では、第八十八話をどうぞ。
Sideカロ
「いやはや、まさかこんなになるまで追い込まれるなんて」
私は結界から出て、地面に倒れ伏している五人を見ている。見事にみんな気絶してるね。
それにしても、時間かけすぎた。
この状態……つまり、ちっちゃな子供の状態になった理由は、さっきなった獅子狼のせい。あの獅子狼の状態で、五分以上過ぎると、体が崩壊を起こすのだけれど、その崩壊ってのは、体が傷ついてくんじゃなくて、体が子供の状態にまで崩壊してしまうって意味なんだ。
能力や妖力には何の問題も無いんだけど、ただ大きさと力がねえ。ま、それも私の常に成長し続ける能力で元通りになるからいいんだけどね。
この大きさだから……大体一時間位でいつもの大きさに戻れるかな。力が戻るのは、もっと時間かかるだろうけど。
「はぁ、それにしても、本当、反動が大きすぎるな~」
獅子狼……いつもより何倍もの力を出せるけど、その反動が強すぎる。もう少し反動を小さくできるように改良できないかな……って、一番いいのは、私の体を強くすればいいんだよねえ。
……今度鏡夜にでも聞いてみるか。反動の軽減化と肉体強化を。
「う、ううん?」
「お、起きたな紫」
色々と考えていると、紫が目を覚ました。……ああ、それと何故か結界内にいたときは医師の格好してたのに、今はいつも通りのふわっとしたドレスに戻っている。一体、いつの間に着替えたんだろう?
「カロ……そう、私達負けたのね」
「ああ、私の勝ちだ」
「はぁ……やっぱり勝てなかったのね」
立ち上がり、頭を二、三度掻く紫。立つのはいいが、少ししゃがめ。目線があわん! 私は今ちっちゃいんだ。視線をあわせろ!
「それにしても、小さいわね」
「そうだな。だからしゃがめ。視線をあわせろ!」
「え? 嫌だけど? それよりお嬢ちゃん、飴玉あげましょうか? 美味しいでチュよ~」
この、私が小さいからって子供扱いしてるな。ふっふっふ、今の内にしておくがいい! 後で後悔させてやる。絶対にだ! 多分忘れるだろうけど!
「それより紫、早くこの異変の犯人を教えろ!! 今すぐ!!」
「あら~お嬢ちゃん、年上のお姉ちゃんにお願いする時は、ちゃんと敬語で言わないといけないでしょう?」
「紫、死にたい?」
「ほら、連れてってあげる」
ちょっとだけイラッとしたので脅してみたら、すんなりと萃香がいるであろう場所へのスキマを開いてくれた。
「もう~最初からそうしてくれればいいのに~紫ったら意地悪なんだから~」
「そうよ、私は意地悪なのよ。だから、私の胸ぐらから手を外して頂戴。お願いだから。早く。早く!」
「え~嫌だけど~?」
「ごめんさい。本当にごめんなさい。許してください。すんません」
しょうがない、許してあげますか。スキマも開いてくれたし。
手を離し、懐に手を突っ込みあるモノを取り出す。そのある物とは、鏡夜特性の飴玉。これ、たまに使うんだけど、よく出来てるよね。
食べれば妖力と体力を一気に回復させてくれる。最高の回復薬だよ。
「じゃあ紫~またね~」
「ええ、またね」
さて、妖力も体力も回復したし、萃香を倒しに行きますか。……この状態なら、三十分でいつも通りの大きさに戻れるかな。力は……わかんない。
side紫
はぁ、疲れた。カロを弄りすぎて、一瞬本気で殺されるかと思ったわ。でもま、懐かしかったわね、あのカロの姿は。
旅を始めて、カロが初めて人間になった時あのくらいの大きさだったなあ。
本当、最初は私の方が大きくてカロが小さくて、いっつも私の後ろをチョコチョコついて歩いていたのに今はもう……ああ、これが成長しきった子供に対する親の気持ちなのかな。
……それにしても、カロが通ったスキマ、中々消えないわね。
本来なら、カロが通れば自動的に消えるように設定してあるんだけど……遅い。一分くらいで通れるようになってるはずなのに。一体何故?
スキマに異常でも……ッ!? どうして!? スキマが、別の場所に繋がってる!?
そんな、行き先が私でも特定出来ない?
意味がわからない。なんで私がわからない所に設定なんてされているの? 誰かが勝手に変更した? ……いや、そんなはずはない。勝手に変更されていたら、私が気づくはず。
「一体……何が起きてるの?」
Sideカロ
「う~ん。なかなか着かないな~」
かれこれ何十分もスキマの中を通っているのだが、一向に着く気配がない。もうそろそろ体も元に……戻っちゃたよ。まだ、完全に力は戻ってないけど。
という事は三十分は過ぎた。……紫の奴、長く作りすぎじゃない?
「って~あれ~出口かな~?」
いつもの体に戻ると同時に、スキマの向こうから光が。多分、あれは出口なんだろうけど……どうしてだか、嫌な予感がする。
「よっと~……どこここ~?」
スキマから出てみれば、そこは真っ白な空間だった。唯唯白くて空も地もない広い空間。……ここに、本当に萃香がいるのかな?
まあ、取り敢えず歩いてみようか。歩いてみれば、そのうち萃香って鬼に出会えるでしょう。
しばらく歩いていくと、遠くになんだかぼんやりと人影が見えてきた。
あれが萃香……!? なるほど、どうりでここまで来るのにかなり時間がかかったわけだよ。まさか、アイツがここにいるなんて。
忘れもしない。あの時、一人で私と美鈴を倒したあのローブ!
「お久しぶりですね。カロさん」
「名乗った覚えはないのだがな、ローブ」
「こちらで勝手に調べさせてもらいました」
目の前まで迫るが、一向にローブは引かずに淡々と言ってくる。それもそうか。この前アッサリと倒した相手なんかに恐れる必要なんてないか。
「で、今回はなんのようだ」
「少し、実験させてもらいます」
「ほう」
「あれからどれだけ戦えるようになったのかのね?」
いい終わる瞬間、ローブの顔面に向かって思いっきり殴りかかるが、ローブは上体を後ろに逸らして躱し、そのまま後ろに回って私とんお距離を開けてくる。
「どんだけ戦えるようになったか知りたいんだったら、やってやるよ! かかってこい!」
「私は相手してあげませんよ。相手するのは、この三人です」
ローブがしゃがみ、今まで出さなかった腕を出して地面に付ける。すると、ローブの周りが光り輝き、三人のローブが現れる。
「杖は使わないんだな」
「生憎とメンテナンス中なのでね。……さあ、始めますよ。シュレディンガーの猫」
さて、こっからは本腰を入れていかないと。この技が発動すると、相手が一気に強くなるからね。
三人が言葉に出来ないような奇声を発すると、徐々にその姿が変わっていく。
一人は髪が真っ黒なんだけど、体が真っ赤で大きな巨体の人間? でも、手が機械で出来ている。それに、手の周りにも機械が付いてる。あと、サングラスを掛けてる。大き~な~私の二倍はあるかな? コレを一言で表すと……赤鬼?
二人目は鏡夜のような執事服を身に纏い、緑色の短髪で黒い帽子を被っている。顔が若干見えるが、目は細く開いているのか分からない。一言で表すなら、胡散臭い。
そして三人目は、白いツンツンの髪に赤い衣装を身に纏った男。片手には逆手に持った大きな剣? こっちは、一言で表すなら犬かな?
「この三人が相手です。勝てますか?」
「なめるな」
勢いよく三人に向かって駆け出し、まずは手前にいた犬に向かって殴りかかる。生憎とまだ完全に力を取り戻したわけではないが、これくらいならいけるはず。
「蛇翼崩天刃!」
私の拳は完全に犬の顔面に向かっていくが、隣にいた胡散臭いやつ。もう蛇っぽいから蛇でいいや。その蛇が私の顎向かって、踏み込み、体を捻りながらの蹴りを入れてきた。
咄嗟に体を捻って躱したはいいけど、すぐさま真正面から追撃を掛けられる。
デカイ図体した赤鬼が、両手をガッチリと合わならが、思いっきり振り下ろしてきた。デカイ体だからといって遅いわけではない。むしろ、重いが故に振り下ろしてくる両手の速さは尋常ではない。
当たればただじゃすまないかもしれないが、そんなことは知らん。ここは受け止める!
両手を真上に突き出し、振り下ろされる両手を受け止める。地面は陥没し、私の骨が何本かバキって音がしたが気にしない。
これで、すぐさま反撃に出ようと思ったが……
「ヘルズファング!」
犬の何かよく分からないモノを纏った拳が私のがら空きの腹に向かって飛んでくる。両手を真上に上げているせいで、防ぐことが出来ずに、思いっきり拳が私の腹にめり込む。まあ、特に痛くはないけど。
痛くはないのだが、拳を喰らった私は犬とは反対の方に吹っ飛ぶ。そして、吹っ飛んでいく間に、犬から巨大な黒い物体が飛んでくる。
その黒い物体は拳で砕き、吹っ飛ばされた勢いのまま後ろへ下がる。
「ふぅ、どうするかな」
一息つき、この状況を分析する。まず、一番火力があるのは赤鬼だ。アレは、絶対に当たれば殺られる。そして、蛇は速く確実に仕留めてくる狡猾さがある。他の奴を狙えば、その隙に必ず仕留めに来るだろう。最後に犬。こいつは……まあ、うん。
取り敢えず、まず仕留めるのは蛇かな。アイツは最初に仕留めないと駄目だ。そして、次に赤鬼。あの火力が高い奴を仕留める。最後に犬。
よし、これでいけるはず。さ~て、仕留めに掛かりますかな。
拳を握り、一番最初に仕留める予定の蛇に向かって突っ込んでいく。悠々と蛇は薄ら笑いを浮かべている。
だが、その前に赤鬼が立ちふさがり、私の進行方向を塞いでくる。しょうがない、予定は変わるがこっちを先に仕留めるか。
地面を蹴り飛ばし、赤鬼の顎に向かって膝蹴りを放つ。意外と防がれはせずに、すんなりと膝蹴りは赤鬼の顎に当たる。
こんなにあっさりと当たっていいのか?
「っと、危な」
……おいおい、嘘だろ。なんの事もなかったかのように掴みかかろうとしてたぞ。無理やり体を捻って躱したはいいけど……まさか、あそこまで防御が硬いとは思ってなかった。
予想以上の防御力だな。っと、危ない。赤鬼の攻撃を躱してたら、今度は犬の攻撃が飛んできたよ。
空中で体を捻り、犬が逆手に剣を持ちながら跳び、下から振るってくる剣を両手で挟み受け止める。やっぱり、犬は大丈夫だな。
「お!?」
腰に何かが巻き付いたかと思うと、急に後ろに引っ張られる。剣は後ろに引っ張られたおかげで躱すことは出来たけど……助けてくれたってわけじゃないよね。
後ろに引っ張られながら下を見ると、そこにはさっきの蛇が、周りの空間から鎖で出来た本物の蛇のような物を出している。という事は、今私の腰に巻きついているのは、あの鎖の蛇か。
勢いよく振り回された私は、地面へと思いっきり叩きつけられる。やはり、この蛇と犬の攻撃の痛みはあまりないけど、一瞬息が詰まり動けなくなるな。
「ふん!」
腰に巻きついてる鎖を殴って破壊して後ろに転がり、地面に足がつくと同時に前に向かって走り出す。
狙いは赤鬼。蛇と犬は後回しにして、まずは火力と防御力がある赤鬼を狙う。
一瞬で赤鬼との間合いを詰め、踏み込みながら赤鬼の胴体に向かって殴りかかるが、やっぱり効いてる気配がない。後ろによろけすらしない。さて、どうしようか。
本気とまではいかないまでも、結構な力出してるつもりなんだけども。この状態でよろけないとなると弱点を狙うしかないのだけども、その弱点がわからん。弱点を探っていきたいところだけども……そんな悠長な時間なんてないよね。
「まだ、いけますね。ではもう一段階あげますよ」
一旦三人との距離を取ると、三人の後ろにいたローブが指をパチンと鳴らす。すると、三人が異様な雰囲気を醸し出す。
「「第666拘束機関解放」」
犬と蛇が同時にしゃべり始める。犬は右手を左手で抑え、蛇は先ほどと同じように飄々と。
赤鬼は、一切動かない。だが、着々と何かを貯めているような気がする。
「次元干渉虚数方陣展開!」
「次元干渉虚数方陣展開」
地響きが鳴り、肌がヒリヒリしてくる。何をやるつもりなんだ。
「イデア機関接続! 蒼の魔道書
「コードS・O・L、碧の魔道書
言い終わる瞬間、同時に犬と蛇に異変が起こる。蛇は体から大体五回り程に緑色の何かが現れ、犬は右腕から黒い何かを出し始める。
……成程、そういう能力ね。これは、文の使ってるブラッドワールド・フェイクヴァンパイアと同じ系統の能力だ。流石に血までは吸われはしないが……まずい事に力の吸収が文のやつより数段強い。このまんまじゃ、力無くなっちゃうな。
って、アレ? さっきまでいたはずの赤鬼がいない。どこに……!!
「スパークボルト」
背後から聞こえてきた声に反応して、咄嗟に横へ躱すが、腕に掠ってしまった。
いつの間に背後に……いや、それよりも、今飛んできたものは何だ? 腕が痺れる。……雷か?
動かそうにも、まだ痺れていつも通りに動かすには数十分掛かるな。いつもなら数秒で治るが……あの二人のせいか。
「ッ!?」
二人を横目で見ていた僅かな瞬間のうちに、私の体が誰かに引っ張られた。向き的には赤鬼だが、先ほどいた所から動いていない。ただ赤鬼は腕を前に出しているだけ。なんで引っ張られるだ。
引っ張られる途中で足に力を入れて踏ん張るが、駄目だ。力が抜けていく。二人の方を先に倒したいが、引っ張られてるせいで二人の方に行けない。
必死に耐えてはいるけども……もう無理。力が入らない。ここは、一か八か引っ張られる力を利用して赤鬼に攻撃するしかない。
引っ張られる勢いを利用し、赤鬼に向かって走って行く。勢いは死なず、当たれば結構な威力になるはずだが、私が拳を突き出す瞬間、赤鬼の体がブレた。
……ああ、私はもうこの程度の早さすら見切れなくなる程、力を失っているのか。こりゃあ、突っ込んだのは誤算だわ。
「逃がさんぞ……」
突っ込んだ私の腹に向かって衝撃が走る。この衝撃、最初に鏡夜と会った時以来だよ。
「うぐッ!!」
地上で衝撃に堪える事もできずに、意識が朦朧としている私の体は宙へと放り出された。
宙へと浮かんだ私の体を、巨大な影が覆う。朦朧としている意識の中、目に集中してあげん正体を見てみると、私の浮かんだ位置から更に高い所から落ちてきている。
「ギガンティック!」
無防備の私の体は赤鬼に掴まれ、赤鬼の体重と一緒に地上へと落ちていく。もし、この状態でこのまま落ちたら……死ぬ。
どうにかしようにも、力は入らないし、意識は朦朧としている。
死を覚悟し、静かに私は目を閉じた。
死にそうになっているせいか、今までの記憶が思い出される。楽しかったこと、辛かったこと、友達が出来たこと、鏡夜にも負けず劣らずの親友に会えたこと、泣き虫な紫に出会ったこと。そして……鏡夜と過ごした日々。
戦いで出会い、最初は負けていたから鏡夜を恨んだり、成長して負かしてやろうと思っていた。でも、鏡夜と過ごすたびに、徐々に心境は変わり、私はいつの間にか、紫や鏡夜を家族だと思い始めた。
そして、紫と別れてたから、私の心境はまた徐々に変わり、鏡夜と会いたいと思い始めていった。再び会った時は、それはもう嬉しかったね。久しぶりに会いたかった鏡夜に会えことだし。本当いつまでも一緒にいたいと思ったよ。
……アレ、もしかして私って、鏡夜のことが好きなのかな? いや、好きは好きだけど、なんていうかこう、鏡夜の事を思い出していったりしたら、なんか胸の奥が痛くなってきた。ただの、さっきの拳のせい?
でも、さっきの拳のせいじゃないとしたら、私はなんで鏡夜が好きって考えただけで胸が痛くなるんだろう?
……もしかして、恋ってやつ? レミリアやフランがしてるような、甘酸っぱい恋ってやつなのかな?
思い当たる節がある。昔、鏡夜に会ってなかった時、ずっと鏡夜の事を考えていたし、今でも誰かといるとちょっと羨ましいと思ったりしてる。それに、何度か私だけのものにしたいって考えたりしたことも会った。
何度か私は鏡夜に迫ってみたけども、確か私、一回も鏡夜に好きって言われてないんだよね。
……ああ、そうか。私、鏡夜から一人の女性として見て欲しいんだ。相棒としてじゃなく、友達としてじゃなく、ましてや家族でもない。私、カロとして見てほしんだ。
そう考えると、何かこう今までやってきた行為が恥ずかしくなってきた。なんていうかこう、乙女には必ずある恥じらいを私は意識してなくて大胆に迫りすぎてた。それを今思い出すとこう、なんて私は乙女にあるまじき行為をしていたのだろうと恥ずかしくなってしまう。
……でも、今頃私が鏡夜に恋してたって気づいても遅いよね。私はもうすぐ、死んじゃうから。
見ずとも地面が迫ってるのがわかる。
ああクソ、私どうしてもっと速く鏡夜に恋してるって気づかなかったんだろう。気づいていれば今頃は……でも、もう遅いね。
「ごめんね、鏡夜。私もう、ダメみたい」
さようなら……
……感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。