二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回もウサギまではいけませんでした。じ、次話では行きますんで!

では、第百六話をどうぞ。


第百六話 四人の少女

Side鏡夜

 

カロの背に跨り、竹林の中を疾走する。さっき空から竹林の方を見たのだが、お嬢様達がちょっと面倒なことに巻き込まれていた。……アルレシャが出たというわけではないが。

 

「カロ、もう少しだ」

 

「ガル」

 

……見えてきた。

 

竹に囲まれながらも結構開けている場所。その中央の辺りに、お嬢様達と相対する四人の見知った少女達がいる。

 

「よっと。……さて、これはどういう状況ですか?」

 

「鏡夜」

 

カロから飛び降り、レミリアお嬢様の隣に立ち聞いてみると、目線を少女達から移さずに名前を呼んできた。

 

一応お嬢様に習って警戒はしておくか。相手の少女達は不意打ちなんてするとは思えないが、念のためだ。……それに、よく見てみればいつもと様子が違うし。

 

「……鏡夜。簡単に説明すると、今回の異変の首謀者を私達吸血鬼がやったと思ったんだって。常に満月だったら私達はいつまでも全力でいられるからね。……で、いいんだよね。霊夢」

 

「……ええ、そうよ」

 

フランお嬢様の言葉に、少女……霊夢ちゃんは肯定の言葉を返し、周りにいた少女達は頷く。

 

分かっていたかもしれないが、今俺達の前にいるのは、霊夢ちゃんと今朝から霊夢ちゃんに呼び出された咲夜ちゃん。そして、魔理沙ちゃんとアリスの二人組。

 

如何にしてこんな面子がここに集まったのかは知らないが、取りあえずこの四人が俺達の敵としてこの場にいる。

 

「成程。……しかしな、霊夢ちゃん。残念ながらその推測は外れだ。お嬢様達はこの月ではあまり力は出ない」

 

「それはどうかしらね。もしかしたら、嘘かもしれないわよ? 本当に力が出ないっていう証拠があるわけではないでしょう?」

 

確かに証拠はない。まあそれでも、俺はお嬢様達が嘘をついているとは思ってはいないけどね。

 

霊夢ちゃんの主張を聞いた俺は、視線を霊夢ちゃんから咲夜ちゃんに移す。

 

「同じ意見かい?」

 

「……私個人の意見で言えば、嘘はついていないと思いますしやってないと思います。ですが、客観的に見れば吸血鬼であるお嬢様達がやったのが今の所一番かと思ってしまいます」

 

「そう」

 

でしょうね。わざととはいえ、昔吸血鬼を日中歩けるようにしようと霧を幻想郷に撒いたかからな。仕方がない。……だが、それだけが犯人の原因ではない。これはこの場にいる俺だからこそ分かった事なのだが、霊夢ちゃん達の波長……つまり、精神的なものがぶれているのだ。一種の洗脳だな。

 

俺やカロ、お嬢様達のような妖怪の類にはあまり効果がないみたいだが、どうやら人間にはある程度効果があるみたいだ。……アリスは人間ではないが。

 

恐らく今浮かんでいるあの月。あれが何かしら精神を混乱させる何かを放っているのだろう。……ああ、だからお嬢様達や俺、カロはあの月が気持ち悪いと感じたのか。

 

「グル?」

 

「ああ、そうだな」

 

隣に歩いてきたカロの言葉に俺は頷く。

 

カロの言葉はこう。霊夢が鏡夜に突っかかるなんて珍しい。

 

原因はさっき説明した通り、あの月で精神がぶれてるせいだろうな。

 

「それで、大人しく月を元通りにしてくれる?」

 

「無理よ。私がやったんじゃないんだもの。やってない事を元通りにしろと言われても困るわ」

 

「……そう、あくまで白を切るのね。なら、これしかないわね」

 

一旦目を閉じてから、ゆっくりと目を開けた霊夢ちゃんは懐からスペルカードを取り出す。それに合わせて、魔理沙ちゃんにアリスに咲夜ちゃんもスペルカードを取り出す。

 

どうする。ここで俺が出て四人を同時に相手し、お嬢様を先に行かせるか? 

 

「お嬢様、ここは、私が……」

 

「いいえ、私達がやるわ」

 

四人の相手をしようと一歩前に出た所で、横から来たレミリアお嬢様の手によって止められる。

 

「鏡夜は先に行って。もし私達が先に行ったとしても勝てる確証がないからね。……だったら確実に勝てる鏡夜が行った方がいいじゃない?」

 

「フランお嬢様……」

 

そこまで言われてしまったら、俺が先に行かないわけには行かない。絶対の信頼を持って言われたんだぞ? 行くしかないだろう。

 

「ああでも、カロは置いて行って欲しいな。流石に二人じゃしんどいからね」

 

「……分かりました。カロ、ここは任せてもいいか?」

 

「ガル」

 

上等だって。やる気満々だな、カロ。

 

「お嬢様、私は先に向きます」

 

「ええ、任せたわ。情報によるとこのまま真っ直ぐ行けばこの異変の元凶に会えるらしいわ」

 

「この先でございますね。了解しました。……では、また後程」

 

「ええ、また後でね」

 

「任せたよ、鏡夜」

 

「ガル」

 

三人それぞれの言葉を聞いた俺は、その場にいた全員に背を向け走り出す。出来るだけ早く終わらせて戻ってこよう。お嬢様達が負けるとは思わないが、心配だからね。

 

 

 

Sideレミリア

 

「……行ったわね。で、どうするのかしら? 大人しく引く気はないのでしょう?」

 

鏡夜の後ろ姿を見送った私は、何かがおかしくなっている霊夢に言う。

 

「貴方こそ、大人しく異変をやめるつもりはないのでしょう?」

 

やれやれといった感じで霊夢は返してくる。

 

……やっぱり、この霊夢何かがおかしい。いつもの霊夢ならば、鏡夜の言葉に反論なんかせずに受け入れるはずだ。もちろん、私との仲も良好だったため、私の意見をある程度は聞いてくれる。だが、今目の前にいる霊夢は有無を言わさずに私を異変の首謀者にしている。

 

咲夜にしてもそう。あの子は私とフラン、鏡夜の意見にはほとんど反論はしない。

 

「そう……咲夜、魔理沙、アリス、貴方達も同意見と言う事でいいわね?」

 

三人に聞くと、それぞれ首を縦に振る。

 

「……やるしかないのね」

 

一言で言えば面倒。折角この異変をさっさと片付けて鏡夜と過ごそうと思ったのに、こんな所で邪魔が入るなんて。……ま、異変の方は鏡夜に任せておけば大丈夫でしょう。なんてったって、鏡夜なんだから。

 

「いいわ、受けてあげる。スペルカードは三枚。残気は二つ。自分が戦っている。相手以外には手を出してはいけない。……これを守らなければ、カロを嗾けるわよ」

 

「グル」

 

私と霊夢の一対一の状況を作り出すために、一応の保険としてカロで脅しをかけておく。悔しいけど、私よりカロの方が相手にとって脅威だからね。

 

「いいわよ。その条件を飲んであげる。……で、私の相手は?」

 

「私よ。フラン、貴方には魔理沙とアリスをお願いするわ。カロ、貴方は咲夜よ」

 

「分かった。魔理沙、アリス、遊びましょ?」

 

「グル……よっと、了解。咲夜、今どれくらい強くなったか見てあげる」

 

二人とも臨戦態勢に入ると、私と霊夢から左右に飛んで離れていく。それに合わせて、咲夜と魔理沙、アリスも離れていく。

 

「じゃあ、私達も踊りましょうか。私の勝ちで決まっている弾幕ごっこと言う名の戦いを」

 

唇を噛み切り、口の中に血を貯めて霊夢の真下に吐き出す。そして、蝙蝠の翼を出して飛び、真正面から霊夢の瞳を見ながら言う。

 

「何言ってるの、勝つのは私よ」

 

睨み返してくる霊夢。ふふ、いいわね。この殺気に満ちた瞳。昔を思い出すわ。でも、もう駄目よ。勝負は終わっている。

 

「なら、結果で示しなさい!」

 

言い終わる瞬間、私は霊夢から飛びのく。すると、霊夢の足元から複数の赤い魔力弾が通り過ぎる。この魔力弾はさっき私が吐き出した血から作り出した魔力弾。これが当たれば後が楽なんだけど……

 

「ッ! 不意打ちなんて、やられなれてるわよ」

 

そう簡単には当たってくれないわよね。

 

霊夢は持っていたお札を魔力弾に向かって投げ相殺させると、一気に私に向かって突っ込んできた。

 

「……ふふ、やっぱり。私の勝ちね」

 

 

 

Sideフラン

 

お姉さまから離れた場所へ飛んで来た私は、魔理沙とアリスに向かいあうように急停止する。

 

「ここら辺でいいかな?」

 

「いいんじゃないかしら? ここなら邪魔は入らないでしょう」

 

「それに、私も手加減しなくてすむしな」

 

満面の笑みを浮かべながら、魔理沙は懐から魔理沙ご自慢の道具を取り出し私に向ける。

 

「手加減? 私相手に? 面白い冗談だね、魔理沙」

 

たかが一人多いだけで随分余裕だね。別に余裕でもいいけど。すぐにその顔を絶望に染めてあげるから。

 

私の言葉に魔理沙は苦笑いを浮かべると、ゆっくりと手に持っている道具を私に向ける。

 

「動くと撃つ! 間違えた。撃つと動くだ」

 

道具から魔力の光線が私に向かって真っすぐに飛んでくる。そして、魔理沙の後ろから、私を左右から挟み込むように色取り取りの魔力の弾が飛んでくる。

 

取りあえず後ろに下がり左右から来る魔力弾を避けから、魔理沙の光線に向かって飛んでいき光線をギリギリ掠める位で躱して魔理沙との距離を詰める。

 

ニヤッと笑い、私は魔理沙の顔を掴み、魔力を掌に集中させていく。ああ、良い表情。懐かしい。絶望に染まったその顔……昔私達を襲いに来たアイツらとそっくり! 

 

「まずは一つ貰うよ!」

 

「させない!」

 

魔力をあと少しで放てたのに、横からアリスに魔力弾を撃たれ邪魔された。

 

当たらないようにする為に、魔理沙を掴んでいた手を離し、魔理沙とアリスから距離を取る。

 

「助かった」

 

「これくらい助けたの内に入らないわ」

 

「そうかい。……じゃ、こっからは油断せずに行こうか」

 

……うん、流石に二人相手に一人じゃあキツイ。それにどうやら魔理沙は油断していて力を抜いていたようだし。……ふふ、ならそろそろ私も本気出してもいいよね!

 

「魔理沙、アリス」

 

「何だ?」

 

「何?」

 

私は優しい微笑みを浮かべてスペルカードを取り出す。

 

「私に、絶望を見せて! 禁符『フォーオブアカインド』」

 

言い終わると同時に、スペルカードを握りつぶす。スペルカードは赤い破片となって私の周りに集まり、徐々に人の形を作り出していく。

 

「な!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

驚いた表情を浮かべる魔理沙とアリス。ふふ、その表情が見たかった! でもまだまだ。絶望はこれからだよ。

 

赤い破片が一瞬光だし、その姿を現す。三人の私の姿となって。

 

「それじゃあ、魔理沙」

 

「アリス」

 

「戦いを」

 

「始めようか!」

 

四人になった私は、それぞれ両手に魔力を溜めて魔理沙とアリスに無数の弾を撃ちこみながら向かうのだった。

 

 

 

Sideカロ

 

無数のナイフがいきなり目の前に現れる。いつもなら素手で全て叩き落としているが、今回はスペルカードの方のルールなので素手で叩き落とせない。

 

全く、このルール私苦手なんだよね。こう、戦いなら肉弾戦が一番だと思うんだ!

 

飛んでくるナイフに合わせて、私は空中に魔力を固定して魔力の塊をナイフの進行方向に置く。

 

「やはりこの程度では当たりませんか」

 

「仮にも咲夜の師匠だからね~簡単に当たりはしないよ~」

 

ナイフを投げるのをやめ、私の前へと滞空する咲夜。

 

飛ぶのがあんまり得意じゃない私も、一応咲夜に合わせて空に滞空する。……あ、ちなみに、狼からいつもの人間状態に戻ってるよ。あの姿って結構蒸れるんだよね。

 

「……でも、それでも当てないといけないんですよね」

 

咲夜は持っていたナイフをしまうと、右手に銀色の懐中時計を握る。

 

「時よ止まれ」

 

瞬間、目の前にいた咲夜の姿が消える。

 

昔から知ってはいたけど、咲夜の能力って本当に厄介。下手したら、こっちが何も出来ずにやられる可能性があるんだよね。現に、今なにされてるか分かんないし。

 

「ッと、危ない」

 

咲夜を探すために辺りを見ていると、急に後頭部に向かってナイフが飛んできた。

 

難なくナイフを躱し、再び咲夜の姿を探す。が、どこを見ても咲夜の姿がない。

 

どこに行った? ……考えられるのは地上。でも、地上からは私の頭に向かって真っ直ぐナイフが飛んでくる事は……出来る。

 

普通なら無理だ。だけども、咲夜なら可能。咲夜には時を止める能力がある。これを使えば、時を止めている間に私の後ろにナイフを置き、地上に隠れる事が可能だ。

 

「……答えは導いた。ならやる事は一つ」

 

片手にある仕掛けを施した魔力の塊を作り出す。大きさは私の体と同じ。その魔力の塊をとことん圧縮して掌の大きさにする。

 

「咲夜、新しい技を見せてあげる」

 

振りかぶり、地面に向かって思いっきり魔力の塊を投げる。

 

音を超え、地面にぶつかった魔力の塊は光を放つ。小さな光ではない。まるで、昼間の太陽のような閃光が辺り一帯を包み込む。

 

「っつ~! やっては見たけど、キッツいな~」

 

相も変わらず眩しい。今度、調整できるときに調整しとこかな。こんなに明るいと、私自身目を瞑らなきゃいけなくなるし。

 

腕で目を隠して光が止むのを待つ。

 

徐々に徐々に光は止んでいき、腕をどけて目を開ける。これだけの光なのだから、辺り一帯焦土になっててもおかしくはないんだけど……うん、良かった。何もなっていない。

 

そう、辺り一帯は何もなっていない。草も木も空も地面も、何一つ変わっていない。ただ……一人だけボロボロだけど。

 

「……何をしたんですか?」

 

全身ボロボロになった咲夜ちゃんは私の後ろで滞空すると、私に問いかけてくる。

 

やっぱり地上に隠れていたんだね、咲夜。よかった。私の推理が外れてなくて。

 

「簡単だよ。あの魔力の塊は、極々小さな魔力の塊の集合体だよ。物体を構成している粒子と呼ばれる物よりも遥かに小さな魔力のね」

 

だから地面に当たった時、光が爆発したように見えたんだ。でも、それだけじゃない。これは、魔力一つ一つにある命令を出している。それは、当てようと思ってる対象に触れた瞬間、周りの飛んでいる魔力を集めて、いつもぶつけてるくらいの魔力弾になるように命令している。

 

これで、魔力弾は咲夜の体を通り抜けるだけで終りはせず、ちゃんと攻撃できる。

 

咲夜は私の話を聞くと、呆れたような表情を浮かべる。

 

「鏡夜さんと同じで、カロさんも十分化け物ですよね」

 

「私は素が化け物だからね」

 

鏡夜? 鏡夜は素が人間だけど、能力とか化け物だからいいんだよ。

 

「……で、どうする? 回数的には咲夜の負けだけど、続ける?」

 

実はあれ、数えきれないほど攻撃が当たってるんだよね。だから、咲夜は負けなんだけど、咲夜がやりたいって言うなら私は続行するつもりだ。

 

「……やめておきます。正直、アレを食らったせいで体中ボロボロです。それに、もう眠いです」

 

呆れた感じで咲夜はそう言うと、ふらふらとこっちに飛んでくる。

 

「ですので、私は寝ます。後は頼みました」

 

私の背中に抱き着き、咲夜はそのまま眠ってしまった。

 

「あらら、これじゃあ私は鏡夜のところに行けないね……ま、いっか。鏡夜なら私居なくても行けるでしょう」

 

それにしても、あの技通常で使うのは聊か卑怯な気がする。いや、実践なら容赦なく使って確実に相手を殺すけど、流石にスペルカードルールで使うとなると手加減しなくちゃならないし、なにより一発で終わっちゃうからつまらないんだよね~。

 

せめて使うなら、スペルカードにして威力を抑えて使おうかな。なんて名前にしよう……。

 

「……光符『闇からの強襲』でいっか」

 

光符なのに闇からの強襲。ぶっちゃけ適当だよね。……今度、誰かに意見でも貰って名前改良しとこ。

 




次回の更新は明日の十三日の朝頃で。

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