少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

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すんませんしたぁぁぁぁ‼︎
一週間以内に投稿すると行ったのに……。
思いの外リアルが忙しくなって来たので遅れました。
いやもうほんとごめんなさいm(__)m
遅くなってマジですいませんm(__)m


十一話 ドMお嬢様と女神降臨(?)

「悪魔をぶっ殺すって……ダメ、ダメですよそんな!」

 

クリスとダクネスに食ってかかったのはリアーネであった。

 

それもそのはずであろう、リアーネはここに居る四人の中で唯一例の悪魔に遭遇した人物であり、その他を圧倒する驚異的な強さを身をもって体感しているのだ。

 

決してクリスやダクネスが弱いと言っているわけではないが、それでもあれ程の力量の差を見せつけられたとあっては、仲間の身を案じて説得するという行動は当然である。

フィリスも実際に対峙した訳ではないが、彼女が最も信頼し、その実力も含め何もかもに安心感を抱かせる最愛の姉が、全身ズタボロの大怪我をして帰ってくる姿を見たのだ。

 

全てが悪魔のせい…という訳ではないものの、あのような姿を見てしまった以上、フィリスもリアーネの言葉に頷くしかなかった。

が、クリスとダクネスはリアーネからの忠告に首を傾げると。

 

「危険が付きまとうのは承知の上だ。それでも、エリス様に仕える敬虔なクルセイダーとして、悪魔の存在を看過することは出来ない」

 

「あたしもダクネスと同じだね。このアクセルの街付近に悪魔が棲みつくとはいい度胸だよね…」

 

ダクネスはいかにも頭が固そうなことを言い放ち、クリスは怒っているようで、でもどこか嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

リアーネの言葉に耳を貸さない二人を前に、リアーネはこの時ばかりはエリスを恨んだ。

フィリスとリアーネは、二人の敬虔なエリス教徒の決意を前に、以前エリスが悪魔の悪口というか、害悪性と言うべきか、その様な事をコンコンと説いていた事を思い出した。

恐らくエリス教では、悪魔は人類の敵だとか言って、悪魔を悪の象徴として教えているのだろう。

その為、今現在この二人はそんな教義に基づき、とんでもない無茶を言っているのだ。

迷える信者達を導く立場である女神が、己の教義によってかえって信徒を死地へと向かわせる事となるとは、なんとも皮肉な話である。

 

ともかく、ここは何としてでも止めなければ。

 

リアーネが改めて二人を説得しようと向き直るのも束の間、既にクリスとダクネスはそれぞれの得物を手に持ち、立ち上がっていた。

 

「ま、待ってください!お願いします、リア姉の話を聞いてください!」

 

悪魔と遭遇していないとはいえ、流石にフィリスも二人を制止する。

 

「……二人共、ホントにどうしたの?」

 

必死な様子のフィリスとリアーネを姿に、訝しみながらもクリス達はようやく動きを止め、話を聞く体制に入った。

 

「あの、実はですね_______」

 

改めて椅子に座りなおしたクリスとダクネスに、フィリス達は昨日の出来事を掻い摘んで説明しだした。

 

*****

 

「悪魔め…ぶっ殺してやる!」

 

「まさかそんな事が起きてたなんてね…。流石のあたしも堪忍袋の緒が切れそうだよ…」

 

例の悪魔の危険性を説いて悪魔討伐を断念してもらう筈が、かえって火に油を注ぐ事になってしまっていた。

 

「ねぇフィリスちゃん…、これ、スゴくまずい状況だと思うんだけど…」

 

「うん、もう止められないね。無理だよこの人たち説得するのは」

 

最早テコでも揺るがなさそうな決意を秘めた二人を前に、フィリスとリアーネは溜息をついた。

 

「フィリス、聞きたい事があるんだが」

 

「ん、何ですか?」

 

「戦闘に使える道具とかは作ってあったりするのか?」

 

「品質とか出来に関しては何ともいえませんけど、一応は作ってありますよ」

 

フィリスは嘆息まじりに答える。

恐らくダクネスは、フィリスの作った道具を悪魔討伐に使う気なのだろう。

フィリスがそんな殆ど確信に近い事を思っていた矢先。

 

「なら、是非ともそれらを使って悪魔討伐に協力してくれないだろうか」

 

案の定、ダクネスは想像通りの言葉を投げかけてくる。

フィリスは一瞬逡巡するも、諦めたように頷くと。

 

「…分かりました。私も付いて行きますよ」

 

「______っ、助かる、礼を言うぞ!」

 

ダクネスはフィリスの返答に顔をパァっと輝かせる。

同じくクリスも共に顔を明るくさせるなか、リアーネだけはこめかみに手を当てていた。

 

「リア姉…、確かに戦わないのが一番かもしれないけど…、こんな状況なら仕方ないよね」

 

フィリスは困ったような表情をしながらも、リアーネに笑いかけた。

 

リアーネもフィリスの言いたいことは無論理解はしていた。

 

戦わないのが一番、それは紛れも無い事実であり、どう考えても賢い選択ではあるのだ。

しかし、敬虔なエリス教徒であるクリスとダクネスの話を聞くに、彼女達は絶対に引く気がないようだった。

もちろんフィリスとリアーネには街に残るという選択肢はある。

が、あの悪魔の実力を知っている以上、二人だけであんな凶暴な敵のもとに行くと言うのは見過ごせない。

そう考えると結局の所、少しでも人数を増やして敵を撹乱するような行動を取る方が、クリス達にとっては生存確率が高いのではないだろうか。

当然フィリス達は街に残るよりも危険に晒される訳だが、それでもフィリスはクリス達に同行することに決めたようだ。

 

「……そうね。フィリスちゃんが決めた事だもの、私も付いて行くわ」

 

リアーネも観念したように頷いた。

もとよりリアーネにとっては、フィリスは存在意義そのものと言っても過言ではない位フィリスの事を溺愛しているのだ。

フィリスを危険に晒したくないという思いもある反面、フィリスが決めた事を全力で応援・サポートしたいという思いもあった。

 

「よし、決まりだね。それじゃあ早速悪魔を滅ぼしにいこうか」

 

フィリスとリアーネが同行する意思を見せたところで、クリスは再び立ち上がった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ギルドを出た後、一行は一旦フィリスとリアーネの家へと向かった。

悪魔討伐に際して使えそうな道具を取りに来たのだ。

唯一悪魔の強さを知るリアーネの提案により、ほぼ全ての使えそうな道具を持つことにした、のだが………。

 

「うぅ…鞄が重い…」

 

「さ、流石に持ちすぎたかしら?」

 

道具でパンパンに膨らんだ鞄を担ぎながら歩くフィリスは、息を切らしながらぼやく。

だが全ては例の悪魔を倒すため。

それにこんな風に鞄が一杯になる事はフィリスにとってはよくある事だし、昨晩もこれより重いものを運んでいたのだ。

それに比べればまだ大した事はないのだが…。

 

「重い…けど、それよりもなんか痛いっ!背中にゴツゴツした変なの当たってるよ!何これ、『小悪魔のいたずら』かな?さっきからグイグイ背中に食い込んでくるんだけどっ!」

 

「詰めすぎ…よね。やっぱり、エリス様の言う通りデザインを変えた方が良いのかしらね?」

 

リアーネがフィリスの鞄を代わりに持とうかと声をかけようとした時。

 

「っ⁉︎すまない、少々用事が…」

 

突如としてダクネスがそう言うと、一目散に路地裏へと駆け込んでいった。

 

「…ダクネス?」

 

クリスが不審そうに路地裏の方へと顔を向ける。

そこには物陰に隠れ、人差し指を立てて口元に当てるダクネスが、何かを訴えるかのようにこちらを見ていた。

と、そこへふと。

 

「失礼、そこのお方‼︎」

 

燕尾服を着た執事然とした初老の人が声をかけてきた。

その人の声音からは焦りが感じ取られ、額には大粒の汗を浮かべていた。

 

「あの…どうかなさいましたか?」

 

ただならぬ雰囲気を感じ取ったリアーネは詳細を訪ねた。

 

「実は、当家のお嬢様が見合いを嫌がりまして……。通りすがりの方にこんな事をお願いするのも申し訳ないのですが、どうか捜索にご協力を……!この国において、美しい金髪碧眼は純血の貴族の証。お嬢様は、長い金髪を後ろでまとめておられます。それらしい方を見つけましたなら、ダスティネス家までご一報くださいませ」

 

「金髪碧眼……長い髪……あれ?」

 

(なんかそれっぽい人を知っているような……いや流石に違うかな)

 

フィリスはその特徴に該当する人物を一人だけ知っている……

のだが、どうしてもその人物が貴族令嬢だとは思えなかった。

 

それはリアーネも同様らしく、フィリスのように首を傾げていた。

そんな中クリスが別の方向へと目を向ける。

その様子を見たフィリスとリアーネも同じ方向に視線をやると、そこでは相変わらず貴族令嬢だとは思えない人物が身を潜めながら、「黙っていろ」とでも言いたげな表情をしていた。

 

「あの、少しお尋ねしても?」

 

「はい、なんでございましょう」

 

リアーネは改めて執事風の男に向き直ると。

 

「その家出したお嬢様についてもう少し詳しくお聞かせ願えませんか?具体的には…家出した時の状況……とか」

 

「状況…ですか。まず、お見合い相手が来た途端、謎の瓶を取り出すとその中身を相手の顔にかけ…」

 

「……瓶?」

 

「場の者が突然のことに驚いている隙に逃走されまして。すぐに家の者に合わせたのですが、お嬢様の体力についていける者も少なく、仮に追いつけたとしても謎の瓶と、加えて謎の悪魔のような形の何かをまで取り出し、それらを喰らった者は全てカメの様に足が遅くなってしまったのです」

 

「……悪魔?」

 

「更には我々にも良く分からないのですが…何らかの魔道具か何かを用いたようで、床や扉、屋敷の門が凍りづけにされてしまい、逃げられてしまった次第でございます…」

 

「……凍りづけ?」

 

「フィリスちゃん、ちょっと……。あ、クリスさんも……」

 

男の話を大方聞き終えたところで、リアーネは二人を呼ぶと小さな声で話し始める。

 

「まさかとは思うんだけど、貴族令嬢ってもしかして……アレじゃないかしら?」

 

リアーネが後方の路地裏へと目を見やると、ダクネスが首をプルプルと振っていた。

心なしか冷や汗を掻いているようでもあり、その長い金髪が頬に引っ付いていた。

 

「ダクネスで確定…かな」

 

「ですね。私が渡した道具もしっかり活用したようですし」

 

クリスの言葉に頷くフィリス。

にわかには信じ難いが、執事の言うお嬢様の特徴と、更には逃亡の際に使用した道具から察するに、今現在近くの路地裏で身を屈めながらこちらを伺っている変態騎士が例のお嬢様なのであろう。

にわかには、というより全くもって信じ難いのだが。

だがひとまずはそれを信じるとして、ダクネスが貴族令嬢であるとした場合、次に発生する問題は…。

 

「えっと……それでどうしますか?ダクネスさんの事、伝えますか?」

 

「うーん、どうしようか…」

 

クリスはポリポリと頬を掻く。

 

「個人的には、今から悪魔討伐に行くわけだし、今ダクネスに抜けられるのは困るんだけどね」

 

「まぁ、なんだかんだ言ってダクネスさんも大切なパーティの仲間ですからね」

 

フィリスはダクネスの事を黙っていることに決めた。

リアーネもフィリスが決めた事ならと頷く。

 

「分かりました。じゃあそれっぽい人を見つけたら報告しますね」

 

三人の作戦会議が終わると、フィリスは執事に向き直ってそう告げる。

それを聞いた執事の様な男はペコリと頭を下げると、感謝の言葉を述べた。

 

「ありがとうございます!もしお嬢様を見つけてくだされば、その際はぜひお礼をさせてい」

 

「執事さん、あそこです」

 

「なっ_______裏切り者ぉ⁉︎」

 

決してお礼という言葉に惹かれた訳ではなく、偶々手と口が滑ったフィリスが指差した方向、そこで悲痛な叫びを上げた貴族令嬢は、ダスティネス家の者達とフィリス達の手によってすぐに確保された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやはや、ウチの娘がご迷惑をお掛けしたね」

 

ダクネスを差し押さえたあと、フィリス達はダスティネス家へと招かれていた。

 

ダスティネス家____それは「王家の懐刀」と呼ばれる程の大貴族である。

金銭面などでは他にもダスティネス家を上回る貴族などは居るものの、その影響力は王家に次ぐほどの権威を持つという。

そのように威厳と格式ある大貴族の家から、どうしようもない性癖の持ち主である駄目女が世に放たれ、今日まさに他家の貴族に謎の液体をぶっかけ、挙句見合いを放ったらかして脱走したそうな。

そんな手のつけようがない堅物騎士を捕まえたと言う事で、フィリス達にはそれぞれ莫大な謝礼金が支払われていた。

 

「いえいえ、それよりこちらこそ謝礼金をこんなに貰っちゃっても良いんですか?」

 

「あぁ、勿論だとも。ぜひ受け取ってくれ」

 

「分かりました、ありがたく頂きますね」

 

そう言ってフィリスは目の前の袋に手を伸ばす。

手に取ったその袋の重さが、明らかに尋常ではない額が中に入っている事を示していた。

 

「フィリスちゃん、良いの?ダクネスさんが使ったって言う道具、フィリスちゃんが渡したものでしょう?」

 

「うっ…、確かにちょっと後ろめたい気持ちはなくもないけど…」

 

と、二人が周りに聞こえない声で耳打ちをしていると、それでも近くにいて話し声が聞こえたのか、クリスも会話へと混ざってきた。

 

「良いんじゃない?道具をどう使おうがそれはダクネスの勝手だし、ダクネス捕獲の依頼はそれとは関係ないしね。どうせ道具がなくてもダクネスなら脱走してたよ、多分」

 

「そうですよね、ダクネスさんならどっちにしろ逃げてましたよね」

 

「フィリスちゃんのお腹って実は黒かったのね……」

 

三人がヒソヒソと話していると、その様子が気になったのか、

 

「もしかして報酬が少なかったかな?ならもう少し足して……」

 

「あ、いえいえ、十分ですので…ありがとうございます」

 

あらぬ誤解をするダクネスの父親、イグニスの言葉を遮り、リアーネは彼の提案を断る。

正直ダクネスが逃げれる手段を与えたとあっては、例えそれが自分のした事ではないとはいえ、謝礼金を貰うのは少々気が引ける。

のだが、境遇が境遇である為に、将来の事も見据えてここで謝礼金を貰っておく方が最も合理的な判断であろう。

故に謝礼金を受け取るのを断るに断れないのだ。

だから謝礼金は一応は素直に受け取ったのだが、さらに追加で報酬を出すというのは流石に断らねば。

そう思いリアーネは、取り繕ったような笑顔を浮かべてイグニスの提案を断ったのだ。

 

「うーん、でも弱ったなぁ……。流石にダクネスという壁役を失うと、悪魔討伐が……」

 

リアーネが後ろめたさを感じていると、クリスは頬をポリポリと掻きながら唸る。

 

「そういえば、悪魔討伐に行くって話でしたよね」

 

そこでフィリスも思い出したかのようにポンと手を打つ。

 

「正直、ダクネスさんの防御力がないとアレはキツイと思いますよ」

 

リアーネも同調するように言う。

 

「リア姉がそう言うなら、今日は止めておいたほうがいいと思います」

 

フィリスもリアーネの意見に従う意思を見せる。

 

「…まぁ、死んじゃったら元も子もないよね。こればっかりは仕方ないから、ダクネスが戻ってくるまで待ってようか」

 

と、三人で今後のことを話し合っていると、イグニスがふと声をかけてくる。

 

「そういえば、今更だが君たちがララティーナのパーティメンバーだね?」

 

「「……ララティーナって誰ですか?」」

 

フィリスとリアーネの声がハモった。

それに対してイグニスが。

 

「誰って…あぁ、そうか。娘は家の事をあまり大っぴらにしていないのだったね。ララティーナは私の娘だよ、君たちのパーティのクルセイダーの」

 

「「………え⁉︎」」

 

今度もまた二人の声がハモった。

 

「ダクネスさんって、ララティーナって名前なの⁉︎変態なのに可愛い名前なんだなぁ……」

 

「フィリスちゃん、変態でも名前くらいは可愛かったりしても良いじゃない」

 

「ちょ、二人とも……、目の前にダクネスのお父さんが居るからね?大貴族の当主でかなりの権力を持ってるってこと忘れてない?」

 

クリスが珍しくオロオロとして居る中、イグニスの笑い声が三人の耳に届いた。

 

「ははははっ!君たちの言う通り、娘は中々手のかかる子でね。それに加えて貴族の家に産まれたが故に世俗に疎い所もあって、少し前まで冒険仲間が出来ないと嘆いていたんだよ」

 

イグニスはダクネスの話をしだした。

正直、冒険仲間が出来ない一番の原因は攻撃が当たらないからだと思うのだが、そこは口を紡ぐ三人。

イグニスは構わず続ける。

 

「毎日教会に通いつめては『冒険仲間が出来ますように』とお祈りをしていてな。そんなある日、『冒険仲間が出来た!盗賊の女の子なんだ!』と大喜びで帰ってきたのだ」

 

「………………」

 

クリスはほんのりと顔を赤くしながらも、イグニスの話を聞いていた。

盗賊の女の子とはクリスの事だろう。

 

「クリスさんって、やっぱりお人好しなんだね」

 

「でもそこが良い所なのよね。私達も助けられたし」

 

「………?二人共何話してんの?」

 

こっそり耳打ちをし合うフィリスとリアーネの間に割って入るクリス。

そんなクリスに何でもないですよと手を振るフィリス。

その様子を微笑ましげに眺めるイグニスはフィリスとリアーネに笑いかけた。

 

「そして今では更に二人も年の近い子が一緒にパーティを組んでくれるとはね。君たちとパーティになった事も嬉しそうに話していたよ」

 

今度はその言葉にフィリスとリアーネが少し照れ臭さを感じる。

と、そんな時ふとイグニスが。

 

「所で先程娘から聞いたよ。何でも、君がララティーナにあのよく分からない魔道具を渡したそうだね」

 

「………ぇ」

 

一瞬でその場が凍りつく気がした。

そっと視線を外すフィリス、笑顔のまま表情を硬直させるリアーネ、苦笑を浮かべながら頬を掻くクリス。

だが彼女らの焦りとは裏腹に、尚もイグニスはどこまでも朗らかに言い放った。

 

「どうやら細かい事情も知らされずに依頼を受けてくれたそうだね。会って日も浅いと言うのに、娘の事を信用しての行動なのだろう?ありがとう、私から礼を言わせてくれ。本当に、娘が世話になった」

 

「あ、あれ…?怒らないんですか?」

 

「ははっ、むしろ感謝しているよ。見合いは台無しになったが、娘に良い友達が出来て嬉しいよ。それに、今回の見合いは君が渡した道具があったからか、私にも余裕の態度を見せてな。おかげで今回は娘に張り倒されなくて済んだよ」

 

「そ、そうですか……」

 

途中までは良い話だったのに、最後の最後で台無しである。

 

それにしても色々苦労しているんだなぁ、失礼だけど凄くわかる気がするなぁ……。

 

と、フィリスがぼんやりとイグニスの苦労を想像していると。

 

「どうか今後とも娘の事をよろしく頼むよ」

 

イグニスはそんな懇願とともに頭を少し下げた。

それに対しフィリス達は気持ちのいい返事で返答するのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃあダクネスが復帰するまでは各自自由で良いかな?悪魔との戦いに備えて色々準備しても良し、羽を伸ばしたりしても良しって事で」

 

ダスティネス家から出てすぐの所。

ダクネスが一時的に抜けた事で悪魔討伐はやはり延期となった。

流石に前衛職が居ないと厳しいと言う意見が一致したのだ。

 

「それじゃあ私はダクネスさんが戻ってくるまで道具を色々作っておこうかな?ね、リア姉」

 

「そうね、フィリスちゃんの道具はもっとあった方がいいと思うわ。材料が足りなくなったら、また一緒に採りに行きましょうね」

 

今後の予定を確認するフィリス達。

当面は家に篭って錬金術に明け暮れるだろう。

その話を聞いていたクリスはと言うと。

 

「それなら採取に行く時はあたしも一緒について行っても良いかな?と言っても、あたしの都合が合うか分かんないんだけどね」

 

右頬を掻きながらそんな提案をしてきた。

 

「はい、むしろ頼もしいです!」

 

フィリスは笑顔でその提案を快諾する。

 

「なら、採取に行く時は一回冒険者ギルドに寄って、あたしに声を掛けてよ。まぁあたしが居なかったら、多分あたしの都合が合わなかった時だろうから、その時は二人で行ってね」

 

「はい、分かりました」

 

と、そこまで話した所でその日は解散となった。

 

*****

 

家に帰る頃には、日は完全に落ちていた。

かつての世界とさして変わらない美しい星空が足元を照らす中、空腹感を覚えた二人は先にギルドに行って食事を済ましてから家へと戻ったのだ。

満腹になった二人が家へと戻ると、そこではゆったりとソファーに腰掛けながらも、どこかムスッとしたエリスが座っていた。

 

「やっと戻ってきましたか。待ちくたびれましたよ」

 

「あれ、エリス様?どうしてここに?」

 

「それよりもフィリスちゃん、私ちょっと警察の人呼んでくるわね。不法侵入として逮捕してもらいましょう」

 

「なっ……ちょ、待ってくださいリアーネさん⁉︎」

 

ムスッとした空気はどこへやら、エリスは慌ててリアーネを止めようとする。

 

「冗談ですよ。それより、どうしてまたここへ?何か大事な用事でもあるんですか?」

 

と、リアーネがそんな風にエリスに対して聞くと、エリスは再び頬を膨らませて。

 

「そうなんですよ!お二人が悪魔を倒しに行くと聞いたものですから、それについて色々と話をしようかと思ってたのに……、待っても待っても全然帰ってこなくて、本当に待ちくたびれましたよ!」

 

「えと、私達ギルドでご飯を食べてきたんですよ」

 

フィリスがエリスにそんな説明をすると、エリスは尚も頬を可愛らしく膨らませて喋り出す。

 

「私だってご飯まだなんですよ!お二人がダクネスの家から帰ってくるタイミングに合わせて待ってたのに…」

 

「女神様でもご飯って食べるんですね」

 

「食べますよ食べないと飢えちゃいますよ!」

 

リアーネの言葉に早口で返した所で、ふとエリスのお腹から音が鳴った。

その音を聞くや否や、すぐに顔を俯かせるエリス。

だが顔は伏せてもその真っ赤な耳は隠せてはおらず、恥ずかしがっている事など容易に見て取れた。

 

「あはは、じゃあお菓子か何かでも出しましょうか」

 

「あ、フィリスちゃん、お茶以外目ぼしいものは特にないわよ」

 

「え、あ、そっか。食料なくなってきて食費も尽きてきたからクエストに行ったんだっけ」

 

フィリスはそう言うと現在の状況を思い返す。

 

確か昨日、食費も食糧も底を尽きてきたと言う事でリアーネがクエストに行ったのだ。

だがそのリアーネがボロボロになって帰ってきたと言う事で、フィリスはその対応に追われた。

薬を作り終えたフィリスはそれをリアーネに飲ませると、そのまま疲れで眠ってしまったのだ。

そうして起きたのが今日の昼前頃であり、その後はすぐに家を出たため、食糧は相変わらず家にないし、まして即席で出せるようなお茶菓子などもある訳がないのだ。

 

「えと……じゃあお茶だけでも持ってきますね」

 

フィリスは苦笑を浮かべながら厨房へと入って行く。

それを見届けたリアーネはエリスに向き直る。

 

「所でエリス様、一つ気になったんですけど」

 

「はい、何ですか?」

 

エリスは先程までの少し膨れたよう態度とは一転、僅かに羞恥を覗かせながら応じる。

 

「私達がダクネスさんの家から帰ってくるタイミングに合わせてこの部屋に侵入していたと行ってましたよね?」

 

「はい……っていうか侵入って言わないでください」

 

「不法侵入、ですよね?」

 

「………すいませんでした」

 

(流石はリア姉、神までも屈服させるなんて)

 

お茶を淹れながらフィリスは自分の姉に若干の恐怖を覚えた。

が、そんな事は知る由もないリアーネは構わず続ける。

 

「とにかく、私達がダクネスさんの家に行ってた事は分かってたんですよね?」

 

「えぇ、一応天界から見てましたから」

 

エリスがそう返答すると、リアーネは僅かに目を細め、今度は声のトーンを少し落として。

 

「天界から見ていたのなら、なんで私達がご飯を食べに行ったことを知らなかったんですか?」

 

「………え」

 

エリスは困惑したような声を出す。

しかしすぐにハッとすると、エリスは首を振る。

 

「それはアレですよ!その、お二人がもうそろそろ家に着くかなって所でこちらに来たので、それから先の事は見れてないのですよ!」

 

「ダクネスさんの家を出てから解散した時点で、ご飯を食べに行こうとフィリスちゃんと話してたんですけど。最初っからギルドに行く気だったんですけど」

 

「おっ、お二人がダクネスの家から出た所でこちらに来たんですよ!なのでそれから先の行動は分からないですよ!」

 

「…………」

 

エリスの説明に腑に落ちないリアーネであったが、一応筋は通ってるので何とも言えない。

対するエリスはというと、何やら額から少し汗をかいているようであり、右頬をポリポリと掻いていた。

 

「うーん、やっぱり何かを隠しているような気はするわね。それで、何を隠しているんですか?」

 

「な、何も……隠してなんて……いないですよ?」

 

明らかにキョドるエリス。

リアーネの方も、何か隠し事をされているのではないかと、ジッとエリスの方を注視して居たその時。

お茶を淹れ終えたフィリスは人数分のお茶を持ってくると。

 

「クリスさん、お茶が入りましたよ。所で今日ダクネスのお父さんから貰った謝礼金は何に使う予定なんですか?」

 

「あぁ、ありがとう。謝礼金はエリス教会に寄付でもしようか、と……お……も……」

 

 

 

ほんの気まぐれだった。

 

 

 

何となく右頬を掻く癖が似てるなと思い、何気なくそう行って見ただけ。

 

いや、正確には他にも色々と気になる点はいくつかあるが。

 

きっかけとしてはただそれだけの事だったのだが……。

 

 

フィリスの言葉を受けて女神エリス、もとい盗賊クリスは_______。

 

 

フィリスに見つめられ、リアーネに凝視される中、ただただ呆然と、固まったまま笑顔を浮かべていた……。




改めて投稿遅れてすみませんでしたm(__)m

所でこの話書いてる際、ダクネスの父親の名前の知名度がどのくらいか気になったんですけど…。
ほとんどの人はイグニスって名前は聞きなれないんじゃないのかなと思いました。
完全なる余談なんですけどね…。

あ、ちなみに次回も投稿遅れると思います。
やっぱりリアルが凄い忙しくなって来てるので……。
はぁ…やる事多すぎる…

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