それと今回、島夢様の影神晴夢さんの名前が出てきます。この晴夢さんについては、島夢様の小説で、ご確認ください。勝手に出してすみません。島夢様。
Side鏡夜
カロと俺は、同時に飛び出す。
互の中央辺り、そこで俺とカロは衝突する……と思っていた。
「ふんッ!」
「んな!?」
だから、地面に足が着くと同時に、思いっきりカロに向かって拳を突き出したんだが……なんとカロは、俺が地面に足を着けたと同時に、地面にクレーターが出来るほどの勢で震脚する。
そのせいで、体のバランスを止めた俺は、倒れそうになるが、すぐに無くなった足場を霊力で作り、バランスを戻す。
しかし、その前に、カロは既に妖力で足場を作り、こちらに向かって背中で体当たりしてきた。……この動き、中国の方の動きだな。確か、鉄山靠か?
中国拳法の八極拳だかで、持ち味はゼロ距離で相手に大砲をぶっ放す威力だったかな?
多分、美鈴辺りに教わったんだろう。美鈴、一通り中国拳法は出来るからな。
それにしても、なんて重い一撃だよ。バランスが取れなかったせいで、防御が遅れてしまい無防備で食らったが、超痛え。
威力だけなら相当だぞ。ぶっちゃけ、勇儀や萃香とも並ぶかもしれない。ったく、流石長年生きてるだけの事はあるわ。
忘れてるかもしれないが、カロは一応大妖怪の一種だったりすんだぜ? これでも、俺と同じくらい生きてるから、二千年ちょっと?
その内、何百年かは、俺と一緒に修行していた。つまり、そんじょそこらの妖怪じゃあ、相手にならん。鬼とかでも、四天王全員でようやく同じくらいじゃないか?
しかも、多分これでも、カロの奴本気じゃないだろうし。
「ほら! どうした、鏡夜! 私の惚れた男はそんなに弱くないよ!」
「分かっ……てるよ!」
カロの攻撃に、後ろにぶっ飛んだ俺だが、すぐに地面に脚を着けると、カロの方に向かって思いっきり跳ぶ。
距離なんて関係無い。一瞬にも満たない速度さえあれば、余裕で距離を詰められる。
「お返しだ!」
距離を詰め、カロの眼前へと着いた瞬間、地面を軽く蹴り飛ばし、カロの首元めがけて、ソバットを仕掛ける。いわゆる、足でやるラリアットみたいな?
「ス――――――フッ!!」
目にも止まらない速度で放ったつもりなのだが、カロは一瞬で屈むと、俺の足を肩から突き上げるように押してくる。
空中ということで、横にバランスが崩れるが、踵から勢いよく霊力を噴出させて、空中で側転をするように回り、手を地面に着け、足を大きく開いて腕の力だけで足をプロペラのように振り回す。
そんな俺の行動にカロは僅かに後ろに跳ぶと、俺の地面につけている足に向かってスライディングをしてくる。
地面を思いっきり押して、なんかカロの攻撃を躱し、カロとは結構離れた距離に立つ。
「全く、かなり強くなったな」
「これでも長生きしてるからな。鏡夜、そろそろ本気出したら?」
「本気は出さんけども、今の所、これ以上出したらヤバイって所まで出してやるよ」
自分に掛かってるリミッター。それを三割方外す。
体から霊力や妖力や色々な物が溢れ、髪の毛が逆立つ。この状態、実質前戦った晴夢戦の時と同じ位の力まで出てる。
なので、拳を震えば訳の分からない嵐が起きたり、歩いただけで空間が裂けたり、そもそもこの場所じゃなければ、世界自体がブッ壊れてる位の力を出しているわけだ。
さて、ここまで話せば分かるだろう? カロが俺と互角に戦えれば、晴夢とも戦えるってわけだ。……それ、どんだけ強いんだよ。
自分で言っておいてなんだけど、無いな。うん、カロが互角に戦えるわけは無いよな。
「へ~さっすがに、この状態じゃあ、私も負けるな……なら、仕方ない、本気で行くよ」
そう言い、カロは自らの右手首を左腕手で握ると、目を閉じた。
「……おいおい、嘘だろ」
「さあ、行くぞ!」
……やばい、カロの事舐めてた。
カロの周りが揺らいでいる。何故かって? 妖力が俺と同じくらいあるからだよ! 今の俺と同じくらいだぞ!
つまりだ、この幻想郷の全員を合わせたとしても足りないくらいの妖力が、今カロ一人が放っているんだ!
……ハハハ、やっべえ、超楽しい!
なってことだよ! 自ら幻想郷最強を自負していたが、まさかこんな強敵がまだいたなんてな!
カロは自らの妖力全て肉体強化に回し、俺を見据える。俺も口元を歪めながら、カロを見据える。
「ッ!」
「ハァァァアアアアアアア!!」
速い! 俺と同じ速度を、カロは出してきやがった!
物理法則を超越した速度! 光よりも早く、音を遥か彼方に置き去りにする速度!
その速度で迫ってきたカロは、震脚で地面に踏み込むと同時に、両手を後ろに引き絞り、俺の方に向かって思いっきり突き出してくる。
地面はカロの一撃によって粉々に砕けるが、粗方予想していた俺は、あらかじめ霊力で地面に作っておいた足場に立っていたので、バランスを崩すことなく、今度は真正面からカロの一撃を同じような動作をして相殺する。
カロの奴、俺と同じように妖力で足場を作った上で放ってきやがった。しかも、この攻撃にも、一切隙がない。戦略も技術も、俺と同じくらいかもしれない。
カロの腕と、俺の腕。その両方の腕が同時にぶつかると同時に、衝撃波が発生する。
周りの地面は全て消し飛び、空気すらも、この衝撃波によって、吹き飛んでいく。
だが、それでも……そんな中でも、俺とカロは互に一歩も譲らず、力比べに徹する。
嘘偽りなく言おう……強い。今まであったどの敵よりも、圧倒的に強い。あの頃の晴夢と戦っているようだ。
「ク、ハッハッハ! カロ、どれだけ強くなっているんだ、お前は! 強すぎるじゃないか!」
「今までは、全力で相手するだけの奴がいなかったから、わざとあれだけの力しか出さなかったんだ……でも、今は私の全力を受け止めてくれる鏡夜が相手だ! 全力で行かなくてどうする!」
「クハハハハハハ!! 成程成程!! そうか、そうだったのか! それは気づかなくて済まなかった! カロ、全力で来てくれ! 最っ高に楽しもうじゃないか!」
体に今出している全霊力を身に纏い、己の力を底上げする。
時を止める能力だとか、曲げる能力だとか、そんな無粋な能力は一切使わない。己の力のみで、カロと戦う!
カロの瞳と俺の瞳が合う。それと同時に、俺らは互いに手を離し蹴りを放つ。
足の裏と裏がぶつかり合う衝撃で吹き飛びそうになるが、そんなことは気にせずに、地面に対して思いっきり足を振り下ろす。
足が地面へ当たると同時に、地面が跡形もなく消え去って土煙が上がる。
視界は完全に土煙によって遮られ周りが見えないが、足元に妖力の足場を作り、俺は真正面に向かって思いっきり跳ぶ。
土煙の中に入ったその先には、俺と同じようにカロがこちらに向かって跳んできていた。
空中で互いに拳を振るう。その風圧によって周りの土煙は全て吹き飛ぶ……のだが、土煙が吹き飛ぶ前に、俺とカロは上に向かって飛んでいた。
光の速度を超越した速度によって互いに拳や蹴りが放たれるが、互いに皮膚一枚の所で避け続ける。
そして、土煙から抜け出すと、俺とカロは空中に足場を作り、その上に立つ。その行動と共に、下に出来ていた土煙たちは一斉に吹き飛ぶ。
「ハハハ!! ハッハッハ!!」
大声で笑いながら、カロへと一直線に駆けていく。カロも同様に俺の方へと駆けてくる。
ああ、なんて事だ。追い込まれてきている、この俺が。
先の一瞬の空中での攻防。あの一瞬の内に、俺はカロに五発掠らせた。それはいい。だが、カロからは、七発喰らったのだ。
掠った回数は一緒だけども、七発も当たったのだ。あの一瞬の間に、七発も。もはや俺は、カロにスピードで負けてきている。
このままいけば、カロは俺を超えるだろう。俺は、この状態のまま戦うと誓っているため、これ以上強くはなれないが、カロはこの戦闘中、尋常じゃない程の速度で強くなっているのだ。
本当……最高だな、カロ!
「カロォォォォオオオオオオオオオ!!!」
カロの名前を叫び、後一歩でカロへと近づける距離で右腕の拳を後ろへと引き絞り、半身の状態になる。
筋肉が膨張し、絶対に壊れないように作ったはずの服が、腕の部分だけ弾け飛ぶ。
これだけの力、今まで出したことないかもしれない。単純な力だけなら、もしかしたらカロは晴夢と戦えるかもしれない。
「きょううううやあああああ!!!」
カロも鏡合わせのように同じ動きをして半身になる。
そして、拳を振るうと、時が止まったかのように回りの物の動きが止まる。とうとう、加速の限界を越えに越えた為に、世界が俺達に追いつけなくなったか。
音など聞こえない。そんなんものはとうに置き去りにされている。今分かるのは、カロの拳と俺の拳がぶつかるということだけ。
……笑っている。この一瞬にも満たない刹那の中で、カロは最高の笑顔を浮かべている。多分、俺もあんな感じの笑顔を浮かべているんだろうな。
楽しかった。楽しかったとも! こんな戦いを永遠にやめたくないくらいに!
だが、この拳が当たった次の一連の流れによって、この勝負に決着が着く。
外から見ていればそもそも認識できないような速度がゆっくりと感じる中、俺とカロの拳はゆっくりとぶつかる。
その次の瞬間、俺とカロは共に肉薄し、殴打の連撃が始まる!
最初に喰らった鉄山靠。アレをカロは拳が当たると同時に放った。と思ったら、既に肘打ちへと移行し、俺に向かってまたもや別の技である蹴り、膝、頭突き、掌底、噛み付き、……と、おおよそ三十以上の技を重ねながら放って来た。
まるで、カロが三十人以上いるような錯覚を受ける。本当はただ早く別の技を俺に放っているだけなのだが……いやはや、俺の目でも追いきれないなんて、どんなスピード出しているんだよ! 最っ高だな!
その全てに構っている時間はない。だから、左腕は盾として捨て、右腕に全力を込める。
「ッ!? ――――――!!」
声にならない声が上がる!
内蔵、外部、関節、その他諸々……あらゆる場所にふざけた威力のダメージが襲ってくる。
一つも残らず胴体にある内蔵は破裂し、外部は骨が粉々に砕けているなど生易しく、もはや肉自体が抉られていた。
胴体の半分は消し飛んだ。だが、消し飛んだ半分は、霊力で補い、抜けかけた右腕の力を再び込め直す。
まだ技を出してこちらに攻撃してくるカロ。一部の隙も無い……が、技と技との僅かな連結部分、その僅かな部分にのみ、隙が生じる。
その隙を俺は――――――
「――――――――――――!!!!!!!!!」
一撃をもって倒すと覚悟を決めた右手の拳を振るう。
カロの放たれた技は確かに放たれているため、俺の拳と衝突はする。だが、そんな技は、全力を込めた俺の拳を止めることはできず、全てを破壊して、カロ本人へと当たる。
――――――楽しかったよ、鏡夜。
――――――ああ、俺もだよ、カロ。
拳がカロの顔面を捉えた刹那。カロの唇が動き、笑顔のまま言ってきた。その唇の動きを読んだ俺は、同じように唇を動かし、カロに答える。
拳が振り抜かれると同時、この世界を保っていた物が微塵も残らず砕け、フィールドは粉々に砕けた。
ガラスのような透明な物が降り注ぐ中、カロは光の粒子となってフィールドから消え去る。
後に残ったのは、半身を無くした俺と……拳を振り抜いた時に生じた爆音と宇宙空間だけだった。
カロは強いのです。
感想、アドバイス、批判、誤字、お待ちしております。