それと、鏡夜が酷い男に見えるかもしれませんが、あの時の事をちゃんと後悔しています。
後、表現がおかしいかもしれませんがその時は報告ください。
では第二十九話をどうぞ
Side鏡夜
「ふ~今日は懐かしい話をしたな~」
俺は昔話をした後、夕食を食べ、一通りの仕事終わらせて部屋へと戻っていた。
「それにしても、あの手紙読んでくれたかな? 心配なんだけど」
は~っとため息を吐きながら、俺は寝るために着替えを始めた。
「まあ、大丈夫でしょ」
そのまま、寝巻きに着替えた後、俺は眠った。
「あ~文さん? それはできません」
俺は競走が終わった後、文ちゃんの願いを出来る範囲で聞くと言った。しかし、文ちゃんの願いは予想外なものだった。
「ど、どうしてですか!?」
「いや、出来る範囲じゃないから、結婚は」
そう、文ちゃんの願いは俺と結婚してくれというものだった。いや、文ちゃんは十分に可愛いんだけど、流石にまだやる事があったから結婚は無理だった。
「じゃ、じゃあ、死ぬまで一緒にいてください!」
「それって、結婚と変わらなくない?」
「そ、それじゃ・・・」
そこから、別のお願いを文ちゃんは言ってくるが、全て同じよう内容だった。
「は~わかった。死ぬまで一緒にいてあげるから」
「本当ですか!?」
「いいよ、でも死ぬまでだからね? それと結婚はしないから、そこだけは守ってね」
「は、はい」
「さて、願いは決まったかな」
俺がため息をつきながら、承諾すると、天魔が話しかけてきた。
「決まりましたよ、天魔さん」
「ほ~その願いは?」
「文さんの願いを出来る範囲で叶えることですよ」
俺がそう言うと、天魔は驚いた顔をした後、笑い出した。
「クック、そうかそうか、やはりか」
「?」
俺は天魔の言ってることがわからずに首をひねっていると、天魔が文ちゃんに話しかけていた。
「して、文、お主は何を鏡夜にお願いしたのだ?」
天魔に話しかけられた文ちゃんは、一瞬ビクッと驚き、答えた。
「えっと、死ぬまで一緒にいてくださいというお願いを・・・」
文ちゃんが控えめに言うと、天魔は再び驚いた顔をした後、笑い出した。
「クック、アッハッハッハッハッハ!」
「ど、どうしましたか天魔様!」
天魔がいきなり笑い出したことに驚きつつ、文ちゃんは問いかけた。
「ごめんごめん、ちょっとね」
天魔は笑うのをやめると、笑顔になってこちらを見てきた。
「鏡夜、あんたはやっぱり面白いね」
「?」
俺は天魔が何故そんなことを言ったか考えていると、天魔は皆の方に向かって話し始めた。
「さて、皆の者! 今、鏡夜の願いが決まった!」
天魔の言葉によって、皆がざわつくが、そんなのを無視して話し始めた。
「鏡夜の願いは、自分のできる範囲で文の願いを叶えることだ!」
その瞬間、皆は固まった。まあ、そうだろうね、あんだけびびらせといて、文ちゃんの願いを聞くって言ってるんだから。
「そこで、文は一つの願いを言った! それは、鏡夜が死ぬまで、一緒にいるというものだ!」
固まっていた皆は、天魔の言葉を聞いた瞬間、再び文句を言い始めた。しかし、それは天魔が睨んだ瞬間、静かになった。
「というわけで、今日から鏡夜はこの里の住人になる! 鏡夜、自己紹介をよろしく」
天魔はそう言って、こちらに手招きをしてくる。俺はやれやれと思いつつ、天魔の横に立ち、自己紹介を始めた。
「え~皆さん、不満やら何やらがあると思いますが、今日からお世話になります。時成鏡夜です。以後お見知りおきを」
俺はお辞儀をして頭を上げると、皆の視線が痛かった。こう、嫉妬というか嫌悪を含んでいる感じの視線だった。
「よし、では鏡夜の住む場所だが・・・」
天魔はそう言うと、文ちゃんの事を呼んで、俺の隣に立たせた。
「文の家だ!」
「「「「「なっ!」」」」」
その瞬間、男達の嫉妬の視線が突き刺さった。
「て、天魔様!?」
顔を真っ赤にしながら、文ちゃんは天魔に話しかけるが、天魔はそんな事を気にせず話し始めた。
「では、そういうことで、解散!」
天魔の一言で、皆は俺を睨みつつ去って行った。
「・・・行ったな、さて文、お主は鏡夜を家まで連れて行ってやれ」
「は、はい!」
「それと鏡夜、後で話がある。文の家がわかったら、最初に会った台座に来てくれ」
「分かりました」
天魔はそう言うと、俺と文ちゃんを置いて帰っていった。天魔が帰ったせいで、俺と文ちゃんの間に気まずい空気が流れた。
「・・・じゃあ、行こっか」
「そ、そうだね」
俺が手を差し伸べてそう言うと、文ちゃんは顔を真っ赤にして俺の手を握った。
「さて、どこにあるの?」
「あそこだよ」
数分程歩くと、一つの家が見えてきた。さほど大きくもなく、かといって小さくもない。中くらいの木造の家だった。
「ここ?」
「そうそう」
家に着くと、文ちゃんは勢いよく家の中に入り、扉を占めた。
「え? あの~」
「ちょ、ちょっと待ってて」
なんか、ガチャガチャとか音が聞こえてから数分後。ようやく扉が開いた為、中に入った。
「へ~綺麗だね~」
「で、でしょう?」
中に入り居間に上がると、文ちゃんは正座で座っていた。
「・・・何で正座?」
「べ、別にいいでしょう?」
「そんなに、緊張しなくてもいいのに」
俺は居間に座ろうとしたが、天魔の言葉を思い出して、再び扉の方に向かった。
「ごめんね、天魔さんに呼ばれてたから、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺が扉の前で振り向きながら言うと、文ちゃんは笑顔で答えてくれた。
「天魔さ~ん、来ましたよ」
「ん、よく来た」
例の台座の前で天魔を呼ぶと、台座の奥の方から天魔が現れた。
「で、話しとは何ですか?」
「それは、ここで話すのはまずいのでな、中にはいってくれ」
天魔はそう言うと、奥に入っていってしまった。俺も天魔の後を追って台座の奥に行くと、中は薄暗く、畳の地面に天魔が座っていた。
「で、話しとはなんです?」
俺は天魔の向かい側に座りつつ、天魔に話かけた。
「鏡夜・・・いや、時成鏡夜さん」
「ん?」
天魔は真剣な顔でいきなり、俺の名前をフルネームで呼んだ。
「どうしましたか?」
「そんな、敬語にならないでください」
天魔は再び真剣な顔でそう言ってきたので、俺は取り敢えず敬語はやめることにした。
「じゃあ理由は聞かないけど、敬語はやめさせてもらうよ」
「そうしてください」
「で、話しとは?」
「時成鏡夜さん、貴方の噂は色々と聞いております」
「噂?」
「はい」
俺は、自分が噂にあっているとは思わず、つい聞き返してしまった。
「その噂って?」
「素手で妖怪を殺し、更にはあの鬼の四天王すら素手で打倒し、女の人には妖怪だろと人間だろうと分け隔てなく優しい人だと」
「ああ、その事」
ちなみに、この時俺は既に鬼の四天王と戦っていた。後、女の人だけじゃないよ、男にも優しいからね。
「で、それがどうかしたの?」
「それで・・・どうするのですか」
「何が?」
「文と死ぬまで一緒にいるという事です」
「どう言う事?」
「貴方の噂は数百年前に聞きました。つまり、貴方は後最低でも数百年は生きれるということですよね?」
「まあ、そうだね」
「ですが、貴方には強者と戦いたいという願いがある。文と一緒にいればその願いが叶えられなくなってしまいますよね」
「ああ、その事」
そこまで聞いて、俺は天魔が何を言いたいのか分かった。つまり、天魔は俺の願いが叶わなくなるのはいいのか? と心配しているのだ。
「そのことだが、俺は後、五十年位したら死ぬ」
「どういうことですか?」
俺がそう言った瞬間、天魔は首を傾げながら聞いてくる。
「正確に言えば、死んだふりをする」
「死んだふりですか?」
「ああ、一時的に心臓を停めて死んだふりをする」
「そんなことが可能なんですか?」
「ああ」
まあ、心臓を止めると言うか、心臓の動きを限りなくなくすことなんだけどね。
「それだったら、一度死んでるし、条件は大丈夫でしょ」
「成程」
しかし、この作戦は一つだけ心苦しいことがある。それは、文ちゃんを騙してしまうところだ。
「ですが、それでは文は・・・」
「騙してしまうことになる」
俺がそう言った瞬間、天魔は俺の事を睨んでくる。
「それで、貴方は満足なんですか?」
「なわけないだろう、俺が女の子を悲しませることが一番嫌いなのは噂とやらで知ってるだろう?」
「わかっています、だったら・・・」
天魔が大声で言うが、天魔の言葉を途中で遮る。
「だから、一つだけあることをする」
「あること?」
「そうあることだ・・・しかし、それは文ちゃんが信じるかどうかで決まる」
「一体何ですか?」
「それは・・・」
天魔にあることを伝えると、天魔は驚いたまま固まってしまった。
「ただいま」
「お帰り」
文ちゃんの家に帰ると、文ちゃんは割烹着を着て料理を作っていた。
「美味しそうだね」
「ふふ、ありがとうございます」
笑顔になった文ちゃんは鼻歌を歌いながら再び料理を作り始めた。俺は料理が出来るまで暇なので、料理を作っている文ちゃんの姿を見ていた。
「出来ましたよ」
しばらくの間見ていると、料理が完成したのか、文ちゃんが振り返った。俺はというと、ジッと文ちゃんのことを見ていた。
「あの~どうしました?」
「いや、にあってるな~と思って」
俺が本音を言うと、文ちゃんは顔を真っ赤にした。
「え、あ、も、もう何を言ってるのですか! 早くご飯を食べましょう!」
「ふふ、はいよ」
顔を真っ赤にして慌てた文ちゃんに笑いつつ、俺は料理を運んだ。
「ほ~これはこれは」
文ちゃんが作っていた料理は、鮭の塩焼き、味噌汁、山菜のお浸し、白米と和風料理だった。逆に和風じゃなかったら驚きだけど。
一通りの料理を運び、俺と文ちゃんは向かい合って座った。
「じゃあ、いただきます」
俺は箸を持って、両手を合わせて言った後、箸で鮭を摘み一口食べた。
「・・・ふむ」
俺が鮭を食べていると、文ちゃんは緊張した表情で、ジッと俺の顔を見てくる。
「うん、美味しいよ」
そう言った瞬間、文ちゃんは向日葵でも咲いたような笑顔をになった。
「ふ~ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
あの後、ドンドン食べていき、数分で食べ終えてしまった。そして今は、使った食器類を洗い場に運んでいた。
「さて」
「あ、いいよ、私が洗うから」
「いやいや、料理を作ってくれたんだから、洗い物ぐらい俺がするよ」
そう言って、すぐに食器を洗っていく。
「はい、終了」
「速!」
食器類を数分で洗い終えると、文ちゃんは驚きながら食器類をみた。俺はちゃんと、一切の妥協もなく洗ったため問題はない。
「どう?」
「えっと、凄いね」
「だろ?」
俺は文ちゃんにドヤ顔をした後、居間に戻って座った。
「ふ~さて、暇だね~」
俺が座りながら呟くと、文ちゃんはどこからかメモ帳みたいなのを取り出してきた。
「どうしたの?」
「あの~質問させてもらってもいい?」
「ん? どう言う事?」
「私新聞書いてるのだけど、そのネタとして」
「新聞ね~いいよ」
「ありがとう」
まあ、暇だった為、文ちゃんの質問を答え始めた。
「じゃあまず一つ目、どうやって四天王を倒したの?」
「いきなりそれを聞くのか・・・まあいいいけど」
そこから、一通り質問に答えた。
「・・・ありがとう、色々と聞けて楽しかったよ」
「そりゃあ、良かった」
数分、或いは数時間かな? それぐらい経った後、ようやく質問は終わった。ちなみに、質問は、鬼の四天王のこと、年齢、どうやったらあんなに速く走れるのか、等等だった。なので、年齢は三十、他は全部霊力のおかげとだけ答えておいた。
「ふあ~眠くなってきたな」
「そうね」
ふと、時計らしき者を見ると、もう丑三つ時だった。
「寝よっか」
「そうだな」
文ちゃんはそう言って、押し入れを開けるが、アッといった表情で固まった。
「どうしたの?」
「布団が・・・一つしかない」
「そう・・・って、え?」
俺は文ちゃんの横から押し入れを覗くと、中には布団が一つしか入ってなかった。
「はあ~仕方ない、俺は座って寝るから、文ちゃんは布団で寝ていいよ」
俺は旅をしてた時はいつも座って寝ていた為、別に問題はなかった。なので、居間で座って寝ようとしたら、文ちゃんに服の袖を掴まれた。
「どうしたの?」
「い、一緒に寝ましょう」
「え?」
俺が驚きつつ文ちゃんの顔を見ると、顔を真っ赤にしていた。
「でも・・・」
「いいじゃないですか、私の願いを出来る範囲で聞くといったのは鏡夜じゃやないですか!」
「わ、わかった」
顔を真っ赤にして勢いよく言ってくる文ちゃんに、少し戸惑いながら返事を返した。
「で、では、一緒に寝ましょうか」
布団を敷き終えた後、風呂場で文ちゃんは寝巻きに着替えた。俺は何故かあった男用の寝巻きがあった為、それを借りて居間で着替えた。あ、それと風呂にはもう入ったから。
「そうだね」
「じゃ、じゃあさきに入ってください」
「じゃあ、お先して」
文ちゃんは顔を真っ赤にして緊張しているが、俺は一切緊張していなかった。
「う、う~~~」
俺が布団に入ると、文ちゃんは緊張したような感じで、布団に入ってきた。
「じゃあ、消すよ」
俺はそう言って、明かりを消した。明かりを消すと、俺と文ちゃんは無言になってしまった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ちなみに、俺の右隣に文ちゃんは眠っている。まあ、人一人分くらいのスペースを空けてだけど。
そこから数分間、しばし無言だったが俺は言っておかなければならないことがある為、口を開いた。
「そういえば」
「はい」
「これを言ってしまえば、悲しませてしまうかもしれないけど、いいかな?」
俺は寝ながら、横に体を向けると、文ちゃんの方もこちらの方を向いてきた。
「・・・なんで、しょうか」
文ちゃんはこちらを緊張したような顔で見ながら行ってくる。
俺は次の言葉で文ちゃんを傷つけてしまうだろうと思いながらも、言わなければならないことなので意を決して言った。
「俺は君とは絶対結婚できない」
俺が言った瞬間、文ちゃんは泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「そう・・・ですか」
俺は罪悪感を感じつつ、更に話を続けた。
「ああ、ごめんね。でもこれだけは言っておきたかったんだ」
「理由を・・・聞かせてもらっていいですか?」
文ちゃんは目に薄らと涙を溜めながら言ってくる。
「俺は何故か君を妹みたいに感じているんだ」
「へ?」
文ちゃんは俺が妹みたいだと言った瞬間、唖然としていた。
「いやね、どうしても恋愛対象には見れないのよ」
「はい?」
「だからね、結婚はできないけど、兄妹だったらなれるんだけどそれでいい?」
俺が続きを話すと、文ちゃんは唖然とした表情から、一気にいつもの表情になり布団から勢いよく上半身を起こした。
「どう言う意味ですか!」
「いや、言った通りなんだけど」
俺も布団から上半身を起こして、文ちゃんの目線に合わせて返事を返す。
「そうじゃないですよ! 何故私のことを恋愛対象に見れないのですか!」
「いや、だって文ちゃん、妹っぽいじゃん」
「文ちゃん!?」
「あ、やべ」
心の中でいつも文ちゃんて言ってたから、つい口から出てしまった。文ちゃんは、ちゃん付けが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした。
「文ちゃんって何ですか! 文ちゃんって!」
「まあ、そこは流して頂戴」
「ダメですよ!」
その後、色々と誤魔化したりして、なんとか兄妹ということで落ち着いた。
「は~分かりました、結婚は諦めて兄妹で我慢します」
「良かった」
「じゃあ、これからよろしく、弟」
「は?」
何故か文ちゃんの中で、いつの間にか俺が弟の当位置づけにされていた。
「いやいや、違うでしょう。妹」
「何言ってるの? 弟」
「俺が兄で文ちゃんが妹でしょう?」
「違うでしょ、ここは年上の私が姉でしょ?」
「いやいやそこは・・・」
「いやいや・・・」
そこから、再び言い合いになり、結局さっきの競争で勝った俺が、兄になった。
「は~分かりましたよ、兄さん」
「わかったならよろしい」
俺達と文ちゃんは再び、布団の中に入った。しかし、今度は文ちゃんは俺の近くに寄ってきた。
「あらら、どうしたの?」
「いいじゃない、兄妹なんだから」
「まあ別にいいけどね」
そのまま寝ようとしたが、俺は文ちゃんに、もう一つ伝えたることがあったのを忘れていた。
「そういえば、もう一つだけ伝えたいことがあったのを忘れてた」
「何?」
「俺が死んだ後の話」
そう言った瞬間、文ちゃんの雰囲気が暗くなる。確かに、これからって時に死んだ後の話をされれば暗くもなるよね。
「一つだけ言っておくけど、俺は死んでも死なないから」
「何言ってるんですか、死んだらそれまでですよ」
俺が平然と言うと、文ちゃんは雰囲気を暗くしたまま、言ってくる。
「まあ、覚えておいてくれればいよ」
俺は苦笑いをしつつ言うと、文ちゃんが抱きついてきた。
「どうしたの?」
「死んだ後の話なんてしないでよ、それよりもこれからの事を楽しも?」
「そうだね」
文ちゃんは泣きそうにながら言ってきたため、俺はそっと文ちゃんの頭を撫でた。
「じゃあ寝ようか」
「うん」
頭を撫でられて落ち着いたのか、文ちゃんはそっと眠りについた。俺も文ちゃんが寝たのを確認して、眠った。
あれから、十年ちょっと月日が経った。十年間の間に色々とあったが簡潔に言うと、朝のご飯を作ったり、若干のここの住人と仲良くなったりした。
「それにしても、ここに来てから十年だな、鏡夜」
「そうだな、葛木」
最初に仲良くなったのはこの男、葛木である。この葛木は最初に天魔のところに、俺を連れて行った男だ。
どうやって仲良くなったかというと、文ちゃんと一緒に話していた所に俺も入って話をしていたら自然と仲良くなった。
「それで、文は元気か?」
「ああ、文ちゃん? 元気だよ」
「そ、そうか」
気づいている奴もいるかもしれないが、この葛木は文ちゃんに惚れている。ちなみに、俺と文ちゃんは恋人じゃないと言ったら、メッチャ喜んでた。
「どうだ、ついでに家に来るか?」
「いいのか!?」
「ああ、別に構わないはずだ」
「じゃ、じゃあお邪魔させもらうよ」
そんな感じで葛木と話している内に、家へと着いた。
「ただいま~」
「お邪魔しま~す」
家の扉を開けて、声を掛けるが中から反応がない。俺はため息をつきつつ、中にはいった。
中に入ると、机に突っ伏したまま寝ている文ちゃんがいた。
「はあ~またやってるよ」
俺はそっと文ちゃんに近寄り、肩を揺さぶった。
「文、文、起きなさい」
「う、う~ん、後五分」
「わかった」
そう言った俺は、文ちゃんをお姫様抱っこして布団に寝かせた。
「よいしょっと、すまんな葛木。文はもうちょっと寝るそうだ」
「いや、別に構わないよ、いいものも見れたしな」
「それは、良かった」
俺はそう言った後、机にあったものを丁寧に片付けて、葛木にお茶を出した。
「つまらんものしかないが」
「いや、お構いなく」
葛木はお茶を一口飲むと、先ほど俺が片付けたものを見ていた。
「そういえば鏡夜、先ほど片付けてたのはなんだ?」
「あれは、新聞の原稿だよ」
「新聞ってあの文々。新聞?」
「そうそう」
俺は新聞の原稿を置いた所を見ながら言った。
文々。新聞。それはまだ、文ちゃんが新聞を書き始めた時に、俺と一緒に名前を考えた新聞だ。
「そうなのか」
「ああ」
そうして、葛木とたわいもない話をしていると、瞼を擦りながら文ちゃんが起きてきた。
「おはよう、文」
「おはよう、兄さん」
「お邪魔しています」
「どうぞ、どうぞ」
文ちゃんは葛木が来ているにも関わらず、頭を掻きながら俺の隣に座り、俺が飲んでいたお茶を一気に飲み干した。
「あ! それ、俺のお茶・・・」
「別にいいでしょう? 兄さん」
悪戯をした子供のような笑みで言ってくる文ちゃんに呆れつつ、再び新しいお茶を入れた。
「ああ、今日も可愛いな」
葛木がボソッと言うが、文ちゃんは聞こえてないのか、ボケっとしていた。
「兄さん、お腹すいた」
俺は時計を見ると、そろそろ夕食の時間になっていた。
「そうだな、そろそろ作るか。どうする葛木? 食べていくか?」
「いいのか?」
「別に構わないよ」
「じゃあ、ご馳走になろうかな」
「あいよ、ちょっと待っててくれ」
「あいよ、お待たせ」
あの後、ちゃっちゃとご飯を作り、居間へと運んだ。今日の献立は、猪鍋・・・ボタン鍋と白米だ。
ちなみに、旅をしていたお陰で料理は多少作れる。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせて言った後、それぞれ鍋をつつき始めた。
「こら文、野菜も食べなさい」
「は~い」
文は肉ばかり食べるので俺が注意すると、野菜も食べ始めた。
「ほんっとに仲がいいな」
「「まあ、兄妹だしね」」
俺と文ちゃんがハモりながら答えると、葛木は笑っていた。そんな感じで夕食を食べ終えると、葛木は手を振りながら帰っていった。
「は~美味しかった」
「ふふ、ありがとう」
俺は使った食器を洗って居間へと行くと、寝っ転がっている文ちゃんがいた。
「全く、太るよ」
「大丈夫、大丈夫」
寝っ転がりながら手振ってくる文ちゃんにため息をつきながら、俺も居間に座った。
「新聞の方はどうなの?」
「う~ん? 上々」
「そっか」
文ちゃんはそう言うと、ガバっと起き上がった。
「どうしたの?」
「・・・いや、なんでもない」
俺はそんな文ちゃんを不思議に思いながらも、ゆったりとこの静かな時間を楽しんだ。
再び時間は飛び、三十年後。時間が飛びすぎだが、その間に起こった事を再び簡潔に話そう。
まず一つ目は、この里の全員から何故か慕われるようになった。なんか、葛木が、あいつは悪いやつではないよ? 的なことを言うと、いつの間にか色々な人と話して仲良くなって、慕われていた。
そして二つ目は、俺は今、体があまり動かない状態を作った。この里に来てから大体四十年が経ったため、俺は自分の見た目を七十歳ぐらいにしたのだ。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ、文」
体があまり動かない為、俺の看病は文がいつもしてくれていた。たまに葛木や他の皆も来てくれるが、大体は文がしてくれていた。
「ほら、食べれる?」
「ああ、食べれるよ」
俺は何とか上半身を起こして、文ちゃんに答える。ちなみに、どうやっているかというと、筋力やら何やらに、リミッターをかけて出力を下げてるのだ。
「無理しないで」
「いや、大丈夫だよ」
文ちゃんは作ってきた料理を掬って、俺の口元に運んでくれた。
「うん、美味しい」
「良かった」
俺はそのまま、順調に食べ続けて、完食した。俺が完食すると、文ちゃんは食器を持って洗いに行った。
「皆を泣かせてしまうが、そろそろ準備しないとな」
俺はボソッと呟いたと、眠った。
あれから更に五年後、俺は寿命が来たように衰弱していった・・・ように見せた。心は痛むがこれが一番いい方法だとは思わないが、俺はこの方法しか思いつかなかった。
「そろ・・・そろか」
「兄・・・さん」
「鏡夜」
俺が布団に寝ながらボソリと呟くと、二人が反応してくれた。文ちゃんと葛木だ。最近、葛木はかなりの頻度で来てくれていた。
「もう・・・寿命だな」
「兄・・・さん」
「鏡夜、諦めるなよ」
「いや、もう分かるんだよ」
「兄さん・・・」
俺はゆっくりと二人を見ると、涙を浮かべていた。
「泣くな二人共、いつも言ってるだろう? 俺は死んでも死なないって」
「・・・意味がわからないよ」
文ちゃんの答えに俺は苦笑いしつつ、再び話し始める。
「まあ、いづれわかるさ」
「いづれっていつよ」
「大体数百年先だよ」
「そんな時にわかっても、意味はねえだろ」
「いや、わかるさ」
二人は泣きそうになるが、そっと二人の涙を拭う。
「大丈夫だって、また会えるからさ」
「死ぬのにどうやって会うんだよ」
「だから」
「死んでも死なないだよね」
「そうだ」
俺は二人の涙を拭った後、布団に寝た。
「そろそろ、一旦お別れだ。じゃあな、二人共、またいづれ会おう」
そう言って俺は眠った。しかし、唯の眠りではなく、限りなく冬眠に近い眠りだ。この眠り方は、心臓の鼓動が限りなく無くなる眠り方だ。
そして呼吸は何やらは一回吸っただけで、一ヶ月は持つようにトレーニングしておいた。
次に目覚めた時は、土の中だった。俺は妖力をドリル状にして、小さな穴を開けて外を見た。外は夜らしく、人の気配もない。
俺は年齢を二十代の時に戻し、体全体に力を入れて、グッと状態を起こした。
「作戦は成功かな?」
あまり深く埋められて無かったお陰か、すんなりと土から出れた。
「大丈夫でしたか」
「・・・天魔か」
俺が土を服から落として、土を埋め直していると、天魔の声が聞こえてきた。
「天魔、一つ聞きたい、ここはどこだ?」
「ここは、里から少し外れた場所です」
「そうか、じゃあ作戦通りか」
天魔は何か言いたいのか、こちらを心配そうな目で見てくる。
「どうした?」
「・・・寂しくはないのですか?」
「多少は寂しいさ、でもね、一旦お別れなだけだから、またそのうち来るさ」
「例の言葉は聞かせておいたのですか?」
「ああ、きっちり何回も言ったさ。手紙も置いてきたし。まあ多分信じてないと思うけど」
「そうですか、では鏡夜さん、しばしのお別れですね」
「そうだな、楽しかったよ、里での生活も」
俺はそう言って、天魔とは逆方向に歩きだそうとしたが、聞き忘れていたことがあったので振り返った。
「そういえば、名前を聞いていなかったね」
俺が振り返りながら言うと、天魔は驚いた顔でこちらを見た。しかし、すぐさま、笑いながら答えてくれた。
「ふふ、そういえば名乗っていませんでしたね。私は天狗の長、天魔の榊桜」
「桜かいい名前だね。じゃあ、桜いづれまた会おうか」
そう言った俺は、妖力で翼を作り、周りに妖力で暗闇を作りつつ、空へと飛んだ。
「さて、次はどこに行こうかな」
「ふあ~朝か」
とても懐かし夢を見た。あの天狗の里での思い出、文ちゃんという妹のことを夢に見ていた。
「昨日昔話をしたせいかな」
あの時のことは未だに悪いと思っている。しかし、あの時はあれしか思いつかなかった。
「まったく、俺も若かったな」
は~っとため息をつきつつ、時計を見ると朝の五時程だった。
「さて、じゃあ朝食でも作りに行きますかな」
あの時の事を後悔はしているが、気持ちを切り替えて朝食を作るため厨房へと向かった。
「ごめんね、皆」
Side文
「そういえば、あの手紙はなんだったのでしょうか? 未だにわかりません」
あの鏡夜が死んだ日、鏡夜が寝ていた布団の下にはある手紙が置いてあった。
「確かこの辺に・・・お! あったあった」
私はあの鏡夜の手紙を再び取り出して読み始めた。何故かあれから数百年も経っているのに、文字は一切かすれてはいなかった。ちなみに、鏡夜が死んだあとは、兄さんとは呼んでいない。寂しくなるからね・・・
で、手紙にはこう書いてあった。
『拝啓文へ
お前がこの手紙を読んでいるとき、多分俺は死んでいるだろう。だが、俺が死んでも悲しむな、泣くな。いつも俺は言っていただろう? 俺は死んでも死なないって。だから、安心して新聞を作れ、お前の夢に向かって頑張れ。最後に・・・お前との生活は楽しかったよ』
「だから、兄さん、死んだら終わりなんだって・・・」
私は手紙を読むと、涙を流してしまった。しかし、すぐに涙を拭って新聞を書き始めた。
「わかったよ、兄さん。私新聞作るの頑張るから、天国で応援しててね」
読むの大変なのに、ここまで読んでくれてありがとうございます。
感想、報告、批判、お待ちしております