今回の話しでは時間が結構飛びます。というか、修行の描写はほとんどありません。戦闘ぐらいです。それでもよかったらどうぞ。
では、第三十二話をどうぞ
Side鏡夜
「さてと、堅苦しい感じはあれで終わりということで」
久方ぶりに真面目になってみたが、どうにも肌に合わなかった為いつもの口調に戻した。
「で、一体どんな武器がいい?」
「何故武器なのですか?」
武器を使う意味がわからないのか、咲夜ちゃんは首を傾げながら言ってきた。
「いやね、男なら腕力でどうにかしろって言うけど、咲夜ちゃんは女の子だから武器を使って腕力を補わないと。いや、もちろん素手の方も教えるけど」
「そうですか?」
「そうなの」
ん~っと唸りながら首を傾げる咲夜ちゃん。しばらしくした後、あっ! と咲夜ちゃんは何か思いでした感じでこちらを見てきた。
「鏡夜さんが前の戦いで使ったやつがいいです」
「あ~あれ?」
そう言った後、霊力でダガーを作り出す。
「これ?」
「そうです」
「でも、霊力から作り出すのは難しいし、実物で持ってないんだよね~」
「そうなんですか」
若干ションボリしながら言ってきたため、俺は他に似ているような物はないかスキマを漁った。
「う~ん、似たようなものは・・・」
ガサゴソとスキマを漁っていると、一本の刃渡り15cm程のナイフを掴んだ。
「これじゃあダメ?」
一本のナイフを取り出して見せると、咲夜ちゃんは目をキラキラとさせながらナイフを見ていた。
「あの武器もかっこよかったですけどこれもいいですね~」
ナイフを受け取ると、うっとりとした表情でナイフを見ていた。俺は若干、咲夜ちゃんの未来が心配になりつつ修行を開始するとことにした。
「さてさて、やってきました修行の時間」
「よろしくお願いします」
ナイフを渡した後、軽い感じで始めようとしたが一つ問題があった。
「でも、身長が合わないんだよな~」
「ですね」
近接格闘技では組手をする事がある。しかし、俺と咲夜ちゃんの身長が違いすぎるため、あまり組手の意味がないのだ。いや別に、大きいやつ相手の練習にはいいけど、最初は同じくらいから始めたほうが楽でしょ?
「というわけで、最初は別の人に教えてもらいましょう」
「え!? 鏡夜さんが教えてくれるんじゃないんですか!?」
「いや、私だけど私じゃない」
「どういうことですか?」
「ちょっと待っててね」
咲夜ちゃんが首を傾げている間に、俺は咲夜ちゃんから視界になる所に向かった。
「さてと、これを出してっと」
驚くだろうな~と思いながら、俺はスキマからあるものを出して着替えた。
Side咲夜
「一体どうしたのでしょうか?」
鏡夜さんが訳の分からいことを言って、私から見えない所に行ってから数分が経ちました。
「私だけど私じゃないってどういう事なんでしょうか?」
そんな事を考えていると、先ほど鏡夜さんが行ったところから、人影が現れた。
「どうした・・・・・・あれ?」
人影はてっきり鏡夜さんだと思っていたが、出てきたのは執事服を着た小さな男の子だった。
「やあやあ、お待たせ」
その男の子は私の方に手を振りながら近づいてきた。
「あの、どちら様ですか?」
私は警戒しながら尋ねると、男の子はふふっと笑った。
「鏡夜だよ。咲夜ちゃん」
「嘘です! 鏡夜さんはそんなに小さくありません!」
鏡夜さんの身長は最低でも175cm以上あるはず。なのにこの男の子は、身長が150cm位なのだ。
「だから私だって、なんなら質問に答えてあげるよ」
「じゃあ、私が拾われた日の天気は?」
「雪」
「この前に戦った三人の特徴は?」
「メガネ神父、執事服の男、赤マント」
「私が鏡夜さんから貰ったものは?」
「銀の懐中時計」
鏡夜さんとこの紅魔館の人しか知らない情報を、この男の子は淡々と答えた。
「本当に・・・鏡夜さん・・・ですか?」
「だから、そう言ってるでしょう?」
男の子はやれやれといった感じで答えてくる。そこまで答えられたため、私はこの男の子を鏡夜さんだと認めた。
「どうやったのですか?」
「ん? 能力で」
「え? 鏡夜さんの能力は確か・・・」
「実はね、私には二つ能力があるんだ。で、これはその内の一つ。でも、他の人には内緒だよ」
「分かりました」
「・・・よし、じゃあ始めよっか」
「はい!」
そこでようやく私の修行が始まった。
「どうだった?」
「疲れ・・・ました」
修行が始まって二時間ほど。私は汗だくで、息を切らしながら地面に倒れていた。
「そうだった?」
「はい、いきなり素振り千回はきついです」
鏡夜さんの修行内容を簡単に説明すると、まずナイフの握り方を教わった。そして次にナイフの振り方を教わった。最後にこの素振り千回となったのだ。
「まあ、最初だからね。そのうち慣れるよ」
「そうですかね」
「そんなもんだよ」
そこまで鏡夜さんは言うと、ポケットに手を入れて、私と同様の銀時計を取り出した。
「ふむ、そろそろお昼かな・・・咲夜ちゃん、そろそろお昼だから、部屋に戻って着替えておいで」
「分かりました」
私は疲れきった体を引きずって、部屋へと戻った。部屋についた私は体を軽く洗って、服を着替え、食堂へと向かった。
Side鏡夜
「じゃあ、俺も食堂に向かいますか」
人からあまり見えないところに行き、俺はスキマから何時も着ている執事服を取り出した。そして、子供の姿のまま執事服を着て、目を瞑った。
「さてっと」
ふ~っと息を吐き、意識を体に集中させると、徐々に子供の姿からいつもの二十代前半の姿になった。
「ん~こんなものかな」
背伸びをしながら自分の体を確認する。少しだけ先ほどと感覚が違うが、別段これといった問題はなかった。
「さてと、午後は何をしようかな」
そう呟いたあと、俺は食堂へと向かった。
「さ~て、では午後の修行を始めますか」
「はい!」
あの後、昼食を取って二時間ほど休んだ。そして今、俺と咲夜ちゃんは午前中に修行した庭にいた。ちなみに俺の姿は例の子供の姿だ。
「さて午後はナイフではなく、素手の戦い方をします」
「素手ですか?」
「そう、ナイフがなくては戦えませんだったら戦闘では戦えないからね」
「成程」
「じゃあ、まずは自分で考えてやってみて」
「はい」
そう言った俺は、ゆっくりと咲夜ちゃんに右手で殴りかかった。咲夜ちゃんは右手を左手で受け止め、すかさず右手で殴りかかってきた。
「ふむ」
俺はその右手を左に避け、右足で蹴りを放った。しかし咲夜ちゃんは、俺の右足を左足で止め、先ほど放った右腕で顎に向かって肘打ちを放ってきた。
「お~」
感嘆の声を上げ、ギリギリの所で肘打ちを躱し、すかさず頭突きをかます。これには予想外だったのか咲夜ちゃんは動きを止めてしまった。
「!」
咲夜ちゃんは当たると思ったのか、目をつぶってしまった。俺は咲夜ちゃんの顔に当たる前に寸止めした。
「よし、なかなかいいね」
「・・・ふ~」
咲夜ちゃんは目を開けると、一気に息を吐いた。
「それにしてもよくあんな動きができたね」
「はい、この前の鏡夜さんの戦い方を少し真似しただけです」
「ほ~あれを真似たの?」
「はい」
俺は心の中で感嘆の声を上げた。あの攻防をこの年の子―――しかも女の子―――が真似できるとは思ってもいなかったからだ。
これにはさすがの俺も、咲夜ちゃんの戦闘の才能に恐れ入った。
「でも、まだちょっと修正が必要だね」
「そうですか」
「じゃあ、少し休憩したらまたやろっか」
「はい」
そこから時間は飛んで、夕方になった。大体修行を始めてから三時間位。今俺の足元には、息を切らし、汗だくの咲夜ちゃんがいた。
「お~い大丈夫?」
「大丈夫・・・です」
ぜえぜえと息を切らしながら答える咲夜ちゃんに、俺はスキマから出した水筒みたいなものを渡す。
「はい、これ飲んで」
「ありがとうございます」
咲夜ちゃんは水筒の水を飲むと、落ち着いたのか正常な呼吸に戻った。
「うぐ、うぐ、ぷはっ! ありがとうございます、鏡夜さん」
「いやいや、それにしても、数時間でよくあそこまで動けるようになったね」
「そうですか?」
咲夜ちゃんはあまり強くなってないと思っているが、実はかなり成長していた。
悪いところを指摘すればそこを直し、更に自分で相手の最も嫌な攻撃箇所を考え、そこを的確に打ち込んでくるのだ。
まあ、どれくらい強いかと聞かれれば、そこら辺の妖精程度になら勝てるくらいかな?
「でも、まだまだですよ」
「そうだね、でもこれからさ」
「おーい、ご飯だよー!」
そんな感じで、咲夜ちゃんと話していると、美鈴の声が聞こえた。
「じゃあ行こっか、咲夜ちゃん」
「はい、鏡夜さん」
そうして、俺と咲夜ちゃんは食堂へと向かった。
そんな感じで、二年が過ぎた。早すぎるだって? まあ、そこは気にしなでくれ。
「本当に強くなって」
咲夜ちゃんはあの後、その実力を格段に上げていった。ナイフの技術もだが、素手での戦いの方でも格段に強くなっていった。更には時を止める能力を使って、いきなり目の前に現れたり消えたりするし。取り敢えず、強くなったよ。
「いえ、まだまだですよ」
で、今俺と咲夜ちゃんは組手の真っ最中だ。こんな感じで、組手をしていても咲夜ちゃんは喋る余裕すらある位には強くなっていた。
「よっと」
「あ!」
咲夜ちゃんが俺の頭めがけて右足のハイキックを放ってきた瞬間、俺は咲夜ちゃんの軸足を払った。そして、空中で一回転した咲夜ちゃんを受け止め、お姫様だっこの状態にした。
「さて、今日はこれくらいにしよっか」
「はい・・・は~また負けてしまいました」
「いや、随分と強くはなっているよ」
ゆっくりと咲夜ちゃんを地面に下ろしつつ、俺はため息混じりに言った。
「そうですか?」
「ああ、少なくとも、カロの二割位の実力はついているよ」
「・・・いまいち強さがわからないのですが」
「まあ、ここら辺の妖怪だったら相手にならない位かな」
そこまで言うと、咲夜ちゃんはため息を吐いた。そこまで卑屈にならなくてもいいのだけど。
「じゃあ、明日はカロと戦ってみる?」
「そうしてみます」
「おーい、鏡夜、咲夜、早く戻ってきなー!」
咲夜ちゃんと話していると、いつの間にか紅魔館の出口に美鈴が立っていた。
「もう夕食の時間か」
「行きましょうか」
「ああ、行こっか」
そうして、咲夜ちゃんの手を握って食堂へと向かった。
そして次の日。俺とカロ、咲夜ちゃんは庭に集まっていた。昨日言った通り、咲夜ちゃんとカロの模擬戦をするためだ。
「じゃあ、始めるよ。二人共」
「はい」
「いいよ~」
二人はお互いに頭を下げると、ある程度の距離を取った。ちなみにルールの方は、咲夜ちゃんは武器の使用及び能力の使用可。一方のカロは、力を五割にするのと、ある能力の発動の制限のみだ。で、勝敗は相手が負けを認めるか、俺が危険だと思うか、もしくは五分経っての引き分けのみ。
「では―――始め!」
開始の合図と同時に咲夜ちゃんは時を止め、カロに向かって走り出した。そして、ナイフをカロに突き出した瞬間、時間が動き出した。
「ハ!」
気合と共にナイフを突き出すが、カロはお見通しとばかりに状態を後ろに反らしてナイフを躱した。
「それ!」
状態を反らし、その上を咲夜ちゃんが通る瞬間、カロは体を反らしたまま地面に手につけ、勢いよく押す。カロが地面を押すと、体が飛び上がり上がり、カロの上を通過しようとしていた咲夜ちゃんの腹に、カロの両足がぶつかった。
「ぐ!」
すかさず両腕で腹を守るが、その衝撃は大きく、咲夜ちゃんは後ろに5m程飛んだ。
「さあ、行くよ」
「!?」
カロは弧を描くように着地した後、すぐさま咲夜ちゃんに向かって走り出し、殴りかかっていた。
その攻撃に一瞬驚いた咲夜ちゃんだったが、すぐに正面に集中し、カロの拳が当たる瞬間に拳を払って横に流し、後ろに回り込んでナイフを振り下ろした。
「甘いよ!」
だが、カロは横に流された拳の遠心力を使って、回し蹴りを放った。
「くっ!」
何とかナイフを振り下ろすのをやめ、腕で回し蹴りを防ぐ。そして、持っていたナイフで、カロの足を刺そうとするが、その前にカロに腕を掴まれていた。
「捕まえた」
カロは自分を中心に掴んだ腕を一回転して大きく振ると、上空に投げ飛ばした。
「アホ、飛ばしすぎだ」
「いや~ごめんね~」
俺は、20m程投げ飛ばされた咲夜ちゃんを回収しに霊力で翼を作り出して、空に向かって飛び出した。
「キャアアアアアアア!!!」
俺は空中で悲鳴を上げている咲夜ちゃんを見つけると、すぐに近寄ってお姫様抱っこで捕まえた。
「よっと、大丈夫?」
「ふえ、鏡夜さん、怖かったです」
涙目で言ってくる咲夜ちゃんに苦笑いしつつ、俺はゆっくりと翼を羽ばたかせて地面へと降りた。
「よいしょ、大丈夫咲夜ちゃん」
「大丈夫です」
大丈夫って言ってはいるが、咲夜ちゃんの両足はガクガクと震えていた。
「いや~ごめんね~」
「い、いえ、仕方がないことですよ」
咲夜ちゃんはそこまで言うと、とうとう膝に限界が来たのか、ペタンと地面に座ってしまった。
「で、どうでしたか、カロさん?」
ペタンと座ったまま聞く咲夜ちゃんに、カロはう~んと首をひねった。
「う~んとね、強かったよ~いや本当に~」
「本当ですか?」
「うん~私も危うく本気になるところだったし~」
「そうですか!」
カロの言葉によって若干自信がついたのか、咲夜ちゃんは座ったまま笑顔になった。
「さて咲夜ちゃん、座り込んでいるところ悪いが、これからのことについて話させて」
「何ですか?」
「今日から、近接戦闘は終わり。で、これから遠距離の戦いに入っていきます」
「遠距離ですか?」
「ああ、そこでまず、空を飛ぶ練習をして貰うから」
「え?」
いきなり飛ぶ練習をすると言われたせいか、咲夜ちゃんは驚いた顔をのまま固まってしまた。
「できるのですか?」
「できるよ、ある程度霊力があればね」
そこまで言って、俺はふ~っと息を吐き、咲夜ちゃんの頭を撫でた。
「まあ、これからも頑張ろうね」
「はい!」
そうして、修行の二年目は終わり。新しい修行二年目が始った。
如何ったでしょうか? な~んかおかしい感じがするんですよね。
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