少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

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いやほんとマジすいませんでした_| ̄|○
まさかここまで遅くなるとは思っていいなかったと言いますか……はい、言い訳です、すいません。

※今回執筆は久しぶりだったので誤字脱字、キャラ崩壊、駄文などはいつにも増して拍車がかかっていると思われます。自分としてはやりきったつもりですがそれでも先に言わせてください。
ごめんなさいm(__)m


十二話 女神と盗賊、どちらが好み?

「どうしたんですか?笑顔で固まっちゃって」

 

フィリスはさして動揺する事なく、エリスの前にお茶を出す。

リアーネは先程のフィリスの言葉とそれに対するエリスの対応を前に、少々戸惑いの表情を浮かべている。

が、その視線は真っ直ぐにエリスの方へと向けられており、次のエリスの言葉ないしは行動を注視している。

 

 

そして当のエリスはというと……。

 

 

ぎこちない動きで目の前に出されたカップを手に取り、中のお茶を優雅にぎこちなく飲むという器用な事をやってのけた後、再びそれを机の上へ戻すと。

 

「違います人違いです」

 

先程までの笑顔はどこへやら、無機質な表情で明後日の方向を向き、無感動な声音でそう言い訳をするのであった。

 

「エリス様、もしかして逆境に弱いタイプですか?」

 

「なっ……そんな事ありませんよ多分!」

 

「その割には大根役者もビックリの演技放棄でしたよ」

 

「うぐっ……」

 

リアーネの指摘を勢いよく真っ向から否定したエリスだがすぐに論破される。

 

しかしそんな反応をするということは、やはりエリスはクリスなのだろうと。

二人にそう思わせるには十分な反応だったが。

 

「わわ、私は飽くまで女神ですからら…そんな下界に降り立って盗賊稼業なんてやるはずがないじゃなないですかか」

 

尚も抵抗を続ける諦めの悪い女神。

 

段々と彼女がクリスであるという事実が腑に落ちてきたリアーネは落ち着いて今までの疑問を追求して行く。

 

「そういえばクリスさんって、私たちにすっごい親切にしてくれてましたけど。やっぱり今思えばあれって私たちの境遇とか知ってなきゃ、あそこまで手際よく助けられないですよね」

 

「それはこう…ほら、偶々ですよ。偶々…」

 

「悪魔に対する過激思想を説いてる時も、この前のエリス様みたいなこと言ってたし」

 

「それは教義ですから…」

 

「そうやって頬を掻く癖とか同じですよね」

 

「へ、へー……クリスさんも頬を掻く癖とかあるんですねー」

 

と、リアーネとエリスがそんなやりとりをする中。

 

 

それまで黙っていたフィリスがソフィーから貰った手帳を手に取り_______。

 

 

「この手帳、クリスさんが見つけてくれたんですよね。確か、中に『フィリスちゃんへ』って書いてたからと言って渡してくれたんですよ。でも_______」

 

 

まるで他愛もない話をするかのように

 

 

「どうして()()()()()()で書かれてるのに、それが読めたんですか?」

 

 

 

_______決定的な証拠を突きつけた。

 

 

 

………………………………

 

 

沈黙がその場を支配する。

 

それは一瞬のようにも思えたし、永遠に続くようにも思えた。

 

先程までエリスに対し様々な事を言っていたリアーネも、今はフィリスと共にエリスの言葉をじっと待つ。

かくいうエリスはというと、相も変わらず笑顔のまま固まっているが、その顔はどこか引きつった笑みを浮かべており、冷や汗も大量に掻いていた。

 

やがてエリスは諦めたように小さくため息を吐くと。

 

「いやー、流石だね二人とも。まさかこんなにも早くにあたしの正体に気づくなんて」

 

今までの女神の口調はどこへやら、そこには盗賊クリスとして喋るエリスが居た。

 

「流石って…自分で墓穴掘っただけじゃ…」

 

「リアーネさん、人が真剣に話しているところに茶々を入れてはいけませんよ」

 

リアーネのツッコミに今度は女神として応じるエリス。

なんというかコレは………非常に面倒であった。

 

「それで結局、どうしてエリス様は盗賊クリスとして活動してるんですか?」

 

フィリスは本題に入るべくそんな質問を投げかける。

 

「えっと、それはまぁ、とあるお嬢様が仲間が欲しいって願ったからかな……」

 

エリスは恥ずかしそうに顔を赤らめながらそんな事を言った。

 

 

「「………あ」」

 

 

フィリスとリアーネも合点がいったようで、小さく声を漏らした。

 

 

ダクネス_______ダスティネス家に生まれた貴族令嬢の彼女には、中々冒険仲間が出来ないでいた。

その理由はその出自故の世俗に対する疎さだろう。

 

………まぁ他にも理由はあるのだろうが。

 

とにかくそんな彼女は、冒険仲間が出来るようずっと教会に通い詰めて祈っていたのだ。

敬虔なエリス教徒であるダクネスのそんな願いは、人知れず御神体である女神へと届いており_______。

 

 

「やっぱりエリスさんはクリス様なんですね」

 

「フィリスちゃん、『様』をつける方が逆だと思うのだけど」

 

「二人とも私の事からかってませんか⁉︎」

 

エリスが顔を真っ赤にしながら抗議してくる。

しかしそんなエリスには御構い無しに、フィリスとリアーネは同じ事を考えていた。

 

「やっぱり、結局の所エリス様もクリスさんも一緒なんだよね」

 

「えぇ、表向きの姿は違っても、根っこの部分は同じなのよね」

 

二人はそんな事をポツリと零すと、エリスは「もうっ……」と頬を膨らませながら二人に背を向ける。

エリスが今どんな顔をしているのかフィリス達には見えなかったが、それでも真っ赤になっている耳からその表情は容易に想像が出来た。

 

「と、とにかく!私の正体は誰にも言わないでくださいよ⁉︎特にダクネスにはっ!」

 

「ふふっ、分かってますよ」

 

エリスの要求に余裕然とした態度で応じるリアーネ。

そんな風に手玉に取られるのが恥ずかしかったのか、

 

「絶対ですよ⁉︎絶対ですからね⁉︎」

 

と言ってその場から忽然と姿を消すエリス。

 

「あ、消えちゃった……」

 

「あら、ちょっとからかい過ぎたかしら?」

 

「リ、リア姉凄いね……」

 

神をもおちょくる姉に戦慄を覚えるフィリス。

そんなフィリスの内心には気付かないリアーネは頬に手を当て首を傾げると。

 

「そういえばエリス様って、結局何話しに来たのかしら?」

 

「………あ」

 

その日は結局、エリスの要件も分からないまま寝床につく事となった。

 

 

*****

 

 

翌日。

 

目を覚ましたフィリスとリアーネは早々に身支度を済ませ、ギルドへと赴いた。

中に入ると、流石に早朝という事もあり人も少なく、酒を呷る冒険者も殆ど居なかった。

 

……まぁ全く居ないわけではないのだが。

 

そんなギルドの端、窓際の席にて。

二人のお目当の人物はそこに居た。

 

「おはようございます、クリスさん」

 

「おはようございます、中々早いんですね」

 

二人は椅子に腰掛け頬杖を突きながら窓の外をぼんやりと眺めるクリスに声をかけた。

 

「ん?あぁ、二人ともおはよう」

 

クリスもフィリス達の存在に気付き、挨拶を交わす。

フィリスとリアーネはそのままクリスの向かい側の席へと腰掛けた。

 

「それで…二人が来たって事は、やっぱり私に何か用事があるのかな」

 

クリスは昨日の事を思い出しながら問う。

 

 

それも当然だろう。

昨日の今日でこうして会いに来たのだ。

やはり自分の正体を知ったことで二人の心境にも何ら変化があったに違いない。

これからどう接していけば良いのか、どの様な関係を築いていけば良いのか。

そういった悩みが昨晩二人を襲ったに違いない。

きっと私の事を考えるあまり、おちおち眠る事もままならなかっただろう、と。

クリスはそんな事を考えていた。

 

だから______

 

クリスは二人の真意を探るように、どんな質問が投げかけられても冷静に対処できるように。

そんな心構えの元、余裕然とした態度で接し、今後の二人を導いてやろうと心に決める中。

 

 

「クリスさん……って呼べば良いのかな?昨日は急に帰って行っちゃいましたけど、結局何の要件で来られたんですか?恥ずかしくなって帰ったその気持ちも分かるんですけど、元はと言えばクリスさんが何か用事があって……ってクリスさん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 

フィリスがクリスに話しかける中、途中で顔を真っ赤にしたクリスが勢いよく机に突っ伏した。

 

「大丈夫ですか、クリスさん。昨日といい今日といい、最近真っ赤になってばかりですよ?」

 

「ほっといて!そんなこと言わなくて良いから⁉︎」

 

リアーネの追撃に涙目で抗議するクリス。

 

 

なんて事はない_______結局の所、冷静でなかったのはクリスの方だったのだ。

 

 

先程内心で余裕ぶって二人の心境を推測していた自分が恥ずかしい。

こんな事なら昨日二人の家へと行くんじゃなかったと。

そんな後悔がクリスに押し寄せて来た。

 

「フィリスちゃん、多分クリスさんは私達がクリスさんに対する態度とか接し方とかで悩んでると思ってたのよ。でも全然そんな事はなく、寧ろ昨日自分の要件を私たちに伝え忘れてた事を指摘されたからすっごく恥ずかしくなっているんだと思うわ」

 

「なんでそんなに的確に心境を当ててくるのさ⁉︎リアーネってばエスパーでも使えるの⁉︎」

 

「ア、アハハ……」

 

目の前で展開されるいつものリアーネと()()()のやりとりに、フィリスは苦笑を浮かべるしかなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リア姉、そっち行ったよ!」

 

フィリスが素早い動きでジャイアントトードを翻弄し、その視線をリアーネへと向けさせる。

リアーネの姿を補足したジャイアントトードは真っ直ぐにリアーネの元へ突っ込んで行くが…。

 

「えぇ、これでも喰らいなさい!」

 

リアーネはその超絶技巧にて矢を同時に二本放ち、ジャイアントトードの両目を同時に射る。

視界を潰されたジャイアントトードは呻きながらその場で暴れる。

 

「クリスさん、今です!」

 

「おっけー、任せて!」

 

そんなジャイアントトードの懐に素早く潜り込んだクリスは、のたうちまわるジャイアントトードの動きを軽やかに回避しながらダガーで切りつけていく。

その身のこなしと技術の高さは素人目に見ても相当なものだった。

 

やがて。

 

ドサッ

 

力尽きたジャイアントトードはそんな音を立てながら地面に倒れ伏した。

 

「ふぅ、二人共お疲れ」

 

「はい、お疲れ様です!」

 

「えぇ、お疲れ様。中々連携が取れてたわね」

 

クリスはダガーに付着した血を払い鞘に戻しながら労いの言葉を掛け、フィリスとリアーネもそれに応じる。

今、三人は錬金術に使う材料集めがてら、カエル討伐のクエストを受けているのである。

結局あの後、クリスが拗ねてしまいその真意が聞けなかった為、気分転換にとフィリスが誘ったのだ。

 

「それにしてもリアーネ。そういえばさっきカエルの目を矢で潰してたけど」

 

「え…あぁ、はい。どうかしましたか?」

 

「リアーネって多分スキルとか取ってないでしょ?」

 

「スキル……取ってませんけど」

 

クリスの言葉にそういえばとリアーネは思い出す。

 

確かあれは冒険者カードを発行した時。

その際ルナから受けた説明の中にスキルの習得云々という話があったはずだ。

だが今の今までそのスキルの習得というのを試した事はない。

それはスキルポイントを消費することを渋っているというのもあるが、根本的にそういったスキルを取得する必要が無いからという所が大きい。

 

というのも、フィリスもリアーネもかつての世界での経験が大きく活かされているというか、そこで身につけた技術だけでも充分通用するからだ。

無論二人のいる場所が駆け出し冒険者の街____アクセルだという事も関係しているだろうし、飽くまでも()()()スキルは必要ないというだけに過ぎないのかもしれない。

 

いづれ……近い将来を考えるなら最近話題の例の悪魔だろうか。

 

そういった敵を相手にする場合、スキルはやはり必要になってくるのだろう。

が、それでも二人が培ってきたものは生半可なものでは無いのも事実であり、現にこうしてこの世界でのスキルなんて使わずとも戦闘の腕前はかなりのものだ。

多少手練れの冒険者でも、瞬時にカエルの両目を射るなんて事はおいそれと出来ることではない。

おまけに矢を二本同時に放ち、それぞれ狙ったところにピンポイントで当てるなんて高等テクは、熟練のアーチャーですら舌を巻く技術である。

 

「この世界のスキルってのは本当に便利なものでね。例えばアーチャースキルの『弓』を取得する事により一端の弓の扱いが出来るようになり、『狙撃』を取得すれば飛び道具の飛距離を伸ばして、その命中率も幸運値が高い程に上がっていくんだ」

 

クリスはスキルについて改めて説明していく。

ここまでは事前に知っている情報通りであり、そして………。

 

「でも、だからこそリアーネにとってはそんなスキル、今更って感じでしょ?」

 

前述した通りの、スキルを取得しない最もな理由であるのだ。

 

「そうですね。まぁ取得すれば或いは更に精度が増したりするのかもしれませんけど」

 

クリスの言葉を肯定するリアーネ。

そんなリアーネの様子を確認したクリスは、ある提案を持ちかける。

 

「だからさ、職業を変えたらどうかなって思うんだよね」

 

「………え?」

 

「職業を……変える?」

 

クリスの提案にリアーネは首を傾げ、フィリスもまたその意見に疑問を持つ。

そんな二人の心中を予測していたクリスは再び説明をしだす。

 

「リアーネの技術はスキルとは関係なしに培われたものでしょ?なら、職業が何であれその技術は衰えるものでもないし、絶対弓が使えないっていう訳でもないんだよね」

 

クリスの説明は続いた。

 

「通常、他の職業のスキルを使う事は冒険者以外の職業では不可能だけど、それが元々体に染みついた動きなら、職業が変わっても関係ない。だからこそ、自分が出来ないことが出来るようになる職業になって、スキルを取得した方が戦闘の幅が広がると思うんだけど」

 

クリスがそこまで言ったところでフィリスとリアーネも納得がいった。

 

「そう……ですね。確かにその方が良いかもしれませんね」

 

リアーネはその意見に同意する。

 

元々アーチャーになった所でスキルを取得しなければ、それは結局ただの冒険者とさして変わらない。

その上であれ程の技術を有するのだ。

別段アーチャーという職業に固執する理由など、リアーネにはなかった。

 

「うーん、じゃあ私も職業とか変えた方が良いのかな?」

 

と、このまで基本的に口を出していなかったフィリスも、自身の職業について頭を悩ませ始めた。

 

確かにプリーストという職業も味方のサポートが主な役割だが、フィリスはそれらをかつての世界でアイテム、武器スキル、自身の固有スキルで全て補ってきたのである。

体力や状態異常の回復は自分で出来るし、戦闘不能になった場合も武器スキルでカバーできる。

 

とはいえ死者を蘇らすという事は流石に無理だが、味方にバフをかける事も杖があれば可能だし、プリーストが行えることのほぼ全てを自己完結出来ているのだ。

加えて錬金術で作ったアイテムを使えば、その効果はさらなるものを期待できる。

 

「アハハ、まぁこれは飽くまでも提案だから。そんなに難しく考えなくても良いよ」

 

悶々と頭を抱えるフィリスに、クリスは頬をポリポリと掻きながら笑いかける。

 

「んー……まぁこれに関してはゆっくり考えておこうかな」

 

フィリスは今決断を下すのは出来ないと判断し、一旦はその件について考えることを見送る事にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ…クエストも達成したし、素材も結構集まったね」

 

陽が傾き、空が美しい茜色に染め上げられている頃。

フィリス達は街への帰路を辿っていた。

 

あの後、順調にジャイアントトードを討伐した後、数日前に行った素材採取と同じ要領で、いくつか錬金術に使えそうなものを集めたのだ。

今回はフィリスとリアーネの二人もある程度その地域に慣れたという事もあり、前回以上に効率よく採取が行えた。

 

「えぇ、前回の採取では見かけなかった新たな素材も手に入れられたし、まずまずといった所かしらね」

 

リアーネもフィリスの言葉に賛同する。

と、そんな中帰路についてからと言うもの一言も喋らず、ただ先行していたクリスがはたと立ち止まった。

 

「…クリスさん?」

 

フィリス達も足を止め、首を傾げる。

クリスはふっと二人の方に振り向くと。

 

「ねぇ、二人とも。大事な話があるんだ」

 

いつになく真剣な表情でそう言うクリスの瞳は、真っ直ぐに二人を見つめていた。

 

「……どうしたんですか?クリスさん」

 

そのただならぬ雰囲気を感じ取ったリアーネは、自然と背筋を伸ばして静かに問いかけ、フィリスもそれに倣って真っ直ぐクリスを見つめ返す。

クリスは一呼吸置いて、ゆっくりと、しっかり伝わるように、

 

「……二人はさ、本当に悪魔討伐を手伝ってくれるの?」

 

昨日からずっと伝えそびれていたその真意を語り始めた。

 

「……え」

 

フィリスはその言葉の意味が、その意図が掴めずに小さく声を漏らす。

それには構わずにクリスは話を続ける。

 

「二人と別れたあの後…というよりも、それよりほんの少し前からなんだけどね、改めて考えてみたんだ。二人が悪魔討伐に参加する事について」

 

クリスは淡々とその心中を告げる。

 

「悪魔の存在を聞いたときは頭に血が上って、勢いで協力を要請してたけどさ、後から考えたらやっぱり危険だなっておもったんだ。勿論それが危険な事じゃないと思ってた訳じゃないんだよ。でも、それでもやっぱり二人を本当に同行させても良いものなのかなって思って」

 

だから…と、クリスは大きく深呼吸をしてから。

 

「あたしは別に二人が断っても何も言わないから。というよりむしろ断った方が正しいと思うんだ。それを踏まえた上で、本当に悪魔討伐に協力してくれるのかどうかを決めて欲しいんだ」

 

「「………………」」

 

正直、クリスの提案は、その意見は正しいものであった。

悪魔の危険性を身を以て体験したリアーネと、そんなリアーネの痛々しい姿を見て戦慄を覚えたフィリス。

本来ならそれは願っても無い提案であり、基本的に多くの者は真っ先に悪魔討伐から身を引く事を選ぶだろう。

それ程までに敵は強大であり、その選択が普通なのだ。

事実、フィリス達も最初は協力を断る事を少しは考えていた。

その頼みを引き受ける事を僅かに躊躇った。

 

ここで依頼を断るのも、()()()()なら致し方ないだろう。

 

()()()_______そう、例えば……クリスとは全く関係のない人ならば。

 

「はぁ………あのですね、クリスさん。心配なのは分かりますし、お気持ちは大変嬉しいんですけど……こっちももうとっくに覚悟は決めてるんですから」

 

「そうですよクリスさん。今更断るだなんてそんな」

 

リアーネは呆れたように良い、それに同調するようにフィリスも後に続く。

クリスは一瞬目をパチクリとさせると。

 

「…本当にそれで良いの?」

 

二人の真意を推し量るように問う。

それに対しフィリスとリアーネは、さも当然と言ったように。

 

「「だって私たち、パーティじゃないですか」」

 

「…っ⁉︎」

 

声を揃えて答えを返してくる姉妹に、クリスはハッとした表情を見せると、すぐにプッと吹き出し盛大に笑い始めた。

 

「ちょ、何で笑ってるんですかクリスさん!」

 

「いや、ごめんごめん。二人の息がピッタリ過ぎてつい…ふっ」

 

「また吹いているし…」

 

フィリスのツッコミに対し愉快そうに返し、それを見て再びリアーネがツッコミを入れる。

クリスはひとしきり笑い終えると、笑い過ぎて目の端に浮かんできた涙を拭いながら。

 

「あはは……二人には愚問だったみたいだね。なんか心配して損したよ」

 

「損って何ですか…」

 

またもやクリスにツッコミを入れるリアーネ。

しかし、最早クリスはそんな事気にしていないようで。

 

「じゃあ早く帰って乾杯しようか」

 

と、明るく言うとそのまま上機嫌で街の方へと再び歩き出す。

 

「もぅ、クリスさんってば」

 

「えぇ、ほんとね」

 

フィリスとリアーネは互いに顔を見合わせると、そのままクリスの後を追っていった。

 

 

*****

 

 

ここで少し、世界は変わり_______

 

 

「ソフィー、こっちの素材は用意出来ましたよ!」

 

「ありがとうプラフタ、次はこのレシピの材料の選別・配合をお願い!」

 

「分かりました」

 

ライゼンベルグの一角に張られたテント。

その中で慌ただしく錬金術を行う二人の少女。

 

彼女達はひたすらに錬金術を繰り返し、()()()道具を次々と揃えていく。

 

はやる気持ちを抑えながら練金釜の中をぐるぐるとかき混ぜる少女、ソフィー。

 

練金釜に入れる直前までの作業を手伝う少女、プラフタ。

 

二人の手際は実に鮮やかなものだった。

 

だが………。

 

「……っ⁉︎ソフィー、もう材料が!」

 

「え?嘘っ⁉︎」

 

見ればコンテナの中はもうスカスカであった。

後に残ったのはソフィー達が作りたい道具には必要のないも。

 

ソフィーは少し逡巡した後。

 

「仕方ないね。今ある分だけ作ったら、もう行こうか」

 

そう言って再び錬金術に取り掛かるのだった。

 

 

*****

 

「「「乾杯!」」」

 

辺りはすっかり暗くなり、酒と料理の匂いが充満するギルドの中。

テーブルを囲った三人の少女が乾杯の音頭を取った後、各々のグラスの中に注がれているジュースを呷る。

 

「いや〜、それにしてもリアーネがまさかウィザードになるなんてね。あたしはてっきりソードマスター辺りにでもなるのかと思ってたよ」

 

カエルの唐揚げを頬張りながら、クリスはリアーネに対して話しかける。

そう、今日草原でクリスに言われた通り、リアーネは街へと戻るとクエスト達成の報告の際、職業もアーチャーからウィザードへと転向したのだ。

クリスに言われ、ふとリアーネは自分の冒険者カードを取り出す。

そこの職業欄には確かにウィザードという文字が書かれていた。

 

「それにしてもリア姉。なんでウィザードにしたの?」

 

「そうだよリアーネ。せっかくステータス的にはソードマスターにもなれる位なのに、勿体無いよ」

 

フィリスは思っていた疑問を口にし、クリスもそれに乗っかる。

対するリアーネはというと、優雅にジュースを一息呷り。

 

「だって私、弓ほどじゃないけど剣もそれなりに使えるのよ?弓も出来て剣も出来るなら後は魔法だけじゃない」

 

「リアーネってば多才なんだね…」

 

「どう?すごいでしょ!」

 

リアーネの超人っぷりに驚愕するクリス。

そしてそんな姉が誇らしいのか何故か褒めて褒めてと言わんばかりに胸を張って威張るフィリス。

荒くれた冒険者達が多いこのギルドの中、ここだけは華というか、和やかな雰囲気であった。

 

「まぁ、正直言って魔法を使ってみたいっていうのが一番かしら」

 

「あー、やっぱり異世界から来たりするとそういうの憧れたりするの?あるあるだよね」

 

「どんなあるあるですかそれ…」

 

クリスが謎のあるあるを披露し、それに律儀に突っ込むフィリス。

そんな二人を他所にリアーネはとつとつと語り出した。

 

「まぁ色々と理由はあるんですけど、単純に戦闘の幅が一番広がるかなって思ったんですよ。フィリスちゃんの作る道具は確かに便利だけど、数に限りがあるじゃないですか。いわばその数の補填みたいなものですよ。といっても、この世界の魔法がフィリスちゃんの道具の威力にどれだけ追いつけるかは分かりませんけど、少なくともこの世界のものである以上この世界では通用すると思ったんです」

 

そう、フィリスの作る道具はかつての世界でも大変お世話になった便利な代物だが、やはりその数に限りがあるというのがネックだった。

無くなればまた作らなければならないし、作るにはまた材料も集めなければならない。

受ける恩恵が大きいが故に、そう簡単に無償で使えるという訳でもなかったのだ。

 

その点この世界の魔法に関していえば、威力云々はどれほどのものかはあずかり知らぬ所だが、どれだけ使おうが本人の魔力さえ回復すればまたすぐに使うことが出来るのだ。

弓で遠距離から敵を攻撃・牽制し、接近されれば剣で応酬、隙さえあれば魔法を放ちと、実に多様な戦闘を行えるようになるというのも魅力だ。

 

無論それを行うにはかなりの技術を要するだろうが、それもリアーネの器量の良さでカバーできるだろう。

 

これらが、リアーネがウィザードに転向した理由だったのだ。

 

「リアーネってば本当に多才なんだね…」

 

「えっへん」

 

「……だから何でフィリスが威張るのさ」

 

「えへへー」

 

感嘆の声を漏らすクリスにまたも胸を張って応じるフィリス。

二人はワイワイガヤガヤと楽しそうに騒いでいる。

そんな二人を眺めながらジュースをちびちびと飲むリアーネは。

 

「ふふっ……なんだか、悪くないわね」

 

本来なら異世界へと飛ばされて災難だと思うのだろうが。

リアーネは楽しそうにする二人前に、誰へともなく呟いたのだった。




次回更新も不定期です。
正直リアルは今佳境に入っておりますので。
なるべく早い投稿が出来るようには善処します。

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