二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

106 / 109
皆さんお久しぶりです。
最後に投稿してから早七か月ちょい。皆さんは新たな生活に慣れましたか?
作者も慣れるまで時間が係りました。そのため、執筆が遅くなってしまいました。ですが、ちまちま書いてとりあえず永夜抄の終わりまでは書いたので、連続して投稿していきますね。

では、第百五話をどうぞ。


第百五話 妹紅とカロと慧音

Sideカロ

 

鏡夜とバク君が結界の中へと行ってしまった後、私は大きな石に座っている妹紅という名の女の子に無言でずっと見られていた。全身マジマジと余さず観察でもしているのかのように。別に気持ち悪いとか嫌な気がするわけではないんだけど、なんていうんだろうね。背中がむず痒い。

 

「ねえ、貴方ってさ」

 

しばらく妹紅の視線に耐えていると、この沈黙を破るかのようにもこうが口を開いた。話しかけてくる妹紅に体を向けると、苦笑いを浮かべながら妹紅は両手をひらひらと動かす。

 

「そんな怖い顔しなさんな。別に貴方の敵じゃないんだから」

 

……残念な事に、今の顔は怖い顔をしているとかではなく、普通のいつも通りの顔なんだけど。やっぱり、狼の時の私って威圧感が凄いのかな。

 

無言で妹紅を見続けていると、再び苦笑いを浮かべる。そして、何を思ったのか立ち上がると私の背中に飛び乗ってきた。

 

「やっぱり、貴方の毛並みって最高ね。手で梳いても全然絡まない。これくらいの量があれば少しは絡まってもいいのに……どうやったらこんな風になるのよ」

 

毛の手入れなんて別に何もしてはいないんだけどな……だって、この状態になるのってそんなにないし。……ああ、もしかして私の能力のおかげかな? 髪のツヤが常に成長するみたいな。

 

「……?」

 

妹紅が私の銀色の毛を梳いていると、鏡夜とバク君が入っていった結界が揺らぐ。これは、どちらかが負けたか負けを認めた時、結界から出される時になる現象だ。つまり、鏡夜とバク君の決着が着いたんだ。

 

さて、どっちが先に出てくるかな……なんて、予想する必要もないか。

 

「あらら、バクの奴、やっぱり負けた」

 

揺らいだ結界からバク君が空中に弾き出される。全身はボロボロで意識は多分ない。そんな状態の人間があの高さから落ちたら絶対に死ぬ。

 

「よっと」

 

「グル」

 

熱い。妹紅の奴、バク君を助けに行くために炎の翼を出して飛んでいった。助けに行くのは悪くないんだよ? ただね、どうして私の上で炎の翼なんてモノを作って飛んでいくかな。落ちてくる火の粉が熱すぎるんですけど。

 

私の背中に火の粉を振り落として飛んでいった妹紅は空中でバク君を捕まえると、ゆっくりと地面に降りてくる。

 

「はぁ、ボロボロだね。これじゃあ、二三日はまともに動けないかな?」

 

普通ならそうなんだろうけど、鏡夜が持ってる謎の飴玉食べさせれば半日で治るよ。……あの飴玉って本当に何なんだろう。

 

「ふ~疲れたよ。カロ」

 

「グル」

 

いつの間に戻ってきていたのやら……私ですら声を掛けられるまで気づかなかったよ。

 

私の背にうつ伏せで寝転んでいる鏡夜にお疲れ様とだけ言って妹紅とバク君の下に歩き出す。

 

「……グル?」

 

妹紅がボロボロだというのでどれほどボロボロなのかと思ったら、大したことない。少し全身に擦り傷やら打撲の痕が多少あるくらいだ。これなら、鏡夜の飴玉無しでも本当に半日くらいで治るね。

 

「グルル、グルウ」

 

「そうだよ。そのせいで逆に疲れたんだよ。やっぱり、スペルカードルールは難しいね。もっと殴り合いとかが楽でいいね。加減もしやすいし」

 

やっぱり。バク君の傷がなんだか異常に少ない上に珍しく鏡夜が疲れたと思ったらそういう事。

 

鏡夜、弾幕ごっこ、スペルカードルールだったから少ししか力出してなかったみたい。それに加えて、力をほんのちょっとしか出さないで手加減し続けてたせいで、精神的に疲れたみたい。

 

私と鏡夜が話していると、バク君の傷の手当をしていた妹紅が不思議そうに鏡夜を見ていた。

 

「ねえ、鏡夜ってさ。カロ……だっけ? の言葉分かるんだ」

 

「うん? まあ大体分かるよ。人から虫までなんでも大体は分かるよ」

 

私の背中でゴロゴロと寝転びながら鏡夜は少し気怠そうに答える。

 

鏡夜の答えにちょっと興味を惹かれたのか、妹紅の瞳が少しだけ細くなる。

 

「へ~面白いね。それじゃあ、ここら辺にいる虫とかの声も理解できるの?」

 

「出来るよ。ちなみに、耳がいいからそこにいる慧音にも気づいてます」

 

うつ伏せの状態のままで、鏡夜竹林の奥の方を指差す。あらら、気づかないふりしていたんだけど、言っちゃって良かったんだ。

 

鏡夜が指差す方向に妹紅が視線を向けると、隠れていることがバレたので観念したのか、ゆっくりと竹林から慧音が現れた。

 

「慧音!? なんでここに」

 

「久しぶりだな、妹紅。何、ちょっと鏡夜殿がバクと戦いに行くような気がしたのでな。心配なので来たんだ」

 

「それは……ものの見事に勘が当たったね」

 

う~ん、この二人の話し方からして、初見で会ったって感じじゃないね。何度か、いやむしろ結構な交友関係がある感じかな?

 

妹紅と話を終わらせた慧音は私と鏡夜の前に来るとゆっくりと頭を下げる。

 

「先程ぶりです、鏡夜殿、カロ様」

 

「グル」

 

「さっきぶり」

 

丁寧に頭を下げてくる慧音に、私と鏡夜はそれぞれ挨拶を返しておく。

 

ちなみに、慧音の事を警戒はしないよ。さっき会った時は慧音の能力が分からないし、もしかしたら慧音がこの月の異変の犯人かと思ったから警戒しただけだしね。

 

「……ねえ、慧音。鏡夜は分かるけど、何でカロには様付けなの?」

 

ああそれか。慧音は私が先祖だから様付けをしてるんだけど、その先祖って色々とめんどくさい先祖なんだよね。

 

「ああ、それはな。カロ様は私の先祖に当たるんだよ」

 

「先祖? 慧音って確か白沢と人間の半妖じゃなかったけ?」

 

「そうだ。私は白沢と人間の半妖だ。だが、私の先祖というのは、そういう先祖ではないのだ。私の先祖というのは、根底。複雑怪奇な異型で異形な私達妖怪が人間の姿になった。その人間の形になるという事の祖がカロ様なのだ」

 

そういうことになっちゃてんのよね。紫と旅していたあの時、偶然私はよく分からないまま人間の姿になれた。それを紫が私の体を分析して妖怪に広めていったの。そのせいで、私が複雑怪奇で異型で異形な妖怪を人間の姿に変える事に成功した第一号者にされたわけ。本当の事言えば、紫が一番最初に人間の形をとっていたんだけどね。

 

「へ~、じゃあカロは人間の姿にもなれるんだ。ちょっと見てみたいな」

 

む~そこまで期待されてしまえば答えるしかないでしょう!

 

「グル」

 

「あいよ」

 

私の背に突っ伏してる鏡夜に、ちょっとどいて言い鏡夜をどかす。

 

ピョンと跳んで私の上からどいたのを確認して、私は人の姿へと変身していく。

 

「よっと~お待たせ~これが~カロの人間姿だよ~」

 

変身していつもの白いワンピースを身にまとって妹紅と慧音の前立つと、妹紅はちょっと驚いたような表情をして、慧音はこの世の終わりを見たような表情を浮かべている。

 

「狼の時はあんなに怖かったのに、人間の姿になると可愛いのね」

 

「えへへ~ありがとう~」

 

素直に嬉しい。私のこの姿見て褒めてくれたのって両手で数えるくらいしかいないからね。

 

「そ、そんな、まさか貴方がカロ様だったなんて……」

 

慧音、私の姿みて固まってる……あ、もしかして、慧音って私の狼の姿見たことなかったっけ?

 

「どうしたの、慧音?」

 

私の姿を見てしばらく口を開けて固まっていた慧音は、妹紅に肩を揺さぶられると、慌てた様子で私に土下座してきた。

 

「す、すみませんでした! あの時はカロ様とは露知らず無礼なことをしてしまい……」

 

「ああ~いいよ~いいよ~別に私は気にしてないし~」

 

「ですが……」

 

土下座してる慧音の顔を上げさせて、微笑みながら言う。

 

「それにね~私~立場とかそんなの関係なしに慧音を友達だと思ってるんだ~……慧音は~友達と思ってくれてないの~」

 

まあ、思ってはいないだろうけど。私に土下座するようだから、精々良くて目上の人位だろうな~。

 

「え、あの、えっと……」

 

困ったような顔をして返答に苦しんでいる慧音を見かねたのか、やれやれといった感じで妹紅が慧音の肩に手を置く。

 

「慧音、カロもああ言ってる事だし、素直に友達だと思ってるって言えばいんだよ」

 

「いや、しかしだな。カロ様はいわば私達の頂点なんだぞ。そんな人を友達と呼ぶなど……」

 

「ああ、めんどくさ。慧音。今はそんなことどうでもいいの。重要なのは慧音がカロの事を友達と思ってるか否かなの。さあ、どっち?」

 

妹紅の言葉に少しの間黙った慧音は一度私ともこうから目線を外す。

 

「……はぁ、そうだな。恐れ多くも、私はカロ様の事を友達だと思っている」

 

「うんうん~これからもよろしくね~慧音~」

 

「よろしくお願い……いや、よろしく、カロ」

 

地面に正座している慧音の手を引き立ち上がらせ、ガッチリと握手を交わす。うん、これで一件落着だね。

 

「それじゃあ~話もおわったし~私達はもう行こうかな~鏡夜~……?」

 

一通り話しは済んだので、この異変の首謀者である者の所に向かおうと思ったのだが、一緒に来ていた鏡夜の姿が見当たらない。

 

竹の間とか裏とかにいるかと思って気配を巡らしてみてるけど、いない。……? 上? 空に鏡夜がいる。

 

気配のある方を見てみれば、そこには白い翼を生やした鏡夜が竹林の奥の方を見ている。

 

「鏡夜~どうしたの~?」

 

「……面倒くさい事になった。カロ、急いで向かうぞ」

 

白い翼を消し、鏡夜は膝を折、いつでも走り出せる状態で真っ直ぐと落ちてきた。

 

「よく分からないけど~慧音~妹紅~またね~」

 

「気をつけて」

 

「頑張りな」

 

二人に手を振り、即座に狼へと姿を変える。そして、鏡夜が丁度私の上に乗れるように飛び出す。

 

「よっと。急いでくれ、カロ」

 

「ガル」

 

一体鏡夜は何に対して慌ててるのだろうか。……考えても仕方がない。行けばわかることだろう。

 

鏡夜を乗せ、私は暗い竹林の中を進む。何があるかわからないけど、まあ、楽しませてくれればいいや。

 




次回の更新は明後日十二日の朝方の予定です。

感想、誤字、アドバイス、お待ちしております

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。