二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回は久々の弾幕ごっこ。相手はバク君です。

では、第百四話をどうぞ


第百四話 バクと爆

Side鏡夜

 

「そーら! いくぞ!」

 

両手にソフトボールくらいの大きさの魔力の塊を一つずつ作り出し、バク君に向かって投げつける。

 

速度は大したことはない。百キロ出ているかいないか位だ。さあ、初見でもこれくらいは避けてくれよ。

 

「ふっ! よいしょ!」

 

バク君は俺の魔力の塊に向かって走り、魔力の塊を体に当たるギリギリの所で体をひねって躱し、速度を落とすことなく俺に向かって走ってきた。

 

「ほう、今のを躱す」

 

向かってくバク君に向かって、俺も真っ直ぐにバク君に向かって走っていく。

 

生憎、今回は肉弾戦が無しだから殴ったりは出来ない。……機会があればそっちもしてみたいな。

 

「スペルカード宣言!」

 

「ここで来るとは珍しい」

 

互いに相手に向かっている中、バク君は懐からスペルカードを取り出すと、自分の胸元に当てる。

 

さあ、何が来る? 出来れば、見たこともないようなのにしてくれよ!

 

「炎符『爆炎火竜』」

 

バク君のスペルカードが光り輝く。目を閉じる程の眩しさではないが、バク君の姿は光に包まれて見えない。

 

足を止め、バク君の出方を伺う。スペルカードの名前からして、火の龍を召喚するような気がするが……さて、どんなのが出てくるか。

 

バク君を待っていると、バク君を覆っていた光が弾け飛ぶ。そして、光の中から現れたのは――――――

 

『ギャオオオオオオオオ――――――!!』

 

「ふむ、予想通りだったな」

 

大きな炎で作り出された十メーター位の細長い龍だった。

 

俺の使っている溶王と性質的には似ているが、俺のは溶岩。バク君のは炎で出来ているって違いがある。

 

ってか、龍の名前が爆って……まあ、名前を付けるのは人それぞれだからいいけど。

 

「行くぞ、爆」

 

炎の龍の頭に乗ったバク君は腕を真っ直ぐと上にあげてから俺に向かって振り下ろす。

 

『ギャオオオオオ――――――!!』

 

返事をするかのように叫び声を上げた炎の龍は、バク君を頭に乗せ、体のいたる所から炎の塊を飛ばしながら俺に向かって突っ込んでくる。

 

あの速度で突っ込んでくるとは……自滅でもするつもりか? いや、何かあるはずだ。避けたとしても、油断してはいけないな。

 

目前ギリギリまで爆を引きつける。

 

バク君と目が合う。……ハハ。楽しいか、バク君。俺も楽しいよ。

 

お互いにお互いの瞳を見て、笑うと同時に、俺は脚に力を入れ、思いっきり後ろへ跳ぶ。

 

目前で爆を躱した事で、爆は俺のいた場所の地面に思いっきり当たり、爆散する。……これで終わりか?

 

トンと地面に着地し、バク君の方を見る。爆は完全に爆散してどこかに消えてしまっている。……待て、消えただと!?

 

「しまっ!」

 

「爆!」

 

『ギャオオオオオ――――――!!』

 

咄嗟に宙へと跳び、地面から迫ってきていた爆を避ける。

 

危なかった。バク君め、自爆したと見せかけて、爆と一緒に地面を溶かして俺の下まで来やがった。……くく、ああ面白い!

 

「素晴らしいな! 地面を溶かす程の熱量をよく作り出した!」

 

「生憎、魔力の熱量変化だけが俺に適応したんでね! これくらいしか出来ないのさ!」

 

熱量……変化? これは、少し気がかりなことがあるな。

 

魔力の床を作り出し、更に宙へと跳んだ俺は、両手に軽く魔力を溜め込み、散弾のようにして爆に向かって放つ。

 

「無駄だ! 爆は、なんであろうと溶かす!」

 

縦横無尽に飛んでいく魔力の塊は、爆に当たると同時に、溶けて霧散してしまう。……そうか。なんであろうと溶かすか。ならば、これすらも溶かして見てもらおうか!

 

爆が俺に口から炎の塊を吐きながら向かってくる中、空中で懐からスペルカードを取り出す。

 

「スペルカード宣言。溶符『溶王』」

 

スペルカードを地面へと投げつける。

 

投げたスペルカードを目で追ってから、目の前を見ると、眼前には無数の炎の塊が近づいてきていた。数秒あれば俺にぶつかるだろう。

 

さあ、出番だぜ。来な、溶王!

 

俺へと炎の塊が当たる直前、さっき投げたスペルカードが光りだし……

 

「な!? まさか、あん時の!?」

 

ぶつかりそうだった炎の塊は全て食われ燃え尽きた。俺の召喚した溶王によって。

 

炎の塊を食らった溶王の頭に乗り、爆とバク君を見下ろす。

 

「さて、バク君。さっき、爆はなんでも溶かすと言っていたね。なら、この溶王も溶かしてもらおうか!」

 

ドロドロと俺の足元から溶岩を流し続けている溶王は大きく口を開けて息を吸い込み閉じると、爆を見下ろし、笑ったような表情を作ってから再び大きく口を開けた。

 

『■■■■■――――――!!』

 

「ッ!?」

 

『ギャオオオオオオ――――――!!』

 

バク君は両耳を両手で塞いで二つの龍の叫び声を聞こえないようにする。当然だ。常人なら、二つの龍の叫び声だけで鼓膜が破れてしまう。俺は聞きなれているから、別だがな。

 

二つの龍は互いに睨み合うと、一気に互の距離を詰めた。

 

互の口が大きく開き、互の口に噛み付く。

 

「うわ!?」

 

あまりにも大きすぎる衝撃に、バク君は転びそうになるが、必死に爆の上で堪える。

 

「喰らえ」

 

「■■■■■――――――!!」

 

溶王と爆が互いに侵食しあい、溶かし燃やそうとする中、俺の言葉を聞いた溶王は自身の温度を更に高めると、爆の下顎を噛みちぎり爆の下に抜ける。

 

「爆!」

 

『ギャ、ギャオオオオオオ――――――!!』

 

炎を下顎に集めた爆は溶王の胴体の方に回ると、溶王の胴体に向かって噛み付いてくる。

 

「凄まじい気迫だな。だが、まだ甘い!」

 

胴体に力を込めて溶王は体全体から溶岩を流し始める。生半可な温度ではないし、触っていて無事な温度ではない。そう、炎の龍である爆も例外ではない。俺は例外だがな。

 

『ギャオオオオオ――――――!!』

 

溶王の体に食い込んでいた爆の牙が溶けていく。

 

激痛だったのか、爆は溶王の胴体から牙を抜いてしまう。その隙に、溶王は自分の体を捻って勢いよく爆の上に飛翔する。

 

「まずは一つ」

 

爆の上を取った俺は、バク君の上から爆の上に溶岩の塊を吐きながら勢いよく降下する。

 

「うぐ!」

 

『ギャ……』

 

 

溶王の吐いた無数の溶岩の塊をモロに当たったバク君と爆は、バク君は気を失ったのか地面へと一直線に落ちていく。爆の方は溶王の吐いた溶岩のせいで動けないのかピクリともしない。……あのまま行けば地面に激突してしまう。助けるか。

 

急降下から旋回して再び空中に戻ってきた溶王に目だけで俺の意図を伝えるが、溶王は首を振るだけで行こうとしない。

 

真っ逆さまに落ちていく爆とバク君。後少しで地面にぶつかる! 俺が行くしかないか。

 

『ギャオオオオオオ――――――!!』

 

妖力で翼を作り出して飛び出そうとする。だが、俺が飛び出す前に爆は雄叫びを上げると、バク君を包み込んでゆっくりと地面へと降りていく。

 

「……ッ……爆」

 

目を覚ましたバク君はボロボロになって倒れふしている爆の頭を撫でる。

 

「ありがとう、爆。ゆっくり休んでいてくれ」

 

『ギャ……』

 

ゆっくりと目を閉じた爆は霊力の粒子となって消えていく。

 

「溶王、ありがとう、もう戻っていいぞ」

 

『■■■■■――――――!!』

 

雄叫びを上げた溶王は、俺の指示通り魔力の粒子となって消えていく。……消えるのはいいのだが、せめて地上付近で消えて欲しかった。

 

ビル十階分位ある高さから、溶王が消えたせいで真っ直ぐと落ちていく。別段問題はないからいいけど。

 

「よっと」

 

空中で三回転した俺は、地面に両手をついて四つん這いになっているバク君の近くへと着地する。

 

「さて、バク君。もう終わりか? まだ一つ残機とスペルカードがなくなっただけだろ? あと三回被弾できるし、四枚のスペルカードがあるんだ。諦めるつもりは毛頭ないよな?」

 

「……ああ! 諦めるつもりなんかねえ!」

 

バク君は立ち上がり、両手をまっすぐと伸ばしてこちらに向けると、俺の体がすっぽりと埋まる炎の塊を何十も飛ばしてくる。

 

素晴らしいな。十前後の少年がこのレベルの火力を出すなんて。相当修行したか、または……相当な才能があったんだな。

 

迫り来る炎の塊を、足を下から上に振るった風圧で消し飛ばし、上から振り下ろした足から炎の塊の後ろにいるバク君に向かって霊力で作った刃を飛ばす。

 

俺の体をすっぽりと埋めるほどの大きさだから、多分あちらからは見えていないだろう。この一撃は当たるはず。

 

炎は消し飛び、計画通り霊力の刃はバク君のいた場所に飛んでいった。いる場所ではない。いた場所だ。

 

「いないだと?」

 

「こっちだ!」

 

「おっと」

 

いつの間に回り込んでたのか、バク君は俺の背後から小さな炎の塊を飛ばしてくる。

 

首だけを後ろに向けて、炎の塊を躱した俺は、振り返ってバク君に霊力の塊を投げようとするが……やはり、そうか。

 

振り返ろうとした俺の足が、地面に氷で貼り付けにされている。

 

先程の言葉、気にはなっていたんだ。熱量変化。

 

さっきからバク君は熱い方にしか熱量を変えてはいなかった。しかし、熱量変化を言葉の通りに捉えるならば、熱量を冷たい方に変えることが出来るはずなんだ。

 

つまりは、バク君は簡単な話し、炎を操り尚且氷も操る事が出来る。

 

「予想通り」

 

凍傷になる前に、両足を魔力で作った炎で溶かし、勢いよくその場で宙返りする。それと同時に、さっきまで俺がいた所に炎の塊が二、三通り過ぎる。

 

「く! 躱された!」

 

「自分から能力をバラすなんてダメだろ」

 

悔しがるバク君に注意し、懐からスペルカードを取り出す。

 

「二枚目だ、新作スペルカードを受け取りな」

 

身構えるバク君に微笑みながら、俺はゆっくりとスペルカードを唱える。

 

「スペルカード宣言。激符『乱剣操武』」

 

空中で宙返りしている中、両手に二本の霊力の細の長い刀を作り、バク君に向かって投げる。

 

飛んでいく二本の刀は真っ直ぐとバク君に向かう。当然、躱すのが簡単な、真っ直ぐと飛んでくる二本の刀はバク君に躱される。

 

躱され、標的を失った二本の刀は地面へと突き刺さる。普通ならな。

 

「油断している暇はないぞ」

 

「ッ!?」

 

地面へと突き刺さりそうになる二本の刀は、地面へと当たる寸前で止まり、バク君へと方向を変えて再び飛んでいく。

 

様相外だったのか、バク君はギリギリの所で横に転がって二本の刀を回避する。その間に、地面に着地した俺は両手に妖力の刀を二本作ってバク君に向かって投げる。

 

「く、くそ!」

 

転がったせいで、俺が新たに投げた二本の刀を回避する事が出来ない。さあ、どう躱すかな?

 

「スペルカード宣言!」

 

「成程」

 

俺は飛ばしていた四本の刀をバク君から逸らし、俺の周りを飛ばしておく。なぜかと思うが、俺がスペルカード発動中でも、相手がスペルカード宣言をしたら、一旦攻撃を辞めるのが俺のポリシーだからだ。

 

「双符『熱冷氷溶』

 

スペルカード宣言が終わると同時に、真っ直ぐ四本の刀を撃ち出す。

 

真っ直ぐと飛んでいく四本の刀を、バク君は横や跳んで躱すのではなく、両腕を後ろに向けて屈むことによって躱す。

 

「こっから先は、加速しまくるぜ!」

 

何をするかと思いきや、バク君は自身の足元を凍らせ、後ろに持っていった両腕からは炎が吹き出している。

 

「行くぞ!」

 

瞬間、バク君の姿が轟音と共に消えた。……いや、消えていない。よく見ると、バク君の通ったであろう箇所が凍りついている。

 

成程、両手は炎の噴出でジェットにし、床は摩擦の少ない凍にして、自分のスピードを物理的に上げたのか。

 

「うらあ!!」

 

後ろから聞こえた声に反応して、さっき飛ばした四本の刀を自身の後ろに飛ばし、振り返る。

 

「おっと……中々の速度だな」

 

背後から迫っていた炎の球体を四本の刀で弾き、更に両手の指の間に魔力の刀を八本作り、その場で回転しながら投げる。

 

回転した時に僅かに見えたが……バク君め、常に俺の背後を取るような動きをしているな。俺以外の奴ならばそれで通じるが、俺にとってそれは悪手だぞ。

 

飛ばした十二本の刀のうち、二本を俺の後ろに留めておき、残りの十本でバク君の後を追わせる。

 

バク君の姿は目では追えるが、刀の速度が追いついていないな。多少手加減しすぎたか。……もう少し速度を上げても大丈夫だな。

 

見た限り、マッハ五百。光速までには届きはしないが、尋常な速さではないな。人間でこれは馬鹿げている。

 

しばらく俺とバク君のイタチゴッコが続いた。

 

追っては逃げられ、追っては逃げられ。数分程その状況が続いた所で、急にバク君は走るのをやめた。

 

「なんだ、もう終わり?」

 

「いや、違う。準備が整ったのさ」

 

「準備?」

 

準備だと? 何だ?

 

「なあ、水蒸気爆発って知ってる?」

 

「ああ」

 

「なら話が早い。さっきから俺がなんで背後ばっかりとっていたかわかる?」

 

「……まさか」

 

急いで辺りを見渡すと、俺の周りはさっきバク君が摩擦を減らすために使っていた氷が溶けて、水溜りが大量にできていた。

 

「そ、で、今俺が履いてる下駄なんだけど、これ鉄が入っている上に熱量を変化させて膨大な熱量を持っているんだよね。大体五千度くらいかな」

 

履いていた下駄を両足とも脱いだバク君は飛んでくる十本の刀を躱して俺の真上に炎のジェットを使って跳ぶ。

 

「さあ、この熱量に耐えれるか!」

 

……ふふ! 面白い! 止めはしない! さあ、来い! 真正面から打ち砕いてやる!

 

バク君の持っていた膨大な熱量を溜め込んだ下駄が俺の足元にある水溜まりへと落ちていき……

 

「ッ! 自分でやっといてなんだけど、これは凄いな」

 

一気に加熱され、金属と結合した水が膨大な水蒸気と爆発になって俺を襲った。

 

熱いなんてもんじゃない。体が溶けてしまうような感覚だ。感覚ってだけで、俺の体は少しも傷を負ってはいないがな。

 

これ程の熱量、自分で喰らうのはいつぶりだ? 一番新しいので、アルレシャの時だぞ。

 

俺みたいに能力を持った人外な者達が出すのは簡単だが、ただの人間がこの熱量を出すとなると、生半可な事では出せない。熱量の保存だって、相当練習しなければ出来ないだろう。……よく成長したな、バク君。

 

「おーい、自分でやっといてなんだが、死んでないよな?」

 

舐めたことを言ってくれる。俺を誰だと思っている。バク君が憧れとしている最強の男だぞ。この程度で死んだりなんかはしない。

 

俺は周りに展開していた十本の刀を操ってこの水蒸気を切り裂き、バク君の方を向く。……おいおい、どうしてそんな鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしてる。この程度で驚かれちゃあ、俺に追いつけなんかしないぞ。

 

「あれで無傷かよ……」

 

「爆発が起こったと同時に、俺に弾幕をぶつけとくんだったな。この爆発は、被弾扱いにならないからな」

 

あくまでこれは自然現象を利用としたものなので、被弾扱いにならない。被弾の判定は自身の操る妖力、魔力、霊力を相手にぶつけた場合のみだからな。これがもし、打撃ありの方だったら、良い手だったんだがな。

 

俺が少し説教じみた事を言うと、バク君は頭の後ろを掻いた。

 

「そうだな。まあ、もとからこれで被弾を狙うつもりはなかったからいいんだけど」

 

「狙わないのに、なんで俺に使ったんだ?」

 

「実はこの技、妹紅に禁止にされててな。使ったら相手を殺すから、使うなって言われてたんだ。でもま、鏡夜ならいいかなと思って試しに使ったんだ」

 

おいおい。殺すような技を俺に使ってきたんかい。……まあ、別にあの程度では死なないからいいけど。

 

「そうなのか。いい技ではあったよ。俺には火力が足りなかったが」

 

俺はその場で二、三度靴のつま先を地面に叩きつけてから、首を鳴らす。

 

「じゃあ、仕切り直しだ。生憎と、予想以上に楽しいから、少し力を開放するぞ」

 

リミッターの第一段階を解除する。

 

今の所、これで大妖怪の約五万倍。最近また色々と力が増えてきたせいで、リミッター掛けるの一苦労なんだよ。

 

ちなみに、今のところリミッターは八段階まである。全部外せば……世界は軽く滅ぶだろうな。それくらい、力が異常に増えてきている。

 

「うわ、何て怖さ。結構離れているのに、寒気がする」

 

寒気で済むならまだマシだ。常人なら、この場にいるだけで、失神するぞ。

 

「さっきは逃げられたが、流石にこの数は躱せないか?」

 

俺はバク君を正面に見据えながら右手を横薙に振るう。

 

周りを飛んでいる刀の数、十本。更に、今横薙ぎに振るった時に作り出した数、四十本。計五十本の刀。それぞれ、霊力二十、妖力二十、そして魔力十。

 

バク君が作り出した刀を見るなり、冷や汗を流し始めるが、俺は構わず笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ、華麗に踊ってくれ」

 

「ちょっと……」

 

何か言いたそうだったが、無視してパチンと指を鳴らす。

 

一斉に、俺の周りにあった五十本の刀が飛んでいく。さっきの速度の比じゃない。バク君がマッハ五百ならば、こっちの刀の一本の速度は四百五十。ギリギリ追いつかない程度の速度だ。

 

「くっ!」

 

足元を凍らせ、両手をジェットのようにして逃げ出すバク君。

 

上から下から、横から前から後ろから。縦横無尽にバク君を追い掛け回す刀達。

 

何度か俺に向かって炎を飛ばして被弾させようとしてくるが、ことごとく刀に邪魔されて俺の所までに来ない。

 

「ふむ、ジリ貧だな。よし、少し楽しくしようか」

 

再びパチンと指を鳴らす。すると、魔力の刀が光り輝き、姿を変えた。

 

二本は炎に、二本は氷に。二本は爆発し、二本は更に十本の刀に。最後の二本は更に速度が上がる。

 

「うえッ!?」

 

急に変わった動きをしだす刀に、バク君は驚き僅かに動きを止めてしまう。あ~あ、終わりだ。

 

「これにて二つ目終了」

 

腕を振り下ろすと同時に、バク君の体を全ての刀が貫き、消えていく。

 

あと一つ。それで、今回の戦いは終わり。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

刀で貫かれたせいか、息も絶え絶えで、今にも倒れてしまいそうになっているバク君。

 

「これで、終わりかい? あと一つ残ってるよ」

 

「はぁ、はぁ……終わりだ。これで終わりだ」

 

「ほう、最後ね。面白い、来な」

 

バク君はスペルカードを取り出し、胸に当てて大きく息を吸い込む。

 

「爆符『焔をば身纏ふて鬼神なり』

 

スペルカードを言い終ると、バク君の体を炎が包み込む。

 

今までの炎ではない。青白い炎。高温故に酸素を多く取り込んだために出来た青白い炎。

 

炎は徐々に形をなしていき、最後は人型へと落ち着いた。人型と言っても、俺らのような人の形ではない。

 

頭の左右からは二本の角。右手には炎の金棒を。左手には大きく平べったい氷の剣が握られている。胴体には荒縄のような形の物が袈裟懸けに掛けられてる。両足は太く鋭い爪が生えている。そして、大きさは三メートル弱。

 

「ふ~ん、鬼神ね。懐かしいな。知り合いだよ、鬼神は」

 

母神だけどね。

 

心の中で言うと同時に、両手に氷の刀を作り出して鬼神に向かって走っていく。

 

「■■■■■――――――!!」

 

両足を大きく開いて、バーサーカーのような雄叫びを上げると、右手に持っていた金棒を地面に振り下ろして叩きつける。

 

地面にヒビが入った上に、衝撃波が俺に向かって真っ直ぐと飛んできやがった。アレに当たれば、俺は被弾扱いだろうな。

 

衝撃波を飛んで避け、空中で前に一回転した俺は、回転した勢いのまま両手に持っていた刀を真っ直ぐと鬼神の上から振り下ろす。

 

これに当たれば終わりだが、そう簡単に行く訳もなく、鬼神は左手に持っていた剣で受け止める。

 

体全体を凍らしてやろうと力を込めるが、鬼神の体を凍らそうとした氷は溶けてしまう。ふむ、一割とはいえ俺の氷を溶かすか。

 

鬼神は受け止めていた俺の刀を押し返すと、すぐさま金棒を俺の横っ腹に振ってくる。

 

押し返された勢いを殺さず、その場で刀を逆手に持ち替え、飛んでくる金棒に向かって刀の鋒を当て止める。

 

流石に勢いは止められず、俺の体は横に吹っ飛ばされるが、空中で二回転して、今度は勢いを殺して着地する。

 

「ヒュ~凄いね」

 

「■■■■■――――――!!」

 

雄叫びを上げた鬼神は、両手に持っていた件と刀を振り下ろして地面にぶつけると衝撃波が俺の方に飛んでくる。それだけならばまだしも、体から何百もの炎の塊を飛ばしてくる。

 

「面白い!」

 

即座に真上に飛び、両手に持っていた刀を炎に向かって投げる。

 

これで、炎の塊と相殺でも出来るかと思ったが、炎の塊は氷の刀を溶かして俺を追ってきやがった。

 

「チッ、流石は最後のスペルカード。伊達じゃないな」

 

迫り来る炎の塊を当たるすんでの所で体を捻るって避け、逆さまになりながら鬼神の頭に妖力で作った弾幕の雨を降らせる。

 

「■■■■■――――――!!」

 

ああ、くそ! やっぱり、剣と金棒で弾かれるか。

 

鬼神は再び体中から炎の塊を飛ばすと、今度は真っ直ぐに俺の方に突っ込んできた。

 

あの巨大で突っ込んで来やがるか。面白い! 俺に接近戦を挑むなど百年早いことを教えてやる。

 

空中で態勢を立て直して片足で地面へと着地し、地面に着いてないほうの足で地面を思いっきり蹴って前に跳ぶ。

 

互に距離という概念はこの速度ではもはやない。一瞬という言葉すら生ぬるい。

 

両手に魔力で鋼鉄の刀を作って握り、両肩に振り下ろされる剣と金棒を受け止める。

 

「――――――!!」

 

雄叫びを上げた鬼神は、自身の剣と競り合っている俺の刀を下から蹴り、すぐさま剣を自分の脇の所まで引く。そして、次の瞬間、がら空きになっている俺の耳元を、剣が通り過ぎていった。

 

躱さなければ、俺の体はブッ飛んでいたな。ま、見え見えだから、回避はしやすいが。

 

「――――――!!」

 

俺も鬼神と同じように雄叫びを上げ、さっき蹴り上げられた腕を振り下ろし、鬼神がやったように地面にぶつけて衝撃波を飛ばす。

 

「――――――!?」

 

自分のやっていた事をまさかされると思っていなかったのか、鬼神は一瞬驚き動きを止める。だが、ギリギリの所で金棒と俺の刀が競り合っている方へと体を半身にして躱す。

 

これぐらいで驚いてるようじゃ、まだまだだな。力はいいが技術がない。……はぁ、ここまでか。これ以上やっても、ジリ貧だ。

 

鬼神に躱されるのと同時にしゃがみ、鬼神の足を思いっきり横に払う。

 

足を払われた事で態勢を崩した鬼神の腹に向かって真っ直ぐ蹴りを入れる。

 

「――――――!?」

 

 

蹴りをその場で耐えた鬼神は、体を回転させて、剣を持っている方の腕の肘を顔面に向かって放ってくる。

 

はっ! 問題ないね!

 

放たれた肘に向かって、思いっきり額をぶつけて押し返す。

 

「――――――!!」

 

痛いのか、雄叫びを上げた鬼神は数歩後ろに下がる。

 

「一つ教えておいてやる! 男と男の一対一での勝負で引いたら負けだぜ」

 

持っていた刀を空中に投げ、新たに新しい刀を両手に作りだす。

 

「見せてやるよ。さっきのスペルカードの本当の使い方を!」

 

両手に握っていた刀を振り下ろし、鬼神の体に縦に傷を入れる。そして、持っていた刀を鬼神の両膝に刺して離し、先ほど投げた刀を受け取って今度は腹の部分に二本とも刺す。

 

「――――――!!」

 

苦悶の声を上げる鬼神だが、俺は容赦せずに、今度は四本の刀を作って投げ、両手に刀を作り鬼神の脇から肩に向かって刀を振り上げ両腕を切り下ろす。

 

最後に両手に持っていた刀を投げ、さっき投げた四本の刀と一緒に鬼神の頭の上から降らす。

 

両手を切られ、両足の膝を壊された鬼神はなすすべなく刀を頭の上から浴びていく。

 

「これで終わりだ」

 

体中俺の作った刀によって剣山となっている鬼神の頭に向かって跳び、鬼神の頭らしき所を掴む。

 

そして――――――

 

「よく頑張った。ご褒美に一つやるよ」

 

鬼神の頭に向かってゼロ距離で、自身も巻き込んだ妖力の塊をぶつける。

 




一万字近く……長すぎた。
次回は兎まで行ければいいな。

感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。

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