少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

10 / 13
今回は日常回というか、あまり物語自体は進みません。

ついでに今回から皆大好き例のロリっ娘が登場します。

物語の都合上、登場シーンは少なめかと思いますし、今後もまだそこまで活躍はしませんが……。

まぁでも暫くすると登場する機会も増えると思いますよ、きっと。




十話 やらかしちまった爆裂狂娘

「うぇぇん、リア姉〜〜〜、心配じだんだよ〜〜〜、グスッ」

 

朝もとっくに過ぎ、昼飯時を前に街が喧騒に包まれている頃。

目を覚まし、その視界に怪我一つない元気なリアーネの姿を確認するや否や、フィリスはリアーネに泣きながら抱きついた。

 

「あ〜ん♡フィリスちゃんから抱きついてくるなんて、至福ね……フィリスちゃんってば大胆……。もっとギュッてしてて良いのよ!」

 

抱きついてきたフィリスを、リアーネは蕩けた顔で甘受する。

 

「リ、リア姉?ちょ……リア姉っ、痛い痛いっ⁉︎痛いってばっ⁉︎」

 

いつの間にかとんでもない力でリアーネに抱きしめ返され、フィリスは悲痛な叫びをあげた。

久々にリアーネのシスコン魂に火がついたようだ。

 

「ん〜〜、この世界に来てから色々と忙しかったから、こんな機会全然なかったのよね〜。フィリスちゃんモフモフっ♡」

 

「リア姉落ち着いてっ!このままだと、またリア姉が分身して追いかけてくる夢見ちゃうから!」

 

リアーネのシスコンぶりを知っているフィリスには、どうやら謎のトラウマがあるらしい。

 

「ふぅ……、幸せな時間だったわ……」

 

「はぁ……、恐怖の時間だったよ……」

 

満足そうに頬に手を当て窓の外を眺めるリアーネと、疲れた様に床に手をつき胡乱な目をするフィリス。

そんな中、リアーネは改めてフィリスに向き直ると。

 

「フィリスちゃん、心配かけて本当にごめんね。それからありがとう、フィリスちゃん。大変だったでしょ?」

 

そんな感謝の言葉を述べた。

そして、リアーネの言葉を受けたフィリスは、リアーネの方を真っ直ぐ見つめ。

 

「いつまでもリア姉に支えてもらうばかりじゃいられないもん。とにかく、元気になって良かったね!」

 

精一杯の笑顔で応えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「リア姉、ここだよ」

 

フィリスは街で色々な食材を買うと、それらを持ってリアーネをとある場所へと案内した。

 

「ウィズ魔道具店…?ここがフィリスちゃんが言ってた人の店なの?」

 

リアーネはフィリスにそんな確認をとると、フィリスはコクと頷いた。

そう、フィリスが案内した場所は、昨晩リアーネの看病をして貰ったウィズの所だった。

フィリスが『ラアウェの秘薬』を完成させた後、ウィズは「店があるから」と早々に帰ってしまったのだ。

フィリスはよくは知らないものの、ウィズがリアーネに何らかの事をして、治療に貢献してくれたことは分かっていた。

少なくともそれは間違いない事実である為、その事をリアーネにも伝え、こうしてお礼をしに来たのである。

 

「こんにちはー、ウィズさん居ますか?」

 

フィリスは挨拶をしながら店の中へと入り、その後に続いてリアーネも店内へと足を踏み入れた。

扉を開けると、来客を知らせる鈴が軽やかに鳴り響き、心地よい音が店内へと広がっていく。

小さいながらも小綺麗な内装、効果さえ知らなければ購買意欲を刺激するような見た目の良い商品の数々が、計算され尽くされているかのように美しく陳列している。

そんな店の中、入ってすぐのカウンターの所に、目当ての人物はいた。

 

「あら、フィリスさん。いらっしゃいませ……って、そちらの方はリアーネさん…でしたよね?もしかして、もう怪我が治ったんですか⁉︎」

 

「はい、おかげさまでリア姉はすっかり元気になりましたよ!」

 

ウィズはフィリスと共にやって来たリアーネを見ると、驚愕に目を見開いた。

そんなウィズに対しリアーネは、優雅に一礼をして感謝の言葉を述べた。

 

「あなたがウィズさんですね。この度はどうもありがとうございました」

 

「あ、いえいえそんな。私の方こそフィリスさんには助けていただきましたし、その恩返しとしてお手伝いさせていただいただけですよ」

 

ウィズはリアーネの言葉に、首を振ってそう応える。

フィリスは二人が言葉を交わしたのを見届けると、買って来た食材をウィズに渡した。

 

「ウィズさん。これ、お礼の品です。受け取ってください」

 

「え?良いんですか⁉︎」

 

フィリスが食材を渡した途端、ウィズは目を輝かせて食べ物が入っている袋の中を覗き込んだ。

そんなウィズをリアーネは微笑ましく眺め、ウィズの内情を知るフィリスは苦笑を浮かべた。

 

「ほれにひても、まはかほうへががはおってるはんて」

 

「すいません、何言ってるか分かんないです」

 

貧乏になると人は遠慮という言葉を忘れるのだろうか。

食材を渡して数秒と経たない内にそれにありつきながら言うウィズに、フィリスは冷静にツッコミを入れる。

 

「……んぐっ、それにしても、まさかもう怪我が治ってるなんて、錬金術って凄いんですね」

 

「あぁ、それが言いたかったんですね」

 

今度こそウィズの言いたい事が伝わったフィリス。

確かに錬金術と言うものはこの世界にはないものである。

実際にその効果を目の当たりにしたウィズには、目を見張るものがあるのだろう。

 

「ねぇ、フィリスちゃん。折角だからここで少し買い物をしていかない?」

 

いつの間にか店内を物色していたリアーネが、そんな突拍子も無いことを言ってきた。

 

「ちょ、リア姉…それは…」

 

「本当ですか⁉︎是非、是非何か買って言ってください!」

 

リアーネの発言で困惑するフィリスと、歓喜に満ちた表情を浮かべるウィズ。

リアーネはフィリスの反応に気づいてないのか、とある道具を手に取った。

 

「ウィズさん、これはなんですか?」

 

「それはカエル殺しと呼ばれるマジックアイテムです。ジャイアントトードの餌に模したそれには、炸裂魔法が封じられているんです」

 

「つまり、コレを使えば安全にジャイアントトードが狩れるって事ですか?」

 

「はい、そうなんです」

 

 

(……あれ………案外マトモな商品もあるんだ)

 

 

フィリスは笑顔で商品の説明をするウィズを見て、少し首を傾げる。

とはいえこれだけの品揃えがあるのだ。

マトモな商品の一つや二つ位はあってもおかしく無いのかもしれない。

フィリスがそう自分の中で結論づけた所で、リアーネはふとそのカエル殺しの値段を聞いた。

 

「所でこれって、いくらなんですか?」

 

「それは二十万エリスですね」

 

「高っ⁉︎ジャイアントトードって一匹で五千エリスですよね⁉︎」

 

フィリスはその値段の高さに呆れるしかなかった。

 

前言撤回、やはり他に陳列されている物と同じく売れない商品の仲間であるようだ_______と。

 

「えっと…残念ながら私たちにはまだ必要ない…と思います……」

 

どうやらリアーネも値段が割に合っていない事に気付いたらしい。

が、ウィズだけはそれに気付いていないのか。

 

「そうですか…それでは必要になったらまた買っていってくださいね」

 

残念そうにしながらも営業スマイルを浮かべる。

その後もリアーネは色々な商品を手に取るも、無意識ぼったくりポンコツ店主の商才の無さが遺憾無く発揮されており、遂にはリアーネも恩人の店を見限ることにしたようだ。

 

「えー、ちょっとまだ私たちのような駆け出し冒険者には必要ない物ですね……、またそれが必要な時期が来れば、その時はお世話になりますね」

 

「そうですか……、えと、またのご来店をお待ちしております」

 

リアーネの言葉に精一杯の営業スマイルを取り繕って応じるウィズ。

しかし明らかに残念そうな空気を隠しきれず、フィリスとリアーネは多少の罪悪感に襲われた。

だがダクネスから受け取った報酬があるとはいえ、今後の事も考えるとあまり無駄遣いは出来ないのだ。

非常に申し訳ないと思うものの、正直言って役に立たないような物は買う必要はない。

そういう訳でフィリスとリアーネはウィズに軽く会釈をすると、愛想笑いを浮かべながらそっと店の外へと出た。

 

 

そのまま冒険者ギルドへと二人して向かう事数分。

 

 

「はぁ〜……、ウィズさんの悲しそうな視線がグサグサ刺さった……」

 

少し歩いてウィズ魔道具店から離れると、フィリスは大きなため息を吐いた。

 

「本当はお礼に何か買っていきたかったんだけど、まさかあそこまで商才がないなんてね……」

 

フィリスの嘆息に同調するようにリアーネもそんな事を零す。

 

「フィリスちゃん、これからはウィズさんに定期的に食糧を持って行ってあげましょう…」

 

「うん、そうだね…」

 

フィリスとリアーネがそこまで言葉を交わすと、いつの間にか二人の目の前には冒険者ギルドの扉があった。

 

「昨日はギルドにも行かずに真っ直ぐに家に帰ったから、報告とか色々しなきゃいけないわね」

 

 

そう、リアーネは昨日クエストに失敗した後、全身傷だらけのボロボロ体を引き摺って、家へと戻ったのである。

というのも、あの時のリアーネの最優先事項は、報告よりもまず体の治療であったのだ。

そしてリアーネにとっては、未だ完全には馴染まない世界の、かつて行ったこともない病院なんかで治療して貰うより、フィリスに頼んだ方が確実なのである。

僅か二年にも満たない年月ではあるが、それでもフィリスと共に旅をしてきたリアーネは、最も近くでフィリスの錬金術を見てきたのだ。

この世界においては_______いや、この世界に限らなくとも、リアーネにとってフィリスは最も信頼できる相手であるのは自明の理である。

 

 

そういう訳でギルドの前へとやって来た二人がその中へと足を踏み入れると、そこには相変わらず喧騒に包まれた賑やかな酒の席が繰り広げられていた。

 

因みに現在の時刻は空が赤みがかって薄っすらと影が伸び始めた頃。

 

朝っぱらではない分まだマシだろうが、それでも酒を呷るにはまだまだ早い時間帯である。

そんな酒と料理の匂いが入り混じるギルドの中、フィリス達は奥のカウンターへと向かう。

 

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ……ってリアーネさんじゃありませんか!昨日はあの後一度もギルドへお越しにならなかったので心配したんですよ?」

 

ギルドの受付嬢、ルナがリアーネの姿を確認すると、心配したような表現を浮かべた。

 

「すいません…少々トラブルがあったもので…」

 

「トラブル…ですか?」

 

リアーネは首を傾げるルナに、昨日リアーネの身に起こった出来事を手短に話し始める。

 

「あの後街の外に出て少し歩いた所で、ふと後方で爆発が起きたんです。その時その爆風に巻き込まれて吹き飛ばされ、頭を近くの木に打ち付けてしまったんですよ」

 

 

「………あ」

 

 

フィリスは今日目が覚めた後、リアーネから大体の事情は聞いていたので別段驚かなかったが、ルナはリアーネの言葉を聞いて驚いたのか、そうポツリと零した。

いや、驚いたというより寧ろ心当たりがあるような、何かに気づいたかのような感じだった。

 

「それでその音を聞きつけたのか、初心者殺」

 

「あの、爆発の直前に何か少女の声が聞こえたりしませんでしたか?」

 

ルナの反応には構わず説明を続けるリアーネの言葉を遮り、ルナは唐突にそんな事を聞いて来た。

 

「え?あ、はい。確か…『エクスプロージョン』……だったかしら?そんな感じの声が」

 

「少々お待ちください‼︎」

 

ルナはリアーネの話を最後まで聞く前に、カウンターの奥へと駆け込んだ。

フィリスとリアーネが顔を見合わせ首を傾げていると、まもなく放送のようなものが聞こえて来た。

 

『めぐみんさん、直ちに冒険者ギルドへとお越しください。繰り返します。アークウィザードのめぐみんさん、直ちに冒険者ギルドへとお越しください』

 

「めぐみん…?え…それ名前?」

 

「さぁ……」

 

フィリスの疑問にリアーネは曖昧な返事で返していると、カウンターからルナが戻って来た。

 

「申し訳ありませんリアーネさん、今犯人と思しき人物をお呼びしましたから」

 

「は…犯人?」

 

ルナの言っていることがよく理解できないリアーネ。

だが恐らく犯人というのは、話の流れ的に爆発を起こした張本人の事だろう。

 

その後昨日起きた出来事を掻い摘んでルナに話した後、待つ事十数分、ギルドの中に紅い瞳が特徴的な、二人の少女がやってきた。

その少女達の内の一人、年は十二から十四歳程だろうか、そんな幼さが少し目立つ少女が徐ろにこちらへと歩いてくると。

 

「あの、アナウンスを聞いてやってきたんですが、一体どういった要件なんですか?」

 

と、見た目の割に丁寧な口調でルナに問いかけた。

 

「この子がめぐみんって子かな?結構幼い感じだね」

 

「でも案外しっかり者っぽいわよ」

 

フィリスとリアーネがめぐみんを見ながらコソコソと耳打ちしあっていると、ルナはそんな二人を手で示しながら、めぐみんに話しかけた。

 

「えー、まずこちらはフィリスさんとリアーネさんという、最近冒険者になった姉妹です」

 

「そうですか、新入りですか」

 

めぐみんがルナの言葉に頷くと、羽織っていたマントをバサっと翻し、訳のわからないポーズをとり。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者!」

 

訳のわからない自己紹介をし始めた。

 

「フィリスちゃんフィリスちゃん、やっぱり変人だったみたいね」

 

「うん、それにしても、めぐみんって本名だったんだね…」

 

再びコソコソと話す二人を他所にドヤ顔でポーズをきめるめぐみんに対し、ルナは冷静に、とある事実を告げた。

 

「昨日、あなたは爆裂魔法を意味もなく平原に撃ちましたよね?」

 

「はい、それが何か?」

 

突然のその言葉に、首だけを動かしてルナの方を見て答えるめぐみん。

 

「その爆裂魔法の爆風に、こちらのリアーネさんが巻き込まれて頭を怪我されたらしいんです」

 

「はっ………⁉︎」

 

決めポーズのまま固まるめぐみん。

そんなめぐみんに対し、ルナはさらに追撃を行う。

 

「そうして頭を打ち付けて朦朧とする意識の中、爆発の音を聞きつけた初心者殺しと遭遇したらしいです」

 

「なっ………⁉︎」

 

ルナの言葉にさらに驚愕するめぐみん。

その頬にはダラダラと冷や汗が伝っていた。

なお、めぐみんと共に来たもう一人の少女は先程から口をパクパクとさせている。

恐らく彼女もルナから告げられた真実に驚いているのだろう。

 

「そして必死に初心者殺しに抵抗する中、さらに音を聞きつけた最近噂の例の悪魔に遭遇したらしく、その悪魔によって更なる大怪我を負わされたとのことです」

 

「_______ッ⁉︎」

 

ルナが大まかな事情を話し終えた頃、めぐみんの顔は誰の目から見てもはっきりと分かる程に青ざめていた。

全身から冷や汗を噴き出すめぐみん。

と、その時めぐみんの後方に立っていたもう一人の少女が、めぐみんの肩を掴み揺さぶった。

 

「ちょ、何してるのよめぐみん‼︎なんで意味もなく爆裂魔法を撃ったのよ‼︎」

 

「いや、爆裂魔法は私の生き甲斐というか、アレを一日一回撃たないと死んでしま…」

 

「何訳わかんない事言ってんの⁉︎それよりも早く謝りなさいよ‼︎」

 

「あ、え、その、すいませんでしたっ‼︎」

 

急に身体を揺らされためぐみんは一瞬狼狽するも、すぐさま我に帰ったのか、リアーネに対して見事に直角に頭を下げ、謝罪をした。

 

「あ、あの、私からも謝らせてください!本当にめぐみんが大変な迷惑をおかけしました‼︎」

 

めぐみんが頭を下げると同時、もう一人の少女も共に頭を下げ、リアーネに対し謝罪をする。

その怒涛の勢いに気圧されたリアーネは、ただただ。

 

「え、あ、えぇ。大丈夫だから…」

 

そう答えるしかなかった。

 

*****

 

改めて簡潔に纏めると、ルナによって呼び出された少女___めぐみんが昨日、意味もなく平原に爆裂魔法を放ったらしい。

 

爆裂魔法とは、この世界において最高峰にして最大級の威力を誇る、究極の攻撃呪文である。

だが、爆裂魔法は大抵の敵を倒せる圧倒的破壊力を持つが故に、魔王軍の幹部クラスとかが相手でない限り、オーバーキルも良いところの代物であり。

そんな強力な呪文なんてポンポンと撃てるはずもなく、めぐみんの場合、日に一度撃てば最早動けなくなるくらいらしい。

むしろ爆裂魔法を撃てるだけでも相当凄い事であり、その点に関して言えばめぐみんが優秀な魔法使いだという事の証明にもなるのだが、基本的にはアホみたいに消費魔力と習得の為のスキルポイントが高い上、オーバーキルも良いとこのネタ魔法というのが、この世界における共通認識とのことだ。

 

そして、そんなネタ魔法の虜になってしまったらしいめぐみんは、意味があろうがなかろうが、爆裂魔法をぶっ放すのが日課となっているらしい。

そして昨日、偶々めぐみんが爆裂魔法を放った小高い丘、その先の少し下に降りた地点はめぐみんにとっても死角になっていたらしく、更には爆裂魔法の効果範囲も広すぎたため、偶然そこに居合わせたリアーネが巻き込まれてしまったらしい。

 

そういう訳で犯人であるめぐみんはこのギルドへと呼び出された訳だが、リアーネがめぐみんの事を許したという事もあり、その処遇は厳重注意という形で済まされた。

 

なお、めぐみんと共にやってきた少女の名はゆんゆんと言う名である。

ゆんゆんはめぐみんのライバルとの事だが、傍から見れば仲の良い友達にしか見えなかった。

二人が共に、どこかの家出した貴族令嬢を探している時にあのアナウンスが流れたため、心配で一緒にギルドまで付いてきたのだという。

 

因みに二人は同じ紅魔の里出身の、紅魔族と呼ばれる種族のようだ。

里の人間全員がアークウィザードらしく、黒髪紅眼と変な名前が特徴的な種族とのことだった。

 

「それにしても、事件の黒幕である私が言うのも何ですけど、本当にリアーネは爆裂魔法に巻き込まれたんですか?」

 

「え?どういう意味かしら?」

 

「いやだって、怪我なんて一つも無いじゃないですか。昨日大怪我を負ったとはとても思えないんですけど」

 

「ああ、その事ね」

 

めぐみんの疑問も当然だろう。

大怪我を負ったと言うのに、一日経てば元通り…なんていうのはどう考えてもおかしな話である。

そんなめぐみんの疑問にリアーネは、誇ったような笑みを浮かべながら答えを告げる。

 

「ここにいる私の可愛い可愛い妹の、フィリスちゃんが薬を作ってくれたのよ」

 

「薬を…この人が…?」

 

めぐみんの視線がフィリスへと注がれる。

それだけではなく、ゆんゆんやルナの視線までフィリスへと集まっていた。

当のフィリスはと言うと、どうだと言わんばかりに胸を張るものの、寄せられ続ける視線に耐えかねたのか、その頬はほんのり赤く染まっていた。

 

「フィリスちゃんはね、色々な道具を作れるのよ。攻撃アイテムから回復アイテムまで、多種多様なものをね」

 

リアーネは得意げに妹自慢をする。

が、フィリスの事を錬金術師と言わない辺り、どうやら別世界から来た事は隠すつもりらしい。

 

(まぁ、確かにここで下手に騒ぎを起こしても…ね。隠し通す理由はないけど、別に言わなくてもいいからね)

 

フィリスもリアーネの意図を汲み、とりあえずは異世界だのと言った話は伏せておく事にした。

 

「へ〜、魔道具職人でもあるんですね。それにしても、話に聞いていた怪我は相当なもののはずですが、それを一日で直してしまうとは、かなり腕が良いんですね」

 

「あ、わ、私もその魔道具とか、色々見たいです」

 

めぐみんに続きゆんゆんも口を開く。

どうやらこの世界では、フィリスの作る道具は魔道具として扱われるらしい。

確かに、一応は『魔法の道具』とされている物も多い為、魔道具と言うのにも頷ける。

 

(今度から錬金術で作ったものは、この世界では魔道具として扱って……、作ったものを売るのもアリかな?)

 

フィリスはそんな事を考えながら。

 

「いつでも私の作った魔道具を見にきても良いよ」

 

と、二人の紅魔族に笑いかけた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

めぐみんが「そういえば家出した貴族令嬢を探している途中でした!」と言って、ゆんゆんと共にギルドを出て行ったあと。

 

「あの、めぐみんさんの事、本当に許してもらえましたか?」

 

ルナがリアーネにそんな事を聞いて来た。

 

「えぇ。本人も謝ってたし、今後気をつけるとも言っていましたしね。それに、もうすっかり傷は癒えましたし」

 

「そうですか…、ありがとうございます、リアーネさん」

 

リアーネの返答に満足げに頷くルナ。

 

彼女は冒険者達のことをそれなりに大切にしているようだった。

そんなルナにお願いされては、大変な目にあったリアーネでも、ついついめぐみんの事を許してしまう。

フィリスも言いたい事は少なからずあるにはあったものの、リアーネが許したと言うのならと身を引いていたのだ。

 

「所でリアーネさん、昨日のクエストなんですけど、期限は三日なのでまだクエスト失敗にはなってませんよ」

 

「あ、そういえばそうですね」

 

リアーネは爆風に巻き込まれた際、頭を強く打った為しばらくは安静にしていなければと考えており、その為期限内でのクエスト達成は難しいと考えていた。

しかし、フィリスのお陰で想像以上に早く傷が治った為、まだまだクエスト達成のチャンスがあるのだ。

 

「それじゃあ、ちょっとクエスト達成して来ますね」

 

そう言うと受付カウンターをあとにし、二人揃って外へ向かおうとする。

その時、ふとフィリスとリアーネの二人に声がかけられた。

 

「あ、二人とも丁度いいところに」

 

声がした方をみやると、クリスとダクネスが同じテーブルの所に座り、ポリポリと野菜スティックを齧っていた。

 

「クリスさん、ダクネスさん、こんにちは」

 

フィリスは二人に挨拶をし、それに続いてリアーネも軽く会釈をした。

 

「すまない、二人にも少し話があるんだ」

 

ダクネスがやけに真剣な目つきをしていた。

そのただならぬ雰囲気を感じ取ったフィリスとリアーネは、ダクネスに促されるまま同じ席に着いた。

 

「あの、話ってなんですか?」

 

リアーネがクリスとダクネスに問うと、突然クリスは机をバンッと叩いた。

その唐突な行動に体をビクッと震わすフィリスとリアーネと野菜スティック。

そのままクリスは驚き硬直している野菜スティックをヒョイとつまみ、パリパリと齧り始める。

 

「って、何するんですかいきなり!ビックリしましたよ!」

 

最も驚いていたフィリスが抗議の声をあげる。

するとクリスは机の上の野菜スティックを指差し。

 

「まぁまぁ、とりあえずこれでも食べて落ち着きなよ」

 

と、そんな事を言って来た。

 

「まったく、本当に驚いたんですからね」

 

フィリスが可愛く頬を膨らませながら野菜スティックに手を伸ばすと。

 

ヒョイ

 

野菜スティックが華麗にフィリスの手を避けた。

 

「………は?」

 

なんとも間抜けな声を出すフィリスに、今度はダクネスがお手本のように机を叩き、野菜スティックが硬直している間につまむ。

 

「こんな感じで、この世界の野菜スティックは逃げるから、音や振動で驚かせるなりして動きを止めてからつまむんだよ」

 

「おかしいですよっ!この世界絶対変ですよっ!」

 

確かにフィリス達の元いた世界でも特性【生きている】なるものがあり、通常動くはずがないものも動いたりすることがある。

が、そんな物を食卓に持ち込むことはまず無い事である。

今更ながらに異世界の洗礼を受けたフィリスは尚も抗議し、そんなフィリスに同調するようにリアーネも苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁでもそんな事よりも」

 

「いやいや、そんな事って言っても、私達には結構な大事ですからね」

 

「そんな事よりも二人共、悪魔についてはどう思う?」

 

フィリスのツッコミを華麗にスルーし、クリスは唐突にそんな質問を投げかけた。

 

「いやでも……、まぁ良いです。それで、悪魔がどうかしたんですか?」

 

とうとう観念したフィリスは、今度は逆にクリスに聞き返した。

 

「ほら、最近この街の付近で悪魔がウロウロしてるらしいじゃない?」

 

クリスの言葉を受け、リアーネは昨日見た悪魔の事を思い浮かべる。

 

真っ黒な体躯、その巨体に見合わぬスピード、破壊力抜群の一撃。

どれを取っても明らかに強すぎるそれは、だがその実少しは友好的に接して来てはいた。

ひとたび敵と見なされれば容赦無く襲いくるも、そうでなかったらその容姿に似合わず優しい一面を見せた悪魔。

可能ならばもう二度と対峙する事は御免だと思わせるそいつを思い出していると。

 

 

ふと、クリスとダクネスは真剣な面持ちで口を開く。

 

 

 

 

「「その悪魔をぶっ殺しにいこう」」

 

 

 




さて、いかがだったでしょうか?

個人的には今回は大した大事も起こさず、のんびりとさせたかったのですが…微妙だったかも?

というかよくここまで駄文、駄作を投稿し続けてこれたな俺……

次回はなるべく一週間以内に投稿しますので、もう少々お待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。