では、第四十八話をどうぞ。
第四十八話 開けない冬
Side鏡夜
「もう冬ですね~」
「そうね~」
「そうだよね~」
あの事件? というか悪戯から数ヶ月が経った。季節は冬に入り、雪が降っている。そんな光景を、俺はお嬢様達二人を膝の上に乗せて、一緒に毛布に包まって眺めていた。
「寒いですね~」
「本当にね~」
「でも、鏡夜がいるから暖かいよ」
「そうね~」
「私も、お嬢様がいるから暖かいですよ」
「「もう、鏡夜~」」
そうして、お嬢様達二人をギュッと抱きしめつつ、その日一日を平凡に、何事もなく過ごした。
「・・・もう春ですよね?」
「そのはずよ」
「・・・でもね~これじゃあね~」
あれから更に数ヶ月経った。数ヶ月経ったのだが、俺とお嬢様達の目の前では、未だ雪が燦々と降っている。暦の上では春なのだが、目の前の光景は明らかに冬の光景だ。
「これは、一体なんなんでしょうか?」
「・・・普通に考えれば、異変よね」
「異変だね」
「異変ですよね~」
何時も通りお嬢様達を膝の上に乗せて、毛布にくるまりながら話す。
「・・・ちょっと、調べてみますかね」
「行くの?」
「ええ・・・ですが、今日は行きません。明日あたりに行ってきます。ですから、今日はこのままでいましょう?」
「そうね」
「そうだね。は~やっぱり鏡夜は暖かい」
「フフ、お嬢様達も暖かいですよ」
そうして、また、ギュッと二人を抱きしめて、その日一日を平和に過ごした。
「さてと、行きますか」
「待ってください鏡夜さん」
「咲夜ちゃんか」
一通り準備を終え、この異変の原因を探りに行こうと玄関に向かっていると、後ろから声がかけられた。誰かなと思い振り返ると、咲夜ちゃんがマフラーを首に巻いて立っていた。
「どうしたんだい?」
「私もこの異変の原因を探りに行きます」
「あらら、急にどうしたの?」
「私は一応紅魔館のメイド長です。鏡夜さんばかりに任せてはいられませんよ。あ、レミリアお嬢様の許可は貰いましたから、安心してください」
「そう・・・じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
そんなわけで、俺は咲夜ちゃんを連れてこの異変を探りに向かう事にした。
「っと、その前に咲夜ちゃん、ちょっとこっちに来て」
「どうしました?」
近寄ってきた咲夜ちゃんの額に指を当て、俺は曲げる能力を発動した。
「はい、終了」
「何をしたのですか?」
「私の能力で、咲夜ちゃんに掛かる一定量の寒さを曲げたの。多分これで、外に出ても寒くはないはず」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「別にいいさ。じゃあ、行こっか」
「はい」
そうして、俺と咲夜ちゃんは紅魔館の扉を開け外に出た。あいにくと外は吹雪だったが、俺は曲げる能力を発動して、俺に向かってくる吹雪を曲げる。
「咲夜ちゃん、大丈夫かい?」
「視界は少し悪いですが、問題ありません」
「よし、じゃあ行くよ」
「はい」
俺は白い霊力の翼を出して、空へと羽ばたく。そして、空へと飛んだ俺の後ろを追いかけるように、咲夜ちゃんは飛びながらついてきた。
「そういえば、鏡夜さん。どこか、今回の異変の宛はあるんですか?」
「いや、特にはないよ。なんとなく勘で進んでるだけ」
「勘・・・ですか・・・」
「そ、勘」
俺は、本当に何も考えずに適当に飛んでいた。適当に飛んでいれば、いずれ異変の首謀者に会えるんじゃないかな~位は考えていたが。
しばらく、適当に飛んでいると、急に吹雪が止んだ。吹雪が止んだのはいいのだが、今度は無数の弾幕が飛んできた。
「吹雪の次は何故に弾幕?」
「なぜでしょうね」
飛んでくる弾幕を軽く躱し続けながら進んでいると、今度は弾幕が飛んでこなくなった。
「今度は弾幕が止んだね」
そのまま弾幕の飛んでいた方向に進んでいると、二人ほどの声が聞こえてきた。
「コラ! チルノ、急に弾幕を人に向かって撃っちゃダメでしょう!」
「い、痛いレティ。わかった、わかったから、顔から手を外して!」
「何アレ?」
「なんでしょうね?」
声が聞こえてきたところに着くと、チルノちゃんが、薄紫色のショートボブで、ゆったりとした青を基調とした服を着た見慣れない女性にアイアンクローされていた。
「ちゃんと弾幕を撃つときは、ルールを最初に決めないとダメだって言ったわよね」
「い、痛いレティ。だからわかったってば!」
「あの~そこのお二人さん?」
「はい? っと、これは失礼しました!」
「フギャ!!」
俺が女性に声を掛けると、女性はようやくこちらに気づいたのか、チルノちゃんの顔面を握っていた手に、力を一気に込めてから、こちらを見た。チルノちゃんは女性にアイアンクローされたままプラーンと脱力しているが、妖精だからまあ大丈夫だろう。
「いえいえ、で、貴方様は誰ですか」
「申し遅れました。私はレティ・ホワイトロックと言います。種族は妖怪です」
「これはご丁寧にどうも。私は時成鏡夜。種族は人間です」
「私は十六夜咲夜。種族は鏡夜さんと一緒の人間です」
「鏡夜さんに咲夜さんですか。で、お二人はこんな吹雪の日にどうしたのですか?」
レティはチルノちゃんをアイアンクローしたまま器用にお辞儀をした後、要件を聞いてくる。いい加減にチルノちゃんを離せばいいのに。
「この異変の原因を探りに来たんだ」
「異変ですか?」
「そ、異変。もう暦の上では春なのに、未だに冬が続いてるっていう異変」
俺が簡単に異変の内容を話すと、レティは何か納得したような顔をして頷き始めた。
「成程、これは異変だったのですね。どうりで冬が長いはずですね」
「あれ? 気づいてなかったの?」
「はい。お恥ずかしながら今年の冬が長いことに喜んで浮かれていましい、異変だとは気づきませんでした・・・」
浮かれていたことがとても恥ずかしかったのか、レティは頬をほんのり赤くして、照れたように笑いながら言ってきた。
「そうだったんだ。じゃあ、レティ、何かこの異変で知ってることはない?」
「残念ながら知ってることはあまりないです・・・」
「そっか」
「しかし、不思議なものは見つけました」
情報がないのかと思い肩を落として落胆したが、レティが懐から取り出した不思議なものを見た瞬間、俺は驚いてしまった。
「これは・・・」
「桜の・・・花びらでしょうか?」
「そう、みたいだね。レティ、ちょっと貸してもらえるかな?」
「どうぞ」
レティが取り出したのは、一枚の桜の花びらだった。桜の花びらを受け取ると、桜の花びらはほんのりと暖かい熱を放っていた。
「これは・・・春の結晶か?」
「春の結晶?」
「鏡夜さん、それはなんですか?」
「簡単に言うと、これは春の一部。これを何百、何千と集めれば春が訪れる」
「成程、つまり春が訪れないのは、それを集めてる人物がいるってことですかね」
「だろうね・・・レティ、すまながこれを貰ってもいいかな?」
「いいですよ。私が持っていても意味はないですし」
「ありがとう」
俺はレティから桜の花びらを胸ポケットにしまう。やはりというか、春の一部だけあって、ほんのりと暖かい。
「さて、それじゃあ、また犯人探しに行きますか」
「そうですね」
俺は咲夜ちゃんに向きつつ言うと、咲夜ちゃんは頷いた。
「行ってしまうんですか?」
「ああ、ありがとうな、レティ。何も物ではお返しはできないが、何かしてほしいことはあるか?」
「そんな、別にいいですよ」
「いや、それじゃあ私の気が収まらないんだ」
「そうですか・・・それじゃあ」
レティは頭を傾けて考え始める。チルノちゃんを未だにアイアンクローしながら。
「ごはん・・・」
「ん?」
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べさしてください」
「それでいいのかい?」
「はい」
「わかった、この異変が解決してからになるけど、いいかな?」
「いつでもいいですよ」
「よしわかった。絶対約束するよ」
もう少し難しいお願いが来るかと思ったが、意外と簡単なお願いで安心した。
「じゃあ、レティ、またね」
「レティさん、また今度会いましょう」
「はい、お二人共気をつけて」
一通り話しもすんだため、この場から、平和に、平和に! 去ろうとしたのだが、そうもいかなかった。
「待て!」
今まで一切の反応がなかったチルノちゃんが叫んだのだ。レティにアイアンクローされたまま。
「私と戦え!」
今まで掴まれていた手をチルノちゃんは振りほどきながら言ってきた。
「チルノ?」
「レティ、女にはね、戦わないといけない時があるんだ! 今がその時なんだよ!」
「いや、全然違うから」
「いいの! そういうことだから、そこの二人、私と戦え!」
「だそうだけど、どうする?」
「・・・久々の運動ということで、私がいってもいいでしょうか?」
「いいよ」
咲夜ちゃんと俺の前後の位置を変える。位置が変わった咲夜ちゃんは懐に手を突っ込むと、二つの球体を取り出した。
「咲夜ちゃん、それは?」
「一々ナイフを投げるのは面倒でしょとのことで、パチュリー様が作ってくださった、自動でナイフを飛ばすマジカル☆さくやちゃんスターです」
「マジカル☆さくやちゃんスターって」
「いいセンスですよね」
「うん、そうだね」
マジカル☆さくやちゃんスターの存在感は大きいが、まあそれは置いといて。俺は咲夜ちゃんとチルノちゃんから距離を取る。二人から距離を取ると、レティが俺の隣にやってきた。
「ごめんなさいね」
「いやいや別にいいさ」
は~とため息を吐きつつ、レティは頬に手を片手を置く。
「どうして、あの子はあんなにも馬鹿なのかしら」
「そういえばさ、随分とチルノちゃんと仲がいいみたいだけど、二人は一体どういった関係なの?」
「関係・・・ね~」
レティはそう呟くと、ボーっとチルノちゃんを見始めた。俺もそれに続いてチルノちゃんの方を見ると、虹色の氷の塊と、銀色に輝くナイフが飛び交っていた。
「近いのは、姉妹・・・かしらね~」
「姉妹ね・・・本当の姉妹ではないんでしょ?」
「そうよ。それにチルノのことは好きではないのよ。どちらかって言うと嫌いかしらね」
「嫌いなのに、姉妹なのかい?」
「なんかこうね、放っておけないのよ。あの子、馬鹿だから危なっかしいでしょう? そんなところが、放っておけないのよ。何故でしょうね、あの子のことはあまり好きではないはずなのにね」
そう言って、目を閉じてレティは苦笑いを浮かべる。そして、レティが目を開けた時、俺は見た。姉が、可愛くて心配でしょうがない妹の事を見るような、優しい瞳を浮かべているのを。
「成程、ツンデレなんだね。レティは」
「ツンデレ? ツンデレって何?」
「ふふ、内緒。ほら、もう決着がつくよ」
視線を再び弾幕ごっこをしている二人の方に視線を移す。二人の方に視線を向けると、丁度、咲夜ちゃんのナイフがチルノちゃんに当たるところだった。
「これで、終よ」
「う、うえええええええん!!!!! レティ、負けちゃったよ!!!」
「はいはい、また今度頑張ればいいでしょう」
チルノちゃんは負けたショックでか、レティに飛びついた。そんなチルノちゃんを、レティは困った顔を浮かべながらチルノちゃんの頭を撫でる。
困った顔でレティはチルノちゃんを撫でるが、その瞳は、やっぱり優しい姉のような瞳だった。
「鏡夜さん、終わりました」
「お疲れ様、咲夜ちゃん」
「ふあ・・・」
こっちにやってきた咲夜ちゃんの頭を撫でる。頭を撫でられたことが嬉しかったのか、咲夜ちゃんは目を瞑って、頬を赤らめている。
「鏡夜さん、咲夜さん、チルノがごめんなさいね」
「いいや、いいさ」
「あ・・・」
咲夜ちゃんの頭を撫でるのをやめて、俺はレティに返事を返す。頭を撫でるのをやめた時、まだ撫でて欲しかったのか、名残惜しそうな瞳で、咲夜ちゃんはこっちを見ていた。この異変が終わったら、いっぱいなでてあげよ。
「それじゃあ、今度は本当に行くね。じゃあね」
「それでは、失礼します。また今度会いましょう、レティさん」
「ええ、お二人共、お気を付けて」
「また、今度勝負しろよ!」
チルノちゃんとレティに手を振りながら、俺と咲夜ちゃんは、また、宛もなく飛び始めた。
手を振った時、チルノちゃんとレティを見たが、やはり二人の姿は、仲の良い姉妹にしか見えなかった。
次回、原作と違い、三面の方を持ってきます。つまりは、あの人が出てくるってことです。
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