二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回、結構中途半端に終わります。

では、第七十二話をどうぞ。


第七十二話 博麗霊夢の風邪

Side霊夢

 

「ん……もう、朝……?」

 

陽の光が差し込んできて、私は眠りから目覚めた。

 

あの宴会が終わってから、もう二日が経っている。なんか、あの時の記憶があまりないのだけど……私、おかしなことしてないよね?

 

まぁ、大丈夫でしょう。それよりも、いつも朝早くには起きれる私なのだけど、今日は遅いわね。それに、体もなんかちょっと怠いし……どうしたんだろう?

 

「……朝ごはん作らなきゃ」

 

若干のだるさを感じつつ、私は布団から起き上がり朝食を作ろうと立ち上がるが……

 

「あれ……」

 

体に力が入らない。それと、なんか寒気も感じてきた。

 

一応頑張ってもう一回立ち上がろうとしてみたら、なんとか立てた。でも、足元はおぼつかない。

 

ふらふらとおぼつかない足取りでなんとか歩きつつ、私は台所へ向かう。台所までが異様に遠く感じるけど、一歩一歩ふらふらとしつつも歩く。

 

「あ……」

 

頑張って歩いていた私だけど、台所へ向かう途中倒れてしまった。受身も取れないまま、うつ伏せに倒れた私は、体に力を込めて再び起き上がろうとするけども、もう力が入らない。

 

「これって……風邪……?」

 

誰もいない部屋で呟きながら、起き上がろうと頑張る。だけども、やはり体に力が入らず、起き上がれない。

 

それにしても、一体いつ風邪など引いたのだろう? 昨日は至って普通だったのだけれど……あぁ、ダメだわ、思考が回らない。

 

 

 

「……布団?」

 

いつの間にか、私は朝起きたとき同様布団に寝ていた。

 

あれは夢だった……? いや、それにしては鮮明すぎたし、あれが夢だったら今体が動かないのはおかしい。

 

ならば、何故私は布団に寝ているのだろう? たまたまやって来た魔理沙にでも助けられた? もしくは紫……?

 

まだ全然回らない頭を動かして考えてはみるけれど、答えは見つからない。

 

「ん……これは?」

 

頭の上に乗せられた湿った布のような物を取ってみる。

 

見た事ない……なにこれ? 柔らかくてもふもふして銀色。動物のような毛で編まれてるけども、一体なに?

 

頭に乗っかてたものを見つめていると、急に台所の襖が開かれた。魔理沙だろうか……それとも紫だろうか?

 

ゆっくりと首だけを動かして、開かれた襖の方を見ると、そこには魔理沙でもゆかりでもない人物が立っていた。

 

「鏡……夜……?」

 

「やあ、霊夢ちゃん」

 

鏡夜が土鍋を持って立っていたのだ。いつもの私なら赤面でもして慌てていただろうが、今の私にはそんな気力が残っていない。そもそも、今の私は常時赤面状態だ。

 

「よいしょっと。本当、びっくりしたよ。霊夢ちゃんを訪ねて神社にやってきたら、居間で霊夢ちゃんが倒れてるんだもの」

 

私の横に正座で座りつつ、鏡夜は笑顔で言ってくる。

 

あぁ、やっぱり私は倒れてたんだ……でも、良かった、鏡夜が来てくれて。もし、鏡夜が来てくれなかったら、どうなって事だろうか。

 

「ありがとう……」

 

あまり出ない声で言いながら起き上がろうとする私を、鏡夜は片手で肩を抑えることで起こさないようにしてくる。

 

「ああ、ああ、無理しないで。風邪ひいたんだから、今日一日位はゆっくりと休みなさい」

 

「うん……ごめんね」

 

いつもの口調ではなく、風邪を引いて若干弱気気味なせいか、私は小さな声で呟くように子供のように言う。

 

子供っぽいけど、今くらいはいいよね?

 

「でも、ご飯は食べなきゃいけないから起きないといけないな……霊夢ちゃん、起きれるかい?」

 

「……ちょっと、しんどいかも」

 

「そっか」

 

どうしたものかと、右手を顎に添えて考え込むような仕草をする鏡夜。

 

しばらく考えた鏡夜は、ポンっと手を叩いた。

 

「私が、霊夢ちゃんを抱きかかえて起こせばいいのか」

 

「え……?」

 

鏡夜は私と布団の間に手を滑り込ませるように入れると、腕に力を入れて、私の上体を起こす。

 

確かにこれは楽でいいけど、その……恥ずかしい。

 

う、嬉しいし、これはこれでかなり役得だけど、恥ずかしい。

 

何回も言うけど、恥ずかしい。

 

「ちょっと苦しいかもしれなけど、我慢してね。食欲はあるよね?」

 

「ある……」

 

「それは良かった」

 

私の体を支えたまま、空中に霊力で台のような物を作ると、鏡夜は持ってきていた土鍋をそこに置いて、匙のような物で土鍋の中身を掬った。

 

土鍋の中身は普通の白い色をしたお粥。しかし、普通のお粥の筈なのだが、何故か異様に食欲をそそる。

 

……あ、そっか。私、今日の朝、ご飯食べてないや。それじゃあ、お腹は減るよね。

 

「はい、あ~ん」

 

「……」

 

ふーふーと匙で掬ったお粥に息を吹きかけると、私の目の前に差し出してきた。

 

これって、あれよね? よく人里の人が言ってる、病気になった時されたい事第一位になってた、あ~んってやつは。

 

うん、これはやって貰って初めてわかることだけど、意外と恥ずかしい。

 

鏡夜の顔は近いし、なにより密着しているので、異様に鏡夜を意識してしまう。

 

「……もしかして、食欲なくなっちゃった?」

 

「う、ううん。だ、大丈夫」

 

恥ずかしさを心の奥に押し込めつつ、折角鏡夜が手作りで作ってくれたお粥を一口食べた。

 

味は……何故か美味しい。少しの塩っけと、丁度いいお米の硬さ。どれもが絶妙に整っている。

 

「……美味しい」

 

「そう、良かった」

 

笑顔を浮かべる鏡夜は、先程と同じように匙でお粥を掬うと、私の前に出していく。

 

一口食べたことによって、私の食欲は刺激されたのか、なんの躊躇もなく食べる。

 

腹減ったら戦ができぬ……意味的には違うかもしれないけど、私的にはこの言葉が今一番しっくりくる。病気と戦うのも、ある意味戦だもんね。

 

 

 

「ご馳走様」

 

「お粗末さまでした」

 

土鍋に残っていたお粥を全部食べた私は、鏡夜に支えられつつ、笑顔で両手を合わせた。

 

お腹が満たされたことによって、幾分かましになった体調ではあるけども、やはり未だに少し怠い。

 

それと、なんだか眠くもなってきた。お腹が満たされたせいかな?

 

「ん……」

 

「あらら、眠くなってきた?」

 

「うん」

 

「それじゃあ、ゆっくりとお休み」

 

瞼をこする私をゆっくりと布団に横にし、鏡夜は持ってきた土鍋を手にして、立ち上がって行ってしまった。

 

行って欲しくはないと思いながらも、私は何も言えず、ただ鏡夜を見送る。居ては欲しい、けども風邪を移すわけにもいかない。そんな気持ちだったため、止めなかった。

 

しかし、そんな葛藤をしている内に、再び鏡夜は居間に戻ってくる。手に持っているのは……桶?

 

「そろそろ、額にタオルの取り替えをしないといけないからね」

 

鏡夜はそう言いながら、さっき私が持っていた布――――――タオルを桶の中に入っている水につけると、絞ってまた私の額に乗っけてきた。

 

ひんやりしていて気持い。火照っていた頭が段々冷やされていくのがわかる。

 

「さて、これでしばらくは大丈夫かな? それじゃあ霊夢ちゃん、私は別室で仕事してるから、いつでも呼んでね?」

 

「あ……」

 

そう言って、立ち上がって居間から出ていこうとする鏡夜の服の裾を掴んだ。

 

「ん? どうしたの?」

 

「あの……」

 

ここに居てほしい。ただ、それだけの言葉が口から出てこなかった。先ほどの風邪を移す心配のせいと、さっき思ったこととして、鏡夜に図々しすぎるのではないかと思ってしまったのだ。

 

別に、鏡夜はここに居てと言っても、なんの躊躇いもなく笑顔でいてくれるだろうけども、それは――――――図々しいよね?

 

困ったように視線を左右させる私の表情を見た鏡夜は、私の心中を察してくれたのか、笑顔でその場に座った。

 

「寝るまでで、いいかな?」

 

「うん……お願い。それと、手を……握ってくれない?」

 

「それくらい、お安い御用さ」

 

私の手を握ってくれた鏡夜は、笑顔のまま座って私の頭を撫でてくれる。

 

暖かい……鏡夜の体温が丁度よく気持い。それに、あんなに拳を使って戦っているのに、その手は柔らかい。頭を撫でてくれるのも気持いし、これは……ちょっと風邪を引いて良かったと思う。

 

鏡夜の体温を感じつつ目をつぶると、次第に眠気が襲ってきていた。

 

「おやすみ、鏡夜」

 

「おやすみ、霊夢ちゃん」

 

 

 

「……あ」

 

どれだけ眠っていたのだろうか。目を開け、周りを見てみると、外はもうすでに暗くなっていた。

 

もう、夜になっちゃたから、鏡夜は帰っちゃたかな? それならちょっと寂しいけど、仕方ないよね。鏡夜にだって、家族がいるんだから。

 

鏡夜がいない事に寂しさを感じながら体を起こす。ある程度は回復してきてくれたのか、意外にもすんなりと起き上がれた。

 

まだ立つことはできないけど、座ることと這って移動することぐらいは出来る。なんか、汗のせいでベタベタする体を、お風呂に入って早く洗いたい。

 

まるでイモムシのように這いながら、居間から出るための襖に着くと、丁度よく襖が開けられた。

 

「……」

 

「……ふむ」

 

襖を開けた状態で立っていた鏡夜は、顎に手を当てると、そっと膝をついて、私のことを抱えた。

 

ようやく頭が回ってきたところで思うのだが、これって意外と恥ずかしい。まぁ、そんなことよりも、鏡夜がこの時間までてくれたことが嬉しかった。

 

「どうやら、どこか行きたかったようだけど、どこに行く予定だったの?」

 

「お風呂……入りたかった」

 

「そう……少し待ってて」

 

鏡夜は私を布団の上に座らせると、居間を出ていき、数分もしない間にタオルと桶を持って戻ってきた。

 

「はい、服脱いで。拭いたげるから」

 

……? 今鏡夜はなんて言った? 服を……脱げ?

 

「はい?」

 

「だから、汗拭いてあげるから、服脱いで」

 

「ば、ばばばばか――――――!!!」

 

鏡夜は何言ってるのよ! 服を脱げですって? 出来るか! なんで、自分の好きな人の前で、全裸にならなきゃいけないのよ! 恥ずかしすぎるわ! そんな事するなら、このまま汗まみれでいたほうが百倍まし!

 

「ちょ、ちょっと霊夢ちゃん!?」

 

「ばかばかばかばか!! そそそそんなことできるわけないでしょう!! 少しは乙女の気持ちを考えなさいよ!!」

 

鏡夜の胸を叩きつつ、鏡夜に大声で叫ぶ。

 

風邪? そんなの知らないわよ! 風邪よりも、今乙女の純情を守る方が大事なのよ!

 

「わ、わかったわかった、ちょっと待ってて」

 

急いで居間を出て行く鏡夜。残された私は、ただ顔を真っ赤に赤らめて、息を切らしていた。

 

「ま、まったく。少しは、考えなさいよ……」

 

あぁ、大声を出しすぎたせいか、また熱が出てきたみたい。

 

「やっほ~霊夢~元気~?」

 

「……カロ?」

 

熱を我慢しつつ、なんとか布団の上に座っていると、襖の向こう側からカロが現れた。

 

体を拭くために、鏡夜が呼んでくれたのかな?

 

「カロだよ~霊夢は元気……てわけでもないね~」

 

カロは私の布団の近くに寄ってくると、布団の横に座り、桶に入っていたタオルを絞る。

 

「服脱がすよ~」

 

「ん……」

 

女同士なら、流石の私でも恥ずかしくはない為、カロの言葉に素直に従う。

 

寝巻きを脱がされ、白いサラシを外されて、私は上半身だけ裸になる。

 

ちょっと視線をずらして胸を見てみたけど……カロより小さい。

 

そりゃあ、生きてる年月が違うから、まだ私の方が小さいのはわかるよ? でも、でも、それでも! なんか小さいってのは、負けた気がする。べ、別に大きい方がいいってわけでもないけど、けど、もしかしたら鏡夜が巨乳好きってこともあるかもしれないじゃない? だったら、私は好みから外れちゃうんじゃ……

 

いやいや、あの鏡夜に限って巨乳好きってことはないよね? むしろ、胸なんか関係ない! って言ってくれそう。

 

なんて考えてる間に、上半身すべてを拭かれ、鏡夜が用意してくれたのか、新しいサラシと寝巻きに、カロに手伝ってもらいながらなんとか着替えた。

 

「はい~おしまい~」

 

「ありがとう、カロ」

 

「終わったかい?」

 

カロにお礼を言い、服装を丁寧に整えると、丁度よく鏡夜が居間にやって来た。

 

「うん~今終わったよ~」

 

「それはよかった。これで、終わってない所にでも来たら、二人に殺されてしまう」

 

「あはは~大丈夫だよ~私は~霊夢はわからないけどね~」

 

鏡夜が私の方を見てくる。

 

もし私が着替えているときに鏡夜が今に入ってきたら…………

 

「ひゃっ!」

 

思わず想像してしまい、変な奇声を出しながら、私は真っ赤だった顔を更に赤くする。

 

だ、だだだめ! それだけはダメ! もし見られたりしたら、恥ずかしさのあまり鏡夜の顔を見れなくなっていしまう。

 

「どうやら~だめみたいだね~」

 

「そうだな。やれやれ、少女心は分からないものだ」

 

鏡夜は両手を肩の辺りに持って、左右に開きながら首を横に振る。

 

「それで、霊夢ちゃん。食事持ってきたんだけど、どうする?」

 

「……食べる」

 

赤くなった顔を隠すように布団で顔を半分隠しながら鏡夜に言う。

 

あんな事を想像した後なんだから、まともに鏡夜の顔を見れるわけ無いでしょう。

 

「それじゃあ、はい。カロ、よろしく」

 

「はいよ~」

 

鏡夜から土鍋を受け取ったカロは、鏡夜と同じように妖力で台を作り、その上に土鍋を置く。

 

「あ、それとこれも」

 

鏡夜は、カロの作られた妖力の上に、小さな何かを置いて、その隣に水の入ったガラスで出来た筒を置く。

 

「これ、里で買った風邪の薬だから。ちゃんと、食後に水と一緒に噛まずに飲んでよ?」

 

「ありがとう」

 

カロに土鍋の中のお粥を食べさせてもらいながら、居間から出た鏡夜の置いていった薬を見る。

 

見た事もない小物……普通なら、薬草とかを粉にしたのを飲むんだけど、これは初めて見る。

 

……あぁ、そう言えば、森の奥の医者が、人里で薬を売ってるって聞いたことがあるわね。その医者の薬かな?

 

「ご馳走様」

 

「お粗末さま~」

 

なんて考えつつ、お粥を全て食べた私は、薬を持ってみた。

 

これを飲むの? なんか硬いんだけど、食べて大丈夫なものなのかな? ……ま、鏡夜が買ってきたものだから、大丈夫でしょう。

 

薬を口に入れて、水で流し込む。薬草の薬は苦さを感じたけど、これは感じない。

 

「それじゃあ~霊夢~私は行くね~」

 

「うん、ありがとう、カロ」

 

桶とタオル、それと土鍋を持って、カロは居間から出て行ってしまった。

 

「お疲れ」

 

「後は任せたよ~」

 

それと入れ替わるようにして、鏡夜が居間へと入り、私の隣に座った。

 

「さて、霊夢ちゃん。どうする?」

 

「どうするって……?」

 

「いや、眠いなら、寝てもいいんだけど……眠れないでしょ?」

 

確かに、昼間あれだけ寝てしまったから、全然眠気は無い。かといって、動き回れるほどの体力もない。

 

「眠れない……」

 

「ふむ、ならどうしよっか? 何かしたいことある?」

 

「……特にない」

 

「これは困った」

 

やりたいことはない。何もしたくない。ただ、今は鏡夜と一緒にいたい。

 

だけど、それを口にするわけでもなく、私はぶっきらぼうに答えてしまった。

 

鏡夜は困った表情をすると、何か名案でも思いついたといった感じで、手を叩く。

 

「ねえ、霊夢ちゃん。何もしなくていいなら、昔話を聞いてよ」

 

「昔話?」

 

「そう、昔話。興味ない?」

 

興味は――――――ある。大いにある。

 

そもそも、私はあの子供の時にあった時の鏡夜と今の鏡夜しか知らない。紫にだって、聞いたことはない。

 

そりゃあ、人柄やらは聞いたことはあるけど、根本的な、何をしていたのかなどは知らない。

 

「教えて?」

 

「よし、わかった。あれは、今から何年前だったかな? 確か、私が紫ちゃんと別れて、修行の為にこの国を歩き回っていた時かな……」

 

懐かしむように語りだした鏡夜の昔話を、私はどんな昔話だろうと期待しながら聞き始めた。

 




次回は、昔話です。ん? 妖忌? 違います。鬼っ子達です。

感想、批判、アドバイス、誤字、お待ちしております。

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