二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回、ちょっと視点変更が多いです。

では、第九十話をどうぞ。


第九十話 正体

Side鏡夜

 

カロの肩を借りて、赤鬼達三人を突破し、ローブの前へと降り立つ。

 

前会った時と変わらず、顔は見えない。が、今回は、前に見えなかった肌の部分がわずかに見える。白く細い、女性の腕。喋り方から、なんとなく女だとは思っていたが、やはり女だったか。

 

「久しぶりですね、鏡夜さん」

 

「久しぶりだな、ローブ。会いたかったぞ」

 

「おう、これはこれは、歓迎されてますね。……殺そうとは思わないのですか?」

 

「思わんね。あの時は状況が状況だから殺そうとしたまで。あの時はあの時。この時はこの時だ」

 

相変わらず、こちらを挑発するような物言い。ムカつきはしないが、如何せんやりにくい。全て冗談のようで、全て本心で語ってるような気がする……同族嫌悪か?

 

「そうですかそうですか……それで、何故私に会いたかったのですか」

 

ローブで顔は見えないが、クツクツとローブは笑いながら言ってくる。まるで、俺が何故ローブに会いたかったか分かっているかのように。

 

「……ローブ、貴様は何者だ」

 

「何者だ……とは?」

 

「とぼけるな。貴様と俺が最初に会った時、俺が名乗ってもいないのにも関わらず、貴様は俺の名前を呼んだ。過去に出会っている可能性もあるにはあるが……貴様のような光り輝くような気配を纏ってる奴などに会った覚えなどない。……もう一度聞く、貴様は何者だ?」

 

一通り言いたいことを言うと、ローブはまたクツクツと笑い始める。やはり、こいつ何かを隠している。俺の記憶も、もしかしたらコイツが……。

 

数秒、ローブはクツクツと笑うと、スッと気配が鋭くなった。先程までの、楽しそうな気配はなくなり、今は真剣だ。

 

「ええ、お答えしましょう。私の名は、アルレシャ・M・ローレライ。貴方の記憶についてのヒントを持っている者ですよ」

 

「やはり……」

 

コイツが、コイツが俺の記憶を奪った……いや、違う気がする。コイツは、記憶を奪ったとは言ってない。記憶についてのヒントを持っているとしか言ってない。

 

「ええ、勿論知っていますよ。貴方については特にね」

 

「貴様……いや、アルレシャ。どうして俺の記憶について知ってる」

 

「それは教えられません。……いえ、今はまだ教えられないと言ったほうが正しいでしょうか」

 

「まだ教えられない?」

 

……という事は、俺の記憶は意図的に無くされてるってことか。誰が、いつ、どうやって奪いやがった。

 

言い終わると、鋭くなった気配が消え、先ほどの楽しそうな気配に戻る。

 

「ええ、まだ。……でも、もう少ししたら教えてあげますよ。半年……或いは一年。その期間の間に、教えてあげますよ」

 

「何故……一年の内なんだ」

 

言葉が終わる瞬間、俺とアルレシャを光が包み込む。何故だか、アルレシャが一瞬、強大な存在に感じた。どうやっても歯がたたない程の強大な存在に。

 

 

光が包んだお陰か、アルレシャの口元が少しだけ見えた。笑って……いる。俺が戦いを感じてる時のような笑みを浮かべている。

 

「愛……」

 

「愛?」

 

愛とは……あの愛か。それが、なんだって言うんだ。

 

「親愛、情愛、家族愛、etc……愛の種類には多大な数がありますが、大抵の愛には、必ず相手が必要になります。そして、鏡夜。貴方の愛は、必ず愛した者を守る事を前提にしています。その愛を深める時間ですよ。一年はね」

 

確かに俺は愛した相手を大切に、守る事が前提だ。迷惑は掛けたくない。危害を加えさせない。命に変えても愛した相手を守る。それが俺の愛だ。

 

だが、何故俺の愛を深める時間を作る必要がある。アルレシャにとって、俺の愛は関係ないものだろ。

 

「ま、なんで愛を深める時間を与えるんだと思っているんでしょう。……教えてあげませんけどね」

 

光が収まっていく。その光が収まる僅かな時間の間に、少しだけ風が吹く。風は下から上へと吹き、アルレシャの被っているローブを揺らす。そのお陰か、アルレシャの顔が見えた。

 

青い髪。そして、海のようなマリンブルーの瞳。幼さの残る顔だが、どことなく大人な印象もある。誰が見ても、可愛いと言うだろう……ッ!? 何故、こんな時に頭痛がッ!

 

「おや、具合でも悪いですか。それは大変」

 

「アルレシャ、何をした……」

 

「私は何も」

 

頭痛のせいか知らないが、上手く体をコントロールできん。リミッターが徐々に外れていきやがる! やべ、これ以上漏らすと、やばいことに……。

 

いつも通りを装ってはいるが、内心焦っている。今まで抑えていた魔力、妖力、霊力、その他諸々が溢れ出してく。

 

「どうやら、私はここから逃げたほうがよさそうですね。では、鏡夜。また今度会いましょう。その時こそ、真実を教えますよ」

 

「ま、待て……アルレシャ!」

 

力を抑えながら、踵を返して歩き出していくアルレシャに向かって手を伸ばす。だが、力を抑える事に全神経を集中させているため足が動かないので、アルレシャに届くはずがない。

 

「アルレシャ……お前は」

 

伸ばした手は虚しく空を掴む。握った先には……アルレシャはもういなかった。

 

 

 

 

Sideアルレシャ

 

鏡夜のいた空間から、ある空間にある私室に戻り、着ていたローブを脱いで私服に戻る。着ていたローブは、戦いのせいで汚れたので、洗濯しなといけませんね。

 

「はぁ、それにしても、疲れますね」

 

ローブを持ち、私室から外に出て廊下を歩いていく。洗濯物は確かあそこですよね。……はぁ、事後報告もしないといけないから、忙しいですね。

 

洗濯物を所定の位置に置き、再び歩きある場所に向かう。

 

「失礼します。アルレシャです」

 

「入れ」

 

扉の前に立ち、ノックした後中に入る。そこには、金色の豪華な椅子に深く座って、宙を見ながら指を動かしている老人がいる。

 

「今回の報告に来ました」

 

「どうじゃった?」

 

「はい。鏡夜は自身の記憶に関して疑問に思い始め、原因を私だと思い始めています。そして、順調に愛を深めているようです」

 

「愛と時間については教えてきたか?」

 

「どちらもちゃんと。一年以内にしときましたが、大丈夫ですか?」

 

「問題ない。一年もあれば、丁度いいじゃろ……っと、そういえばアルレシャ。お主に渡す物がある」

 

指を動かしながら答えていたが、ピタッと動きを止める。そして、また指を動かすと、私の目の前が光りだした。

 

「これは……」

 

「お主の武器じゃ。その調整が丁度終わったのだ」

 

光の中から出てきたのは、いつもの愛用の杖。調整に出していたのだが、丁度戻ってくるとは。

 

「最後の計画に向けて、体を鈍らせないよう気をつけるのじゃぞ」

 

「了解」

 

 

 

Sideカロ

 

「鏡夜、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

ローブが去ると、あの空間が崩壊し始めたので、私と鏡夜は、鏡夜が出したスキマに飛び込んで空間から脱出した。そして、今はいつもの幻想郷に戻って、一息ついていたのだが、鏡夜のようすがおかしい。

 

元気が無い。それ以前に、なんだかこう、弱々しくなった。霊力や妖力、それに魔力までもが今までの十分の一も無い。どうしたんだ?

 

「でも、鏡夜。なんだか、いつもよりもその……」

 

「弱く感じるんだろ? ……実は、さっきリミッターが全て外れかけてな。急いで全部のリミッターをかけ直したんだ。そしたら、リミッターを掛けすぎて、このザマだ」

 

取り敢えず力を押さえ込んだってことでいいのかな? ……でも、なんで急にリミッターが全部外れそうになったんだろう。もしかして、あのローブが鏡夜に何かしたのかな? でも、少ししか見てなかったけど、ローブが何かした感じはなかったけどな……。ま、それは置いといて。

 

「そうなんだ……えっと、鏡夜、言いにくいんだけど……」

 

戦う前に決めていたことを、今聞こうと思う。その……ね。私の事をカロとして好きかどうかのね。

 

「どうしたカロ。顔赤くして、もじもじしだして」

 

「えっとね、その……鏡夜ってさ」

 

「うん?」

 

「私の事……って、好き?」

 

「……え?」

 

「だからね……私の事を、鏡夜の相棒としてじゃなく、家族としてじゃなく、私個人……カロとして好きって聞いてるの」

 

驚いた表情のまま固まっている鏡夜。……そうだよね。こんな事をいきなり聞いたら驚くよね。でも、それでも、私は鏡夜の気持ちを言ってもらいたい。家族としてではなく、相棒としてじゃなく私個人、カロをどう思ってるのか。好き……もしくは……嫌いなのか……。

 

「カロ……」

 

「……なに」

 

神妙な面持ちのまま、鏡夜は立ち上がると、ゆっくりと私の瞳を覗き込んでくる、

 

「俺はな、カロを好きかどうかで聞かれた場合……好きだ。家族としてでは無く、相棒としてではなく、カロ本人を俺好きだ。愛してるといってもいい。それぐらい、俺はお前の事が好きだ……だから」

 

言葉を区切った鏡夜は、私の後頭部に手をやると、ぐいっと引き寄せそして……

 

「んぐ!」

 

「ん……あんまり、つまらない事を聞かないんだよ。どうなろうと、俺はお前の事を永遠に好きなんだから」

 

「鏡夜……」

 

私の唇奪ってからのその言葉は反則だよ。そんなこと言われたら、私、恥ずかして……顔、見せられないじゃん。

 

「おっと」

 

嬉しさのあまりか、涙目になってしまっている自分の顔を隠そうと下を向きながら鏡夜に抱きつく。

 

「私も……私も大好きだよ! 鏡夜!」

 

 

 

Side鏡夜

 

「カロ……?」

 

「ごめんなさい、ちょっと話しかけないでください」

 

カロが俺の胸に飛び込み泣き出してから数分後。ふと我に返ったカロは、座り込んで俺の話を聞かずに、ずっと落ち込んでいる。これって、俺のせい?

 

「ああ、もうなんで私あんなことしたんだろう。だいたい、鏡夜が悪いんだよ。かっこよすぎんだよ。誰でも、あんなこと言われたら惚れちゃうだろ。ああもう、本当。鏡夜が悪いんだ」

 

ブツブツと落ち込みながら言うカロ。やっぱり、俺が悪いのか。

 

「ああもう! 鏡夜!」

 

「どうした?」

 

急に立ち上がったカロに若干ビビったが、そんなもんは表には出さず、冷静に対応する。なんか、怖いんですが。睨まれてるんですが。今、俺襲われたら、簡単にヤられますよ……ヤるのヤるが何かはご想像にお任せします。

 

「さっさと私を萃香の所に連れて行って!」

 

「え~っと、もう大丈夫なの?」

 

「大丈夫! だから、早く連れて行って!」

 

「いいけど……はい」

 

今使える力を全部使い、萃香がいるであろう場所に向かってスキマを作る。

 

「よし! じゃ、私はもう行くから! じゃね、鏡夜!」

 

「お、おう」

 

スキマを作ると同時に、カロはスキマにすぐさま走って入り行ってしまった。……なんであんなにカロは急いでたんだろう?

 

それ以前に、まず、なんであんなにキレてたんだ? 恥ずかしいとか言ってたけど、前は平然とやっていたんだけど。

 

……ま、それは置いといて、俺は今、最も気になることが一つある。それは――――――

 

「カロ……普通に喋ってたな」

 




次回、ようやく登場ロリ鬼萃香。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。

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