では、第八十三話をどうぞ。
Sideカロ
「ここですよ、カロさん」
「ありがとう~桜~」
桜と一緒に歩いていくと、里から少し離れた一軒家へ着いた。
正直、一人で暮らすには大きすぎる気がする。誰かと一緒に住んでるのかね? 恋人だったりしてね……ないか。あのお兄ちゃん大好きっ子の文に限ってね、あるわけがない。
これで恋人でもいたら、自分の事を自分で殴るよ。もしくは、土下座で文に謝るよ。
「文~文~! カロだよ~」
「はい、誰でしょうか?」
扉の前で文の名前を呼んだはずなのだが、中から出てきたのは先ほど戦った七光りよりも強い力を持っている男性の天狗。
……え? もしかして、文の恋人さん? 嘘でしょ? 本当に恋人だったら文に土下座しなきゃ。
「葛木、文はいる?」
「いますよ、天魔様」
「ちょっと、呼んできて」
「わかりました」
考えに浸っている間に、勝手に話が進んでしまった。恋人かどうか聞けなかったな……戻ってきたときにでも聞けばいいか。
……いや、それよりも、桜にでも聞いてみればいいか。
「ねえ~桜~さっきの天狗って~文の恋人~?」
「文の恋人という話は聞いていませんね。それと、さっきの天狗の名は葛木です。時々、文々。新聞の作成を手伝っているらしですよ」
葛木ねえ~どうもなんかありそうな気がする。主に、文に関してこう、なんか持ってる気がする。多分、恋心かな?
ちなみに、文々。新聞ってのは、文が作成している新聞のこと。話によると、鏡夜は昔、この新聞の作成を手伝っていたらしい。
「んん~誰ですかこんな昼間に……」
葛木が中に入ってから、入れ替わるようにして、髪の毛がグシャグシャで目を薄めに開いている文が現れた。
もしかして、新聞の作成で徹夜でもしていたのかな? それだったら、少し迷惑をかけてしまったよ。
ボケーっとこちらを半目で見ていた文は、欠伸を大きく一回してから、目を擦ってこちらを見てくる。
欠伸をした事で意識が覚醒でもしてハッキリとこちらを認識したのか、徐々に文の瞳が点になっていく。
「おはよう、文」
「て、ててて天魔様! どうしたんですかこんなところに!」
「カロさんが来ていらっしゃるのですよ、文。もう少し落ち着いきなさい」
「カロさん……?」
桜から視線をずらして私の方を見た文は、少し驚いた表情をすると、再び桜の方に視線を移す。
「あの、カロさんがどうしたんですか?」
「どうしたのかじゃないよ。カロさんは、私の師匠様だよ」
いや~師匠だなんて照れるなあ。あの頃はただ一緒に修行する人が紫しかいなかったから、丁度近くにいた桜を誘ったんだよね。
そしたら、急に私の事を師匠って呼ぶんだよね。その後に別れはしたんだけど、あれ以降桜に会うたびこうやってさん付けで呼ばれるんだよね。流石に、自分の威厳のためかは知らないけど、師匠とは呼ばないけどね。
あ、文が固まってる。
「……ええぇぇぇえええ!? そ、そうだったんですか!?」
「まあ~そうだね~」
驚きながらこっち側を見てきた文に、笑顔で答える。
「それじゃあ、カロさん。私はこれで」
「じゃあね~今度は一緒に飲もうね~」
「お手柔らかにお願いしますよ」
笑顔で去っていった桜に手を振る。いや~やっぱり、昔会った子が成長してると、おばあちゃんになった気がするね。今度は、ゆっくりとお酒でも飲みながら語り合いたいね。
「……さてっと~文~」
「どうしました、カロさん。私的には、今すぐ貴方の事を取材したいのですが」
取材って……全く、この子は仕事熱心だこと。……って待てよ、これって絶好の機会じゃん。いいこと思いついた!
悪戯を思いついた時のような笑みを浮かべながら、文の方を見る。
「ねえ~文~取材してもいいよ~」
「本当!?」
「弾幕ごっこで勝ったらね~」
「そうですか、なら早くやりましょう!」
「でもね~もし私が勝ったら~ひとつ聞かせてね~」
「別に構いませんよ。ですから、早くやりましょう。今すぐしましょう。さあ! さあ! さあ!」
取材に使う為の――――――えーっとなんだっけ……そう、カメラだ――――――をどこからともなく、取りだした文は、笑顔で私に迫ってくる。そんなに、私の事を取材したいのかね。
ま、乗ってきてくれてるんだから、これはこれで、好都合かな。
「じゃあ、スペルカードは三枚、残機は二でいいですね?」
「いいよ~……それじゃあ」
空中に妖力の足場を作り、その足場へと跳ぶ。
「始めようか、文」
「ええ、始めましょうか、カロさん。この前、戦えませんでしたし」
まだ根に持っていたんだ、あのこと。でもま、お兄ちゃん大好きなら、わかる気がするけどね。
「そう、じゃあ、存分に来な。鬱憤、私で晴らしなよ」
「では、遠慮なく」
空に飛んできた文は、どこからか取りだした紅葉型の団扇を思いっきり振るってくる。
今回は弾幕ごっこなので、当たれない。なので、飛んで来てるカマイタチを叩き落とせないんだよね。はあ、めんどい。どうせなら、格闘もありの方にすればよかった。
作り出した妖力の足場を利用し、飛んできたカマイタチを横に回りながら跳ぶ事で避ける。その際、残っていた足場は、文のカマイタチによって破壊される。結構、妖力込めてたんだけどな……。
横に回り込みながら跳んだ事で、普通は足場を転がるのだが、私は足場に手をつけて勢いを殺さないまま前へ体を投げる。
すかさず、私の前に、壁のように足場を作り、三角飛びの要領で天狗の速さを利用して頭上にまで来ていた文に向かって跳ぶ。
「これでも、喰らいな」
体の周りに球体上に固めた妖力の塊を数十個作り上げ、一斉に文へと放つ。だが、妖力の珠はことごとく文に当たらず躱され続ける。
元々、当てるつもりなんかなかったけど、ここまで躱されるとは思ってなかったな。精々、二三発は掠ると思ってたんだけど……どうやら、文の速さは私の想像以上みたいだ。
全ての珠を躱した文と、その文に向かって飛び出した私の体が一瞬すれ違う。
文の顔が……笑っていた。それに、瞳もはちきれんばかりに輝いていた。……これは、もしかしたら私達と同じ気質を持ってるのかね。
すれ違った私は、すぐに正面に妖力の壁を作り、その壁を蹴って文の方に向き直る。だが、既にそこには文の姿はなかった。
あの一しゅんでどこに行った? 上? 下? いや、この場合は――――――後ろだ!
「ふんっ!」
「外した!?」
背後から来たカマイタチを後ろに宙返りしながら躱し、文の頭の上から何発か妖力の珠を撃つ。
「くっ!」
「そら、もう一丁!」
躱されたことに動揺したのか、普通なら躱せるであろう珠をその身にくらう文。そこからさらに追撃と行きたかったが、その前にスペルカードが取り出されたので、距離を取る。
「風神『二百十日』」
スペルカードが発動されると同時に、文を中心に青と緑の小さな無数の弾幕が円を描くように飛び回っている。
「行きなさい!」
持っていた団扇を高々と上げ、弾幕合図するかのように一気に振り下ろす文。その合図と共に、文の周りを飛んでいた緑と青の弾幕は一直線に向かってくる。
いつも通りなら、叩き落とせば済むことなんだけど、今回は弾幕ごっこなのでそれが出来ない。……次からは、いつもの殴り合いありの戦いにしよう。
でもま、この程度なら別に問題ないんですがね。
飛んで来る弾幕を見て、少しだけ息を吐く。距離はもう目の前。普通なら、躱せない。普通ならね。
「この程度じゃあ、私を止められはせんよ」
「え?」
決して詰めて放ったと思ってる弾幕でも、必ず出来るわずかな隙間。その隙間を見つけ出し、ありったけの速度と反射神経を使って躱し、一気に文の前まで移動する。
困惑の表情を浮かべる文に、ちょいとデコを軽く押してから、妖力の珠をぶつける。
「はい二つ目。これで、終わり」
「……え? えええぇぇぇぇえええええ!!??」
まあ、そうなるよね。こんなあっさりとやられたら。でも、こっちも時間がないから、仕方ないよね。それに、新聞の取材は受けるつもりだったし。
「え、もう終わりなんですか!? これで?」
「終わり~だから~私の質問に答えてね~」
「……出来る範囲でなら答えますよ」
納得のいかないといった表情でしょぼくれる文。うん、可愛い。思いっきり抱きしめたいけど、今は我慢っと。
「ここ最近の宴会の事について~何か変わったことがあったら教えて~?」
「宴会の事ですか……」
考える仕草をしたあと、文は取材帳を取り出すと、パラパラと何枚かめくる。
「えっとですね。ここ最近の宴会の開催期間は二日に一回。大体幻想郷全土から集まっているとのこと。それ以外には、これほど頻繁に起こっているのに誰も文句を……霊夢以外の人は文句を言ってないようです」
ふむふむ、ここまでは咲夜に聞いた通りだね。それ以外になにか新しい情報はないかな。
「それ以外では、どうやらこの宴会の最中、幻想郷全土の妖力が一時的に濃密になっているそうですよ」
それは、結構な手がかりじゃない? 一時的にでも幻想郷の妖力が濃くなるって異常だよ? なのに、それに関してはあまり誰も気にしないね。……でもそうか。私でも知らなかったもんな、濃くなったなんて。
しかし、何で妖力が濃くなったりするんだろ? もしかして、誰かが幻想郷全土に散らばってるとか? ……いやいや、それはないか。鏡夜じゃあるまいし、分裂できる奴なんて……いるのかなあ?
やっぱり、これじゃあまだまだ犯人は特定できないか。
「ありがとう~文~」
「どういたしまして」
「それともう一つ教えて欲しいんだけど~」
「交換条件でどうです?」
交換条件ね。取材を受けるでいいや。それを提示しよう。
「取材を受けるでど~?」
「それでいいです。で、何を聞きたいのですか?」
平然と言ってくるが、文はいつでも取材できるように、取材帳と書くものを用意し始める。よっぽど早く私の事を取材したいようだねえ。
「この辺で~一番妖怪を知ってる人って誰~?」
「妖怪を知ってる人ですか? そうですねえ……稗田阿求じゃないですか?」
「阿求~? どこにいるの~?」
「人里にいますね。そこからは、ちょっとわかりませんね」
成程、人里か。そこなら色々と情報が聞けるな……よし、次は人里にいる阿求って子に会いに行こうか。
「では、早速取材に移ってもいいですか?
「いいよ~」
そこから数分間。色々と取材された私は、ゆっくりと歩き出して人里へと向かった。
Side文
「……ハ、ハハハ、何ですかこれ?」
私は今、自分で取材した相手の情報が書かれた取材帳を見て、カラ笑いしていた。
その取材帳に書かれている人物の名前はカロ。天魔様の師匠とされている女性妖怪。そこまでは普通だ。いや、天魔様の師匠っ時点でもう普通ではないですけどね。
それは置いといて、私が目をつけたのはそこじゃない。私が目をつけたのは、彼女の能力の部分だ。
今まで私は、様々な能力を見てきた。境界を操る能力。運命を操る能力。ありとあらゆる物を破壊する能力。そして、限界を任意で無くす能力。
この中で一番えげつないのが兄さんの能力である、限界を無くす能力。いわば、どれでも対応できる理想の能力。無効化されても、無くしたものは戻らないからいつまでも限界を突破した状態でいられるっていう応用もできるしね。あくまで予想だけど。
これほどえげつない能力もないだろう。だが、それに準ずる能力が、今現れた。
「何ですか、カロさんの能力。もはや、兄さん並みにえげつない能力だよ」
カロさんの能力は――――――
「常に成長し続ける能力」
如何だったでしょうか?
感想、アドバイス、誤字、お待ちしております!