二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回は短いです。特に前回から動きはしないので。


では第九十五話をどうぞ


第九十四話 小悪魔の悪魔

Sideパチュリー

 

私は今、夢を見ている。

 

夢といっても、それは今まで生きてきた中で経験したことを夢として見ているのではない。全く経験したこともない事が夢として見えている。

 

正面には数多くの何かの死体。私の横には鏡夜以外の紅魔館全員が横並びになって息を切らしている。背後には紅魔館があったはずなのに何も残っていない。

 

「ま……る……ひ……」

 

夢の影響か、レミィの言ってる事がよく聞こえないけど、言いたいことはわかる。正面からまた大量の何かが現れたのだ。

 

何かを放つ何かに、こちらも魔法や弾幕で応戦していく。だが、数の違いからから、押し切られそうになる。

 

「み……え……て……」

 

必死に応戦するが、押し切られてしまう。

 

魔法や弾幕を超えて、何かが私に向かって飛んできている。避けることはできない。迎撃することは出来ない。私は……ここで死ぬのかな。

 

「……!」

 

何が私へと触れた。瞬間、私の体から眩い光が飛び出す。暖かい、それでいて安心できる。この光は……

 

 

 

「おはよう、パチュリー」

 

「……鏡夜?」

 

ここは……どこ? アレ? 私、さっきまで何してたのかしら?

 

「寝ぼけているのかい? パチュリーは寝ていたんだよ?」

 

……そうだった。私、連日の徹夜のせいで眠気が溜まっていたから、鏡夜の膝を枕にして寝ていたんだったわね。

 

「……ええ、大丈夫。思い出したわ」

 

「そう、それは良かった」

 

鏡夜の膝から頭をどけて、二三度頭を振る。

 

それにしても、なんでかしら? なんだか、とっても重要な夢を見ていた気がする。……ま、所詮は夢よね。覚えていないっていうことは、それほど重要な夢じゃないってことでしょう。

 

「パチュリー」

 

「何……」

 

振り返り、鏡夜の方を見た瞬間、鏡夜にキスされた。

 

「おはようのキス」

 

「……!!」

 

え、ええと? これは、どういうことかしら? おはようのキス? おはようのキスってことは、キスってことよね?

 

それって、ええっと、つまり……!!

 

「も、もう! 鏡夜! するなら前もって言って頂戴!」

 

だ、だってキスよ! 唇と唇をくっつける行為よ! そりゃあ、私だって、何度か鏡夜とキスしたことはあるわよ。でも、それはあくまでお互いするって意識してやってるのよ! 

 

普段は、平然としてるけど、結構恥ずかしいのよ! それなのに、不意打ちでやられたら、その、恥かしいじゃない!

 

「すみません。驚かせたかったもので」

 

十分驚いたわよ。人生で一番目くらいの驚きよ。

 

「う~ん? あ、パチュリー様、おはようございます」

 

キスのせいで赤くなっている頬を手で隠していると、私とは反対の膝に寝ていた小悪魔が起きだした。

 

「おはよう、小悪魔」

 

自然と小悪魔の顔を近づけた鏡夜は、そのままゆっくりと小悪魔にキスをする!

 

「ん、おはよう、鏡夜」

 

なんで、貴方はそんな平然と受け入れられるのよ! 私なんて、恥ずかしさのあまり死にそうなのに!

 

「パチュリー様、小悪魔、起きてそうそうすみませんが。私はこれからお見舞いに行かなければなりません。ですので、夕食は出来ていますので、美鈴とカロに運んでもらってください」

 

「え、ええ。分かったわ」

 

「うん、了解」

 

「では、私はこれにて」

 

隣にいた小悪魔と自分の位置を入れ替えた鏡夜はそのまま門の方まで歩いて行ってしまった。

 

「……パチュリー様~」

 

「な、なに?」

 

ニヤニヤ顔の小悪魔が話しかけてくる。この顔は小悪魔が何か弄るものを見つけた時の顔だ。

 

「顔赤いですよ~」

 

「え、ええそうね。今日は暑いせいかしらね」

 

目線を合わせずに顔を逸らして小悪魔に答えると、小悪魔は私の耳に近づいてくる。

 

「どうでした、鏡夜とのキスは」

 

「べ、別にいつもどおりよ。いつも通り!」

 

「普段の意識してのキスではなく、不意のキス。結構、パチュリー様の初心な恋心にきたんではありませんか?」

 

囁くように言う小悪魔。

 

流石は小がついてるけど悪魔。なんだこう、心を惑わせるように言ってくるわね。

 

「う、初心? いったい誰がかしら?」

 

「パチュリー様、隠さなくていいんですよ。魔女なのに未だに貞操を守っている程パチュリー様は初心なのですから。もう少し、素直になってみてはどうですか」

 

「素直って何よ」

 

私はいつでも素直よ。異論は認めないわ。

 

「もっと、鏡夜にアレやコレをしてもらいたいとか、チョメチョメの段階まで行きたいとかですよ。パチュリー様」

 

「ふあッ!」

 

最後に息をふっと耳に吹きかけてくる小悪魔。

 

素直に……そ、そりゃあ、私だって鏡夜とはあんな事やこんな事をしたいわよ。でも、レミィやフランだってまだしてないのに、私がするなんて。

 

「二番より一番。後手より先手。一番というのは最初ということ。いいじゃないですか、欲望のまま動いてしまえば。鏡夜の一番を奪ってしまっても」

 

……でも、レミィやフランが。

 

「魔女とは欲に忠実であるものですよ。だから、パチュリー様……奪っちゃいなよ」

 

私は……私は……

 

「はーい、そこまで」

 

後ろからいきなり頭を小突かれた。

 

「ッ!? レ、レミィ!?」

 

「あらら、現れてしまいましたか」

 

振り返ってみれば、そこにはレミィが腰に手を当てて頬をふくらませながら立っていた。

 

「まったく、パチュ。小悪魔に乗せられてんじゃないわよ。顔見てみなさい。凄い目がうつろになってるわよ」

 

……ッ! そうだ。なんで私の小悪魔に乗せられてるのよ! あんなに乗せられちゃいけないと思っていたのに!

 

「レミリアお嬢様が出てこなければ、もう少しでパチュリー様をその気にさせられたのですが……残念です」

 

「何言ってるのよ。パチュの弱い所をついて行動させて、自分の欲望もついでに叶えようとしたくせに」

 

「悪魔ですから」

 

舌をチョロっと出しながら、ウインクする小悪魔。

 

へ、へ~小悪魔、私が鏡夜とやったら、ついでに自分もしようとしてたんだ。へ~そうですかそうですか。

 

懐からそっとスペルカードを取り出し、笑顔で小悪魔を見る。

 

「お、おやおや~パチュリー様。いきなりスペルカードを取り出してどうなされたんですか?」

 

「小悪魔、私をたぶらかそうとした罰、受けてもらうわよ」

 

優しい声音と笑顔で言ったというのに、どうして小悪魔はこんな引きつった笑いをしてるのでしょうか。

 

「……パチュリー様。あれはですね」

 

「問答無用。スペルカード発動。日符・ロイヤルフレア」

 

「ご、ごめんなさ――――――い!!」

 

「許さない!」

 

スペルカードを発動すると同時に逃げ出す小悪魔。

 

逃がすもんですか! 私にあんな恥ずかしい事をさせようとしたんだから! それ相応の罰は何が何でも与えるもん!

 

逃げ出す小悪魔を追いかけ、紅魔館の中へと入っていく。

 

「やれやれ」

 

 

 

Side鏡夜

 

美鈴から聞いた場所によると、咲夜ちゃんは迷いの竹林と呼ばれる竹林の奥深くにある永遠亭という場所に入院してるらしい。

 

今の時刻は大体十時過ぎほどか。この時間に永遠亭にお邪魔するのは流石に失礼か? ……あんまりしたくはないが、スキマで咲夜ちゃんのとこにサッと行ってサッと帰ってくるか。

 

咲夜ちゃんのいる場所までのスキマを開き、中に入る。長い空間を歩いていくと、奥のほうから光が差してくる。

 

光が差している場所から顔を出せば、そこには和室で布団に横になっている咲夜ちゃんがいた。

 

「咲夜ちゃん」

 

「あ、鏡夜さん」

 

ゆっくりとスキマから出て、咲夜ちゃんに話しかけてみる。

 

熱が出ていたから、寝ていたのだろう。薄らを瞼を開けた咲夜ちゃんは、俺の方を見ると、起き上がってこようとする。

 

「ああ、いいから、寝てなさい。まだ、具合が悪いんでしょう」

 

「はい。それでは、お言葉に甘えてこのままで……」

 

起きるのをやめて、再び布団に横になる咲夜ちゃん。

 

やはり、体が凄いダルイんだろう。いつもより動くスピードが遅い。

 

「どう、具合の方は?」

 

「まだ、多少だるいですが、お医者様によれば、明日の夜には治るだろうとのことです」

 

「そう……長引かない病気でよかったね」

 

「はい」

 

ふむ、明日の夜か。ならば、午前中は紅魔館に鏡華と鏡夢を置いて鬼たちのとこに出かけ、その後に咲夜ちゃんを迎に来ればいいか。

 

「咲夜さん、入りますよ」

 

「おっと、これは、マズイ。それじゃあ、咲夜ちゃん。明日迎えに来るから、それまで医者の言うこと聞いて治すんだよ」

 

「はい」

 

急いでスキマを作り出して飛び込む。

 

バレてはいないだろうけど、どうだか。ま、バレていても、咲夜ちゃんが何とかすると信じよう。

 

「よっと」

 

スキマから出て、空を見上げる。

 

星が煌き、幻想的な夜空を作り出している。ああ、綺麗だ。ずっとこんな光景を見れればいいのに。

 

「あと、一年。一年経てば、一体何が起こるってんだよ」

 

気にしないと考えていても、どうしても気にしてしまう。……はあ、怖い。

 




次回はメイドと鬼

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