では、第九十二話をどうぞ。
Sideカロ
……私、今どこにいるんだろう? 萃香と戦った後、あの空間の中で気を失ったはずなのは確かなんだけど、なんだか周りが騒がしく、ガヤガヤと色んな音が聞こえてくる。
目を開けて周りを確認したいんだけど、ここまで戦ってきたせいか体が動かない。……ふむ、どうやら能力の方がいま全力で回復に回ってるみたい。全力で回ってるのに動けないって、私どんだけボロボロになってるの?
「起……カ……ロ」
声が耳元から聞こえてくるが、何言ってるかよく聞き取れない。耳すら機能しなくなってる。でも、耳くらいだったらもう少しすれば戻るはず。
「無理に起こさなくてもいいわよ。私達六人と戦って、更に連戦で鬼とも戦ったのよ。休ませてあげなさい」
「でもよ~。久々に一緒に飲みたいんだよ」
話してる声が段々とハッキリ聞こえてくる。これは……紫と魔理沙か。でも、何で萃香のいる場所に? ……いや、違うか。私が萃香のいた場所から移動してるのか。
「そうよ、魔理沙。休ませてあげなさい」
「チェッ……起きたら一緒に飲もうな、カロ」
霊夢も近くにいるんだ。じゃあ、ここはもしかして博麗神社のどこかなのかな? それに、酒をどうたら言ってるから、もしかして宴会中……?
……!! 酒! 起きろ私! 早くしないと酒がなくなる!
「だらっしゃあああ!!」
「うわっ! ビックリした」
目を開け飛び起きてみたら、そこには驚いて盃がひっくり返りそうになってる霊夢と笑っている紫がいた。
そんなことより、酒! 酒が早く飲みたい! ここ最近飲んでないから久々に潰れるまで飲んでいいよね!
「霊夢、酒はどこだ!」
「え、えっと、あそこ……」
「うらあああああ!!」
大声を上げつつ、博麗神社の石畳になっている場所に跳び、宴会の真っ只中に飛び込む。
「おお、カロ! 起きたのか!」
「魔理沙、酒を出して、早く!」
「あいよ!」
勢いよく渡された酒樽を受け取り、中に入っている酒を一気に飲み干す。
いや~久しぶりの酒だ。もう、うまいね。これならいくらでも飲める!
「げっぷ! 次!」
「よっしゃ! どんどん酒もってこい!」
「うわ~頭痛い」
何時間飲み続けたことか。気づけば周りは私一人だけであり、他の皆は地面に倒れて眠っている。
体の力は元に戻っている。それに、痛みも完全になくなっている。うん、完治した。
そういえば、鏡夜やレミリア、フランや咲夜、美鈴にパチュリーに小悪魔がいない。皆紅魔館にいるのだろうか? 酒飲み宴会の真っ最中だったからすっかり忘れてた。
博麗神社の中をぐるぐると回り、鏡夜達を探すが、やっぱりどこにもいない。
「はぁ、帰ろっか」
鳥居の外を見ながら、幻想郷を見渡す。広い。広い上に、月明かりのお陰か全てが綺麗に見える。
「あら、まだパーティーは始まったばかりよ?」
「ッ!?」
急に聞こえてきた声に鳥居の外から視線をずらし、博麗神社の屋根を見る。
「本当、私達の出番がなくなっちゃうじゃない」
そこには水色の短い髪を揺らして満月を背後に佇む少女と、金の短い髪を風になびかせて満月を背後に立っている。
コウモリの羽に宝石のような羽。アレは――――――
「レミリア、フラン」
「はいそう。なんだかつまらなそうな顔してるじゃない」
「カロ、これから本番なのに、帰ろうとしないでよ」
ニコニコと笑いながら話しかけてくる二人。
本番……なるほど、そういうこと。だからこそ、宴会が終わるまで待ってくれたし、体が回復するのを待ってくれたんだ。
「……ふう、ゴメンネ帰ろうとして」
「いいわよ。……それじゃあ、始めましょうか」
レミリアがスカートから取りだしたカードを握りつぶすと周りの光景が一変する。寝ていたみんなの姿はなく、居るのは私とフランとレミリア。
ゆっくりと二人は地上に降りてくると、こちらを一度見てから背後を見る。
「どうしたの?」
「ちょっとね……じゃ、始めましょうか」
「手加減抜きでね!」
再びこちらを見た二人は楽しそうに笑っている。それはそれは、満面の笑みで。
いや~怖いね。吸血鬼が二人。しかも、片方は運命を操り、片方は破壊を得意とする。相手として、不足はないね。
今回だけは、主従関係なんか無しで行くよ。
「来なよ。相手してあげる!」
Side鏡夜
「始まったな」
紅魔館の上で、例の結界の発動を確認する。
本来なら、お嬢様達とカロの戦いはとっくに終わってるはずだったのだが、あのアルレシャのせいで、カロとの戦いは出来なかった。そして、そのままカロとの戦いはお流れになるかと思っていたのだが……どうしても戦いたいと言われてこのような形に。
カロにも休みを与えたかったんだけどな……ま、本人が楽しそうだからいっか。
「で、今回は付き合ってくれるのか?」
「気づいてたんだ」
紅魔館の屋根に座り込み、結界の中の様子がわかるようにスキマを開いてから、後ろにいる人物に問いかける。
「気づくに決まってるだろう」
「ま、そうだね。鏡夜だもんね」
お嬢様達が戦う姿をスキマで見ていると、隣に少女が座ってくる。……まあ、萃香なんだが。
俺の隣に座った萃香はどこから瓢箪を取り出すと、自分の盃に入れて飲み始める。
「ぷはー! やっぱり戦いの後の一杯は格別だね」
「そうかい……でだ、萃香。どうだったよ、カロは?」
盃に入った酒を全て飲み干した萃香は、一度月を見上げると、ニコッと笑いながらこちらを見て来た。
「強かったよ。とってもね」
「……そうか」
それは良かった。カロを送り出した甲斐があったもんだ。
……さて、聞きたいことは聞けたし、もう俺も酒飲みモードに行ってもいいんだが、ひとつだけ、どうしても聞きたいことがある。
「なあ、萃香」
「どうしたの?」
「いや、俺の勘違いならいいんだけどさ、その上に羽織ってるのってまさか、俺が昔あげたやつか?」
そう、萃香が着ている服。なんかどっかで見たなあと思ったら、俺が昔あげた着物と同じなんだよ。
「ん? そうだけど?」
おいおい、いくらなんでも持ちすぎだろ。アレ、渡してから数百年経ってんだぞ? なんで持ってるんだよ。
「どうしてそんなもんを……」
「どうしてって……そりゃあ、初恋の相手の私物だし……」
「……はい?」
初恋……? え? 相手俺ですか? 何故俺が初恋の相手なのですか? 俺、萃香と何もしてない気がするんですが。
「初恋……何故俺なんかに?」
「何故って……」
瞬間、モジモジし始める萃香。あれー? 萃香ってこんな奴だっけ?
「だってさ、鏡夜と戦った時、あんな圧倒的な敗北を味わったの初めてでその……なんていうか、鬼は強い奴に惚れる性質でもあるのか、その時にこう、ね。それに、その日のアレなんて……」
あの日? ……えーと、あの日って確か気絶して宴会してで終わりだったはずなんだけども……俺、何かしたっけ?
「ともかく! 私は鏡夜のことが好きなの……もしかして、鏡夜にとって私は迷惑なの?」
潤んだ瞳で、こっちを見ながら言ってくる萃香。……反則だろ。そんな潤んだ瞳で見られて嫌いだなんて言える奴なんていないよ。
「いや、その、迷惑じゃないんだが……」
「だが?」
「そのな、俺は今結婚してる人がいてな……」
「別にいいよ」
「あ~やっぱり?」
「うん。別に関係ない。結婚してる人がいても私が鏡夜の事を好きなのは変わらないもん。……それとも、その結婚してる人は愛人の二人や三人認められないの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
本来の俺なら、すぐにいいよと言って抱きしめるなりキスするなりするんだが、今回ちょっと渋っているのには理由がある。
それは、アルレシャの言葉。愛を深めると言うあの言葉。アレが頭から離れないんだ。
多分、俺が好きになった奴は、一年後きっと不幸な目にあう。それは、俺だけでは守りきれないほどの不幸。
俺は守り切る自身があるが……それでも、萃香や皆に不幸な目にあって欲しくない。なら、俺は今から皆を愛さずにいればいいんじゃないか? ……いや、何を考えているんだよ、俺。そんな事したら、皆を更に悲しませるだけじゃないか。
「ねえ、鏡夜」
「……どうした?」
頭を下げて考えにふけっていると、萃香からいきなり声を掛けられた。呼ばれたので頭を上げてみれば……!
萃香に抱きしめられていた。
「鏡夜。何を考えてるか私は分からないけど、一つだけ教えてあげる。好きだって思ってる人はね、どんな事があろうと好きな相手を嫌うなんてことはないんだよ? そりゃあ、例外もあるかもしれないけど、私は違う。絶対に私は鏡夜を嫌いにはならない」
……そうか。それは良かった。
「それにね、私……ううん、私達はきっと不幸な目にあっても、鏡夜を恨む事はないよ」
「……なんで分かった?」
「経験……かな? これでも、長年生きてるから恋愛の相談とかも受けてたりするんだよ?」
そうかい。凄いな、萃香は。もしかしたら、俺以上に恋愛に詳しいんじゃないか?
……ま、それはともかく。萃香の言葉でスッキリした。そうだよな。何を弱気になっている俺。不幸になる? ふざけるな。そんなことはさせんし、やらせん。彼女達は必ず幸せであり続けさせる。そう決めた、今決めた。
「ありがとうな、萃香」
「どういたしまして……それで、答えは?」
萃香から体を離し、さっきまで潤んでいた萃香の瞳をジッと見つめる。ハッキリとした、綺麗な瞳。鬼だからこそ、ここまで真っ直ぐとした瞳なのか。
「萃香。俺には結婚してる人がいる」
「……うん」
悲しそうな表情を浮かべる萃香。そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。
「でもな、どうも俺の妻達は気が大きくてな。愛人なんていくらでも作っていいと言われている」
「それじゃあ……」
「こんな俺を好きになってくれてありがとうな、萃香。俺も、萃香のことが好きだよ」
そう言って、萃香の小さな体を抱きしめる。満月の晩、満月をバックにして抱きしめるなんて、結構ロマンチックだろ?
「鏡夜……うん、私も好きだよ」
「萃香」
「鏡夜」
一度離れ、ゆっくりとキスをしようと唇を近づけていく……
「へ~私達が戦ってる間にイチャイチャと、全く。私の旦那様は薄情だこと」
「本当にね~ま、それでも好きなのは変わらないんだけね」
「鏡夜~私にも~」
できませんでした。あれ~? どうしてボロボロ姿のお嬢様達とカロが俺らの後ろにいるのかな? ほら、萃香がポカーンとしてるじゃない。
「早かったですね」
「ええ。早く鏡夜に甘えたかったからね」
「鏡夜。私にもしてよ? じゃなきゃ、泣いちゃうんだから」
「鏡夜~ご褒美~」
徐々に迫ってくるお嬢様とカロ。一応萃香は抱き寄せている。なんかすっぽりと俺の腕の中にはハマってくれて丁度いい。
……しかし、こんな時にアレだが、どうしてこう女の子の体って柔らかいんだろうな。おお嬢様達もそうだけど、どうしてあんな馬鹿げた力を出せんのにこんな柔らかいんだろうか。
おっといかん。つい考え事を……最近、お嬢様達を堪能してなかったから禁断症状でも出たか。
「ま、いいわ。もう少しその子とイチャイチャしたら次は私よ」
「私もだよ、お姉様」
「カロは~?」
「貴方は明日の朝しなさい……ああ、それと鏡夜」
「どうしました?」
「今夜は寝かさないわよ」
「そうですか……では、少し暇を貰います」
「行ってらっしゃい。必ず戻ってきなさいよ」
「分かっていますよ」
萃香を抱えたまま、紅魔館の屋根から後ろ向きで飛び降りる。萃香は目を見開いて驚いている。あら、可愛い。
すぐさま妖力で黒い翼を出して羽ばたかせ、空へと飛んでいく。
「ふ~相変わらず、お嬢様は可愛いな」
「鏡夜、アレが妻?」
「そうだよ」
「へ~……鏡夜ってさ、もしかして……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
……? 一体どうしたんだろうか? ま、いいか。それよりも、時間がないから。
満月に向かって飛びつつ、俺は抱えていた萃香を抱きしめ、無言で真っ直ぐと瞳を見つめる。
「鏡夜……!?」
「今日は、これで我慢してくれ」
「……うん!」
そっとキスし、俺と満面の笑みの萃香は少しの間空中散歩を楽しんだ。
萃夢想閉幕! 次回より、ちょっとした日常編。そして、アンケートで聞いたネタをやっていきます。
……カロとお嬢様達の試合を見たい人っています? 活動報告に書いときますんで見たかったら活動報告の方にコメントください。
感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。