のやりとりを微笑ましく見つめていた。

 

「夜が更けるまでお外の話をさせられたり、そのまま空を見に行くのに付き合わされたり、お菓子を作って欲しいと駄々を捏ねたり……」

 

「リア姉もうやめて⁉︎昔のことはもういいでしょっ⁉︎」

 

尚も続くリアーネの猛攻に、フィリスは顔を真っ赤にし若干涙目になりながら訴える。

 

……因みに今リアーネが言ったことに関してだが、リアーネはフィリスの頼みを嬉々として受け入れていたことは言うまでもない。

 

「さ、二人とも。もうすぐでゴブリンの目撃情報があった場所に着くよ」

 

クリスがそう言って二人に注意を促すと、リアーネも周囲を警戒し、いつでも動けるように構える。

と、そんな中フィリスは未だその頬を朱に染めながらも無言で鞄をゴソゴソと漁り出す。

 

「_______っ⁉︎リアーネあそこっ!」

 

どうやらクリスはいち早くゴブリンの群れを見つけたようで、その視線の先の存在をリアーネに知らせる。

それを受けリアーネは矢筒から数本矢を取り出し、一本を番えて、残りの矢は右手の小指と薬指だけで握るようにして弦を引き。

その状態でゴブリンの群れを目視、ゴブリンの数を数えつつ、最も近いゴブリンに狙いを定める。

 

「まだこっちに気づいてないようね……。数はおそらく十四、一番近い奴を狙います」

 

「オーケー。今回はリアーネのレベル上げが目的だから、ここから倒せる奴は全部やっちゃって。撃ち漏らしや対処しきれない分はあたしが引き受けるよ」

 

「はい、それと初心者殺しも近くにいないか警戒をお願いします」

 

臨戦態勢の状態でリアーネとクリスは意思疎通を取ると、予定通りリアーネは三人に一番近いゴブリン目掛けて矢を放った。

距離おそよ三十五メートル、途中草木などの障害物もある中、放たれた矢は真っ直ぐに、まるで吸い込まれるようにゴブリンの眉間を貫いた。

それを皮切りにゴブリン達も敵の存在に気づいたようだ。

 

「次っ!」

 

ゴブリン達が向かってくる中、リアーネは早くも矢を番え始める。

が、そんなリアーネのすぐ脇を通り過ぎる影があった。

 

それは_______

 

「えっ⁉︎」

 

「フィリスちゃんっ⁉︎」

 

クリスとリアーネが驚愕の声を上げる中、御構い無しにリアーネより少し前に躍り出ると。

 

「てぇぇぇい!」

 

距離およそ十メートルを切るかどうかのところで鞄から取り出していたそれを投げつけ……。

 

 

ボォォォォォォォォォン‼︎

 

 

ゴブリン達の足元で盛大に爆発したのは『フラム』であった。

そのまま凄まじい熱気と爆風がゴブリン達を吹き飛ばし、黒煙が晴れる頃にはゴブリン達は無残な姿で地に伏していた。

 

「「あ……………」」

 

クリスとリアーネが呆気にとられるなか、フィリスは思い切り伸びをし。

 

「あ〜、スッキリした〜!」

 

なんとも晴れやかな面持ちでそう叫んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやさぁ、リアーネのレベル上げはどうするのさ?」

 

「えへへ……つい」

 

「笑顔で誤魔化さないでよ⁉︎」

 

リアーネに過去の事を掘り返されたフィリスは、気晴らしのためフラムでゴブリンを吹き飛ばした。

それはもう直前のリアーネとクリスの打ち合わせを見事にガン無視した行動だった。

 

「フィリスちゃんフィリスちゃん、今のでどれくらいレベルが上がったの?」

 

「ええと……、わっ!レベルが一気に二も上がってるよ!」

 

因みに、ゴブリン達と遭遇する直前でのフィリスとリアーネのレベルは若干フィリスの方が高く。

つまり……もしあのゴブリンの群れをリアーネが全て一人で倒していたら、リアーネのレベルも最低でも二は上がっていただろうという事になり。

 

「その分の経験値がリアーネに入ってたら、中級魔法まで一気に近づくのに……。リアーネからも何か言ってやってよ」

 

「良かったわね、フィリスちゃん。それにあの数を一発で仕留めるなんて、やっぱりフィリスちゃんの作るアイテムは頼りになるわ。流石は私の自慢の妹ね♪」

 

「なんで褒めてるのさ⁉︎何か言ってやってとは言ったけど、そういうのじゃないんだよ⁉︎」

 

妹にデレデレな姉の姿にクリスは嘆息する。

が、そんなクリスをよそにフィリスとリアーネのやりとりは続く。

 

「でもごめんね、フィリスちゃん。フィリスちゃんとの事を色々と言ってたら段々懐かしくなって、つい止まらなくなってしまったわ」

 

「ううん、私の方こそごめんなさい。ちょっと気恥ずかしくなっちゃって、リア姉が倒す予定だったのについ横槍を刺しちゃって」

 

「いいのよ、別に。本命は飽くまで初心者殺しなんだから。それにさっきの動き凄く良かったわ。フィリスちゃんの成長を感じられて嬉しかったわ」

 

「……………」

 

クリスは目の前で展開される二人のやりとりを前に、最早何も言わなくなっていた。

 

「さて、それじゃあ次は本命の初心者殺しかしらね」

 

フィリスとのやりとりを終えたリアーネは再び周囲を警戒しだす。

それにならいフィリスも辺りを見回し、クリスも諦めたように気持ちを切り替え、ダガーを構える。

 

「…………」

 

「……………」

 

「………………………」

 

……だが、初心者殺しが出てくる気配は一向になかった。

 

「もしかして、さっきの爆発で逃げたのかな?」

 

「確かにその可能性はあるけど、こないだ私が初心者殺しと遭遇した時は、多分爆発におびき寄せられての遭遇だと思うわ。だからさっきの爆発ぐらいじゃ警戒させるだけで逃げたりはしないんじゃないかしら?」

 

「でも仮に逃げてなかったとして、寧ろそっちの方が厄介かも。敵に手の内を晒して警戒させちゃったんだからね」

 

「うっ……」

 

フィリスの疑問にリアーネが応じ、クリスがそれに相槌をうち、その相槌を聞いてバツが悪そうにそっぽを向くフィリス。

と、偶々フィリスがそっぽを向いた先の茂みにて。

 

ガサガサッ!

 

「_______っ⁉︎何か動いた!」

 

「「⁉︎」」

 

フィリスが声を上げながら視線の先を指差し、リアーネとクリスは咄嗟にその方向へと体を向ける。

リアーネが敵を牽制するべく矢筒から矢を取り出した瞬間。

 

「グラァァァァァァ‼︎」

 

物凄い()()()を上げながら茂みの中からそれは飛び出してきた。

真っ黒な体毛に覆われた巨躯、あらゆる物を噛み砕いてしまいそうな牙。

紛れもなく、それは初心者殺しであった。

 

初心者殺しとの距離はおよそ二十メートル。

だが、その程度の距離など無に等しいと言わんばかりに猛然と()()()ながら駆けてくる初心者殺し。

 

「はやっ⁉︎」

 

「…………え?」

 

フィリスがそのスピードに驚く中、リアーネはふと気がついた。

最早初心者殺しとリアーネ達とは彼我の距離である、そんな中で。

リアーネはリアーネにしか気づけないことに気づいてしまった。

 

 

もしもこの事に気付かなければ……。

違和感を覚えることがなければ……。

 

 

その時のことを考えて得も言われぬ恐怖を覚えたリアーネは、弦を引き絞ったままくるりと身を翻し。

そんなリアーネの行動とちょうど時を同じくして背後から飛び出してきた()()()の初心者殺しに向け矢を放った。

 

「なっ……二体⁉︎」

 

「嘘っ⁉︎ひゃっ⁉︎」

 

クリスは正面からの初心者殺しの攻撃を躱した際に目に映った光景に驚き、フィリスは正面の初心者殺しをすんでのところでレヘルンで足止めした直後、二体目の存在を知り驚くと同時、リアーネに抱きかかえられ更に驚きの声を上げる。

リアーネはというと、矢を喰らって一時的に自制がきかなくなり直前の勢いのままリアーネ達のいた場所へ突っ込んで来る初心者殺しを躱すべく、フィリスを抱きかかえそのまま横っ跳びに回避した。

 

結果、レヘルンで床を凍らされ足を滑らした一体目の初心者殺しに、背後から襲いかかって来た初心者殺しが突撃する形になった。

 

その様子を見たリアーネはホッと安堵する。

 

リアーネだけが気づけたこと……それは、正面から来た初心者殺しが、過去に自分が対峙したそれとは()()()であるということだった。

 

 

リアーネが先日相手にした初心者殺しは、リアーネの攻撃によって相当な深手を負っていた。

が、正面から来た初心者殺しにそんな傷は見られなかった。

いくら強い魔獣とはいえ、あれほどの傷がこの短期間で治るとは考えにくい。

考えられるとしたらそれはやはり別個体。

なら先日の初心者殺しは果たしてどこへ行ったのか。

そもそも初心者殺しは狡猾なモンスターである。

そんな相手が自らの位置を知らせるかの如く、雄叫びを上げながら突進してくるだろうか。

狡猾で奇襲などが得意な初心者殺しなら通常そんな事はしない。

なら何故雄叫びを上げたのか……そうすべき()()があったからだ。

例えば、一体の初心者殺しが全力で叫べば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など搔き消す事は容易だろう。

 

 

リアーネがこの事に気づけた全ての要因は、過去に一度初心者殺しと対峙していたからこそだろう。

狡猾ゆえに行動全てに()()があり、一体目が別個体であるとリアーネに見破られた以上、狩人としての直感と咄嗟的な判断の前に初心者殺し達は出鼻を挫かれたのだ。

 

「フィリスちゃん、大丈夫?」

 

「う、うん……ありがとリア姉」

 

そうしてリアーネはフィリスの無事を確認した後、クリスの方へと視線を動かす。

クリスは目の前で展開されたあり得ない光景に未だ圧倒されているようだが、怪我などはなさそうであった。

 

「確証はなかったけど、上手くいって良かったわ」

 

そう、リアーネには確証なんてものはなかった。

もしこの推測が間違っていたとしたら、ただただ一体目の初心者殺しに背を向けるだけの危険行為である。

しかし、それでもリアーネが行動に移ったのは、推測が合っていた場合の方が最悪な事態になるという事、そして一体目に関してはフィリスがどうにかしてくれると()()()()()からだ。

現にフィリスはあの土壇場でレヘルンを有効活用し、見事に初心者殺しの動きを抑えてみせた。

我が愛しの妹の頼もしさを改めて痛感すると共に、リアーネは気持ちを切り替えて立ち上がった。

 

「まさか番だったなんてね」

 

クリスは目の前の状況を次第に飲み込んで来たようで。

 

「番……?」

 

リアーネとフィリスも何故初心者殺しが二体いたのか、その理由についてクリスの一言によって腑に落ちたらしい。

 

「フィリス!リアーネ!畳み掛けるよ!」

 

「「はいっ‼︎」」

 

クリスは二人にそう言うと、二体の初心者殺しへと全力で駆け寄る。

 

初心者殺し達は未だ凍った地面に苦戦しており、尚且つ先程の衝突のダメージもあってか立ち上がるには至っていなかったが、それでも今回新たに現れた方の初心者殺しはもう一体の体にしがみつきなんとか体制を持ち直そうとしていた。

 

クリスは凍っている所と凍っていない所の境界線あたりで全力で跳躍し。

その助走の勢いを利用して前宙、体を大きく捻り遠心力もつけ空中で一体の初心者殺しの背中を切り刻んだ。

そのまま華麗に地面に着地すると、すぐさま横へと飛び退く。

 

そうして立ち上がろうとしていた初心者殺しを切りつけその体制を崩す事に成功、そしてクリスが退いたことでリアーネの射線が空けられる。

 

身動きが取れない初心者殺し達からおよそ十メートル。

クリスが初心者殺しの相手をしている間に距離を取ったフィリスとリアーネは真っ直ぐに初心者殺しの方を向いており、フィリスの両手にはフラムが握られていた。

リアーネは二本の矢を番えた状態で弦を引き絞り、そのままじっと狙いを定めている。

クリスはその俊敏さを活かし初心者殺し達から離れていく。

 

「それじゃあ行くよ、リア姉‼︎」

 

「ええ、お願いフィリスちゃん‼︎」

 

そう短くコンタクトを取ると、フィリスは両手のフラムを全力で初心者殺しへと放り投げる。

かつての世界での旅で磨かれたフィリスの投擲スキルは見事なもので、フラムは狙い違わずそれぞれ初心者殺しへと吸い込まれるように宙を舞う。

 

 

リアーネはその二つのフラムの動きを冷静に見極め……。

 

「今っ‼︎」

 

フラムが初心者殺しに当たる寸前、二本の矢を同時に放つ。

満を辞して放たれた矢はそれぞれのフラムを射抜き、そのまま初心者殺しの体に深々と突き刺さり_______。

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォ‼︎

 

 

寸秒遅れて起爆したフラムの爆炎が、二体の初心者殺しを包んだ。

 

「くっ……⁉︎」

 

爆風から身を守りながらリアーネ達は成り行きを見守る。

それから十数秒がたち、爆風は完全に収まり黒煙も次第に晴れていく。

そうして三人の目に移ったのは、身動き一つしなくなった初心者殺しの姿であった。

 

「……倒した?」

 

「どうかしら……」

 

そんな二人の疑問に答えるかのように、クリスは初心者殺しの元へと駆け寄り、その巨躯に触れた後。

 

「もう動かないみたいだよ」

 

二人に勝利を告げたのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「凄い、レベルが五も上がってるわ!」

 

「ホントだ!これで中級魔法も覚えられるね、リア姉」

 

「いやいや、凄いのはレベル上昇よりもリアーネの方でしょ」

 

リアーネとフィリスが冒険者カードを見て感激している中、クリスは感心したように呟く。

 

「まさかあの数秒で二体目の存在に気づくなんて、リアーネってば一体何者なのさ?」

 

「これでも一応狩人でしたからね」

 

「狩人スゴイね⁉︎」

 

クリスが驚愕する中、リアーネも仕返しと言わんばかりに。

 

「そう言うクリスさんこそ、先程の動きは眼を見張るものがありましたよ。それに私達の作戦も全然言ってなかったのに、ちゃんと意図を汲んでくれたみたいで……凄かったですよ」

 

「うんうん、全然言葉を交わしてなかったのにあそこまで連携できるなんて……すっごいビックリしましたよ!」

 

リアーネの発言にフィリスも同調する中、クリスは首を横に振ると。

 

「いや、あの赤い爆弾はさっきゴブリンに使ってるのを見て効果を知ってたから、初心者殺しの近くにいたら確実にマズい事になるって分かってたからね……。巻き込まれるんじゃないかとヒヤヒヤしたし、寧ろ二人の連携に声を出して驚いてたよ」

 

「あー……」

 

そう言えば爆音で殆ど掻き消されていたが「えぇぇぇぇぇ⁉︎」とかいう声が聞こえた気がしたなぁと、フィリスは先ほどの事を思い出していた。

 

「さてと、それじゃあ目的は果たしたしもうそろそろ戻ろうか?」

 

クリスはフィリス達にそう言うと、くるりと踵を返す。

 

「そうですね。初心者殺しは二体いたけど両方倒して、悪魔とは遭遇できなかった。こんな感じで調査報告すれば良いんですかね?」

 

フィリスもクリスの後を追いながらそんな事を考える。

だがリアーネだけは、二人の後を追わず上空を睨んでいた。

 

「……リア姉?どうしたの?」

 

フィリスが怪訝に思いリアーネに声をかけたその時。

 

 

何かの影が動いた事にフィリスは気づいた。

 

 

クリスもふと立ち止まりリアーネが見ている方向に視線を向け、直後に大きく眼を見開いた。

 

三人の上空、太陽の光を浴びながら悠然とそこで羽ばたく一際大きな存在。

漆黒の体躯、巨大な翼、禍々しい角と牙。

かつてリアーネに大怪我を負わせた上級悪魔、ホーストがその鋭い双眸で三人を見下ろしていた。

 

そのままホーストはゆっくりと地面へと舞い降りて行く。

その圧倒的なまでのオーラにフィリスは気圧され、クリスはまるで親の仇を前にしているかのようにギリギリと上級悪魔を睨みつけている。

そうしてホーストはリアーネの正面へと降り立つと。

 

「リアーネお前っ、もう怪我が治ったのか⁉︎スゲェなおい!」

 

「………へ?」

 

これ程までに異様なオーラを放ちながらも人間味溢れる言葉で話しかけてきたホーストに、フィリスは呆気にとられたように間の抜けた声を出した。

 

「えぇ、まぁね。最もあの怪我を負わせた張本人は貴方なのだけれど」

 

「いやいや、マジ悪かったって……。それにしてもこいつらは……初心者殺しか。二体同時に相手して仕留めるとか、お前さては割りかし強いだろ」

 

自分の姉が悪魔と旧知の仲の様に話す光景が信じられないのか、フィリスは眼をパチクリとさせている。

そんな中クリスはというと。

 

「_______うおっ⁉︎テメェ何しやがる⁉︎」

 

いつのまにか背後へと回り込んでいたクリスは、全力でホーストの背中にダガーを突き刺していた。

 

「っ⁉︎クリスさん駄目‼︎」

 

クリスが再びダガーをささ突き刺そうとする中、リアーネはホーストが動くより前に先に動き、クリスを全力で押さえつける。

 

「離してっ‼︎あの悪魔をぶっ殺さなきゃ‼︎」

 

「落ち着いてくださいクリスさん‼︎今の状態で挑んでも勝ち目はありませんよ‼︎」

 

「うっ……」

 

「フィリスちゃんも手伝って!」

 

「え、う、うん!」

 

リアーネから指示を受けフィリスは背後からクリスを羽交い締めにする。

 

「おいおい、いきなり襲いかかる奴があるかよ。まぁでもお仲間が抑えてくれた様で助かったぜ」

 

貴方もいきなり襲いかかってきたことあるでしょというツッコミをしたかったリアーネだが、今はクリスを押さえつけるのが先決だ。

 

「クリスさん、どうあがいても今は絶対に無理です。近いうち必ず、その時はダクネスさんも一緒にこの悪魔と戦うんですから、今はどうか堪えてください。それとも、ここに三人の屍を積みたいんですか」

 

リアーネはホーストに聞こえない様にクリスの耳元で囁く。

対するクリスは未だ興奮冷めやらぬといった風だが、多少冷静にはなった様で、次第に大人しくなった。

 

「わかったよ、今回は何もしないから」

 

諦めた様に言ったクリスのその言葉に頷いたリアーネは。

 

「良かった……。あ、フィリスちゃん。絶対にクリスさんを離さないでね」

 

「え、うん…分かったよリア姉」

 

「何もしないって言ったじゃん⁉︎何で信用して離してくれないのさ⁉︎」

 

嘆くクリスを他所に、リアーネはホーストに向き直る。

 

「この人エリス教徒なんで、やっぱり悪魔を前にしたらこうなっちゃうみたいです。ざま……いや、ごめんなさいね」

 

「いや、別にそんなに深くは刺さってねぇし、お前らがすぐに取り押さえてくれたから………ん?今ざまぁみろとか言おうとしてなかったか?」

 

「気のせい」

 

ホーストのツッコミに輝かんばかりの笑顔で応じるリアーネ。

そんな悪魔を前にしても強気の姿勢でいる姉にフィリスは密かに戦慄を覚えた。

 

「お、おう……そうか。しかし二連続ですごい爆発が起きてたから気になってきてみたら、お前がいるとはな。驚いたぜ」

 

「あらそう?私は何となく貴方が来るとは分かってたけどね」

 

「……おいおい、上級悪魔を前にしてるってのに随分と余裕だな?俺から言うのもなんだが、もうちょっと警戒とかした方がいいと思うぜ?」

 

「でも貴方の目的は私達を殺すことじゃないでしょ?」

 

「まぁな。あぁ、そういやお前、黒くて大きな魔獣とか見かけたりしたか?」

 

「さぁ?生憎だけど初心者殺し以外にそれらしい魔獣は見てないわ」

 

平然と会話をするリアーネとあの悪魔は一体どの様な関係なのか。

その事を疑問に覚えてきたフィリスだが、ひとまずはじっと見守っていようと改めて思いなおす。

何故リアーネがここまで普通にしていられるのかはフィリスにも分からないが、取り敢えずリアーネに任せておけばこの上級悪魔とは今は戦う事はないだろうと言うことが分かったからだ。

 

 

_______万一悪魔と遭遇してもやられる事はない。

 

 

リアーネがルナにそう言っていた事を思い出しながら、フィリスは事の成り行きを静観する。

クリスもじっと二人の会話を見守っていた。

 

……不服そうな顔はしているが。

 

「しかしまさかこんな所にも初心者殺しがいたとはな」

 

「え?こんな所にもって?」

 

「いやな、ついさっきも別の所で初心者殺しを見つけたんだわ。てっきりウォルバク様かと思ったがな」

 

「初心者殺しがもう一体……」

 

(これもルナさんに報告しといたほうがいいわね)

 

リアーネがそんな事を思案していると、ホーストは。

 

「それじゃあ俺様の探している魔獣は居ないみたいだし、もう行くわ」

 

「あら、もう行くの?もう少しお喋りに付き合って欲しいのだけれど」

 

「お前なぁ……。それで、何が()()()()んだ?」

 

「話が早くて助かるわ。さっき言ってた初心者殺し以外に、あまり見ない様なモンスターとか変わった事とかあるかしら?」

 

リアーネはここ最近森をウロついているであろうこのホーストに、何か知ってる事はないかを聞き出そうとしてみる。

そうする事が実質的に森の調査という仕事に繋がるからだ。

 

「変わった事か、特にはねぇな。これといって特別な奴を見かけたということもないぜ」

 

「そう、残念」

 

しかしホーストから望みの情報は得られなかった。

 

いや、悪魔と初心者殺し以外特に変わった事がないという事実も、立派な調査結果にはなり得るか。

 

聞くことは聞いたからもう帰ろうかとリアーネが考えていると。

 

「あー、じゃあ俺様の方からも良いか?」

 

「何かしら?」

 

「そこの人間達の名前を聞いてもいいか?ここであったのも何かの縁だろう」

 

「嫌な縁ね」

 

「辛辣だなおい……」

 

ホーストの嘆きを他所にリアーネはフィリス達の元へと歩み寄り。

 

「この羽交い締めにされてる蛮族がクリスさん」

 

「蛮族って言わないで⁉︎盗賊だから⁉︎」

 

「蛮族も盗賊も大して変わらねぇじゃねぇか」

 

「あ゛⁉︎」

 

「おぉ……怖っ」

 

ホーストの横槍に底冷えする様なドスの効いた声で応じるクリス(羽交い締め状態)。

その悪魔すら気圧される声にフィリスとリアーネも若干引いていた。

 

「ええっと、さっきも言った通りクリスさんは熱心なエリス教徒だから気を付けて」

 

「お、おう……そうか」

 

本当はクリスがホーストに手を出すことでホーストが戦闘態勢に入る事がないようにと、リアーネ達の方が気を付けているのだが……一応ホーストにもクリスを刺激しないように釘をさす。

 

「そしてこっちの可愛い可愛い女の子が私の妹のフィリスちゃんよ」

 

「ど、どうも〜……」

 

フィリスは照れ臭そうにはにかむ。

 

「そ、そうか……。お前も苦労してるんだな」

 

「あはは……悪魔に同情してもらっちゃた……」

 

フィリスの紹介を聞いて早くもリアーネがシスコンであると悟ったホーストは、フィリスに同情の目を向ける。

 

(なんかこの悪魔、この中で一番マトモかもしれない……)

 

フィリスが密かにそんな悲しい現実に向き合う中、ホーストももうこの場から離れたいのか。

 

「クリスとフィリスだな……よし分かった。あ、俺様はホーストってんだ。それじゃあな」

 

それだけ言い残すと即座に飛び立っていった。

 

「あんたいつか絶対に滅ぼすからね‼︎」

 

ホーストの背に向けて負け犬のようにクリスが叫んだ。

ホーストはそんな雄叫びに構わず何処かへ飛び去り、クリスの捨て台詞だけが森中に虚しく響き渡った。




いかがだったでしょうか?
……え?みんな(特にリアーネが)強すぎるって?
それはもう仕方ありません。
今までの旅を通して心身ともに成長した彼女達は本当に逞しくなった(という設定)なのですから。
(ぶっちゃけそうした方が書きやすいなんて死んでも言えない……)

あと非常に申し訳無いんですが次も不定期更新になるかと思います。
え?何故って?
皆さんもご存知でしょう?最近発売されたビッグタイトルの新作ゲームを………



そう、『リディー&スールのアトリエ』です‼︎

モンハンだと思ったそこの貴方、残念!
見事正解したアトリエファンの皆様、特に何もありません!

………後書きってこんな感じのテンションでしたっけ?

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