二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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遅くなって申し訳ありません。

では、第五十五話をどうぞ。


第五十五話 紅魔のメイドと亡霊のお嬢様

Side咲夜

 

「はぁぁあああああ!!!!!!!」

 

弾幕ごっこが開始された直後、私は空に飛んだ幽々子に向かって走りながら、両手に握ったナイフを絶え間なく投げつけ、マジカル☆咲夜ちゃんスターから何十本という数のナイフを発射した。

 

投げるナイフの数は十や二十ではなく、百本近いナイフを投げているのだが、幽々子はまるで舞を踊るかのように避ける。

 

「あらあら、元気ね~」

 

一切の弾幕を放たず、幽々子は舞うようにひたすら避け続ける。何故、弾幕を放ってこないのか疑問に感じるが、そんなのは頭の片隅に留めるだけにして、私はナイフを投げ続けて幽々子に走って近づく。

 

幽々子の丁度真下あたりまで走った私はその場から飛び上がり、幽々子の正面に浮かぶ。

 

「この距離なら!」

 

「残念無念、また来週~ってね」

 

「な!?」

 

幽々子の目の前で私はナイフを放つが、全て閉じた扇子で叩き落とされてしまった。そして幽々子は扇子をこちらに向けると、扇子の先から、顔面めがけてレーザーを放ってきた。

 

「ささ、ここから、私のターンよ!」

 

「くっ!」

 

私は咄嗟に上体を逸らしてレーザーを躱し、ナイフを投げてその場から離れる。

 

ナイフを投げたのはいいのだが、幽々子は扇子を横薙ぎに振るい、レーザーでナイフを弾く。そして、そのまま私を追うように扇子を振るった。

 

「さあ、まだまだいくわよ!」

 

レーザーを躱していると、幽々子は何かを叫んだあと扇子を広げる。すると、先ほどまで一本だったレーザーが何十本にも増え、更には蝶の形をした弾幕が放たれた。

 

私もその弾幕に対抗するようにナイフを放つが、そのどれもがレーザーで弾かれてしまう。

 

「さあさあ、舞いなさい。十六夜のメイドちゃん」

 

「言われなくても!」

 

私は迫り来る全ての弾幕を紙一重で躱し続けていく。だが、とうとう限界がきてしまい、私の周りは弾幕で囲まれ、逃げ道がなくなってしまった。

 

「く……能力発動!」

 

逃げ道を失った私は、咄嗟にポケットに手を突っ込み、懐中時計を取り出す。そして、能力発動の言葉とともに、懐中時計のスイッチを押す。すると―――

 

「……時よ止まれ!」

 

周りの色が灰色になり、私以外全てがその場で停止した。これは、私の能力、時を操る能力を使い、時を止めたのだ。別に、懐中時計のスイッチを押す必要はないのだが、その方が長く時を止められる気がする。まあ、それでも止められる時間は、十秒ほどだが。

 

時を止めた私は、周りの弾幕に触れないようにしながら幽々子の前へと飛んでいく。幽々子の前へと着いた私は、マジカル☆咲夜ちゃんスターと持っているナイフを投げ、その場を離れる。

 

数十本のナイフは一瞬飛ぶが、時を止めているせいで幽々子の目の前で止まる。時間は後二秒。私はすぐさま時を止める前の位置に戻り、そして―――

 

「そして、時は動き出す」

 

その言葉とともに、時は動き出した。

 

先ほどまで幽々子の目の前で止まっていたナイフは、時が動くと同時に全て幽々子に向かって飛び始めた。

 

流石の幽々子も、突如目の前に現れたナイフに一瞬動揺するが、すぐさま扇子で落としにかかる。しかし、流石に数が多すぎたのか、全ては落とせず、一発だけ肩にナイフが刺さった。

 

「あいたた、幽霊でも痛みってあるのね~……それはいいとして、まさか時を止めるなんてね、驚いたわよ?」

 

「何故、わかった……?」

 

「はい、一瞬の動揺は、死に直結しますよー」

 

「ッ!? ガ!」

 

幽々子が何故私の能力がわかったのか疑問に思っていると、いつの間にか私の背中に、幽々子の作った蝶が飛来しぶつかる。

 

「はい、これでおあいこよ~さ、また舞ってもらうわよ」

 

「望むところ」

 

背中に蝶を喰らったが、すぐにその場から離れて距離を取る。ある程度の距離を取ると、幽々子は一枚のスペルカードを取り出した。

 

「さあ、これがよけられるかしら? スペルカード発動、亡舞『生者必滅の理―魔境―』」

 

幽々子はスペルカードを唱え終えると、扇子を開いて、その場で回り始めた。幽々子が回り始めると、数え切れないほど弾幕が左右から迫ってくるように放たれ、一瞬で私の視界を埋めた。

 

なんとか飛んでくる弾幕を躱すが、今度は私に向かって人一人を軽く超えるような大きな弾幕が真っ直ぐ飛んできた。

 

「これは……キツイ……」

 

なんとかギリギリのところで躱し続けているが、徐々に掠り始めてきた。一応、ナイフを広い範囲で投げて幽々子に当てようとしているが、その前に弾幕に阻まれてしまい、幽々子にまで届かない。

 

「面での突破が無理ならば……こうするまで!」

 

私は弾幕を避け続けながら、懐からスペルカードを取り出す。

 

「幻符『殺人ドール』」

 

スペルカードを唱え終えた瞬間、私は能力を使い自分の動くスピードを倍にする。そして、幽々子から飛んでくる弾幕を躱しながら、今まで投げていた広範囲のナイフを一点集中で幽々子に向かって投げる。

 

スピードを上げるのではなく、先ほどのように時を止めればいいのでは? と思うだろうが、あちらの方は霊力を大量に消費してしまうため、連発での使用ができないのだ。

 

最初のナイフは幽々子の弾幕に弾かれるが、それでも次々と飛んでくるナイフに耐え切れず、徐々に弾幕を消して幽々子に向かっていく。

 

「わお~まさかこの弾幕を突破してくるなんて、やるわね~……でも、まだまだよ」

 

幽々子は弾幕を私のナイフに集中させて防ごうとするが、私はそんなのことは気にせず、弾幕を突破し、幽々子に当たることだけを考えて、マジカル☆咲夜ちゃんスターと一緒にナイフを投げ続ける。

 

互の弾幕は、私と幽々子の中間で丁度競り合っている状態だ。地力の違いか、はたまた私の体力も計算してか、幽々子の弾幕は一向に威力が落ちず、逆に私のナイフの威力は衰え始めてきた。

 

「あらあら? 威力が落ちてきわよ~?」

 

余裕の笑みで幽々子が何かを言った瞬間、油断していたのか僅かだが幽々子までの隙間が出来た。僅かにできたその隙間を逃さず、私はナイフを投げ、そのナイフの跳ぶスピードを倍にする。

 

「っ!? くっ!」

 

最初から余裕の表情を崩さなかった幽々子は、ナイフが当たった瞬間、初めて苦悶の表情を浮かべた。

 

「これで、貴方はあと二つよ」

 

自分のスピードを元に戻し、ふ~っと息を吐く。自分のスピードを倍にしていたため、通常よりも体力の減りは倍だが、何分、あの紅魔館での修行があったせいか、まだ体力は残っている。

 

「そうね~でも、まだあと二つもあるのよ?」

 

「私から言わせれば、あと二つしか残ってないのですよ」

 

「ものは言いようよ。さて、じゃあ始めましょうか。ここから始まる本気の弾幕ごっこを」

 

幽々子は先程までの余裕の表情を消し去り、扇子を口元に持っていき、目を鋭くして、全てを見透かすような瞳でこちらを見てくる。

 

だが、あれ以上の瞳を常日頃から見ている私にとって、その程度の視線では臆すに値しない。

 

「ええ、いいでしょう。とことん付き合ってあげます」

 

「面白いわね、好きよ。そういう性格」

 

「私は苦手ですよ。貴方みたいな性格」

 

「ありゃりゃ、嫌われちゃったわ」

 

幽々子は私が嫌いと言った瞬間、わざとらしく肩を落とした。

 

余裕の表情は消しても軽口は消えないようだ。

 

「ま、いいわ。それじゃあいくわよ?」

 

「ええ、いつで……」

 

「もう、やってるわよ」

 

「!?」

 

幽々子の宣言に言葉を返している途中、私の背中に激痛が走り・・・いや、激痛の後に、首から下の感覚がなくなり、うつ伏せに倒れてしまった。

 

倒れたまま、首だけを動かして幽々子を見ると、余裕の表情を浮かべて、扇子で口元を隠して笑っていた。

 

「貴方の神経を、今この場でだけ死なしたわ。安心して頂戴。これが終わったら元に戻るから」

 

「卑怯な」

 

「残念ながら、卑怯、騙し、反則、そう言う言葉は、戦いでは無用のものなのよ。現にそうでしょう? 貴方だって、さっき私に騙し討ちしたじゃない。お返しよ」

 

「……」

 

幽々子の言葉に、私は何も言い返せなかった。

 

確かに先ほど、時を止めての不意打ちをしたので、今幽々子が不意打ちをしたところで、それは先ほどの仕返しにしかならない。ならば―――何も悪いことはない。

 

「ま、これが戦いの年季よ。まだ、若かったわね、十六夜のメイドちゃん」

 

何とかしなければいけないのだが、首から下の神経がなくなったため、何もできない。そんな何もできない私に向かって、幽々子は一匹の蝶を私に向かって放っていた。

 

「……鏡夜さん、すみません」

 

迫り来る蝶に何もできない私は、首を幽々子から落として目を閉じた。

 

 

 

 

 

「どうした咲夜ちゃん? もう終わりか? だらしないな~」

 

「っ!」

 

目を閉じ、ただやられるのを待っていた私の耳に突如、鏡夜さんの声が聞こえた。

 

……何をしているのだ私は。このまま、やられるのを待つ? 違うだろう。私は・・・私は心の中で誓っただろう! 絶対に異変の首謀者を倒すと、なのに……なぜ私は寝ているのだ!

 

「だああ!!!」

 

「嘘……」

 

飛んでくる蝶に、私はマジカル☆咲夜ちゃんスターからナイフを投げて相殺させる。

 

首から下の感覚がない? 体が動かない? そんなものは関係ない! 私にはまだ、パチュリー様から頂いたこのマジカル☆咲夜ちゃんスターがあるのだ。例え体が動かなくても、私はまだ戦えるのだ。

 

「私を……舐めないでちょうだい!」

 

首だけを動かして、幽々子の方を睨みながら言う。絶対に負けないと言う強い気持ちを瞳にのせながら。

 

幽々子の姿を見ると、困惑した様子で、ただ呆然と私を見下ろしていた。訳がわからない。理解できないといった表情で。

 

「……ごめんなさい。死に体の貴方を舐めていたわ。でもここからは違う。死に体の貴方であろうとも……全力で潰させてもらうわ」

 

幽々子はそう言うと、扇子をどこからかもう一本取り出して広げた。

 

「さあ、これで最後よ。本当の最後」

 

余裕の表情を消し、先ほどとは比べ物にならないくらいの圧迫感が寝ている私を包む。だが、そんな圧迫感など気にしない。私の目的は、目の前の異変の首謀者の打倒なのだから。

 

私は体に力を入れるが、やはり力が入らない。ならばと思い、霊力を身に纏い、いつも空を飛ぶようにしてみると、普通に空を飛べた。

 

何故、先ほどこの案を考えつかなかったのだろうかと悩んでしまいそうだったが、すぐさま考えるのをやめて、目の前の異変の首謀者の打倒へと思考を切り替えた。

 

「……全く、死に体の体で、よくそんなことができるわね。常人の発想じゃないわよ」

 

「あいにくと、私の師匠はブッ飛んだ人なので」

 

会話しつつ、空を浮いている方法で、両腕が動かせないか試してみたが、霊力の操作が難しくこの戦いの中では使えそうにもない。

 

「それじゃあいくわ……」

 

「もうやってます」

 

「な!? っ!」

 

幽々子のセリフが終わる前に、幽々子の背中にはナイフが突き刺さっていた。

 

何をしたかというと、マジカル☆咲夜ちゃんスターを幽々子の背中に移動させ、そこからナイフを発射し、幽々子にぶつけたというだけだ。

 

「やるわね」

 

「どうも」

 

霊力がドンドン消費される為、軽口を叩いている暇のない私は、すぐさま幽々子に接近しマジカル☆咲夜ちゃんスターから何十本というナイフを前後から発射する。

 

当たる……とは思わない。何故なら、幽々子にはレーザーや蝶の弾幕があるのだ。威力的には私の弾幕の威力の方が弱い。それに、幽々子にはまだ、何かを隠している気がする。

 

「その手は効かないわ」

 

ナイフが迫っているというのに、幽々子は両手に持っていた扇子を広げ、その場で一回転する。すると、幽々子の背後に巨大な扇子が出現し、背後から飛んでいたナイフは防がれてしまう。

 

そして、正面から飛んでいたナイフは巨大な扇子から出てきた弾幕によって防がれてしまう。

 

「く…」

 

「もう、終わり。全て……何もかも終わり……」

 

「何を言って……」

 

「終わりなのよ」

 

「っ!?」

 

幽々子の何かを呟いた瞬間、雰囲気がガラッと変わった。雰囲気が変わるだけであって、存在が変わるわけではないのだが、目の前にいるのは幽々子ではない。いや、姿かたちは幽々子なのだが、幽々子ではない。なんとも言えない・・・が、しいて目の前の存在を一言で表すとするなら……死。

 

純然たる死。ただの死。絶対的な死。殺意も何もなく、ただ終をもたらすであろう死。

 

そんな雰囲気を、目の前の存在は放っていた。

 

「貴方は……一体……」

 

「私は……私よ」

 

目のハイライトがなくなり、死んだ魚のような瞳で目の前の存在はそう言った。

 

「だから……死になさい」

 

「っ!?」

 

幽々子の言葉が終わった瞬間、私の視界は数え切れない程の弾幕で埋め尽くされた。

 

一発一発が私を余裕で殺せる力を持っている。更に、逃げ道などというものはなく、横に避けたとしても、時を止めても、回避する手段がない。

 

「……」

 

迫ってくる弾幕の速度が異様に遅く感じる。そして、紅魔館で過ごしてきた記憶が頭の中を次々とながれていく。

 

走馬灯と言うやつだろう。つまり、私は今、死を実感しているわけだ。ああ、もう弾幕が目の前だ。これはもう……どうしようもないや。

 

「鏡夜さん、今度こそ本当に無理でした。……ごめんなさい」

 

不甲斐なさ、後悔、そして悔しさを感じつつも私は迫り来る弾幕に対して、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張った。後は任せろ」

 

肩を抱き寄せられ、そんな声とが聞こえたと同時に私は意識を失った。

 




次回で妖々夢は終わります。それと、活動報告に書いた質問ですが、期限を日曜日までにします。偉そうで、すみません。

感想、誤字、批判、アドバイス、お待ちしております。

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