では、第百七話をどうぞ。
Side鏡夜
俺はお嬢様達と別れた後、一人で異変の首謀者を倒すため竹林の中を走っていた。周りには誰もいない。いる気配も感じない。きっとこの月が原因なんだろうが、他にもさっきからそこらかしこに設置されている罠のせいもあるんだろうな。
なんだ、この罠の数。落とし穴に上から降ってくる竹やり。竹林の中に自然と出来るのは明らかにおかしい。誰かが侵入を防ぐ為に作ったのか。
「だが、罠の数が増えてきていると言う事は、そろそろ近いってことだろう」
徐々に罠の数が増えてきている。これは、そろそろ首謀者の拠点が近くなってきているため、罠の数を増やして絶対に近づけたくないという意思の表れだ。つまり、逆に考えれば罠が多ければ多い程拠点が近くにあるはず。あくまで俺の経験則だから絶対ではないが。
「……見えた」
竹と竹のわずかな隙間。その向こう側に普通の平屋の一軒家が見えてきた。
多分あそこが首謀者がいる拠点だろう。そうでなくとも、何かしらの情報は得られるはずだ。
走る速度を速め、発動される罠を強行突破し一軒家の前にたどり着く。
見た目は普通の平屋だ。だが、中から感じる気配は異常な警戒心を放っている。これは、当たりだな。
横開きの入り口をゆっくりと開け、音と気配を殺して入っていく。
「これは……」
中に入り、廊下を歩いていたのだが、その途中でわずかに声を出してしまった。
理由は簡単。家の中が明らかにおかしいのだ。
内装がおかしいとか、置いてあるものがおかしいとかではない。根本的に、平屋であるはずの家の広さではないのだ。
普通の平屋ならばジャンプすれば天井に着くほどの大きさだ。それでなくても、少し空を飛べば余裕で天井に着いてしまうほどだ。
だが、この平屋の天井……いや、天井に限らず、横も奥行きもあり得ないほど広いのだ。天井は俺の視力で図って大体二十キロ。横の広さは五十キロ以上。外からみた平屋では考えられない広さだ。
どうしてこうなっているのか気にはなるが、そんな事よりまずは異変の首謀者を探し出すため、屈みながら進んでいく。
しばらく音もなく進むと、前方に小さな人影を見つけた。
壁もなく、隠れる場所もないので、俺は素早く後ろから人影に近づき、口と両腕を拘束する。
「ッ!? ん~! ん~!」
何か言いたそうに口を動かすが、俺が口を押さえてるため声を出せない。
……しかし、まさかこんな少女だったとは。うさみみに胴体をすっぽりとおさめるピンクのドレス? のようなものを着ている。
ジタバタと動いて逃げようと抗うが、そこは大の大人と子供だ。力の差は歴然。逃げられるわけがない。
「……大人しくしてくれ。じゃないと、俺は少し君に手をかけなければならない」
「ッ!?」
あんまり少女に対してこんな脅しをしたくはないのだが、今は急いでいるので手段を選んでいられない。
俺の言葉に恐怖したのか少女はとなしくなってくれる。
「ありがとう。さて、質問させてくれ。その通りなら首を縦に、それ以外なら首を横に振ってくれ。では、質問。この異変に関係している人物はこの家にいるかな?」
無駄な質問はしない。している暇がない。だから質問は直球。
少女は一瞬迷った後、ゆっくりと首を縦に振った。
「そうか、ありがとう」
体を傷めないよう優しく少女のことを離す。それと同時に、少女は一気に前に飛んで俺との距離を取り振りかえると、赤く大きな瞳が睨んでくる。
「すまないな、急いでいるから手段を選んでいられなかったんだ。終わったら、なんかしてあげるよ。だから、今は君の相手をしてあげられない」
少女が何かを言う前に天井まで跳び、そのまま天井を走って奥へと進んでいく。
さっきの少女の話で居場所までは聞き出せなかったが、異変の首謀者がいることだけ分かればそれでいい。後は、気配がある方向に向かえばいいのだから。
「待ちなさい!」
「おっと」
気配を消しながら天井を走っていると、真正面から弾丸の形をした魔力弾が何発も飛んでくる。
正面から真っ直ぐと飛んでくるだけの魔力弾なので、俺は少し体をずらすだけで躱し、止まらずに走り出す。だが、すぐさま俺は止まってしまった。
何時の間に現れたのか、俺の正面にブレザー姿の明るい紫の長髪に赤い目の、これまたうさみみが生えた少女がいた。
「何者ですか!」
「この異変を解決しようとしている者だよ」
睨みながら言ってくる少女に、天井からぶら下がりながら言うと、少女は睨んでいた瞳を一層鋭くさせる。
「そうですか、お師匠様の邪魔をしに来た人ですか」
「なるほど、君の言うお師匠様がこの異変の首謀者なのか。これはいいことを聞いた」
つまり、この先にそのお師匠様がいると。なら、早々に少女を倒してしまうか無視してしまおうか。素直に通してもらえるとは思えないし。
「ねえ、君。素直に通してくれるってわけにはいかないかな?」
「いきませんね。お師匠様の邪魔をする人は、ここで退場していただきます」
ブレザーの内ポケット。そこからスペルカードを取り出した少女は倒す意思を瞳に込めながら言ってくる。
やれやれ、早めに終わらせたかったのだが、仕方ない。この様子じゃあ、無視して通ることもかなわなそうだ。
……それに、少し気になることもある。俺に気づかれずに俺の前に現れた事だ。もしかすると、さっき会った霊夢ちゃん達の波長が乱れていた事と関係するかもしれない。
「じゃあ、やろうか。スペルカードは二つ。残機は二つでいいかな?」
「構いません。むしろ貴方が残機二つでいいんですか?」
ほほう、俺相手に挑発とは。呆れを通り越してむしろ感心する。
「構わないよ……じゃ、始めようか」
Sideレミリア
「ねえ、今どんな気持ち?」
スカートを汚れないよう持ちながらしゃがみ、私の前で倒れ伏している人物に問う。
「最悪ね、一体何をしたの?」
倒れ伏している人物……いいえ、私に完封された霊夢が悔しそうな顔をしながら問うてくる。
ああ、良いわその表情。私の加虐精神がいい感じに刺激される……私も、この月のせいで少しおかしくなったわね。こんな感情、滅多にわかないというのに。ま、今はそんなことはどうでもいいわ。
ゆっくりと霊夢の顎をつま先で持ち上げる。
「簡単よ。弾幕ごっこを始める前から貴方は私の幻覚に嵌っていたの。少しだけ妖力弾が遅く来る幻覚をね」
これにより、霊夢は全ての妖力弾の動きが若干遅く来るように感じたはずだ。つまり、霊夢はまだ余裕があると思ってゆっくりと妖力弾を躱すが、その妖力弾はすでに霊夢の真ん前まで来ているって感じに。
霊夢は私の説明を聞くと、思いっきり睨んでくる。
「卑怯よ」
「あら、卑怯なんて心外よ。戦いは始まる前から戦いなのよ。そこで何しようといいじゃない」
「……それじゃあ、弾幕ごっこの意味がないじゃない」
「ええそうね。でも今回だけよ、こんなことするのは」
だって、今は非常事態だもの。これ以上霊夢に暴走されても困る。何より、私が早く鏡夜と一緒にいたいのだ。
「そういうわけで、霊夢。貴方はしばらく寝ていなさい。夜が明けたら起こしてあげるわよ」
ゆっくりと赤い色を放つ妖力弾を人差し指の先に集め、霊夢の額に押し当てる」
「おやすみ」
パンッ! と赤い妖力弾が弾けると同時に、霊夢の体から力が抜ける。
……ふう、これで一段落ね。後は鏡夜が異変の首謀者を倒せば万事解決ね。でも、それまでこの寝ている霊夢の世話をしないといけないのよね。このまま放置してたら妖怪にでも襲われるでしょうし。
はあ、最後の最後まで迷惑かけてくれるわね、霊夢。
Sideフラン
「ねえ、どうしたのアリス、魔理沙」
「まさか、その程度じゃないよね!」
「もしその程度だったら、失望しちゃう」
「いやいや、ここから巻き返してくれるわよ」
四人四様。それぞれ私を含めた四人はそれぞれ言いたいことを魔理沙とアリスに言っていく。
目の前には息も絶え絶えな魔理沙とアリス。それも仕方ないのかな。私達四人の同時攻撃だし。この攻撃を避けるにはかなり強力な一撃でぶっ飛ばすか、確実に私達の攻撃の隙間を避けるしかないからね。鏡夜なら余裕なんだけどな~。
ん? マスタースパーク? うん、強かったね。真正面から叩き切ったけどね。
「……ぜぇ、ぜぇ、よく言うわね。私達二人相手に四人でかかって来てるくせに」
「あら、最初二人で私を倒そうとしたのは誰かな?」
「……それでも、同時攻撃は卑怯すぎる」
うんまあね。卑怯だとは思ってるよ。でもね、今は時間がないの。これ以上魔理沙とアリスに暴れられても面倒だし、何よりこれ以上時間をかけたら鏡夜と一緒にいる時間が無くなっちゃうんだよ。
だから手段は選ばないし、選んでいる暇はない。少しは遊んだけどね。
「で、魔理沙にアリス。もう終わりにしていいの?」
「冗談!」
「まだまだこれからよ!」
意気込みながら魔理沙とアリスは私達に向かってばら撒くように魔力弾を撃ってくる。一発一発の大きさが小さくて躱しづらい。けど、この程度なら服に掠らせるだけで回避できる。
私達はそれぞれ魔力弾を躱すと、同時に妖力弾を魔理沙とアリスに向かって撃ちこむ。上下左右逃げ場はない。これを突破するにはスペルカードを使って突破するしかないが、魔理沙とアリスのスペルカードはない。ついでに残機も残り一つ。さて、どうるすのかな?
「魔理沙!」
「分かってる!」
魔理沙とアリスはお互いに背中を合わせると、迫ってくる妖力弾に向かって魔力弾をぶつけて落としていく。
「おお! 凄い凄い!」
「じゃあ、もっと撃つよ!」
予想以上に善戦してくれる魔理沙とアリスに興奮した私はさらに妖力弾の数を増やしていく。常人ならまともに迎撃も出来ないけど、魔理沙とアリスはどうかな?
「っく! この……!」
「魔……理沙!」
徐々に私達の妖力弾に対応できなくなってきた魔理沙とアリス。あ~あこれで終わりか。ま、楽しかったからいいけどね。
「それじゃあ、魔理沙とアリス」
「おやすみ」
「フラン!」
「フランドール!」
魔理沙とアリスが私の名前を叫ぶが、私はニッコリとした笑顔を魔理沙とアリスに向け、妖力弾をぶつけていく。
ぶつかった妖力弾から爆音が鳴り響き、光が魔理沙とアリスを包み込んでしまった。そのせいで、魔理沙とアリスがどうなったのか確認できない。
これだけの威力なら気絶しているよね。それ以前に、弾幕ごっこは私の勝ちだからいいよね。殺してなければ。
光が収まり、魔理沙とアリスがいた場所を見てみればそこに魔理沙とアリスの姿はなかった。どこかに飛んで行ったのかと思ったけど、そんなことはなく、地面に二人仲良く気絶して倒れていた。
うん、とりあえずこれで終わりだね。後は鏡夜がこの異変の首謀者を倒せば問題ないね。それまで、私は二人のお守か……。
「あ~あ、早く鏡夜とゆっくり過ごしたいよ」
早く終わらないかな、異変。
次回で異変は解決!
投稿は十四日の朝頃。
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