基本、昔話は過去編。でも、結構ストーリーに関係したり……
では、第七十三話をどうぞ。
Side鏡夜
「どうしたものかね」
紫ちゃんと別れてから早数百年。武者修行に出てから、手当たり次第に喧嘩を売って戦う……なんてことはせず、ちゃんと互の了承を得ながら戦っていた。
そんな中、大きな里に着いていたんだが……何ていうのかなあ? なんかこう、覇気がない。やる気がないと言ってもいいかもしれないな。
それでだ、そんな雰囲気だったら、なんでこんな雰囲気になっているか聞いてみるのが普通だろう? だから、聞いてみたのだが……なんとまあ、その理由がね。
「それじゃあ、行くか」
鬼が里を襲撃して、強い者を里外れの洞窟に連れて来いとのこと。それでまあ、里に強い者がいなく、皆困っているため、こんな雰囲気になっているとか。もし、連れてこなかったら、里の人、全員皆殺し……。
我こそは! っていう、猛者はいないものかねえ。男なら、一度は言うとは思うんだけどな。
そんなわけで、強い者と戦うことを主としてる俺は、人里の人には黙って、鬼との集合場所である洞窟へと向かっていた。
人里の人には言わなくてもいいだろう。だって、これは俺個人の問題だし。
そんなこんなで歩き始めて数分。山を歩き、道なき道を歩き、森を掻き分け、トボトボと歩いていると、ちょっとした断崖絶壁に出た。
……指定されていた場所に歩いてきたはずなのだが、それらしい洞窟はない。
「さて、どこだろうか」
辺りを見渡し、それっぽい物を探していると……あった。断崖絶壁の真下、二百メートル程下に大きな洞窟がある。
……成程ね。これくらいの断崖絶壁を降りれない程度で、鬼達と戦う資格がないと……そうかそうか。
眼下を見て、ニヤリと笑を浮かべると、俺の気配を察知したのか、大きな洞窟からわらわらと鬼達が現れた。
「……貴様が、里が寄越した強いものか!」
わらわらと現れた鬼達の一人……他の鬼達よりも一際大きく、まるで母のような雰囲気を醸し出している鬼が、大きな声を上げて聞いてきた。
彼女が、この鬼達の長か……?
「いや違う」
「ならば何故ここに来た!」
「俺は俺の為。個人的な理由でここに来た」
大声に大声で返すと、長らしき者が目端を吊り上げ、疑問を持っているような表情を浮かべながら腕を組んだ。
「個人的な理由だと……?」
「ああ、強い者を求めているのだろ? 俺はそんな奴らに腕試してしているだけさ」
なんて返すと、訝しげに俺を見ていた長と、長の隣にいた四人の女性と女の子意外が、急に笑い出した。
「ハッハッハッハッ! これは傑作だ! 鬼相手に腕試しだと?」
「アホだ! バカだ! 自分の言っている事が理解できているのか?」
「……ふむ」
馬鹿みたいに大口を開け、笑い出す鬼達を無視して、俺は長とその横にいる四人へと視線を向ける。
長は……まぁ、長だけに強い気配を纏っている。それに、その横にいる四人。彼女と女の子も異様な気配を纏っているのが一目でわかった。
「そもそも、そこから降りてくることも叶うまい!」
「……舐めてんのか?」
一人の鬼の挑発に乗ってやり、俺は断崖絶壁から遥か高く跳び、地面へと降りていく。
地面が抉れる程の衝撃が足元にはしった。ただそれだけなのに、さっき挑発して来た鬼は、目を見開いて驚いている。
おいおい、この程度で驚かないでくれよ。この程度で驚かれた、底が知れてしまうぞ。
「っさ、これで文句はないだろう?」
「……成程、私達と殺るだけの資格はあるようだ」
「鬼神母神様!? こんな輩と戦うというのですか!?」
「ああそうだ」
「ですがこの程度……」
「黙れ」
さっき驚いていた鬼は、長――――――鬼神母神だったかな?――――――に抗議するが、鬼神母神の低い声音の一言で、鬼は黙り込んで萎縮てしまった。
「お前はまず戦ってから言ってみろ? ほれ、最初にいけ」
「っ……」
鬼は少し黙ると、意を決めたのか、俺の方を振り向き、戦意をヒシヒシと向けてくる。
おお、さっすが腐っても鬼。今まで戦ってきた雑魚妖怪とは比べ物にならないね。
俺と鬼を囲むように、大きな円を鬼達は作る。鬼神母神と四人の鬼は目の前にいる鬼の後ろ。他は囲むように。
「戦いは負けを認めるか、相手を殺すか、気絶させるか。そのどれかによって勝敗を決める」
「死んでも恨むなよ」
「ハッ! 笑わせる」
低い声音で鬼が言ってくるが、俺はそれを軽く流す。それによって、鬼の琴線にでも触れたのか、目元をヒクヒクと動かし、額に青筋を浮かべる。
いいねえいいねえ! いい戦意がヒシヒシと感じられるよ。これぞ、戦いだ!
「では、始め!」
鬼神母神の言葉によって、鬼は一気に迫ってくる。俺も、それを迎えるように戦意を向けて突っ込もうとするが……。
「ヒッ!!」
「アッ?」
なんか俺に向かってくる途中で、いきなり尻餅を着いて、白目むいて気絶してしまった。
……なにこれ? 俺はただ、ちょっと戦意を向けてだけなのだが……。
周りを見渡してみれば、目の前の鬼と同じような状態の奴らが二、三人いる。四人と鬼神母神は至って普通だが。
「……ここまでとはな」
「おいおい、これで終わりか?」
「いいや、この程度は序の口だよ」
鬼神母神に問うと、鬼神母神は首を振って否定する。そして、手を上に上げると、鬼神母神の隣にいた四人が前に出てきた。
「こいつらは私直属の四天王。この周りにいる鬼達よりも数倍は強い」
「ほう」
確かに、周りにいる鬼達よりも、数倍強いプレッシャーを放ってくる。うん、いい殺気だねえ。
「でだ、貴様にはこの四人と一対一で……」
「断る」
「……何?」
俺が鬼神母神の言葉を途中で区切ると、鬼神母神は目を釣り上げて、睨んでくる。その横にいた四天王も、同じように睨んできた。
鬼神母神の言葉を止めたのには理由がある。戦いたくないわけじゃない。まどろっこしい、一対一じゃあ……微温いんだよ。
傲慢かもしれないが、これぐらいで戦わないと、丁度いい練習ができないんだよ。
「貴様、この期に及んで怖気づいたか?」
「いや、俺からの提案だ。一対一なんてまどろっこしい。一対四で戦おう」
「ッ!? ほう」
俺の言葉を聞くと、その場にいた全員が目を見開き、俺を睨みつけてくる。
「面白い、やってみろ」
「母さん……」
「勇儀、一対一の戦いを好むのはわかるが……今回は大人しく私に従え。相手のお願いだからな」
「……わかった」
鬼神母神に語りかけた一人、一本角で、長い髪の金髪の女性鬼――――――確か勇儀だったか?――――――は、渋々といった感じで、鬼神母神の話を受け入れる。
「さて……貴様、名は何という?」
「時成鏡夜。しがない人間さ」
「時成鏡夜……か」
鬼神母神は俺の名前を反復して言うと、二、三度頷き、拍手した。
「覚えておこう、鏡夜よ。私たちを前にしてのその啖呵、敬意を表する。例え死んだとしても、私は貴様の名を覚えておいてやろう」
「それはありがたい。……だが、俺が死ぬことはないので、ずっと覚えてて貰いたいな」
冗談を言うようにして、肩を竦めながら鬼神母神に言う。
ああ、死んでなるものか。こんな場所では死ねない。そもそも、俺は、自分が死ぬとは微塵も思っていない。
それくらいの気合でいっつも戦ってきてるんだ。これくらいの挑発は、平然とやってのけないとな。
「鬼の四天王が一人、伊吹萃香!」
「同じく四天王が一人、星熊勇儀!」
「山熊童子!」
「狭間鬼御子!」
『参る!』
「来な! 鬼っ子達!!」
名乗りを終えると同時に、俺と四天王は互いに突っ込んでいった。
最初に仕掛けてきたのは勇儀。長い髪を左右に振り乱しながら真正面から拳を放ってくる。
空気の破裂する音が聞こえる。この音は……ふ、ハッハッハ! 成程、音が起き去りにされている! 久しいなぁ、俺が戦ってきて二百年ぶり位だぞ、この音を聞いたのは。
真正面からくる拳を、俺は真正面から顔面で受ける。体の芯が痺れるような感覚に陥るが、そんなものは気にしない。それよりも、俺は笑いながら、彼女を真正面から見てやった。
「ッ!! クハハハハハ!! さっすが! いい拳だ!」
笑いながら受けた俺は、勇儀の腕を握り締め、振り回して鬼神母神に向かって投げつける。
案外簡単に飛んでいった勇儀は、鬼神母神にぶつかる前に、鬼神母神に避けられて地面へ激突した。周りの鬼達は、そんな勇儀を心配して近づくが、勇儀が腕を振るい、来るなと意思表示する。
「こっちも、いっくよ!」
投げ飛ばした勇儀を見ていると、背後から声が聞こえる。振り返ると、そこには二本角を生やし、長い金髪を髪の先端で一括りにしている小さいロリっ子の鬼――――伊吹萃香――――――が持っていた瓢箪を振り回して、頭めがけて殴ってこようとしていた。
頭に向かってくる瓢箪を、上体を前に逸らして躱し、そのまま両手を地面につけてもいっきり鬼っ子の背後に行くように押す。
空中で鬼っ子と目線が合って……互いに笑う。
そうして、鬼っ子の後ろヘと降り立った俺は、鬼っ子の頭をポンポンと叩く。
「貴方、強いね」
「そりゃあ、どうもっと!」
地面へ両手を着けて、時計の針のようにグルリと回転して、俺の足を払ってこようとする鬼っ子の足を跳んで躱す。
「ふぎゃっ!」
そして、鬼っ子の背中を踏んづけて、更に空へと高く跳ぶ。
「うりゃあ!」
「うらぁ!」
「よっ! ほっ!」
空中に跳んでいると、二人の鬼、赤髪の長髪に二本の角を生やした女性鬼――――やまくまどうし?――――と、もう一人は……金髪のショートカットに、一本角を生やしたロリっ子鬼―――――はざまきみこ?―――――が顔面と腹に殴りかかってきた。
顔面スレスレの拳は右手で受け止め、腹の拳は左足の裏で受け止める。すると、左足を押されたため、俺の体が顔面の拳と水平になるほどに体が浮く。
「やってくれるね! あんた!」
「こっちも気にしないとダメだよ!」
頭の上から鬼っ子が踵落としを、下からは勇儀が地面をへこませる程の力で跳び、こっちに向かって思いっきり拳を振るってくる。
上下挟み込まれるように攻撃されてしまったな。空中故に逃げ場はない……なんてね。
「甘いな!」
妖力で即興で翼を作り、右羽だけを羽ばたかせて、上下の攻撃を空中で横に回転ように回避する。ついでに、受け止めていた赤髪の子を回転した勢いのまま地面にぶん投げておく。
「なっ!?」
「おっと!」
俺という的がいなくなったため、勇儀と鬼っ子の攻撃が互いに当たるかと思ったが、鬼っ子の体が急に透け、互いに攻撃が外れた。
「ほほう……面白い能力だこと」
「そりゃあ、ありがとさん!」
「おお!」
翼を羽ばたかせ、空中で留まっていると、目の前に鬼っ子の拳が突然現れ、俺を殴ろうと迫ってくる。
……う~ん、見えなくする能力か? ……いや、違うな。これは……粒子化か? わからんな。
考え事をしつつ、左手で拳を受け止めると、急に背後から衝撃が走った。
「ッ!? なんだ……?」
「気配をなくす能力。こういう時には、結構使えるんだよね」
首だけを動かし、背中の辺りを見ると、金髪ショートのロリっ子、略してロリっ子が蹴りを俺の背骨に向かって入れていた。
バキッと、ちょっとマズイ音が背骨から聞こえるが……まぁ、大丈夫だ。これくらいなギリギリセーフだ。腕の感覚もあるし、足も動く。まだまだ、余裕だ!
「そーれッ!」
「うお!」
さっき拳を受け止めていた鬼っ子は、再び粒子化? すると、俺の頭の上から、思いっきり地面に向かって横蹴りをかましてきた。
一瞬、脳みそが揺れてブラックアウトしそうだったが、地面に当たった衝撃で意識が覚醒し、正常に戻る。
俺が落ちた衝撃で出来た地面のクレーターから、頭を振りつつ立ち上がると、勇儀が真正面から地面が抉れる程の踏み込みをしながら殴ってきていた。
「あたしの拳を受け止めたんだ! これくらいで死んでくれるなよ!」
「ああ、やってやるよ」
額にぶつかる拳。それによって、俺の体が震え、意識がぶっ飛びそうに再びなるが、気合で堪えてその場から吹っ飛ぶ。
まるで石ころのように吹っ飛ぶ体験をしながら、高速で流れる空を見上げる。
ああ、大変だ。空が真っ赤。一面赤だわ………ク、アッハッハッハッハッハ!! 最高だ! ああ最高だ! これだよコレ! これこそ、俺が求めていたものだよ! 自分の死が掛かっている戦い! 最高だね。
吹っ飛んだ先は鬼神母神の丁度横。俺はボロ雑巾のように落ちた。
「……なんだ、死んだかい? もう少しやると思ったのだけどね。流石に人間か……久々の強者だったのに……残念だ」
鬼神母神が何か言っているが、俺は気にせず、自分の血流を確認し、使える体の部位を確認していく。
腕、若干折れてる。足、ふむ、擦れた傷やら何やらがあるがまだ動かせる。頭、クラクラするが正常。内蔵、心肺機能、その他……少しマズイな。視界……最悪。
……よし、絶好調だ!
「……皆、この戦い……」
「ああ、いってえ!」
「ッな!?」
頭を振りつつ起き上がると、横にいた鬼神母神が絶句している。
一体なんだ? 俺が起き上がったことにそんな驚くことかよ。
膝に手を着けながら、なんとか立ち上がると、右手で目の前の血を袖で拭い取り、髪の毛を掻き上げる。
多分、髪の毛は血で真っ赤だろうな。けどまあ、あとで洗い流せばいいことだろう。
少しだけ、首を鳴らしてから、驚きの表情に固まっている四天王及び鬼神母神の瞳を見てから、今度は首をかしげる。
「……どうした?」
「鏡夜お前……生きて……」
「ああ? 何言ってんの、これくらいカスリ傷だ」
血を振りまきつつ、鬼神母神に向かって笑を見せる。笑を見せると、鬼神母神は絶句したあと、心底楽しそうにわら声を上げた。
「は、はは、アッハッハッハッハッハッハ!!! これは素晴らしい! 流石だ! 本当に素晴らしい!! それでこそ、私達が戦いたかった人物だよ!」
とびっきりの笑を見せる鬼神母神に拳を向ける。すると、笑い声を上げていた鬼神母神は俺の拳に、拳をぶつけてきた。
「さて、第二回戦だ。やろうか」
拳を離し、四天王を見た俺は、全身力を込め、霊力で体を強化していく。
「……面白い」
「あんた、最高だ!」
「これは……久々に興奮してきたねぇ」
「なら先手は……」
ロリっ子が言葉を途中で区切ると、ロリっ子の気配がドンドン薄くなり、最後には感じられなくなった。
見えているのに、その場にいない。そんな矛盾した感覚を俺が襲うが、そんな事は関係ない。何故なら―――――
「もらいます!」
「甘いな」
「ッな!?」
目の前から消え、背後に回り込んでいたロリっ子に反応し、さっきまで四天王がいた場所に放り投げる。
気配を消した? それでは甘い。霊力や妖力でも広げ、通り過ぎた時にズレる妖力や霊力を見れば、簡単に居場所を特定できる。
「さあ、きなよ。三人とも」
手を前に突き出し、クイクイッと手前に動かし、挑発する。すると、四人は心底楽しそうな笑を浮かべると、構えた。
『行くぞ!』
大声を上げると、四天王はそれぞれバラバラに突っ込んでくる。その内の一人、赤髪は、真っ直ぐと拳を顔面に放ってくる。
初速は遅いのだが、一瞬で音速を突き抜けた拳に変わる。あまりにも不可思議なスピードの変化。おかしい。
「全と半を操る能力」
……ふむふむ、ええと、これは多分、全部と半分を操る能力だな。多分、さっきのは距離を半分にしたな。そうでなければ、さっきの速度の変化の説明がつかない。それ以外の可能性もあるが……今の所はこの考えが妥当だな。
真正面にきた拳を横に半身になり避け、腕を掴み、そのまま腹に膝蹴りを入れる。流石に可愛そうだと思ったが、これくらいは勘弁して欲しい。
「カハッ!」
「まず、一人」
そのまま、軽く首の後ろに手刀を落とし、赤髪を気絶させて、邪魔になるから周りを囲んでいた鬼の方に放り投げる。
「もらい!」
「残念」
気配を消すのが大好きなロリっ子の蹴りを前かがみになって躱し、地面に手を着いて思いっきりロリっ子の顎を蹴り上げる。
ロリっ子の体は宙に浮く。その瞬間を狙って、俺は地面を思いっきり押し、ロリっ子の腹目掛けてドロップキックを入れて周りに囲んでいる鬼の方に吹き飛ばす。
「あと二人」
「さあ、今度は私だよ!」
ドロップキックをした状態で宙に浮いていると、今度は鬼っ子が、巨大化して空からうつ伏せの状態で降ってきた。
何もせずに落ちてきた鬼っ子を、すぐに立ち上がって受け止めた俺は、地面とのプレスによって、地面にクレーターを作る。この様子だと、他の鬼達は死んだと思っているのだろうな。
「舐めるなよ!」
「うそ……!」
かなりの重量がある鬼っ子を、俺は真上に持ち上げる。
……なんか、壁のようなものがある。だけど、若干和らいな……ああ、胸か。そんなことよりも、この体重をどうにかして欲しいなあ……。
「なんか、物凄く失礼な事を考えてる気がする!」
「それは、きのせい、だッ!」
「お、おおお!!」
鬼達の方に投げつけようとすると、鬼っ子は、体を粒子化して、逃れようとする。
チャンス到来!
「よっと」
俺は、霊力で鬼っ子は粒子化した辺りを全て箱で囲むように囲み、ドンドンその霊力の箱を縮めていく。そして、手のひらサイズになった箱が、なんかジタバタ暴れるが、そんなのを無視して、後ろにいる鬼神母神に向かってぶん投げる。
「最後」
「ハッハッハ! あんた、最高だ!」
最期の勇儀は、小細工など執拗無いとばかりに、拳で殴りかかってくる。
「グッ、ありがとよ!」
正面から右の拳を額で受け止めた俺は、今度は腹に向かって右の拳を打ち込む。すると、勇儀は口から僅かに血を流しながらも、左の拳を俺の顎に放ってくる。
少しだけ顎が宙に浮き、視界に空が見えるが、俺は視線を必死に正面を戻し、勇儀を睨みながら顎に向かって左のフックを入れる。
脳が揺られ、一瞬膝を崩しそうになる勇儀だが、なんとかふらつきながらも拳を握り締め、態勢を戻す勢いのまま俺の腹に向かって再び左の拳を打ち込んでくる。
内蔵が破裂し、胃の中身が出そうになるが、血だけを口の端から流すだけに堪え、歯を食いしばりながら右手で拳を握り、勇儀の腹目掛けて打ち込み、数メートル吹き飛ばす。
「クク、グ、ハハハハハハハ!!」
「ハッハッハッハ!!」
俺らは互いに距離を置いた状態から、視線を交わして笑い合う。
やっぱり、お前もそうなのか、勇儀。この戦いが楽しんだな! ……だけど、残念だ。もうあと一発でこの戦いは終を向かえてしまう。
それを勇儀も分かっているのか、勇儀は笑うことをやめると、拳を握り締める。
「あたしの二つ名は怪力乱神。これでも力には自信があったんだけどね……だから、同等の力を持つあんたに、最高の技を見せるよ」
勇儀はそう言うと、体を自然体にして、俺へ歩み寄ってくる。丁度、後三歩ほどで俺に拳が当たる地点まで。
「受けてくれるだろう?」
「勿論、来な」
俺も自然体の状態で、勇儀の事を見る。
「ありがとう」
それだけを言った勇儀は、目を瞑ってからゆっくりと開けると、鋭くして、一歩踏み込んだ。
「三歩必殺」
一歩目で地面が揺れ、拳にありったけの妖力が集められていく。
二歩目で再び地面が揺れ、更に拳に集まっていく。
そして三歩目。今まで目に見えるほどあった妖力が一気に消え、拳の中に凝縮し、ありったけの勢いのまま俺に拳を放ってくる。
その拳は、山河を叩き割り、地を割る程の威力を持ってる程。その拳を腹に受けた俺は、意識が一瞬で刈り取られ、体から力が抜ける。
「……これは、流石に耐えれなかったか」
拳を打ち込んだ勇儀が離れると同時に、俺の体は地面にぶっ倒れる。
………………ッアあああああああ!!! 俺、起きろ!!! これくらいで寝てられるわけ無いだろう!!!
「だああああああああああああ!!!!」
気合で意識を戻した俺は、地面に手を着いて、口から血を吐き出しなが、らふらふらと立ち上がる。
「な!? なあああ!!??」
「オラ! こっちからもいくぞ!」
「ま、ままままま!!」
「またん!」
俺は、手を前に出してオロオロとしている勇儀に向かって、思いっきり妖力を右手に込め始める。
「ま、まいった!」
あまりにも妖力を込めすぎたのか、勇儀は尻餅を着くと、涙目になりながら頭の上に両手をクロスしてガードした。
……あれ? そこまで俺って妖力込めてたっけ? ……ま、いいや。十分楽しめたし。
右手の妖力を解除し、周りを見渡すと、四天王の鬼っ子以外と鬼神母神は涙目で、他の鬼達は全員口から泡吹いて気絶してしまっていた。
「……ま、とりあえず」
俺は皆を一瞥すると、右手を高々と掲げた。
「俺の、勝ちだ!」
「ってね、いや~その後は、鬼達との歌え踊れのてんやわんやの大宴会ってね」
「へ~」
暇つぶしてとして話した昔話ではあったけども……懐かしいな。
あん時はまだ若かったからなあ。苦戦に苦戦しまくってた。久しぶりに会いたいな、四天王と、鬼神母神に……。
でも、アイツの気配は感じるんだよな~。でも、まだ出てこないみたいだし、出てきたら久しぶりに話でもして、酒を交わすか。
「さて、如何だったかな? 私の昔話は?」
「面白かった」
「それは良かった」
霊夢ちゃんに感想を聞いて見ると、満面の笑みで面白かったと言われた。
いや~嬉しいね。こんな爺の昔話に付き合ってくれるなんてね。孫が出来たみたいで、お爺ちゃん嬉しいよ。
ま、まず子供がいないんですけどね!
「どう? 眠気の方は?」
「うん、ちょっと眠くなってきた……」
「そっか」
布団に横になった霊夢ちゃんに、毛布を被せて、頭をそっと撫でる。
「おやすみ、鏡夜」
「おやすみ、霊夢ちゃん。良い夢を」
目を閉じ、小さな吐息をたてながら霊夢ちゃんは嬉しそうに微笑みながら眠った。
そんな霊夢ちゃんにニッコリと笑を浮かべてから、俺は屋敷を出て、神社の屋根に登って綺麗な満月を見上げる。
「綺麗な満月だ」
スキマを開き、中から日本酒を取り出し、一人でお猪口に注いで飲む。
旨いな。綺麗な満月に、旨い酒。こんないい日なら、あいつも来ればいいのに。
「……ん?」
飲み干したお猪口に、置いといた日本酒をお猪口に注ごうとしようとしたら、若干日本酒の量が減っていた。
……ふふ。
「一緒に、飲んでもいいけど、また今度ってか……」
グイっと一気にお猪口に入っている日本酒を飲み干した俺は、満月に向かってお猪口を突き上げる。
「その日を楽しみにしているよ……萃香」
勇儀の姉さんが涙目とか……良くないっすか?
取り敢えず、オリキャラ二人とか出てますけど、いいっすよね?
感想、アドバイス、批判、誤字、お待ちしております。